提督に転職したら想像以上にブラックだった件 作:Sh1Gr3
「では陽炎さん、報告をお願いします」
「はーい!」
ある日の昼休憩中のこと。
提督室で昼食をとっていると、突然現れた青葉さんと陽炎さんが、ソファーに座ってなにやら話し始めた。
イヤホンをしながらも微かに聞こえてくる話によれば、どうも叢雲さんについての調査結果を報告しあっているようで。
なんでここでやるんだ?と、疑問にも思ったが、休憩中ということもあり静観することにした。
下手に口を出して、話を振られても困るしね……。
「叢雲がここに配属となった理由ですけど、司令のお守役を任されたからだそうです」
「ほぅ。では特に何かをやらかしたわけではないと」
「おそらく」
「ふむ……ここへ来る前のことは訊けましたか?」
「その辺をぶらぶらして、だらだらと過ごしてたって言ってました」
「……濁されている感がすごいですね」
苦笑する青葉さん。それにつられて、俺も笑いそうになってしまった。
叢雲さんの真面目に取り合う気の無さが、陽炎さんの話から伝わってくる。
それから、陽炎さんは何個か調査結果を報告していたが、どれもあまり役立つ情報ではなかったのか、だんだん青葉さんの顔が訝し気なものへと変わっていった。
イヤホンしてるからあまり聞こえなかったけど、何時に寝て起きてるとか、味の好みや趣味、はたまた秘書艦は大変だ等々。報告の中には、もはや自己紹介なんじゃないかと思われるものまで混じっていた──最後のは完全に愚痴だけどね。
「な、なるほど……よく分かりました。ありがとうございます」
陽炎さんの報告タイムが終わった。青葉さんの苦笑いマシマシな顔から察するに、求めていた情報は少なかったらしい。
俺的には、叢雲さんから味の好みとか趣味を訊き出せる辺り、陽炎さんのコミュ力の高さがうかがえてすごいと思ったが。
「青葉さんの方は?」
続いて青葉さんのターン。
陽炎さんに訊かれ、青葉さんは「そうですねぇ……」と呟いて手帳をペラペラとめくり出す。
しかし、すぐに渋い顔をして手帳を閉じた。
「正直、有益な情報は得られませんでした。こちらはⅮ敗北です」
「尾行上手くいかなかったんですか?」
「いやあ、中々上手くいかないものですね~」
そう言って、あははと笑いながら頭を掻く青葉さん。
だろうなと思いながら、俺は机に突っ伏して貴重な昼寝の時間に入る。
「というわけで、これはもう最終手段しかなさそうです」
「最終手段?」
「はい。しれいかーん、今の話聞いてました?」
……聞こえない振り。ここで反応しては、大事なお昼寝タイムが潰えてしまう。
「寝た振りしても無駄ですよー。司令官がすぐに寝れないこと、青葉は知ってますからね」
「……」
あー……そんなこと言ったような言ってないような。
なんて余計なことを言ってしまったのかと、自責の念に駆られながら、俺は渋々顔を上げた。
「うわ、ほんとに起きてた」
驚いたような声をあげる陽炎さん。
残念ながら、これを無視できるほど俺の性格は強くなく。さようなら、俺の睡眠時間──といった心境で、二人の方へと目を移した。
「なんすか……?」
「叢雲さんと対抗演習がしたいんですけど、許可もらえますか?」
「えっ、まじすか」
唐突な青葉さんの台詞に、俺は眉をひそめた。陽炎さんも「うそでしょ」と言わんばかりの顔をしている。
が、青葉さんは平然と頷いた。
「演習してみるのが一番手っ取り早いんですよ。百聞は一見に如かずってやつです!」
確かに、それはその通りだ。取材やら尾行するよりも、そっちの方が遥かに確実だし効率が良い。
俺としても、演習を積極的にやってくれる分にはありがたいしな。育成計画書に「積極的に演習を取り入れる」と書いたせいか、演習任務が来るようになっちゃったし──ただでさえ忙しいってのに。
「まあ……叢雲さんがいいって言うなら」
「さっすが司令官! 話の分かる司令官が青葉は好きですよ!」
やれやれ、ほんと調子のいい人だなあ……。
そんな青葉さんに、陽炎さんが心配そうに言った。
「大丈夫ですか? 青葉さんの練度って、確か乙でしたよね?」
「そうですね。一応、乙ってことにしてます」
一応、乙ってことにしてる……?
