提督に転職したら想像以上にブラックだった件 作:Sh1Gr3
イベント中は創作意欲が増すのありがたい。
ちなみに、イベントはギミックに嫌気がさして前段終わってません。
どんだけギミックあるんだよ……(愚痴)
お昼休み。
陽炎たち第十八駆逐隊は、揃って食堂で昼食を摂っていた。
「そういえば、みんないつ帰るんだっけ?」
ふと、カレーを頬張りながら陽炎が質問する。
その質問に、陽炎の隣に座る不知火が、カレーを食べる手を止めた。
「陽炎はこの後、遠征の予定でしたよね」
「うん。でもすぐ終わるわよ。いつものなんちゃって船団護衛だし」
なんちゃって船団護衛──普段聞き慣れない単語の登場に、向かいに座る霞が眉をひそめる。
「なにそのふざけた遠征」
「ん? なんちゃって船団護衛のこと?」
「他になにがあるのよ。ていうか、一人で遠征ってのも意味分からないんだけど」
同意するように霞の隣に座る霰も、口の中のカレーをもぐもぐさせながら頷いている。
陽炎は「あー」と思い出したかのように言った。
「二人にはまだ言ってなかったっけ。船団護衛といっても、便宜上そう言ってるだけだから」
「? どういう意味?」
「深海棲艦の出ない航路しか通らないのよ。だから本当は護衛なんて必要ないんだけど、護衛が一人もいないと苦情がきちゃうんだってさ」
以前、叢雲が説明してくれたことを思い返しながら、陽炎は喋っていた。
それを聞いた霞は、くだらないと言わんばかりに鼻で笑って一言。
「要は雑用ってわけね」
「そういうこと」
会話を終えて、カレーを食べるのを再開する二人。
二人の会話がひと段落したのを見計らって、不知火が話を戻した。
「それで、不知火たちがいつ帰るかの話ですが」
「あっ、そうそう。いつ?」
「陽炎が遠征に出るタイミングで帰ろうと思います」
「え、夜までいないの? あたしすぐ戻ってくるよ? 今日の遠征、一回だけだし」
不知火は首を横に振る。
「あまり長居してはご迷惑でしょうから。それに、ここに来た目的は果たせたので。もう充分です」
「そっかー……じゃあ、ここで言っとこうかな」
陽炎がスプーンを置く。どこか真面目な面持ちに変わった。
それを見た三人は、咀嚼しながらもそれ以上食べるのを中断。各々、陽炎の言葉を待つ。
一呼吸置いて、陽炎は話し始めた。
「不知火は司令から聞いたかもしれないけど……あたし、しばらく第7に戻る気ないんだ」
三人の反応を確認することなく、そのまま話を続ける。
「今度第7に着任する司令が、あたしを第7に戻そうとしてくれたらしいんだけどさ。でも断っちゃた」
あははと笑う陽炎。しかし、三人は何も言わない。
というのも、三人ともそのことは既に知っている。なので特に言うことがないというのが、正直なところだった。三人が知りたいのはその次、この流れでいけば語られるであろうその理由だ。
そしてそれは案の定、次の陽炎の台詞で明らかとなった。
「理由は色々あるんだけど、一番はここにいれば強くなれるから。もう二度とあんな思いをしないで済むように、強くなりたいの。だから……」
陽炎は拝むように手を合わせた。
「内緒にしててごめん! でも、絶対に強くなってみせるから! みんなを守れるぐらい強くなるから!」
必死な様子の陽炎を見て、思わず顔を見合わせる三人。各々思うところはあれど、とりあえず共通して思ったことがあった。
それは──。
「陽炎らしいですね」
「うん、陽炎らしい……ね、霞姉さん?」
霰の問いかけに、霞は「ふん」と鼻を鳴らして腕を組む。
「調子のいいこと言っちゃって。一番はここにいればやりたい放題できるからじゃないの?」
「あはは、それもあるわね。でも、強くなってるのは本当だから」
そう言って、陽炎は不知火と霰を交互に見る。
「ね、二人とも」
「ええ」
「強くなってた……」
短い返答ながらも、確信を持って首肯する二人。
陽炎はドヤ顔混じりに視線を霞に戻した。
「ほら、二人がこう言ってるんだから。ここにいれば強くなれるのは本当よ」
「へー、じゃあさっきの演習勝てたの?」
「うっ、それは……」
途端にばつが悪そうな顔をする陽炎。その隙を霞は見逃さない。
「負けたんだ。ま、駆逐艦が重巡に勝てるわけないものね」
「いや、負けたのは否定しないけど……でもあれは、青葉さんが普通じゃないだけだから。ノーカンよノーカン」
「なによそれ。負けは負けでしょ」
陽炎の言い訳は、バッサリと一刀両断されてしまった。
口をへの字に曲げる陽炎を横目に、霰と不知火が会話に加わる。
「負けは負け……でも、青葉さんが普通じゃなかったのは本当……」
