提督に転職したら想像以上にブラックだった件   作:Sh1Gr3

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第十八駆逐隊の鎮守府訪問

 「不知火たち、もうすぐ着くってー」

 

 ソファーに座り、携帯を弄る陽炎さんの台詞。

 陽炎さんの言う通り、今日は不知火さんたち第十八駆逐隊の訪問日である。

 

 俺はそれを聞いて、改めて身だしなみを整えることにした。携帯を開いて内カメにし、髪型や服装が変なことになっていないか確認していく。

 第一印象はだいたい、見た目で決まると言われている。顔は今更どうしようもないが、せめて髪型と服装ぐらいは整えておかなければ。

 

 あー、緊張してきた……というのも、陽炎さんと青葉さんから、不知火さんたちがどういう人たちなのか、事前に教えてもらっているのだ。それが緊張をより高めることになってしまった。

 

 二人が言うには三人とも真面目な性格で、陽炎さんとは正反対のタイプとのこと。この時点で冷や汗ものだが、不知火さんと霰さんは、感情をあまり顔に出さないらしい。俺の苦手なタイプである。おまけに、不知火さんの眼光は戦艦クラスなのだとか。なんだよ戦艦クラスって、普通に怖すぎだろ……。

 霞さんはというと、提督にはかなりあたりが強いらしい。叢雲さんが「クズ」と言われないようにって言ってたのは、「クズ」が霞さんの口癖だからとのこと。

 とんでもない人だなと思ったが、陽炎さん曰く素直じゃないだけで、青葉さんも巷では「霞ママ」と呼ばれていることを教えてくれた。

 

 「ママ」というのはなんのことだかさっぱりであるが、最悪俺がどうこう言われる分には構わない。でも、陽炎さんと青葉さんが悪く言われるのだけは避けなければ。叢雲さんは……まあ気にしなさそうだからいいかな。

 

 「司令官が正装するなんて珍しいですねー」

 

 陽炎さんとは向かいに座る、青葉さんの声。青葉さんはまじまじと目をこちらに向けている。

 そんな動物園の動物を見るかのような目で見ないで欲しいんですけど……。

 

 「流石に正装しとかないとやばくないすか」

 「一枚いいですか?」

 「嫌です」

 

 ソファーから立ち上がりカメラを構え出したので、俺は慌てて顔を背けた。

 こんな姿を撮られるなんて冗談じゃない。こんな全身真っ白な服装、俺にとっては拷問に近いってのに。だから普段はズボンは穿いてるけど、上着は着用していなかったのだ。青葉さんの珍しいですねというのは、そういう意味である。

 

 「あたしは似合ってると思うけど。ねえ、叢雲?」

 「馬子にも衣裳ってやつね」

 「それ褒めてるの??」

 

 叢雲さんの返答に、陽炎さんが即座に突っ込む。

 馬子にも衣裳ね……意味までは分からないけど、陽炎さんのツッコミでなんとなく察したわ。

 

 「司令官、帽子もお願いします!」

 「勘弁してくださいよ……」

 

 さすが新聞を書くだけあって、ネタを前にするとえぐいな。しつこいというか執念深いというか……。

 こんな感じで青葉さんの犠牲になった人、結構いるんだろうなあ。ていうか、俺なんか撮ってもなんの得にもならないだろ。

 

 「その辺にしときなさい。あまりしつこいと嫌われるわよ」

 「むっ、それは困りますね……残念ですが、今日のところは諦めます」

 

 青葉さんがカメラを持つ手をおろす。

 助かった……叢雲さんありがとうございます……。

 

 「あ、みんな着いたって! あたし迎えに行ってくるわね!」

 

 報告と同時に、陽炎さんは上機嫌に提督室から出て行った。

 何しに来るんだとか、第7に連れ戻しに来たんじゃないかとか色々言ってたけど、なんだかんだで三人に会えるのが嬉しいんだろうな。

 どうやら青葉さんも俺と同じことを思ったようで、

 

 「楽しそうですねえ、陽炎さん。あんなに連れ戻されることを心配してたのに」

 「そりゃ元同僚ですからね。楽しいんじゃないすか」

 「でも、実際どうするんですか? 不知火さんのことです、可能性は否定できないと思いますけど」

 「まあ……本人が戻りたくないって言ってる以上は無理じゃないすかね」

 