何を言ってるんだろうと、俺が黙考モードに入っている間も、二人の会話は続く。
「しょーじき、やめといた方がいいかと……甲よりのあたしでさえ、ボコボコにされちゃいましたし」
「あはは、大丈夫ですよ。青葉は重巡ですし、それに演習の勝敗はどうでもいいので」
「司令の前でそれ言っちゃうんですか……」
心配そうな顔から一転、呆れ顔に変わる陽炎さん。
それに対して、青葉さんが弁明する。
「誤解ですよ! 真面目にやりますけど、勝敗以上に大事なものがあるって話です!」
「はあ……まあ頑張ってください。一応、応援してます」
そう言って、陽炎さんがソファーの上でゴロゾーと化す。
その時、昼休み終了を告げる時報が鳴った。
時報が鳴り終える前に提督室の扉が開いて、あくびをしながら叢雲さんが戻って来た──昼寝してたな、これ。
「叢雲さん、眠そうなところ大変恐縮なのですが」
ソファーから立ち上がり、青葉さんが演習の話を持ち掛けようとする。
叢雲さんは視線だけを青葉さんに移すも、特に何も言わず。そのまま秘書艦席に座った。
「青葉と対抗演習をお願いしたいんですけど、受けてもらえますか?」
「……」
叢雲さんからの返答はない。ただ、不思議と面倒そうに思ってることが伝わってくる──なんとなくだけど。
不意に、叢雲さんの目が俺へと移った。
一瞬だけ目が合ったが、あれはいわゆるジト目というやつだ。やっぱり面倒だと思ってるんだろうなあ。
その答え合わせは、叢雲さんのため息によって正解だと分かった。
「はぁ……面倒だけど、仕方ないわね」
「やった! ありがとうございます!」
あれ、意外だ。もう少しごねるかと思ったのに。
喜ぶ青葉さんに、叢雲さんが「その代わり」と付け加える。
「そこのゴロゾーも一緒ね」
顎をしゃくる叢雲さん。その先にいた陽炎さんが、ばっと起き上がった。
「え、あたしも?!」
「2対1ということですか?」
「そういうこと」
二人の疑問に、叢雲さんが平然と答える。
が、すぐさま陽炎さんから反発の声があがった。
「あたしまだ船団護衛のノルマ終わってないんだけど……」
「演習一戦やったところで支障ないでしょ」
「えー、なんか嫌だなあ。ボコボコにされて遠征に行くの」
あらら……ここに来た時はやる気満々だったのに、なんか立場逆転しちゃったな。
すると、嫌がる陽炎さんに、叢雲さんがふっと鼻で笑って言った。
「ならあんたの好きなハンデ、好きなだけあげてもいいわよ」
「……好きなだけ?」
本当に?と、まるで子供のように首を傾げる陽炎さん。
青葉さんも「おや」と興味深そうな顔。
「ええ。目隠ししてもいいし、装備なしでもなんでも」
「ふーん……じゃあやる!」
早速、青葉さんと陽炎さんが、要求するハンデについて話始める。
こうして、流れのままに三人の演習が決まったのだった。
演習が決まり、俺は第八鎮守府の訓練海域──それが見渡せる桟橋に立っていた。
視線の先には、艤装を身につけて海上に立つ三人──叢雲さん、陽炎さん、青葉さんが見える。何度見ても、艦娘が海の上に立つ姿は壮観だ。
『いやぁ~、まさか本当に受けてくれるとは。感謝ですよ』
無線から青葉さんの声が聞こえてくる。
それに続いて、
『どこぞの素人司令官が、育成計画書に書いて提出しちゃったからね。致し方なくよ』
おそらく肩をすくめたであろう、そんな叢雲さんの声も聞こえてきた。
だって、ああでも書かないと終わらなかったし……。
『あたしはありがたいけどね。お飾り船団護衛なんかじゃ、全然練度上がらないし』
と陽炎さん。
はい、いつもありがとうございます……。
『でも、本当によかったんですか? 2対1で』
『そっちの方が効率よく経験値稼げるし、早く済むでしょ』
『むっ……言ってくれますねえ』
青葉さんの質問に、叢雲さんが即答した。それを聞いた青葉さんの少しばかりムッとした様子が、無線越しでも伝わってくる。
陽炎さんが、青葉さんに釘を刺すように言った。
『2対1でも油断できないですよ。正直、もっとハンデほしかったんですけど……』
『一発でも命中させれば、こちらの勝ちでいいと言ってくれたんです。これ以上ないほどのハンデじゃないですか』
『……そうですかね』
『大丈夫です! こんなありがたいハンデをくれたこと、後悔させてあげましょう!』
テンション高い青葉さんとは裏腹に、どことなく不安そうな陽炎さん。
まあ、前回あれだけボコボコだったもんな。不安になるもの当然か。
三人の会話が落ち着いたところで、俺は訊いた。
「準備はいいすか?」
『いつでもどうぞー!』
『あたしもー』
『早くして』
と、すぐさま三者三葉に返事が返ってくる。
では、始めるとしますか。
「用意スタート!」
そう無線に向かって、演習開始の合図を告げた。
スタートと同時に、青葉さんと陽炎さんが動き出す。一方の叢雲さんには、特に動きはない。前の陽炎さんの時と同じだ。
さて、今回はどうなることやら……と思いつつ。
やっぱり叢雲さんの負ける姿は、想像できないなぁ……。
青葉「陽炎さん! 叢雲さんが油断している隙に終わらせましょう!」
陽炎(なんかデジャブが……)