提督に転職したら想像以上にブラックだった件   作:Sh1Gr3

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第十八駆逐隊の鎮守府訪問②

 陽炎さんに先導されて三人は横一列に並び、俺と向き合う状態となった。

 

 「司令、紹介するわ。この娘が妹の不知火、無愛想な娘だけど自慢の妹よ」

 「不知火です。陽炎がいつもお世話になっております」

 

 ペコリと頭を下げる不知火さん。その姿を見て俺も慌てて頭を下げる。

 

 「神城です。一応ここの提督やってます」

 

 なんだ、戦艦クラスの眼光なんて言ってたからちょっと身構えてたのに。普通に礼儀正しくて姉想いのいい人だったわ。

 

 「この娘は霰。物静かだけど素直で可愛くてとってもいい娘なの。こっちの目つきの悪い娘が霞、素直じゃないけど思いやりのある優しい娘よ」

 「霰です……その、よろしくお願いします……」

 「……霞よ」

 

 陽炎さんの紹介に続けて、霰さんと霞さんが挨拶してくれた。

 霰さんは声は不知火さんや霞さんと比べると小さく、陽炎さんの紹介の通り大人しそうな人だなという印象。霞さんは事前情報も合わせて、気の強そうな人って印象だ。なんとなく、叢雲さんと似た雰囲気を感じる。ただ、いきなりそっぽを向かれてしまったあたり、俺に対する印象は良くなさそうだ。これには苦笑いを浮かべるしかない。

 ……それにしても、不知火さんはともかく二人とも小さいなあ。見た目だけならランドセルを背負っていても違和感がないんじゃないか、これ。こんな子たちをブラックな環境に置いていたなんて、まじでギルティだわあの人。

 

 「それじゃ、今度はみんなに第8の人たちを紹介するわね」

 

 そう言って、陽炎さんがまず俺へと視線を移す。

 

 「さっきも言ってたけど、この人がこの鎮守府の司令。第7の前司令と比べると仏みたいな人よ」

 「神城です。よろしくお願いします」

 

 仏などという大層な紹介に、俺は苦笑しつつ改めて頭を下げた。

 陽炎さんは続けて、叢雲さんと青葉さんの紹介に移る。

 

 「あっちの秘書艦席に座ってるのが叢雲。怒らせたら怖いから、みんな失礼のないようにね。こっちのソファーに座ってる人が青葉さん、あたしの嚮導艦よ」

 

 叢雲さんは書類片手に「よろしく」と言い、青葉さんも続いて「よろしくお願いしまーす」と挨拶した。

 

 「はい、これで紹介は終わり!」

 

 最後に陽炎さんが締めて挨拶タイムが終了すると、陽炎さんは不知火さんに目を向けた。

 

 「不知火はまだ司令と話があるのよね」

 「はい」

 「二人も一緒?」

 「いえ、二人には待っていてもらおうかと」

 「あらそうなの」

 

 意外そうな陽炎さんの声。

 

 「じゃあ待っている間、鎮守府内でも見学して来たら? 狭いからすぐ終わっちゃうだろうけど」

 「それでしたら、青葉が案内役になりますよ!」

 

 青葉さんがソファーから立ち上がる。

 さすが青葉さん、行動が早い。

 

 「いいですよね、司令官?」

 「あ、はい。お願いします」

 「いえ、結構です。行くわよ霰」

 「うん……」

 「まあまあ、そう言わずに。仲良くしましょうよー」

 

 霞さんが拒否するも気にすることなく、青葉さんは二人と一緒に提督室から出て行った。

 メンタル強いなあ、青葉さん。あんなにきっぱり拒否されてたのに。

 

 「? 陽炎は行かないのですか?」

 「あっちは青葉さんに任せておけば大丈夫」

 

 不知火さんの質問に答えると、陽炎さんはソファーに腰を下ろした。

 

 「ほら、不知火も座りなよ」

 「いえ、不知火は立ったままでも大丈夫です」

 「いいからいいから。そんな突っ立ったままじゃ、司令も話し辛いでしょ」

 

 ちらっと陽炎さんがこっちを見てきたので、

 

 「そうっすね。全然座ってもらって大丈夫です」

 

 座ってもらうよう促す。すると横から、

 

 「あんたも座りなさいよ。不知火が座り辛いじゃない」

 

 叢雲さんの的確なツッコミが飛んできた。

 確かに、言われてみればその通りだ。提督が立ってるのに、艦娘である自分が座り辛いのは当たり前か。

 

 「すみません、気付かなくて」

 「い、いえ……お気遣いありがとうございます」

 

 先に着席して、不知火さんが座るのを待つ。

 しかし不知火さんは座ることなく、「その前に」と俺の目を見ながら、

 

 「先日は危ないところを助けていただき、ありがとうございました」

 

 感謝の言葉を述べると、深々と頭を下げた。

 唐突に感謝されて、俺は思わず立ち上がってしまう。

 

 「あ、いや、助けたのは叢雲さんですよ。自分は何もしてないです」

 「そんなことはありません。神城司令の指示で叢雲を出撃させたのであれば、それは助けていただいたのと同義です」

 「……」

 

 違う。俺はあの時、何もできなかった。一人でパニックになって、叢雲さんが選択肢を与えてくれても全然決断できなかったんだ。俺は本当に何もしてない。叢雲さんがいなければ、全部──。

 

 「いいから素直に受け取っときなさいよ」

 

 不意に、横から叢雲さんが口を開いた。

 