 今日の訪問の目的は、陽炎さん曰く俺への挨拶がメインと聞いている。

 陽炎さんから不知火さんはまだ今度第7に着任する提督が、陽炎さんを第7に戻そうとしていることは知らない様子だったと聞いているが、青葉さんの言う通り、それとは関係なく関連した話をされるのは否定できない。

 俺としては、姉が理不尽な異動をくらった不知火さんの気持ちを汲みたい一方で、陽炎さん自身が戻る気ゼロなことを知ってしまっているので、結局は何もしてあげられないんだよな……。

 

 「甘いわねえ。あんたトーシロなんだから、言われたことなんかハイハイ聞いてりゃいいのよ」

 「それはそうなんすけどね……」

 「まったく、面倒なのに目つけられるの自分だってのに」

 

 はい、すべて叢雲さんのおっしゃる通りです。返す言葉もございません。

 陽炎さんの意志を尊重したいってのは本当だけど、それ以上に俺が陽炎さんに言えないだけだ──第7に戻れってね。

 

 「そういえば、その件について上はなんて言ってるんですか?」

 「今のところは何も。着任後に本人から言われるかもしれないですけど」

 「お~、それは面白そうですねえ。その時はぜひ取材させてください!」

 「はあ……」

 

 まったく、提督ってのはつくづくしんどいな……主に精神面が。

 

 「ねえ、余計なこと言わないでよ」

 「? 余計なこと?」

 「私のこと知ってるの不知火だけだから」

 

 あー、そういうことか。なんとなく察した。

 

 「了解っす」

 「あんたもよ、青葉」

 「もちろん言うわけないですよ。というか言っても信じてもらえないと思いますけどね~」

 

 確かに、叢雲さんの強さは異次元だからな。普通に言っても誰も信じないだろう。

 

 「私はあんたと違って面倒事は御免だからね」

 

 面倒事は俺も御免なんだけどなぁ……。

 

 「ちなみに、青葉は面倒事でも大歓迎ですよ」

 「あんたはネタが拾えればなんでもいいんでしょ」

 「さすが叢雲さん、青葉のことよくお分かりで!」

 

 青葉さんの元気の良い返事に、叢雲さんは何も言わず深いため息を零した。

 それじゃ、もし面倒事が来たら全部ネタにしてもらうとするかな……。

 

 

 

 

 

 第8鎮守府に到着した不知火、霞、霰の三人。そこへ陽炎が合流し、四人は提督室へと向かっていた。

 

 「なんか四人で歩くのも久々な感じがするわね」

 「大袈裟ですね。陽炎が異動してひと月も経っていませんよ」

 「あんたねぇ……電話した時も同じこと言ってたじゃない」

 

 陽炎は小さなため息を吐くと、後ろを歩く霞と霰に目を移した。

 

 「二人も元気そうね。安心したわ」

 「いっぱい休んだから……」

 「あんたは異動しても相変わらずみたいね」

 

 素直に返答する霰とは対照的に、霞はそっぽを向きながら「ふん」と鼻を鳴らした。

 

 「随分と馴染んでるじゃない。さすが、独房慣れしてる艦娘は違うわね」

 「なによ、そんなにあたしに会えて嬉しいの? あたしも嬉しいわよ」

 「はあ? 異動して耳までおかしくなったの??」

 「霞は可愛いわねえ。不知火と違って」

 

 よしよしと頭をなでるも、陽炎の手は瞬時に払われてしまった。

 

 「やめて。囚人根性が移るわ」

 「ちょっと、その言い方はあんまりじゃない?」

 「あんたのことだから、ここでも独房の世話になってるんでしょ。さぞかし、独房に叩き込むのが生きがいみたいな提督なんでしょうね」

 「まさか。司令は前の司令と違って、艦娘を独房に叩き込むような人じゃないわよ」

 「完全に飼いならされてるじゃない。そんなに間宮アイスが美味しかった?」

 「そりゃあもう、美味しかったわよ。無限に食べられそうなぐらいにね」

 「……」

 

