提督に転職したら想像以上にブラックだった件   作:Sh1Gr3

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青葉さんと極秘調査②

 「では陽炎さん、報告をお願いします」

 「はーい!」

 

 ある日の昼休憩中のこと。

 提督室で昼食をとっていると、突然現れた青葉さんと陽炎さんが、ソファーに座ってなにやら話し始めた。

 イヤホンをしながらも微かに聞こえてくる話によれば、どうも叢雲さんについての調査結果を報告しあっているようで。

 

 なんでここでやるんだ?と、疑問にも思ったが、休憩中ということもあり静観することにした。

 下手に口を出して、話を振られても困るしね……。

 

 「叢雲がここに配属となった理由ですけど、司令のお守役を任されたからだそうです」

 「ほぅ。では特に何かをやらかしたわけではないと」

 「おそらく」

 「ふむ……ここへ来る前のことは訊けましたか?」

 「その辺をぶらぶらして、だらだらと過ごしてたって言ってました」

 「……濁されている感がすごいですね」

 

 苦笑する青葉さん。それにつられて、俺も笑いそうになってしまった。

 叢雲さんの真面目に取り合う気の無さが、陽炎さんの話から伝わってくる。

 

 それから、陽炎さんは何個か調査結果を報告していたが、どれもあまり役立つ情報ではなかったのか、だんだん青葉さんの顔が訝し気なものへと変わっていった。

 

 イヤホンしてるからあまり聞こえなかったけど、何時に寝て起きてるとか、味の好みや趣味、はたまた秘書艦は大変だ等々。報告の中には、もはや自己紹介なんじゃないかと思われるものまで混じっていた──最後のは完全に愚痴だけどね。

 

 「な、なるほど……よく分かりました。ありがとうございます」

 

 陽炎さんの報告タイムが終わった。青葉さんの苦笑いマシマシな顔から察するに、求めていた情報は少なかったらしい。

 俺的には、叢雲さんから味の好みとか趣味を訊き出せる辺り、陽炎さんのコミュ力の高さがうかがえてすごいと思ったが。

 

 「青葉さんの方は?」

 

 続いて青葉さんのターン。

 陽炎さんに訊かれ、青葉さんは「そうですねぇ……」と呟いて手帳をペラペラとめくり出す。

 しかし、すぐに渋い顔をして手帳を閉じた。

 

 「正直、有益な情報は得られませんでした。こちらはⅮ敗北です」

 「尾行上手くいかなかったんですか?」

 「いやあ、中々上手くいかないものですね~」

 

 そう言って、あははと笑いながら頭を掻く青葉さん。

 だろうなと思いながら、俺は机に突っ伏して貴重な昼寝の時間に入る。

 

 「というわけで、これはもう最終手段しかなさそうです」

 「最終手段?」

 「はい。しれいかーん、今の話聞いてました?」

 

 ……聞こえない振り。ここで反応しては、大事なお昼寝タイムが潰えてしまう。

 

 「寝た振りしても無駄ですよー。司令官がすぐに寝れないこと、青葉は知ってますからね」

 「……」

 

 あー……そんなこと言ったような言ってないような。

 なんて余計なことを言ってしまったのかと、自責の念に駆られながら、俺は渋々顔を上げた。

 

 「うわ、ほんとに起きてた」

 

 驚いたような声をあげる陽炎さん。

 残念ながら、これを無視できるほど俺の性格は強くなく。さようなら、俺の睡眠時間──といった心境で、二人の方へと目を移した。

 

 「なんすか……?」

 「叢雲さんと対抗演習がしたいんですけど、許可もらえますか?」

 「えっ、まじすか」

 

 唐突な青葉さんの台詞に、俺は眉をひそめた。陽炎さんも「うそでしょ」と言わんばかりの顔をしている。

 が、青葉さんは平然と頷いた。

 

 「演習してみるのが一番手っ取り早いんですよ。百聞は一見に如かずってやつです!」

 

 確かに、それはその通りだ。取材やら尾行するよりも、そっちの方が遥かに確実だし効率が良い。

 俺としても、演習を積極的にやってくれる分にはありがたいしな。育成計画書に「積極的に演習を取り入れる」と書いたせいか、演習任務が来るようになっちゃったし──ただでさえ忙しいってのに。

 

 「まあ……叢雲さんがいいって言うなら」

 「さっすが司令官! 話の分かる司令官が青葉は好きですよ!」

 

 やれやれ、ほんと調子のいい人だなあ……。

 そんな青葉さんに、陽炎さんが心配そうに言った。

 

 「大丈夫ですか? 青葉さんの練度って、確か乙でしたよね?」

 「そうですね。一応、乙ってことにしてます」

 

 一応、乙ってことにしてる……?

