提督に転職したら想像以上にブラックだった件 作:Sh1Gr3
今回はタイトルの通り、第十八駆逐隊の鎮守府訪問──その振り返りになります。
また少し長めですが、よろしくお願いいたします。
不知火さんたちが帰ったあと、その日の業務終わり──。
「ふぅ……なんとか丸く収まってくれたわね」
ソファーに深く座って、天井を見上げる陽炎さんの台詞。
彼女の言葉を皮切りに、提督室では第十八駆逐隊の鎮守府訪問──その振り返りが行われようとしていた。
「あたしが第7に戻る気がないこと、不知火にバレちゃった時はどうしようかと思ったけど」
そう言って、陽炎さんが顔をこっちに向けてくる。
俺はその時のことを思い返して、乾いた笑みを浮かべて言った。
「ほんとですよ。しかも不知火さん置いて逃げちゃうし」
「ごめんごめん。あの時は身体が勝手に動いちゃって」
てへっと笑う陽炎さんを見て、危うくため息が出そうになった。
まあ逃げたくなる気持ちもわかるので、これ以上はなにも言わないでおこう。
「あれ、結局バレちゃったんですか?」
自前のカメラを弄りながら、青葉さんが会話に加わってきた。
「それが、うっかり口を滑らせちゃいまして」
「あらら……ではこれで、陽炎さんともお別れですかね」
「いや、お別れしませんよ??」
「あはは、冗談ですよ~」
本気トーンでつっこむ陽炎さんを、にこにこ顔でさらっと受け流す青葉さん。
からかわれた陽炎さんは、不満気に頬を膨らませるも、一呼吸置いてまた話し始めた。
「みんなにはちゃんと話しましたから。第7に戻そうとしてくれたのを断ったことと、当分戻る気がないことも全部」
「へぇー、あんなに箝口令を敷いていたのに、だんまり作戦はやめたんですね」
「あたしだって言うつもりはなかったですよ。でも不知火にバレちゃったし、言っとかないとあとが怖いじゃないですか」
「確かに。皆さん怒ると怖そうですからねえ」
わかるー。霞さんは言わずもがな、それ以上に不知火さんと霰さんは怒るとやばそうな印象だ。
物静かな人がキレるとまじで怖いからな……現に戦艦クラスの眼光をくらった時、心臓がきゅっとなったし。
「それで、皆さんはなんと?」
「特になにも。普通に納得してくれましたよ」
「おお、よかったじゃないですか」
「はい。これで気兼ねなーく、ここにいられます」
ひと通り喋り終えて満足したのか、陽炎さんはごろんとソファーに寝転んだ。
そのまま二人の会話は続く。
「それにしても、皆さんよく納得してくれましたね」
「あの演習のおかげですよ。みんなあたしが強くなったって、びっくりしてましたし」
「おー、やっぱ青葉の言った通り、対抗演習で正解でしたね!」
「……そうですね。まあ、勝たせてくれてたらもっとよかったんですけど」
唐突に演習の話題が聞こえてきて、俺はディスプレイから二人の方に目をやった。
なんか陽炎さんがムスッと顔になってるけど、また訓練用のペイント弾、顔面にくらったのかな?
「まあまあ。ちゃんと目的は果たせたんですから、それに比べたら勝ち負けなんて些細なことですよ!」
「どの口が言ってるんですか……ていうか、みんなあたしより青葉さんにびっくりしてましたよ」
「おや、それはそれは。照れますねえ」
呑気に笑う青葉さんに呆れたのか、陽炎さんは深いため息を零した。
二人の会話が途切れたタイミングで、俺は訊いた。
「そういえば、なんで急に演習することになったんすか?」
というのも、今日は二人とも第十八駆逐隊の訪問日ということで、午前休みだったのだ。
なので休みを返上してまで、演習をした理由がなんとなく気になっていた。
「あたしだってする気はなかったのよ」
と陽炎さん。まだ少しムスッと顔のままだ。
「でも、あんなに好き放題言われちゃったらね。しないわけにもいかないでしょ」
「はあ……」
なんか俺の知らないところで、ひと悶着あったようです。
たぶん、霞さんかな……。
「この鎮守府はぬるま湯だとか、ここにいたら艦娘として終わりだとか、もう散々でしたよね~」
「本当はとっても可愛くて仲間想いで、優しい娘なんだけどなあ。口は悪いけど」
青葉さんの話と陽炎さんの反応から、俺は霞さんだと確信した。
とはいえ──。
「自分が話した時は、普通に優しかったすけどね」
陽炎さんのこと気にかけてたし、なんならうちのことまで心配してくれたんだよなあ。