 嫌味全開の言動にも動じない陽炎に霞が沈黙する。

 間宮アイスと聞いて、霞の横を歩く霰が羨ましそうに呟いた。

 

 「間宮アイス……霰も食べたい……」

 「じゃあみんなで食べましょ! あたしが司令にお願いしてあげる!」

 「! いいの……?」

 「もちろん。司令なら絶対ОKしてくれるから」

 「ありがとう……楽しみ……」

 「霰はいい子ねえ。素直で可愛いし」

 

 そう言って、今度は霰の頭をなで始めた。

 霞と違い大人しくなでられる霰を見て、陽炎はうんうんと満足そうな表情を見せる。

 

 「呆れた。ばっかじゃないの」

 「そんなにぷんぷんしなくても、霞の分もちゃんとあるわよ」

 「いらない。私は餌付けされるなんてまっぴら御免よ」

 「もう、ほんっと素直じゃないんだから。せっかく可愛いのに、それじゃ司令に霞の可愛さが伝わらないかも」

 「気色悪いこと言うんじゃないわよ。そんな目で見られるぐらいなら、轟沈した方がマシだわ」

 「あらら……完全にこじらせちゃってるわね」

 

 霞の物言いに陽炎は思わず肩をすくめた。そこへ不知火が口を挟む。

 

 「霞、口の訊き方には気を付けてください。ここの司令は第7の前司令とは違います」

 「はっ、提督なんてどいつもこいつも一緒でしょ」

 「例えそうだとしても、ここは第8鎮守府です。悪態なら今度着任する司令に好きなだけすればいいのです」

 「……ふん」

 「え、いいのそれ」

 「はい。第8の司令にご迷惑をおかけするわけにはいかないので」

 「うーん、それぐらい心配いらないと思うけどなあ」

 

 あの司令がこの程度のことで迷惑だなどと思うわけがない。霞がどんなに悪態をついたところで、苦笑いして受け流す司令の姿が目に浮かぶからだ。まあ、それを今言ったところでどうしようもないのだが。

 であれば、さっさと司令に会わせて少しでも霞の偏見をなくしてあげた方が、今後のためになるだろう。司令ならたぶんそれができるだろうと、陽炎は考えた。

 

 「ほら、着いたわよ」

 

 提督室前に到着し、四人は足を止めた。

 陽炎は三人を見回し、「ついてきて」と声をかけると、ノックもせずに部屋の中に入って行った。これには三人も少なからず、ぎょっとした表情を見せた。なぜなら、第7では提督室に入る際にはノックは当たり前、忘れようものなら処罰の対象となっていたからだ。

 しかし、当の本人はまるで気にする様子もなく、

 

 「連れてきたわよー」

 

 などと呑気な声を発している。

 その声を聞いて、部屋にいた男性が椅子から立ち上がった。

 

 「ありがとうございます」

 「司令、この娘たちが十八駆の仲間よ。どう? 可愛い娘ばかりでしょ?」

 「まあ……そうすね」

 

 陽炎の台詞に困ったような表情を浮かべ、苦笑する男性──ではなく提督。

 ぎょっとしていた気持ちを切り替え、提督を見た三人の反応はまちまちであったが、

 

 (なるほど……前の司令とは大違いのようですね)

 (何こいつ……本当にこいつがここの提督なの??)

 (怖くなさそう……かも……)

 

 とりあえず、提督が懸念していた第一印象は悪くはなさそうである。

 もっとも、このことを提督は知る由もないが。

 

 




提督(馬子にも衣装ってそういう意味か。その通りすぎるな)

※ググりました。

叢雲「襟、変なことになってるわよ」
提督「え、まじすか。やば……」
青葉「さすが叢雲さん、よく見てますねぇ~」
叢雲「変な格好されたら、私まで馬鹿にされかねないでしょ」
青葉「ほぅ……まあ、そういうことにしておきましょう」
叢雲「……あまりくだらない詮索してると、ろくな目に遭わないわよ」
青葉「ひっ……! 司令官、叢雲さんがいじめてきます!」
提督「へ? なんのことすか?」

※何も聞いてません。
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