提督に転職したら想像以上にブラックだった件 作:Sh1Gr3
青葉型重巡洋艦一番艦──青葉。
彼女は第八鎮守府に異動して来るまで、第七以外のすべての横須賀鎮守府に籍を置いたことのある、異動しまくり艦娘であった。
彼女が異動ばかりを繰り返してきた理由は、ただ一つ。
それは、ひとえに『退屈』になったからである。
所属する鎮守府が退屈な場所だと感じた瞬間、機を見て異動申請を出す。
それまでは、命令通り訓練や任務をこなしつつ、取材やネタ集めに勤しむ。
青葉はこれまで、そのように立ち回って来た。
故に、艦娘としての向上心や使命感などは、青葉にとってそこまで重要ではない。
重要なのは、青葉にとって所属する鎮守府が面白い場所かどうか──これに尽きるのだ。
そのため、青葉は自分がいつでも異動できるような、戦力として期待されない立ち位置に留まるべく、自身の練度を偽ってきた。
本来であれば甲などとっくに超えており、定期的に発令される深海棲艦への大規模反抗作戦にも、参加できるほどの実力を有している。
おまけに、青葉はその目で見ただけで、相手の練度を直感的に把握できる能力を持っていた。
青葉のこの練度と能力は、日々の取材やネタ集めを効率よく行うために、密かに特訓を重ねた努力の結果であり、未だに知っている者はいない。
もし、青葉の実力が公のものとなっていたなら、間違いなく貴重な戦力として重宝されるべき艦娘であったが、残念ながら本人にその気がまるでないので、そうはならなかった。
ちなみに、第七に異動しなかったのは、できなかったからである。
おそらく、第七の提督が受け入れを拒否したのだろう。事前にブラックな環境だと知っていたので興味が湧いたが、こればかりはどうにもならなかった。
──そんな時だった。青葉が第八鎮守府の情報を手に入れたのは。
聞くところによれば、そこは民間企業から転職してきた提督と、問題を起こした艦娘たちが集う場所ということで、青葉はすぐに興味をそそられた。
そしてその日のうちに異動申請を行い、受理されるまで多少の時間はかかったものの、無事に第八鎮守府へと異動することができたのである。
「どうでしょう。青葉のこと、少しはわかってもらえたでしょうか?」
一通り語り終えた青葉さんが、聞いていたと思われる三人──俺と叢雲さん、そして陽炎さんに問いかけた。
それに対し、俺はいつも通り苦笑いを浮かべ、陽炎さんもソファーの上でゴロゾーと化しながら「へえー」と一応の反応を示した。
叢雲さんはというと、特に反応はなく退屈そうに書類を眺めている。
そんな俺らの反応が気に入らなかったのか、青葉さんはムスッとした様子で言った。
「皆さん、反応薄くないですか? 青葉は悲しいですよ」
その日の業務終了後。
もはや全員の溜まり場と化した提督室で、唐突に青葉さんの自分語りが始まったのだった。
ただ、俺はまだ今日までに消化する予定の作業が終わっていないので、片手間で聞いていた。
だから、反応が薄かったことに対する言い訳はしないけど、仕事なので許してほしいところである。
「司令官! 青葉は悲しいですよ!」
「なんで俺なんすか……」
今にも地団太を踏み出しそうな青葉さん。
しかし、標的を間違えてる。もっと言うべき人が秘書艦席に座ってるのに。
「まあ、叢雲からどんな人なのか事前に聞いてたしねえ」
と陽炎さん。ソファーに寝そべりながら、足をパタパタさせている。
「能力と練度詐欺?も、青葉さんなら納得って感じ」
「叢雲さん?! 青葉の風評被害が最悪なんですけど?!」
「事実でしょ」
喚く青葉さんを、叢雲さんが一刀両断する。
「陽炎なんて最初、『そんなふざけた理由で異動して来るのか』ってキレてたわよ」
「えっ、そうなんですか……?」
はっとした様子で、青葉さんが陽炎さんを見やる。
陽炎さんは「あー……」と、どこか気まずそうな感じだ。
そういえば、そんなことも言ってたっけ。
あまりにも馴染むのが早くて忘れてた。
「当然よね。陽炎は来たくて来たわけじゃないのに」
「ま、まあ……それはそうなんだけど」
青葉さんから目をそらしながら、頬を掻く陽炎さん。
しかしすぐに、どこか申し訳なさそうに顔を伏せる青葉さんに、
「でも、もう気にしてないかな」
と、いつもの明るい声で言った。
それを聞いた青葉さんが、おそるおそるといった具合で顔を上げる。
「ほ、本当ですか?」
「はい。なんか青葉さんだから、もういいかなってなりました」