もう俺の中で霞さんは、厳しいけど実は優しい先輩ということで、脳内インプットされている。
「それはおそらく、司令官が元民間人の新人と知らなかったからかと」
「あー……」
言われてみれば、叢雲さんが俺をトーシロって言ってからだったな。霞さんの雰囲気が柔くなったのは。
「だから丸くなってたのね。ここに来た時は、間宮アイスもいらないって言うぐらいやさぐれてたのに」
「さすがの霞さんも、つい先日まで民間人だった司令官には、強く出れなかったみたいですね~」
あぶねー、まじで民間人でよかったわ。
俺は心の中でそう思いつつ、青葉さんに質問する。
「民間人の提督って、そんなに珍しいんすか?」
「珍しいんじゃないですかね。少なくとも、横須賀では司令官だけのはずですよ」
そうなのか。あんなに大々的に募集してるぐらいだから、普通だと思ってたんだけどな。
「えー、もったいないなあ。司令みたいな人が増えれば、みんなも楽できるのに」
「中々レアですからねえ、司令官のような方は。ここまで好き放題させてくれる提督は、海軍にはいませんよ」
そりゃあいないでしょうね……規律やら礼儀やら、その他諸々厳しそうだし。
そういう意味では、確かにレアかもな。……ハズレの方のね。
「それに、たとえ着任できたとしても続かない方が多いと聞きます」
「そうなんだ……やっぱみんな、ノイローゼになっちゃうのかしら」
「否定はできませんねー。我々艦娘にはわからない気苦労も、提督ともなれば多いでしょうし」
ちらりと青葉さんが俺を見てくる。それに合わせるように、ゴロゾーを解除した陽炎さんまで。
え、なにこれ。もしかして心配されてる……?
「ねえ、司令は大丈夫よね?」
「な、なにがすか」
「いまの話よ。司令にも気苦労とかあるの?」
「うーん、どうなんすかね……」
直球すぎる陽炎さんの問いかけに、思わず苦笑してしまう俺。やっぱ心配されてたわ。
「司令官は大丈夫そうですけどね。なんだかんだで、この非日常にも適応してそうですし」
「……それならいいんだけど」
陽炎さんとは対照的に、青葉さんからの評価は意外と高い模様。
かくいう俺も、このひと月でよく適応できたなと、しみじみ思う時がある。
「司令、辞めないでね。司令がいないと、みんなをうまく勧誘できないからさ」
「あ、はい」
と相槌は打ったものの、俺はすぐに首を傾げた。
勧誘ってなんだ……?
「おや、もしかして第十八駆逐隊の皆さんですか?」
「はい。新しい司令次第では、可能性はあると思います」
まじかよ。俺の知らないところでそんなことしてたのか。
ていうか、ここに勧誘したらダメでしょ。ここが窓際鎮守府だってこと、忘れてません?
「さすが司令官。たった数時間で、皆さんのハートを鷲掴みですね!」
「いや、全然身に覚えがないんですけど……」
「またまた~。帰り際の皆さんの挨拶を見たら、一目瞭然じゃないですか~」
「……アイスとモナカのおかげですよ。自分はなにもしてないっす」
物で釣った感しかなくて、だいぶ複雑な気分だ。霰さんなんて、絶対そうでしょ。
「まあ、それならそれでいいじゃないですか。いざとなったらアイスとモナカを武器に、こちら側へ引き込みましょうよ!」
「えぇ……」
「青葉も人手が増えてくれた方が、ありがたいですからね。取ざ──訓練の時間も増やせますし」
取材って言いかけてるしこの人……。
そもそも、アイスもモナカもそんなことのために使ったらダメでしょ。賄賂じゃん。
「あたしは司令の人柄に惹かれたからだと思うけどなあ」
と陽炎さん。青葉さんと違って、嬉しいことを言ってくれる。
「みんな──特に不知火と霞は、物に釣られるような娘じゃないし。三人とも、司令がどういう人間なのかちゃんと見たうえで、ああ言ったんだと思う」
「……霰さんもすか?」
「うん。……たぶん」
霰さんだけ自信ないのおもろい。
それにしても、人柄ねぇ……そんな惹かれる要素あったかな。アイスを振舞って、モナカの引換券をお土産に渡した以外、まじでなにもしてないんだけど。
「ちなみに、司令はどう思った?」
「? なにがすか?」
「みんなのことよ。一応聞いとこうかなって」
陽炎さんが真剣な眼差しで、こちらを見つめてくる。
俺は特に考えることなく、思ったことを口にした。
「みんな普通にいい人だったすよ。霰さんとはあまり話せなかったですけど」
