提督に転職したら想像以上にブラックだった件   作:Sh1Gr3

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今回は5000文字を超えてしまったので、いつもより長めです。
会話メインだとどうしても文字数ががが……。

そういえば、ゲームの方はイベントが始まりましたね。
前段で札四枚らしいので、作者はしばらく様子見です……。



第十八駆逐隊の鎮守府訪問⑤

 不知火さんたちが提督室を出て行って、少し経った頃──。

 

 提督室には、ついさっき演習の観戦に行ったはずの霞さんの姿があった。どうやら、俺と叢雲さんに訊きたいことがあり、演習の途中にもかかわらず戻ってきたらしい。

 

 先ほどの不知火さんのこともあり、またかと思ってしまったが、断るわけにもいかないのでソファーに座ってもらった。そして今は、霞さんが話始めるのを待っている状態である。

 いったい何を訊かれるのやら……不知火さんと同じで、やっぱ陽炎さんのことかなあ。

 

 「ねえ、陽炎はいつもどんな訓練をしてるの?」

 「え、訓練ですか……?」

 

 身構えていたところ、予想外の質問が飛んできて思わず訊き返してしまった。

 陽炎さんのことというのはビンゴだったけど、まさか訓練のことを訊かれるとは思ってなかった。これが霞さんの訊きたかったことなのか……?

 俺はマウスを操作して、陽炎さんの訓練報告書を画面に表示する。

 

 「最近やってるのは、青葉さんの攻撃をひたすら回避する訓練ですね」

 「……それだけ?」

 「はい。自分はその認識ですけど……」

 「なんでそんな自信なさげなのよ。あんた提督でしょ?」

 

 痛いところをつっこまれてしまった。とはいえ、これは性格だから仕方ないんだよなぁ……。

 思わず苦笑していたところ、叢雲さんが肩をすくめて言った。

 

 「ごらんの通り、うちの司令官はトーシロでね。訓練のことは全部、青葉に一任してるの。だから詳細が聞きたければ後で青葉に訊いてちょうだい」

 

 はい、着任してまだひと月も経っていない元民間人です。

 叢雲さんの台詞に愛想笑いを浮かべていると、霞さんに呆れた様相でため息を吐かれてしまった。

 ただ、なんだろう……心なしか、さっきより視線に鋭さがなくなった気がする。

 

 「そういえば、あんたまだ着任したばかりなんだってね」

 

 なんだ、知ってたのか。陽炎さんから聞いたのかな?

 

 「しかも、軍の人間じゃなくて民間人だったらしいじゃない。陽炎から聞いたわ、ついさっきね」

 

 全部ばれてーら。まあ隠してるわけじゃないから、別にばれてもいいんだけども。

 

 「どうりで陽炎が気に入るわけね。あんたみたいなトーシロ相手じゃ、わがまま言いたい放題だろうし」

 

 わがままかー……あまり言われた記憶ないけどな。

 そんなことよりも、霞さんの喋り方とか雰囲気が、どことなく叢雲さんに似てる気がしてきた件について。今トーシロって言われたし。

 

 「……なによ」

 「あ、いや、なんでもないっす」

 

 ちらりとほんの一瞬、叢雲さんを見たら目が合ってしまった。目を細めてこっちを見てきたので、俺は直ぐに視線をそらした。

 こえー……なんか心の内まで見透かされてそう。

 

 「それで? その訓練はどれぐらいの頻度でやってるの?」

 

 霞さんの質問。俺は今日までのことを思い返して答える。

 

 「毎日ではないですけど、他の任務とかない日は基本的にやってると思います」

 「へぇ……なに、それはあんたの命令で?」

 「いやいや、自主的にやってくれてるだけですよ」

 

 命令なんて俺にはできない。できるのはせいぜい、お願いすることだけだ。

 しかし、訓練してくれだなんてお願いは一度もしたことはない。お願いするまでもなく、能動的にやってくれるからだ。

 

 まあここには伝説の零艦隊と練度詐欺者という、手本になる艦娘が二人もいるからな。訓練のモチベーションも高いのだろう。

 もっとも、このことはトップシークレットなので霞さんには言えないんだけど。

 

 「ふーん、あいつが自主的にねえ」

 

 俺の言葉に、霞さんが懐疑的な反応を示す。

 

 「隙あらば楽しようとする艦娘が、どういう心境の変化なのかしら」

 

 心境の変化か……叢雲さんと青葉さんていう目標ができたから、とかかな?

 よく叢雲さんみたいに強くなりたいって言ってるし。

 

 「まあいいわ。ただわがまま言って、怠惰に過ごしているわけじゃないってことでしょ?」

 「あ、はい。いつも助けてもらってます」

 

 すると、霞さんの目が叢雲さんへと移った。

 

 「そこの秘書艦も同じ意見?」

 

 その質問に、叢雲さんは湯呑を置いて答える。

 

 「そうね。いつも助かってるわよ」

 「……そう。ここで楽がしたいから、戻らないってわけでもないのね」

 

 霞さんの目が叢雲さんから離れた。

 そうか、霞さんも聞いたのか。陽炎さんが第7に戻るのを拒否したことを。

 

 「もしわがまま言って好き放題してるなら、首根っこ掴んででも連れ戻そうと思ってたんだけど」

 

 あはは……霞さんなら本当にやりかねないな。

 

 「でも、本当によかったの?」

 「? 何がですか?」

 

 質問の意図が分からず疑問符を浮かべていると、またもやため息を吐かれてしまった。

 

 「今度第7に着任する奴が陽炎のこと戻そうとしたんでしょ。それを断って、面倒なことにならないの?」

 

 あれ、これってもしかしてうちのこと心配してくれてるのか……?