「そうですね。途中までは互角のようにも見えましたが、あれは力をセーブしていたのでしょう」
不知火はちらりと陽炎を見やる。
「練度だけで言えば、間違いなく甲を超えています。そんな方と一時でも互角に戦えていたのですから、負けたとはいえ及第点と言えるかと」
「霰もそう思う……」
「ふーん、それなりに頑張ったってわけね。負けたけど」
「あんたたち、なんでそんな上から目線なのよ……」
不知火と霞の物言いに、呆れ顔でつっこむ陽炎。
彼女はため息を吐いてから、再び話し始めた。
「とまあ、そういうわけだから。あたしがいない間、そっちのことよろしくね」
「はい。こちらはこちらで、陽炎が戻って来た時に後れを取らないよう、しっかり訓練しておきます」
「うん……霰も頑張る……」
「ふん、そんなの言われるまでもないっての」
話を締めるように喋る陽炎に、三人がそれぞれ言葉を返す。
三人の反応と言葉を聞いて、陽炎はうまい具合に話を締めれたと胸をなでおろした。
と、そこへ──。
「ていうか、あんた本当はずっとここにいたいんじゃないの?」
霞から火の玉ストレートの質問が飛んでいった。
予想外の質問に、陽炎は思わず目を丸くしてしまう。
「そ、そんなことないわよ。その時になったらちゃんと戻るって」
「へー、意外。あんたにとってここは楽園みたいな場所でしょうに」
「……」
言葉に詰まる陽炎。彼女は目線を下にして喋り出した。
「そりゃあ、ここはいいところだよ。司令はいい人だし、叢雲も青葉さんもあたしより強くて……いつか二人みたいに強くなりたくて訓練も頑張ってる。みんなと離れるのは寂しかったけど、ここに来てよかったと思ってるよ」
紛れもない本心だった。第7鎮守府にいた頃はしんどいことの方が多かったが、第8鎮守府に来てからは毎日を楽しく過ごせている。やることは雑用ばかりとはいえ、できることなら他の鎮守府に異動したくはない。
陽炎は顔を上げて。
「でも、あたしは第十八駆逐隊だから。みんなと一緒に戦いたいの」
その目には力強い意志が宿っていた。
「だから戻るよ。絶対に」
沈黙が訪れる。ただ、不知火と霰は小さく微笑んでおり、霞もそっぽを向きながらも、満更でもなさげな様子であった。
すると、言いたいことを言い終えたのか、陽炎は真剣な雰囲気を崩して言った。
「まあ、みんなが第8に異動してくれれば一番いいんだけどねえ。真面目なみんなは願い下げだろうけど」
その台詞を、不知火と霰がすぐに否定した。
「いえ、不知火も陽炎と同じ気持ちです。この鎮守府はとても良い場所だと思いました」
「霰も同じ……」
「えっ、意外。霰はいい子だからともかく、不知火には合わないと思ってた」
驚く陽炎に不知火が言う。
「それを言うなら霞の方でしょう。そもそも、不知火は助けていただいた恩があります。たとえこの鎮守府に異動するよう命令されても、快く受け入れるつもりです」
「おー、じゃあ霞以外は大丈夫そうね」
陽炎の視線が霞へと移る。霞は聞く耳持たずと言った感じでそっぽを向いていた。
そんな彼女に陽炎は話しかけた。
「そういえば、演習ほったらかして司令と何話してたの?」
「べつに。あんたには関係ないでしょ」
お茶を啜りながら答える霞。まるで会話を続ける気がない様子だ。
しかし、陽炎は構うことなく続ける。
「うちの司令、いい人だったでしょ」
「……さあね。他鎮の提督がどうだろうと興味ないし」
「へー、その割には随分と打ち解けてたみたいだけど??」
「は? 意味分かんない。なにを根拠に……」
霞の語気が弱まる。対する陽炎の追撃は止まらない。
「間宮アイスだって、最初はいらないって言ってたじゃない。でも断る素振りとか嫌そうな顔もしてなかったし。餌付けされるなんてまっぴら御免なんじゃなかったっけ?」
「っ、それは……」
「あー、いいのいいの。あたしは司令と霞が仲良くなってくれれば、それで満足だから」
台詞の通り、満足気に喋る陽炎。
この勝負、傍から見ても陽炎の勝ちであった。
「でもよかったー。司令、霞にクズ呼ばわりされるんじゃないかって心配してたのよねえ」
呑気に笑って喋る陽炎を、霞は不機嫌そうに舌打ちして睨みつける。
「余計なこと言ってんじゃないわよ。そうやって人の印象悪くして楽しいわけ?」
「だって、一応言っとかないとさ。いきなり言われたんじゃ司令がかわいそうでしょ?」
「ふん、くっだらない。だいたい、そんなたまじゃないでしょあれ」
腕組みしてそっぽを向く霞。そこへ横から声がかかる。
「日頃の行いですね。自業自得です」
「霞姉さん、素直じゃないから……」
「う、うるさいわね。結局言ってないんだからノーカンよノーカン!」
