提督に転職したら想像以上にブラックだった件   作:Sh1Gr3

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青葉さんと極秘調査

 「あー、疲れた……」

 

 トイレ休憩を兼ねて、外の空気を吸いに行った帰り。

 提督室に戻ろうと歩いていると、

 

 「あれ、青葉さんだ」

 

 目の前にこそこそと、怪しい動きを見せる青葉さんが目に入った。

 なにやら、廊下の曲がり角から、提督室の方をじっと観察しているような感じだ。

 

 何してるんだろう……?

 どのみち通り道なので、俺は声をかけることにした。

 

 「なにしてるんすか?」

 

 声をかけると、青葉さんは俺の方を向いた。

 

 「あっ、司令官。お疲れ様です!」

 「お疲れっす」

 

 さっきは気が付かなかったが、青葉さんはその手にカメラを持っていた。

 それを見て、何をしていたのかなんとなく察した。

 

 「また取材ですか」

 「いえ、今日は極秘調査ですよ」

 「え、なんのですか?」

 

 疑問符を浮かべる俺に、提督室の方を見ながら青葉さんが説明してくれる。

 

 「今回は、主に叢雲さんの調査ですね」

 

 ……なるほど。さすが青葉さん、命知らずだな。

 

 「陽炎さんから聞いたのですが、あの叢雲さん相当お強いらしいじゃないですか」

 「まあ……強いっすね」

 「あの零艦隊とも引けを取らないとか。こんな面白い話、調査しないで記者は名乗れないですよ!」

 「はあ」

 

 まあ、頑張ってください。安全の保障はできないけど。

 

 「じゃあ自分、戻りますね」

 「あ、ちょっと待ってください!」

 

 その場を立ち去ろうとした瞬間、ガシッと腕を捕まれてしまった。

 当たり前だが、それに合わせて足も止まった。

 

 「えっ、なんすか……?」

 「いやあ、それがですね……偉そうに極秘調査とは言ったものの、絶賛行き詰まり中でして」

 

 困った顔で笑う青葉さん。もしかして、俺に何かしてくれとでも……?

 青葉さんとは別の意味で困り顔をしていると、

 

 「ねえ、何してるの?」

 

 後ろから、陽炎さんの声が聞こえてきた。振り返ると、首を傾げた陽炎さんが立っていた。

 

 「おや、陽炎さん。ちょうどいいところに」

 「? なにがですか?」

 

 不思議そうに、陽炎さんが歩み寄ってくる。

 そんな陽炎さんに、青葉さんは楽し気に説明した。

 

 「いま司令官と、極秘調査の話をしていたんですよ」

 「極秘調査?」

 

 また首を傾げる陽炎さん。青葉さんが「はい」と頷いて続ける。

 

 「叢雲さんの強さについて、その秘密を少しでも探ろうかと思いまして。ほら、陽炎さんが言ってたじゃないですか。叢雲さんは零艦隊なんじゃないかって」

 「あー、言いましたね」

 「気になりません? もし本当にそうだとしたら、大ニュースですよ!」

 「でも、訊いても教えてくれないですよ。あたしこの前訊きましたけど、全部濁されちゃいました」

 「だからこその極秘調査ですよ。ここはひとつ、協力しませんか?」

 

 ニヤリと笑う青葉さん。

 こういうのを、悪魔の微笑みと言うんだろうなと思った。絶対ろくなことにならない気がするけど……。

 陽炎さんは少しだけ考える素振りを見せていたが、やがてニヤリと笑った。

 

 「やります! あたしも、前にボコボコにされた恨みがあるので!」

 「さすが陽炎さん。では早速、作戦会議といきましょう!」

 

 あらら……どうなっても知らないからな。

 

 「あ、司令官! このことはどうかご内密にお願いします!」

 「……うっす。それぐらいなら」

 

 青葉さんにそう返答すると、二人は盛り上がったままどこかへ歩いて行った。

 陽炎さんには悪いけど、正直ほっとした。よかった、身代わりになってくれて。

 

 

 

 

 

 「遅い」

 「すみません」

 

