提督に転職したら想像以上にブラックだった件 作:Sh1Gr3
会話メインだとどうしても文字数ががが……。
そういえば、ゲームの方はイベントが始まりましたね。
前段で札四枚らしいので、作者はしばらく様子見です……。
不知火さんたちが提督室を出て行って、少し経った頃──。
提督室には、ついさっき演習の観戦に行ったはずの霞さんの姿があった。どうやら、俺と叢雲さんに訊きたいことがあり、演習の途中にもかかわらず戻ってきたらしい。
先ほどの不知火さんのこともあり、またかと思ってしまったが、断るわけにもいかないのでソファーに座ってもらった。そして今は、霞さんが話始めるのを待っている状態である。
いったい何を訊かれるのやら……不知火さんと同じで、やっぱ陽炎さんのことかなあ。
「ねえ、陽炎はいつもどんな訓練をしてるの?」
「え、訓練ですか……?」
身構えていたところ、予想外の質問が飛んできて思わず訊き返してしまった。
陽炎さんのことというのはビンゴだったけど、まさか訓練のことを訊かれるとは思ってなかった。これが霞さんの訊きたかったことなのか……?
俺はマウスを操作して、陽炎さんの訓練報告書を画面に表示する。
「最近やってるのは、青葉さんの攻撃をひたすら回避する訓練ですね」
「……それだけ?」
「はい。自分はその認識ですけど……」
「なんでそんな自信なさげなのよ。あんた提督でしょ?」
痛いところをつっこまれてしまった。とはいえ、これは性格だから仕方ないんだよなぁ……。
思わず苦笑していたところ、叢雲さんが肩をすくめて言った。
「ごらんの通り、うちの司令官はトーシロでね。訓練のことは全部、青葉に一任してるの。だから詳細が聞きたければ後で青葉に訊いてちょうだい」
はい、着任してまだひと月も経っていない元民間人です。
叢雲さんの台詞に愛想笑いを浮かべていると、霞さんに呆れた様相でため息を吐かれてしまった。
ただ、なんだろう……心なしか、さっきより視線に鋭さがなくなった気がする。
「そういえば、あんたまだ着任したばかりなんだってね」
なんだ、知ってたのか。陽炎さんから聞いたのかな?
「しかも、軍の人間じゃなくて民間人だったらしいじゃない。陽炎から聞いたわ、ついさっきね」
全部ばれてーら。まあ隠してるわけじゃないから、別にばれてもいいんだけども。
「どうりで陽炎が気に入るわけね。あんたみたいなトーシロ相手じゃ、わがまま言いたい放題だろうし」
わがままかー……あまり言われた記憶ないけどな。
そんなことよりも、霞さんの喋り方とか雰囲気が、どことなく叢雲さんに似てる気がしてきた件について。今トーシロって言われたし。
「……なによ」
「あ、いや、なんでもないっす」
ちらりとほんの一瞬、叢雲さんを見たら目が合ってしまった。目を細めてこっちを見てきたので、俺は直ぐに視線をそらした。
こえー……なんか心の内まで見透かされてそう。
「それで? その訓練はどれぐらいの頻度でやってるの?」
霞さんの質問。俺は今日までのことを思い返して答える。
「毎日ではないですけど、他の任務とかない日は基本的にやってると思います」
「へぇ……なに、それはあんたの命令で?」
「いやいや、自主的にやってくれてるだけですよ」
命令なんて俺にはできない。できるのはせいぜい、お願いすることだけだ。
しかし、訓練してくれだなんてお願いは一度もしたことはない。お願いするまでもなく、能動的にやってくれるからだ。
まあここには伝説の零艦隊と練度詐欺者という、手本になる艦娘が二人もいるからな。訓練のモチベーションも高いのだろう。
もっとも、このことはトップシークレットなので霞さんには言えないんだけど。
「ふーん、あいつが自主的にねえ」
俺の言葉に、霞さんが懐疑的な反応を示す。
「隙あらば楽しようとする艦娘が、どういう心境の変化なのかしら」
心境の変化か……叢雲さんと青葉さんていう目標ができたから、とかかな?
よく叢雲さんみたいに強くなりたいって言ってるし。
「まあいいわ。ただわがまま言って、怠惰に過ごしているわけじゃないってことでしょ?」
「あ、はい。いつも助けてもらってます」
すると、霞さんの目が叢雲さんへと移った。
「そこの秘書艦も同じ意見?」
その質問に、叢雲さんは湯呑を置いて答える。
「そうね。いつも助かってるわよ」
「……そう。ここで楽がしたいから、戻らないってわけでもないのね」
霞さんの目が叢雲さんから離れた。
そうか、霞さんも聞いたのか。陽炎さんが第7に戻るのを拒否したことを。
「もしわがまま言って好き放題してるなら、首根っこ掴んででも連れ戻そうと思ってたんだけど」
あはは……霞さんなら本当にやりかねないな。
「でも、本当によかったの?」
「? 何がですか?」
質問の意図が分からず疑問符を浮かべていると、またもやため息を吐かれてしまった。
「今度第7に着任する奴が陽炎のこと戻そうとしたんでしょ。それを断って、面倒なことにならないの?」
あれ、これってもしかしてうちのこと心配してくれてるのか……?