不知火と霰の言葉に霞が声を荒らげた。陽炎は意外そうに笑って言う。
「あれ、言わなかったんだ。ちゃんと我慢できたのね」
「言うわけないでしょ、あんなトーシロ相手に。私はそこまで落ちぶれてないから」
「ひゅ~。やっぱ霞は優しいわねえ」
茶化すような口ぶりに霞は鋭い視線を飛ばすも、構わずお喋りが続く。
「もし新しい司令が嫌な奴だったら、霞もこっちに来なさいよ。いつでも歓迎するから」
「……」
霞からの返答は得られない。陽炎も特に霞の返答を待つことなく、コップの中のお茶を飲みほした。
そして、三人のお皿がからっぽになっているのを確認してから、彼女は言った。
「さてと、そろそろ行きますか」
それを合図に四人が立ち上がる。気付けばお昼も終わろうとしていた。
各々トレーを返却しに行く中、最後尾にいた霞がぼそりと呟いた。
「まあ、それもありかもね……」
そう呟く彼女の顔には、うっすらと笑みが浮かんでいた。
午後。お昼休みが終わって業務再開の時間。
とは言いつつも特に仕事を再開するわけではなく、俺は提督室に戻って来た不知火さん、霞さん、霰さんと机を挟んで向き合っていた。
なんでも、もう帰るようで最後に挨拶に来てくれたらしい。てっきり、もう少し遅くまでいるものだと思ってたんだけどな。ちゃんと陽炎さんと話せたのだろうか?
もちろん、彼女たちにも予定があるだろうし、引き留めるようなことをするつもりはないんだけど……そこだけ気がかりではある。
「今日はお忙しい中、色々とありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。何ももてなしとかできなくて、申し訳ないです」
すると、不知火さんは首を横に振って言った。
「そんなことはありません。間宮アイスもご馳走になりましたし、なにより不知火の落ち度を気付かせてもらいました。本当に感謝しています」
うーん、まじで大したことしてないんだけどな……そんな改まって言われると、なんかこそばゆくなってしまう。
「司令官、アイスご馳走様……美味しかった」
そう言ってくれたのは霰さん。不知火さんと違って改まる様子もなさそうだ。これぐらい砕けて接してくれた方が、俺としてはありがたい。
最初見た時は、不知火さん以上にポーカーフェイスがすごいなと思ったけど……間宮アイスってやっぱすごいわ。
「困ったら霰を呼んで……すぐに異動してくるから……」
「えっ」
あまりにも予想外の台詞に、つい間抜けな反応をしてしまう俺。三人の傍に立つ陽炎さんが、「よかったわね司令」などと笑って言ってくる。
まじか。そんなにアイスが美味かったのか……?
「あまり甘やかすんじゃないわよ」
これは霞さんの台詞。腕を組んで横目でこっちを見ていた。
「そうやって甘い顔してれば、艦娘がなんでも言うこと聞くと思ったら大間違いだからね。覚えときなさい」
「あ、はい……すみません」
やっぱり霞さんは手厳しい。でも、言ってることは普通のことなんだよなあ。
そしてそれは、秘書艦席の叢雲さんにも飛び火した。
「あんたも、秘書艦なら新人の教育ぐらいしっかりしなさいよね。こんなんじゃ艦娘になめられるわよ」
「善処しまーす」
まるでやる気のなさそうな叢雲さんの返答。途端に聞こえてくる霞さんのため息。
叢雲さんの傍らに立つ青葉さんが、困ったような笑みを浮かべている。なにか思うところでもあるのだろうか……まあ、あるんだろうな。俺は知らんけど。
「それでは、不知火たちはこれで。失礼します」
ぺこりと頭を下げる不知火さん。俺も「お疲れ様です」とだけ言って頭を下げた。
退出しようとする三人。陽炎さんもそれについて行こうと歩き出す。
「あたし見送ってくる。そのまま遠征も行ってくるから」
「あ、陽炎さん。ちょっといいすか」
「? なに?」
振り向くと同時に首を傾げる陽炎さん。
俺は机の上に置いてあった三枚の紙を、陽炎さんに手渡す。
「これ、渡してもらってもいいすか」
「! りょーかい。任せて」
そう言って、陽炎さんは快く受け取ってくれた。
扉が閉まる。心なしか、みんなが出て行った後の提督室は、いつもより広い気がした。
陽炎「みんな、これ。司令からのお土産」
三人「「「!!!」」」
陽炎「受け取らないなら、あたしがこっそりもらっとくけど」
霰「ありがとう……司令官にもお礼言っておいて……」
霞「はぁ……まったく、甘やかすなって言ったばかりなのに。人の話聞いてないんじゃないの?」
不知火「本当に何から何まで……神城司令には、感謝してもしきれませんね」
陽炎「ま、そういう人だから」
※そういう人=ただただ普通の人です。