 

 「民間人だったあんたには分からないかもしれないけど、軍の人間は面倒なのが多いわよ」

 

 あー、そういえば大淀さんもそんなこと言ってたっけ……。

 

 「前のクズ司令官だったら力づくでも連れ戻したでしょうね。自分の思い通りにならないことがあると、すぐキレ散らかすような奴だったし」

 「まじっすか」

 「そんなものよ、提督なんてのは。今度着任する奴がどんな奴かは知らないけど、せいぜい気を付けることね」

 「……はい」

 

 俺は危うくため息を吐きそうになったが、なんとかこらえた。

 と、そこへ叢雲さんが会話に加わる。

 

 「随分と優しいじゃない。わざわざ忠告してくれるなんて」

 

 その台詞に、霞さんはつまらなそうに「ふん」と鼻を鳴らすと、そっぽを向いてしまった。

 ……これ煽ってるわけじゃないよね?

 

 「よかったわね。これならクズ呼ばわりされないですみそうよ」

 

 叢雲さんがいたずらな笑みを浮かべて俺を見てくる。

 あー、そういう余計なこと言うと──。

 

 「なにそれ。なんの話??」

 

 案の定なんのことか訊かれてしまった。しかもさっきまでと比べて声が低い。顔も明らかに不機嫌そうだ。

 ほらー、余計なこと言うから……。

 

 「霞にクズ呼ばわりされないか不安がってたのよ。いい歳した大の男が、情けないでしょ?」

 「ふーん……そういうこと」

 

 じっとこっちを見てくる霞さん。ちくちくと視線が突き刺さる。対する俺は愛想笑いをすることしかできない。地獄のような時間である。

 そんな俺に呆れ果てたのか、霞さんは深いため息を吐いて言った。

 

 「あのね、私のことどういう風に聞いたかは知らないけど、他鎮の提督に面と向かって言うわけないでしょ」

 「そ、そうなんですか」

 「当たり前じゃないの。あんたしかも民間人あがりの新人でしょ? そんな奴をクズ呼ばわりするほど、私は落ちぶれちゃいないわよ」

 

 おー、優しい!

 これは言葉が強めだから誤解されがちだけど、実際に話してみたら優しいタイプの人だわ。

 

 「ま、あんたが第7の提督だったら分からなかったけどね」

 「えっ」

 「当然でしょ。自分の提督なんだから、新人だろうが容赦しないわよ」

 「……」

 

 訂正します。優しいけど自分の提督には鬼──手厳しいタイプでした。

 ただ、幸いなことにこの手の人には慣れている。前の会社の先輩が、新人には厳しいタイプの人ばかりだったのだ。だから今後、もし霞さんが第8に来ても大丈夫なはず。……たぶん。

 

 「そういえば、まだ礼を言ってなかったわね」

 「? なんの礼ですか?」

 

 訊き返す俺を、霞さんが「それぐらい察しろよ」という面持ちで見てきた。

 いや、流石に察せないだろ……俺は叢雲さんみたいに読心術は使えないんだよ。

 

 「不知火のことよ。助けてくれたのあんたたちなんでしょ」

 「……」

 

 なんかばれてるんだが。トップシークレット案件のはずなのに。

 叢雲さんが無双して不知火さんを救出した件は、一部の人たちしか知らないはずなのだ──不知火さんが口を滑らせていなければ。

 ……もしかして、陽炎さん以外にも言っちゃったのか?

 俺の疑問は、次の霞さんの言葉で解消することができた。

 

 「あのクズが言ってたのよ。第8に救援要請を出したって」

 

 あー……そういうことか。そりゃあ言うよなあ、普通だったら。

 でも、どうせなら最後まで普通じゃないを貫いてほしかったわ。誤魔化すのしんどいし。

 

 「べつに、大したことしてないわよ」

 

 俺が何かを言う前に、横から叢雲さんが口を開いた。

 

 「うちまで引っ張って来て入渠と補給させただけだし」

 「それにしては、私たちとの合流が早すぎると思うんだけど。それに、不知火を追い回してた潜水艦、それなりの数がいたはずよ」

 

 訝し気な視線を向ける霞さん。

 しかし、叢雲さんは動じることなく話を続ける。

 

 「何が言いたいのか知らないけど、ロストした場所はある程度聞いてたし、バケツ使えば修復なんて秒よ秒」

 

 俺は黙って二人の話に耳を傾ける。

 ちなみに、叢雲さんの言う入渠と補給、バケツについては一切聞いていないとだけ言っておこう。

 