「民間人だったあんたには分からないかもしれないけど、軍の人間は面倒なのが多いわよ」
あー、そういえば大淀さんもそんなこと言ってたっけ……。
「前のクズ司令官だったら力づくでも連れ戻したでしょうね。自分の思い通りにならないことがあると、すぐキレ散らかすような奴だったし」
「まじっすか」
「そんなものよ、提督なんてのは。今度着任する奴がどんな奴かは知らないけど、せいぜい気を付けることね」
「……はい」
俺は危うくため息を吐きそうになったが、なんとかこらえた。
と、そこへ叢雲さんが会話に加わる。
「随分と優しいじゃない。わざわざ忠告してくれるなんて」
その台詞に、霞さんはつまらなそうに「ふん」と鼻を鳴らすと、そっぽを向いてしまった。
……これ煽ってるわけじゃないよね?
「よかったわね。これならクズ呼ばわりされないですみそうよ」
叢雲さんがいたずらな笑みを浮かべて俺を見てくる。
あー、そういう余計なこと言うと──。
「なにそれ。なんの話??」
案の定なんのことか訊かれてしまった。しかもさっきまでと比べて声が低い。顔も明らかに不機嫌そうだ。
ほらー、余計なこと言うから……。
「霞にクズ呼ばわりされないか不安がってたのよ。いい歳した大の男が、情けないでしょ?」
「ふーん……そういうこと」
じっとこっちを見てくる霞さん。ちくちくと視線が突き刺さる。対する俺は愛想笑いをすることしかできない。地獄のような時間である。
そんな俺に呆れ果てたのか、霞さんは深いため息を吐いて言った。
「あのね、私のことどういう風に聞いたかは知らないけど、他鎮の提督に面と向かって言うわけないでしょ」
「そ、そうなんですか」
「当たり前じゃないの。あんたしかも民間人あがりの新人でしょ? そんな奴をクズ呼ばわりするほど、私は落ちぶれちゃいないわよ」
おー、優しい!
これは言葉が強めだから誤解されがちだけど、実際に話してみたら優しいタイプの人だわ。
「ま、あんたが第7の提督だったら分からなかったけどね」
「えっ」
「当然でしょ。自分の提督なんだから、新人だろうが容赦しないわよ」
「……」
訂正します。優しいけど自分の提督には鬼──手厳しいタイプでした。
ただ、幸いなことにこの手の人には慣れている。前の会社の先輩が、新人には厳しいタイプの人ばかりだったのだ。だから今後、もし霞さんが第8に来ても大丈夫なはず。……たぶん。
「そういえば、まだ礼を言ってなかったわね」
「? なんの礼ですか?」
訊き返す俺を、霞さんが「それぐらい察しろよ」という面持ちで見てきた。
いや、流石に察せないだろ……俺は叢雲さんみたいに読心術は使えないんだよ。
「不知火のことよ。助けてくれたのあんたたちなんでしょ」
「……」
なんかばれてるんだが。トップシークレット案件のはずなのに。
叢雲さんが無双して不知火さんを救出した件は、一部の人たちしか知らないはずなのだ──不知火さんが口を滑らせていなければ。
……もしかして、陽炎さん以外にも言っちゃったのか?