 提督室に戻ると、案の定お叱りを受けてしまった。

 俺は急いで自分の席に座り、仕事の続きを始める。まったく、とんだ災難だった。青葉さんと話すのは楽しいけど、TPOガン無視なのがなあ。

 

 しばらく、ペンの走る音とキーボードの音だけが、提督室に流れる。

 そして何度目か、『艦娘育成計画書』の作成に行き詰まり頭をひねっていると、叢雲さんが話しかけてきた。

 

 「随分と楽しそうに話してたわね」

 「! 聞こえてたんすか……」

 

 俺は驚いて苦笑いを浮かべた。

 ここからじゃ聞こえない距離のはずなんだけどな……艦娘の聴力ってどうなってるんだ。

 

 「だから言ったでしょ。面倒なことになりそうだって」

 「……そうっすね」

 

 返す言葉もございません。全部、叢雲さんのおっしゃる通りです。

 少しばかり間を置いて、キーボードを叩きながら質問する。

 

 「やっぱり知り合いだったんすか?」

 

 すると、意外とすぐに答えが返ってきた。

 

 「横須賀以外にも青葉はいるのよ。知ってて当たり前でしょ」

 「あー……まあそうすね」

 

 艦娘というのは、各鎮守府に別人が存在するらしい。

 横須賀の青葉さんがいれば、舞鶴の青葉さん、佐世保の青葉さんもいるといった具合だ。初めてこれを聞いた時は、ドッペルゲンガーも真っ青だなと思ったのを覚えている。

 

 ちなみに、ここ横須賀第八鎮守府は、第一や第七と全てひっくるめて横須賀鎮守府という扱いなので、今この鎮守府にいる青葉さんが、横須賀の青葉さんという扱いとなる。中々に複雑であるが、原理は未だにわかっていないとのこと。

 

 もっとも、同じ鎮守府に同じ人が増えたら、それはそれでカオスなことになるので都合が良いとの話だ。これに関しては、俺も同感である。

 もしこの鎮守府が青葉さんで溢れたらと思うと、プライバシーも何もなくなりそうだからね……。

 

 「さすが、顔が広いっすね」

 「無駄にね。長いこと艦娘やってると、嫌でもこうなるのよ」

 「なるほど……」

 

 長いことか。深海棲艦との戦いが始まってから、かれこれ10年以上──と研修で習った。

 その時はまだニュースなどに関心がなかったので、正確なことは覚えてないけど。

 

 叢雲さんが零艦隊に所属してたと考えると、だいたいそれぐらいだろうな。

 すごいなあ……こんなすごい人と同じ空間で仕事してるなんて、未だに実感が湧かないわ。

 

 「訊きたいことはそれだけ?」

 「えっ」

 

 唐突に予想外のことを訊かれて、またキーボードを動かす手が止まった。

 

 「青葉たちと話してたんでしょ」

 「まあ……」

 「あんたは気にならないの? 毎日毎日、こんな得体のしれない奴が秘書艦で」

 

 得体のしれない奴って……うーん、別に気にならないなあ。

 最初はそこそこ怖かったけど、今はだいぶ慣れたし。

 

 それに──。

 

 「人の過去とか訊くの、あまり好きじゃないんすよね。話してもらう分には聞きますけど」

 「ふーん……じゃあ、私が零艦隊に所属してたって言ったら?」

 「別になんとも……それぐらいの貫禄あるし。驚きはしないっすね」

 

 いつの間にか、書類から目を離していた叢雲さんと目が合う。

 なんでそんな神妙な面持ちでこっち見てんだ……。

 

 俺は瞬時にそらして、ディスプレイとのにらめっこを再開する。

 叢雲さんも「ふっ」と鼻で笑ってから書類に目を戻した。

 

 「電の言ってた通りね。やっぱ変わってるわ、あんた」

 「? どなたですか?」

 

 首を傾げていると、肩をすくめながらも教えてくれた。

 

 「昔の同僚。皮は駆逐艦、中身は怪獣なやつ」

 

 ふーん……要するに叢雲さんみたいな人ってことか。

 

 「その人も零艦隊なんですか?」

 「そうかもね」

 

 もはや隠す気ないじゃん、というツッコミは口にしない。

 てことは、叢雲さんとその怪獣さんを除いて、まだあと三人も叢雲さんと同じぐらい、えげつない人がいるわけか。

 そりゃあ、この国も安泰だわな。

 