 「あの程度の数の潜水艦も、対潜装備が揃ってれば大した脅威じゃない。あんただって分かってるでしょ」

 「……腐っても改二ってわけね」

 「まあね」

 

 ひと通り説明し終えたのか、湯呑の中のお茶を啜る叢雲さん。

 その時、不意に提督室の扉が開いた。真っ先に陽炎さん、その後ろを不知火さん霰さん、最後に青葉さんが入ってくる。

 どうやら演習が終わったらしい。そういえば、砲撃音がいつの間にか聞こえなくなってたな。

 

 「つっかれたぁ……」

 「ちゃんとノックしてください。ここは陽炎の自室ではありませんよ」

 「心の中でノックしたからいいのー。あー、もう無理……」

 

 不知火さんのお咎めも気にすることなく、ソファーに倒れ込む陽炎さん。

 見るからに相当お疲れのご様子。まあ、それだけ演習がハードだったんだろうな。

 

 「しれぇ~、あたし間宮さんのアイス食べたーい」

 

 うつ伏せのまま、陽炎さんが顔だけをこっちに向けてきた。

 いつものことなので半笑いしつつも、普通に了承しようとしていたところ──。

 

 「陽炎……いい加減にしてください」

 「何甘ったれたこと言ってんのよ! だらしないったら!」

 「間宮さんのアイス……霰も食べたい……」

 

 横から不知火さん、霞さん、霰さんの声が陽炎さんに向かって飛んでいった。

 めちゃくちゃ食べたそうな霰さんはともかく、不知火さんと霞さんはお怒りモードだ。特に不知火さんに関しては、ドスの利いた声と鋭い目つきがえぐい。

 それでも、陽炎さんはまったく悪びれる様子もなく、

 

 「べつにいいでしょ、ちゃんと頑張って演習してきたんだから。ねー、司令!」

 

 などと言ってこっちを見てきた。

 正直ここは突っぱねた方が反感を買わずにすみそうなのだが、今の俺にそんなことはできないので諦めるとして……。

 

 「そうだ、できれば三人にも食べさせてあげたいんだけど……いいでしょ?」

 「あ、はい。いいっすよ」

 「やった! さすがあたしの司令!」

 

 俺の返答を聞いて、嬉しそうに起き上がる陽炎さん。

 霰さんもよっぽど食べたかったのか、目を輝かせているように見えた。

 

 ……問題は不知火さんと霞さんの二人。

 

 不知火さんは呆れ顔でため息を零しており、霞さんは俺を見る目が非常に刺々しく感じた。

 真面目な二人には、たぶん俺と陽炎さんのやり取りが納得いかないんだろうな……ちょっと申し訳ない。

 

 「このク──あんたがそうやって甘やかすから、この馬鹿がつけあがるんでしょうが」

 「す、すみません……」

 

 手厳しいなあ、霞さん。叢雲さんに似てると思ってたけど、叢雲さんより厳しいや。

 ていうか霞さん、今絶対クズって言いかけたよな……。

 

 「ちょっと、馬鹿ってなによ。そんな可愛くないこと言っちゃダメでしょ」

 「ばっかじゃないの。そういうのどうでもいいから」

 

 霞さんがそっぽを向く。

 二人の会話に不知火さんが加わった。

 

 「二人とも、いい加減にしてください。神城司令の前です」

 「大丈夫よ。これぐらいのことで怒る司令じゃないから」

 「ふん、今更でしょ」

 

 ディスプレイを見ながら三人の会話を聞いていると、青葉さんが近くまでやって来た。

 

 「さすが司令官ですね。あの霞さんともうこんなに打ち解けるとは」

 「いや、自分は何もしてないですよ。霞さんが普通にいい人だっただけです」

 「それでもですよ。おかげでいい画が撮れました」

 

 満足そうな青葉さんの手には、いつものカメラが握られていた。どうやら、霰さんを含めた四人を撮っていたらしい。

 さすが青葉さん、相変わらず仕事が早い。……やってることは盗撮だけど。

 

 「あとは皆さんが、アイスを食べている様子を撮れれば完璧ですね!」

 

 まだ撮る気なのかこの人……バレたら霞さんにぶち切れられるんじゃないか?

 なんてことを思っていると、不意に青葉さんが耳打ちしてきた。

 

 「青葉もこっそり同行するので、このことはくれぐれも内密にお願いします」

 「うっす……」

 

 なんか巻き込まれた件について。これじゃ完全に共犯じゃん。

 ……まあいいや。触らぬ神に祟りなし、聞かなかったことにしよ。

 

 

 




~第十八駆逐隊、実食中~

陽炎「ん~っ! やっぱり間宮さんのアイスは最高ね!」
不知火「確かに……人気があるのも納得の味です」
霰「幸せ……」
陽炎「でしょ? 満足してもらえたみたいでよかったわ」
霞(美味しい……油断してると頬が緩みそうだわ)
陽炎「霞もどう? 美味しい?」
霞「っ……ま、まあまあね」
陽炎「もう、素直じゃないんだから。そこは素直に美味しいって言いなさいよ」

青葉(いやぁ~、やっぱり撮り放題って最高ですね~)

※普通に盗撮です。
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