「えぇ……なんですかそれ」
困惑した表情を見せる青葉さん。
俺はちらちらと二人の様子をうかがいながら、青葉さんもああいう顔するんだなと、意外に思っていたところ。
不意に叢雲さんが、ふっと笑って言った。
「わかってるじゃない。青葉の扱い方」
「へ?」
首を傾げる陽炎さん。当の陽炎さん自身は、わかっていないご様子。
青葉さんはというと、ガックリという感じでうなだれていた。
「うぅ……まさか、青葉がいじられキャラになるなんて……流石に予想外ですよ」
「たまにはネタにされる側も新鮮でしょ」
叢雲さんの物言いに対し、唐突に青葉さんの目が俺へと向いた。
「司令官! 青葉はいじられキャラなんて御免ですよ!」
「はあ……」
そんなこと言われても、苦笑することしかできないぞ……。
「ねえねえ、青葉さん」
ふと、ゴロゾー陽炎さんが口を開いた。
幸いなことに、青葉さんの目が俺から陽炎さんに移る──ナイスです、陽炎さん。
「青葉さんの見ただけで練度がわかるやつ、あたしにもできますか?」
「もちろん、できますよ。青葉のこれは訓練で身につけたものですから」
その答えに、陽炎さんの表情がぱあっと明るくなる。
「教えてください! あたしも叢雲みたいに強くなりたいんです!」
「……なんか複雑ですね。そこは青葉みたいに!と言ってほしかったのですが……」
ため息を吐きながらも、青葉さんは話を続ける。
「まあいいですよ。叢雲さんから、鍛えてあげるよう言われてますし」
「え、そうなんですか?」
きょとんとした顔で、陽炎さんが叢雲さんを見る。
叢雲さんは、相変わらず退屈そうに書類を眺めたまま、陽炎さんの疑問に答えた。
「強くなりたいんでしょ」
「ああ、うん。それはもちろん」
陽炎さんが、ゴロゾーをやめて体を起こす。
「なら気張りなさい。お得意の根性でね」
「叢雲は鍛えてくれないの?」
「私は誰かを鍛えるとか、そういうのに向いてないの」
「えー、あたしも叢雲みたいに背面避けしたいんだけど」
「青葉が教えてくれるわよ」
「うそ、青葉さんもできるんですか?」
陽炎さんのキラキラした目が、青葉さんへ向く。
しかし、青葉さんは「いやいやいや」と首を横に振った。
「青葉には無理ですよ。いくら青葉でも、できることとできないことがあります」
「できないの? あんたもまだまだね」
「できないのが普通なんですよ?! 青葉の練度が低いみたいに言わないでください!!」
声を荒らげる青葉さん。
確かに、これは青葉さんの言う通りだ。
みんながみんな叢雲さんみたいに強かったら、深海棲艦なんて一瞬でこの海から消え去っていることだろう。
「まったく、そんなに言うなら青葉にも教えてくださいよ」
拗ねた様子で青葉さんが言う。
それに対する叢雲さんの返答は早かった。
「嫌よ、めんどくさい」
「酷い?!」
まるでガーンという擬音語が聞こえてきそうな、青葉さんの反応。
すかさず、陽炎さんが青葉さんをフォローする。
「明日から背面避けも特訓してみます?」
「……陽炎さんは優しいですね。師匠として鼻が高いですよ」
「は、はあ」
今度は陽炎さんが苦笑いを浮かべた。
うーん、これはいじられキャラになっても仕方ないかなあ。
「あんたもそれでいいでしょ。当分は青葉に嚮導艦やらせるから」
ようやく書類から目を離した叢雲さんが、俺に向かって言った。
咄嗟に話しかけられ、俺もディスプレイから顔を上げた。
「あざす。全然それでいいっす」
育成計画書は書いて提出したものの、期限通りに任務をこなすことで手一杯で、とりあえず演習してもらうことしか考えてなかった。
艦娘の育成方針を考えるのも提督の仕事か。
世の中の先輩提督方には、つくづく頭が下がるな……。
「これで陽炎の練度が上がれば、いずれ第七に戻っても文句言われないでしょ」
「そうすね……すみません、そこまで頭回らずで」
「新人にそこまで期待してないわよ」
「……あざす」
叢雲さんの優しさが身に染みる。
ほんと、いつもありがとうございます……。
俺は心の中で、そう小さな大先輩に感謝するのだった。
青葉「陽炎さん陽炎さん。司令官と叢雲さん、なんかいい感じじゃないですか?」
陽炎「え、青葉さんもそう思います?」
青葉「あの叢雲さんが、なんかちょっと優しいですよね」
陽炎「わかります。叢雲も司令のこと気に入ってるんですかね?」
青葉「今度、取材してみましょうか」
陽炎「あたしも協力します!」
叢雲「……」
提督(こわ……聞かなかったことにしよ)