 「あんたがどう思おうが、あの時の状況がどうであろうが、不知火はあんたに感謝してるの。その気持ちを無下にするんじゃないわよ」

 「いや、そんなつもりは……」

 「実際、あんたは私を救援に行くよう頼んだ。嘘吐いてるわけじゃないんだから、感謝されても問題ないでしょ」

 

 怒られて……というより、叱られてしまった。思うところはあるが、返す言葉が見つからない。

 情けないなあ、いい歳した大の男が。つくづく自分が嫌になるわ……。

 

 「そうそう。司令がどう思ってても、第7からの要請を受けてくれたことに変わりはないんだから。当然、不知火の気持ちも変わらないわよ」

 「はい、お二人には本当に感謝しています」

 「もちろん、あたしもね!」

 

 感謝か……今の俺には身に余り過ぎるな。どうしても、そこまで感謝されるようなことをしたとは思えないし。

 いつかこの感謝が、すんなり受け入れられる日が来るのだろうか……。

 

 「まあ、無事でよかったです……本当に」

 

 不知火さんの気持ちを無下にしないよう、俺は心の底から思ったことを口にした。

 それを聞いた不知火さんの反応──なにやら面を食らったかのように、目を丸くしていた。まるで俺の発した言葉に驚いているかのような……。

 しかしそれも一瞬で、今度は微笑みながら納得したかのように言った。

 

 「なるほど。陽炎が気に入るわけですね」

 「でしょ? ま、あたしに限った話じゃないと思うけど」

 「ええ。神城司令は前司令とは違い、艦娘を一人の人間として対等に見ている。我々のように、過酷な環境に身を置いていた艦娘にとっては、まさに仏のような方です」

 「そういうこと。さすが不知火、見る目あるわね」

 

 やめてくれ……まじでそんな大層な奴じゃないから、俺。当たり前のことを言っただけで、普通の人ならみんな思うことだから。

 

 「よかったじゃない。高評価で」

 「過大評価すぎですよ……」

 

 叢雲さんまで……ほんと勘弁してくれ。

 ただ第7の前提督が、普通じゃなかっただけの話なんだから。

 

 「ところで神城司令、陽炎はご迷惑をおかけしていないですか?」

 「えっ?」

 

 これまでの話題とはかけ離れた不知火さんからの問いに、思わず訊き返してしまう。

 迷惑、迷惑……全然覚えがないな。

 

 「見ての通り、陽炎は自由奔放な性格です。それが起因して、第7ではよく独房に叩き込まれていたのです」

 「ちょっと、あたし迷惑なんてかけてないわよ!」

 「そうですね……迷惑とかは全くないですよ。むしろ色々と助けられてますので」

 

 毎日の任務も然り、話しやすい性格も然り。心底ありがたいと思ってます。

 

 「そうですか。安心しました」

 「もう、不知火は心配性なんだから」

 「それはこちらの台詞です。あんなに第8がブラックだったらどうしようと、心配していたのは陽炎ではないですか」

 「それはそうだけど……でも見ての通り、いいところだったでしょ」

 「……そのようですね」

 

 ふと、不知火さんの目がこっちを向く。

 

 「神城司令、陽炎は第7に戻れますか?」

 「! それは……」

 「ちょ、不知火? どうしたのよいきなり」

 「陽炎は第十八駆逐隊には欠かせない戦力、早く戻って来てもらわなければ困りますので」

 

 正論すぎる。個人的には陽炎さんが首を縦に振ってくれれば、直ぐに了承するのだが……。

 しかし、陽炎さんは俺の内心とは裏腹に、呆れた様相でため息混じりに言った。

 

 「そんな簡単に戻れたら苦労しないわよ。左遷されたのよ? あたし」

 「わかっています。ただ確認しているだけです」

 

 戻れるかという質問については、もちろんYesである。ただ問題は、陽炎さんにその気がないこと。

 ここで下手なことを言ってしまうと、不知火さんに無意味な期待を抱かせてしまうかもしれないんだよな……。

 

 「そんなに言うなら、不知火がこっちに来ればいいのに」

 「そういうわけにもいきません。不知火がいなくなれば、十八駆は二人になってしまいます」

 「みんなまとめて異動すれば解決じゃない?」

 「それでは第7の戦力が低下します。そんなこと認められるわけがありません」

 「じゃあこの話はおしまい」

 

 ヒートアップしていた二人の会話は、陽炎さんが強制的に終了させた。

 しかし、その後の陽炎さんの一言──。

 

 「悪いけど、あたしはまだ戻れないし戻る気もないの」

 「……そうですか。やはり戻る気などなかったのですね」

 「あっ」

 

 あちゃー……言っちゃったよ。あれだけみんなに口止めしてたのに、自分で言っちゃったよ。

 まあ俺的には、こっちの方が後腐れなくていいと思うけど。

 

 「そ、そうだ! あたし遠征行かなきゃ!」

 

 突然、陽炎さんがソファーから立ち上がった。

 

 「行ってきまーす!」

 

 そのまま足早に、提督室から出て行ってしまった。

 おーい、不知火さんはどうすんだよー……。

 

 

 




その頃の青葉たち──。

霞「ほんと、救いようのないクズ野郎だったわ。消えてくれて万々歳よ」
霰「同感……」
青葉「なるほど……随分と厳しい方だったようですね」
霞「その点、ここの司令官はまだマシね。艦娘を飼い慣らすのが上手いみたいだし」
霰「霞姉さん……その言い方はダメ……」
霞「なによ、事実でしょ」
青葉(うわー、これは素の霞さんより相当やさぐれてますね……)

※こじらせ艦娘。
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