 「……長話が過ぎたわね」

 

 そう叢雲さんが呟いた途端、部屋の扉がノックされた。

 俺は小声で叢雲さんに訊く。

 

 「訊かれましたかね?」

 「別に隠してるわけじゃないし、訊かれても構わないわよ」

 「え、そうなんすか?」

 

 意外だ。陽炎さんがあれだけ訊いても、何も言わなかったのに。

 あれで隠してないのか……。

 

 そんな俺の心の内を、見透かすかのように叢雲さんが言った。

 

 「ああやって言ってやった方が、からかい甲斐があっていいでしょ」

 「はあ」

 

 いたずらな笑みを浮かべる叢雲さんを見て、俺は青葉さんと陽炎さんに同情しつつ。扉の向こう側へ「どうぞ」と返事した。

 入って来たのは陽炎さんと青葉さん。二人とも、その手に報告書が握られている。

 

 「お飾り船団護衛の報告書、持ってきたわよ」

 「青葉も、今日の哨戒任務の分です!」

 「あ、あざす」

 

 陽炎さんの「お飾り船団護衛」という言葉を聞いて、思わず苦笑いを浮かべながらも、二人から報告書を受け取った。

 二人はそのまま帰るかと思いきや、目の前のソファーに腰を下ろした。

 帰らないんかいと俺が思うのと同時に、叢雲さんからのツッコミが入る。

 

 「用が済んだならさっさと戻りなさいよ。ここはあんたたちの休憩所じゃないんだから」

 「いやぁ~、青葉的には叢雲さんともう少し、親睦を深めたいなあと思いましてですね」

 「あたしもー。戻っても暇なんだもん」

 

 青葉さん、魂胆がバレバレっす……。

 陽炎さんは自然体だから、本当にそう思ってるんだろうな──またゴロゾーになってるし。

 

 すると、二人の言葉に叢雲さんが平然と答えた。

 

 「別にいいわよ」

 「えっ、い、いいんですか……?」

 

 信じられないといわんばかりの顔をする青葉さん。

 陽炎さんも、実に意外そうだ。

 

 と、そこに叢雲さんが「ただし」と付け加える。

 

 「こいつの仕事が終わったらね」

 

 俺は顎をしゃくられ、青葉さんと陽炎さんの視線が集中する。

 え、なんで俺……?

 

 「あんたたちの育成計画書、今日中に書かないといけないのにまだ終わってないのよ」

 「ほぅ、なるほど。そういうことなら、この青葉にお任せください!」

 

 ソファーから立ち上がり、青葉さんが俺のすぐ近くまで寄ってくる。

 

 「こう見えても、青葉は秘書艦経験者なのです。育成計画書も、何度も見たことがあります」

 「おお、まじすか」

 「はい! 大船に乗ったつもりでいてください!」

 「あたしも、できることがあったら手伝うわよ」

 

 二人とも、なんていい人なんだ……。

 絶対定時じゃ終わらないと思ってたし、なんなら今日中も怪しかったんだよな。ガチで助かる……。

 

 「それでは、ぱぱっと終わらせて一緒に夕食にしましょう!」

 

 青葉さんのかけ声で、俺は気持ちを引き締めた。定時まで残り一時間ないけど、これならなんとかなりそうだ。

 俺は残り少ない体力で脳みそをフル回転させ、ディスプレイと向かい合った。

 

 

 

 

 

 しかしながら、現実はそこまで甘くなく。

 結局、計画書が良さげな具合に完成したのは、日付が変わる直前だった。

 

 

 




提督「やっと終わった……」
青葉「まさかここまで苦戦するとは……そもそも、なんでこんなギリギリなんですか?」
提督「マニュアルがないのと、そもそもの提出期限が短すぎるからですね」
青葉「えぇぇ……」
提督「新人にいきなりこんな無理難題押し付けてくる辺り、やっぱブラックっすわ」
叢雲「あんなの適当でいいのに」
提督「それやったら突き返されたじゃないすか……」
陽炎「( ˘ω˘)スヤァzzZ」
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