霞さんは優しかったし、不知火さんも姉想いの礼儀正しい人だった。霰さんはいい人というより、いい子という印象が強いけど、たぶん間宮アイスに目を輝かせてる姿が、歳相応ならぬ見た目相応だったからだろうな。
「そっか……うん、安心した!」
俺の回答がお気に召したのか、満足気に笑う陽炎さん。そしてまた、ごろんと寝転がった。
そんな彼女を見て、小さく息を吐いていると、
「なるほど。司令官のそういうところが、皆さんにも気に入られたのかもしれませんね~」
青葉さんが納得したかのように言った。
しかし、よくわからない俺は苦笑する他ない。
「謎っすね。べつに普通のことしかしてないんすけど」
「……もしかして司令官って、見かけによらず艦娘たらしですか?」
「え、なんすか急に。やめてくださいよ」
思わず真剣に言ってしまった。だって、艦娘たらしって……流石に人聞きが悪すぎるでしょ。怖いって。
すると今までだんまりだった叢雲さんが、ため息混じりに口を開いた。
「あんたの思う普通が、普通じゃない奴もいるってことよ」
「そ、それはそうでしょうけど……」
「言っとくけど、普通の提督は艦娘を先輩なんて言わないからね。そういう意味では、あんたも異常なのよ」
はい、返す言葉もございません。それについては俺もそう思います。
でもさ、みんなこの業界?では先輩なわけじゃないですか。それをいきなり、民間人だった俺がみんなの上司とか言われても、切り替えられないんだよね……。
「青葉は嫌いじゃないですけどね~。これぐらいの距離感の方が、色々と都合がいいですし」
「あたしもー。偉そうに命令されるより、よっぽどマシ」
ありがてー。まじで人にだけは恵まれてるわ、俺。
「第7の新しい司令も、司令みたいな人だったらいいなあ」
陽炎さんの呟き。青葉さんが真っ先に反応した。
「司令官みたいな方かはともかく、いい人なのは間違いないんじゃないですかね」
「? どんな人なのか知ってるんですか?」
「いえ、詳しくは。ただ、陽炎さんを連れ戻そうとしている時点で、前提督の意に反しているわけじゃないですか。なので、まともな人であることは証明されているかと」
「あー、そうも解釈できるのか。まあ、あたしにとっては余計なお世話だったけど」
ひでぇ……完全にお節介だと思われとる。
「司令はどんな人か知ってる?」
「ああ、知ってますよ。海軍の人で、若い女の人らしいです」
「へー、女の人なんだ」
意外そうな陽炎さん。野郎よりは珍しいのかな?
「あとは、優秀な人とも言ってましたね。確か」
「ふーん……それじゃ、お手並み拝見といこうかしら」
「? なにがすか?」
にやりと笑う陽炎さんに、俺は疑問符を浮かべる。
陽炎さんは続けて言った。
「今の第7は、前司令のせいで提督不信になってる娘が多いの」
「あー……なるほど」
「中には霞並みに口の悪い娘もいるから。色々と大変よ、きっと」
とんだ貧乏くじだな。俺も大概だけど、その人も相当だわ。
それにしても、霞さん並みに口の悪い人か……想像したらちょっと怖くなってきた。
「なにビビってるのよ。情けないわねえ」
「そりゃビビりますよ……」
叢雲さんには悪いけど、怖いものは怖いのだ。
自分のことを豆腐メンタルとまでは思わないけど、俺には第7でやっていける自信はない。
「今度来る奴も飛んだら、次はあんたの番かもしれないわよ」
「……まじすか?」
いやあ、流石に笑えなさすぎる。俺まで飛びかねないんですけど。
しかし、叢雲さんの笑えない話は続く。
「あんた色々と便利だからね。言われた仕事は最低限こなすし、艦娘慣れも早いから。後釜が決まるまで代理もあり得るんじゃない」
「いや、まじで勘弁なんですけど……」
そんなんノイローゼルートまっしぐらやんけ。もしそんな話されても絶対に拒否するわ。
そう心の中で意気込んだはいいものの──。
「あはは、司令なら大丈夫だって。もしそうなっても不知火たちがいるし」
なぜか背中を押してくる陽炎さんと、
「その時はぜひ、青葉もお供させてください!」
なぜかノリノリな青葉さんのせいで、深いため息が零れてしまった。
俺にできることは、ただ一つ。第7の新提督が鋼メンタルであってくれと、そう祈ることだけだった。
第十八駆逐隊の鎮守府訪問、これにて終了です。
次回からまた別の話を予定しております。
ストックしていないので、いつの更新になるかはわかりませんが……気が向いた時にでも、また一読いただけますと幸いです。