 何を言ってるんだろうと、俺が黙考モードに入っている間も、二人の会話は続く。

 

 「しょーじき、やめといた方がいいかと……甲よりのあたしでさえ、ボコボコにされちゃいましたし」

 「あはは、大丈夫ですよ。青葉は重巡ですし、それに演習の勝敗はどうでもいいので」

 「司令の前でそれ言っちゃうんですか……」

 

 心配そうな顔から一転、呆れ顔に変わる陽炎さん。

 それに対して、青葉さんが弁明する。

 

 「誤解ですよ! 真面目にやりますけど、勝敗以上に大事なものがあるって話です!」

 「はあ……まあ頑張ってください。一応、応援してます」

 

 そう言って、陽炎さんがソファーの上でゴロゾーと化す。

 その時、昼休み終了を告げる時報が鳴った。

 時報が鳴り終える前に提督室の扉が開いて、あくびをしながら叢雲さんが戻って来た──昼寝してたな、これ。

 

 「叢雲さん、眠そうなところ大変恐縮なのですが」

 

 ソファーから立ち上がり、青葉さんが演習の話を持ち掛けようとする。

 叢雲さんは視線だけを青葉さんに移すも、特に何も言わず。そのまま秘書艦席に座った。

 

 「青葉と対抗演習をお願いしたいんですけど、受けてもらえますか?」

 「……」

 

 叢雲さんからの返答はない。ただ、不思議と面倒そうに思ってることが伝わってくる──なんとなくだけど。

 不意に、叢雲さんの目が俺へと移った。

 一瞬だけ目が合ったが、あれはいわゆるジト目というやつだ。やっぱり面倒だと思ってるんだろうなあ。

 

 その答え合わせは、叢雲さんのため息によって正解だと分かった。

 

 「はぁ……面倒だけど、仕方ないわね」

 「やった! ありがとうございます!」

 

 あれ、意外だ。もう少しごねるかと思ったのに。

 喜ぶ青葉さんに、叢雲さんが「その代わり」と付け加える。

 

 「そこのゴロゾーも一緒ね」

 

 顎をしゃくる叢雲さん。その先にいた陽炎さんが、ばっと起き上がった。

 

 「え、あたしも?!」

 「2対1ということですか?」

 「そういうこと」

 

 二人の疑問に、叢雲さんが平然と答える。

 が、すぐさま陽炎さんから反発の声があがった。

 

 「あたしまだ船団護衛のノルマ終わってないんだけど……」

 「演習一戦やったところで支障ないでしょ」

 「えー、なんか嫌だなあ。ボコボコにされて遠征に行くの」

 

 あらら……ここに来た時はやる気満々だったのに、なんか立場逆転しちゃったな。

 すると、嫌がる陽炎さんに、叢雲さんがふっと鼻で笑って言った。 

 

 「ならあんたの好きなハンデ、好きなだけあげてもいいわよ」

 「……好きなだけ?」

 

 本当に?と、まるで子供のように首を傾げる陽炎さん。

 青葉さんも「おや」と興味深そうな顔。

 

 「ええ。目隠ししてもいいし、装備なしでもなんでも」

 「ふーん……じゃあやる!」

 

 早速、青葉さんと陽炎さんが、要求するハンデについて話始める。

 こうして、流れのままに三人の演習が決まったのだった。

 

 

 

 

 

 演習が決まり、俺は第八鎮守府の訓練海域──それが見渡せる桟橋に立っていた。

 

 視線の先には、艤装を身につけて海上に立つ三人──叢雲さん、陽炎さん、青葉さんが見える。何度見ても、艦娘が海の上に立つ姿は壮観だ。

 

 『いやぁ~、まさか本当に受けてくれるとは。感謝ですよ』

 

 無線から青葉さんの声が聞こえてくる。

 それに続いて、

 

 『どこぞの素人司令官が、育成計画書に書いて提出しちゃったからね。致し方なくよ』

 

 おそらく肩をすくめたであろう、そんな叢雲さんの声も聞こえてきた。

 だって、ああでも書かないと終わらなかったし……。

 

 『あたしはありがたいけどね。お飾り船団護衛なんかじゃ、全然練度上がらないし』

 

 と陽炎さん。

 はい、いつもありがとうございます……。

 

 『でも、本当によかったんですか? 2対1で』

 『そっちの方が効率よく経験値稼げるし、早く済むでしょ』

 『むっ……言ってくれますねえ』

 

 青葉さんの質問に、叢雲さんが即答した。それを聞いた青葉さんの少しばかりムッとした様子が、無線越しでも伝わってくる。

 陽炎さんが、青葉さんに釘を刺すように言った。

 

 『2対1でも油断できないですよ。正直、もっとハンデほしかったんですけど……』

 『一発でも命中させれば、こちらの勝ちでいいと言ってくれたんです。これ以上ないほどのハンデじゃないですか』

 『……そうですかね』

 『大丈夫です! こんなありがたいハンデをくれたこと、後悔させてあげましょう!』

 

 テンション高い青葉さんとは裏腹に、どことなく不安そうな陽炎さん。

 まあ、前回あれだけボコボコだったもんな。不安になるもの当然か。

 

 三人の会話が落ち着いたところで、俺は訊いた。

 

 「準備はいいすか?」

 『いつでもどうぞー!』

 『あたしもー』

 『早くして』

 

 と、すぐさま三者三葉に返事が返ってくる。

 では、始めるとしますか。

 

 「用意スタート!」

 

 そう無線に向かって、演習開始の合図を告げた。

 スタートと同時に、青葉さんと陽炎さんが動き出す。一方の叢雲さんには、特に動きはない。前の陽炎さんの時と同じだ。

 

 さて、今回はどうなることやら……と思いつつ。

 やっぱり叢雲さんの負ける姿は、想像できないなぁ……。

 

 

 




青葉「陽炎さん! 叢雲さんが油断している隙に終わらせましょう!」
陽炎(なんかデジャブが……)
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