俺の疑問は、次の霞さんの言葉で解消することができた。
「あのクズが言ってたのよ。第8に救援要請を出したって」
あー……そういうことか。そりゃあ言うよなあ、普通だったら。
でも、どうせなら最後まで普通じゃないを貫いてほしかったわ。誤魔化すのしんどいし。
「べつに、大したことしてないわよ」
俺が何かを言う前に、横から叢雲さんが口を開いた。
「うちまで引っ張って来て入渠と補給させただけだし」
「それにしては、私たちとの合流が早すぎると思うんだけど。それに、不知火を追い回してた潜水艦、それなりの数がいたはずよ」
訝し気な視線を向ける霞さん。
しかし、叢雲さんは動じることなく話を続ける。
「何が言いたいのか知らないけど、ロストした場所はある程度聞いてたし、バケツ使えば修復なんて秒よ秒」
俺は黙って二人の話に耳を傾ける。
ちなみに、叢雲さんの言う入渠と補給、バケツについては一切聞いていないとだけ言っておこう。
「あの程度の数の潜水艦も、対潜装備が揃ってれば大した脅威じゃない。あんただって分かってるでしょ」
「……腐っても改二ってわけね」
「まあね」
ひと通り説明し終えたのか、湯呑の中のお茶を啜る叢雲さん。
その時、不意に提督室の扉が開いた。真っ先に陽炎さん、その後ろを不知火さん霰さん、最後に青葉さんが入ってくる。
どうやら演習が終わったらしい。そういえば、砲撃音がいつの間にか聞こえなくなってたな。
「つっかれたぁ……」
「ちゃんとノックしてください。ここは陽炎の自室ではありませんよ」
「心の中でノックしたからいいのー。あー、もう無理……」
不知火さんのお咎めも気にすることなく、ソファーに倒れ込む陽炎さん。
見るからに相当お疲れのご様子。まあ、それだけ演習がハードだったんだろうな。
「しれぇ~、あたし間宮さんのアイス食べたーい」
うつ伏せのまま、陽炎さんが顔だけをこっちに向けてきた。
いつものことなので半笑いしつつも、普通に了承しようとしていたところ──。
「陽炎……いい加減にしてください」
「何甘ったれたこと言ってんのよ! だらしないったら!」
「間宮さんのアイス……霰も食べたい……」
横から不知火さん、霞さん、霰さんの声が陽炎さんに向かって飛んでいった。
めちゃくちゃ食べたそうな霰さんはともかく、不知火さんと霞さんはお怒りモードだ。特に不知火さんに関しては、ドスの利いた声と鋭い目つきがえぐい。
それでも、陽炎さんはまったく悪びれる様子もなく、
「べつにいいでしょ、ちゃんと頑張って演習してきたんだから。ねー、司令!」
などと言ってこっちを見てきた。
正直ここは突っぱねた方が反感を買わずにすみそうなのだが、今の俺にそんなことはできないので諦めるとして……。
「そうだ、できれば三人にも食べさせてあげたいんだけど……いいでしょ?」
「あ、はい。いいっすよ」
「やった! さすがあたしの司令!」
俺の返答を聞いて、嬉しそうに起き上がる陽炎さん。
霰さんもよっぽど食べたかったのか、目を輝かせているように見えた。
……問題は不知火さんと霞さんの二人。
不知火さんは呆れ顔でため息を零しており、霞さんは俺を見る目が非常に刺々しく感じた。
真面目な二人には、たぶん俺と陽炎さんのやり取りが納得いかないんだろうな……ちょっと申し訳ない。
「このク──あんたがそうやって甘やかすから、この馬鹿がつけあがるんでしょうが」
「す、すみません……」
手厳しいなあ、霞さん。叢雲さんに似てると思ってたけど、叢雲さんより厳しいや。
ていうか霞さん、今絶対クズって言いかけたよな……。
「ちょっと、馬鹿ってなによ。そんな可愛くないこと言っちゃダメでしょ」
「ばっかじゃないの。そういうのどうでもいいから」
霞さんがそっぽを向く。
二人の会話に不知火さんが加わった。
「二人とも、いい加減にしてください。神城司令の前です」
「大丈夫よ。これぐらいのことで怒る司令じゃないから」
「ふん、今更でしょ」
ディスプレイを見ながら三人の会話を聞いていると、青葉さんが近くまでやって来た。
「さすが司令官ですね。あの霞さんともうこんなに打ち解けるとは」
「いや、自分は何もしてないですよ。霞さんが普通にいい人だっただけです」
「それでもですよ。おかげでいい画が撮れました」
満足そうな青葉さんの手には、いつものカメラが握られていた。どうやら、霰さんを含めた四人を撮っていたらしい。
さすが青葉さん、相変わらず仕事が早い。……やってることは盗撮だけど。
「あとは皆さんが、アイスを食べている様子を撮れれば完璧ですね!」
まだ撮る気なのかこの人……バレたら霞さんにぶち切れられるんじゃないか?
なんてことを思っていると、不意に青葉さんが耳打ちしてきた。
「青葉もこっそり同行するので、このことはくれぐれも内密にお願いします」
「うっす……」
なんか巻き込まれた件について。これじゃ完全に共犯じゃん。
……まあいいや。触らぬ神に祟りなし、聞かなかったことにしよ。
~第十八駆逐隊、実食中~
陽炎「ん~っ! やっぱり間宮さんのアイスは最高ね!」
不知火「確かに……人気があるのも納得の味です」
霰「幸せ……」
陽炎「でしょ? 満足してもらえたみたいでよかったわ」
霞(美味しい……油断してると頬が緩みそうだわ)
陽炎「霞もどう? 美味しい?」
霞「っ……ま、まあまあね」
陽炎「もう、素直じゃないんだから。そこは素直に美味しいって言いなさいよ」
青葉(いやぁ~、やっぱり撮り放題って最高ですね~)
※普通に盗撮です。