提督に転職したら想像以上にブラックだった件 作:Sh1Gr3
前々回ぐらいから、UA数が過去にないぐらい増えていて、正直驚いています。
改めまして、いつも読んでいただいている方々、そしてたくさんの評価・お気に入り・誤字報告ありがとうございます。
今回も少し長めですが、よろしくお願いいたします。
当たり前のことだが、提督にも休日は存在する。
いくら国の存続をかけた超重要な役職とはいえ、提督も人間。休みなくして働くことはできない。かくいう俺も、ちゃんと休みはもらっている。
今日がちょうど、俺にとっての休日だ。
提督の休日は、前職のように土日祝日休みではなく、どちらかというとコンビニなどのサービス業に近い。いわゆるシフト制というやつだ。そのため、平日休みはざらにある。提督という立場上、土日祝日に休めるとは限らないので、休む日は自分で決めるという方針らしい。
ただうちの場合は、俺がいないと困るようなことはゼロに等しいので、基本的には前職と同様、土日祝日休みにさせてもらっている。正直、叢雲さんがいれば俺いらないからね……。
カーテンの隙間から光が差し込む。あれはおそらく、朝ではなく昼に近しい感じだ。
しょぼしょぼする目を必死に開いて、枕元にある携帯で時間を確認する。
すると案の定、ぎりぎり午前中──お昼休み間近であった。
時間の経つ速さにため息を吐いて、携帯を放り投げる。そして仰向けになって二度寝体勢に。
とはいえ、ぼちぼち起きなければならない。このまま二度寝してしまっては、せっかくの休日が秒で終わってしまう。これからゲームしたりアニメを見たりと、忙しい時間が始まるのだ。これ以上、だらけてはいられない。
「はぁ……起きるか」
俺は本日、早くも二度目のため息を零しつつ、重い身体をなんとか起こしてベッドから這い出た。
とりあえず顔を洗って、目を覚ますところから始める。それから簡単に身支度を整えて、朝飯という名の昼飯を調達しに、コンビニへ抜錨する。これが自炊をしない野郎の休日だ。
実家にいた頃は黙ってても飯が出てきたのにな……一人暮らしってのは中々にシビアである。まあこれを言うと、甘ったれるなと喝が飛んできそうなので、人前では決して口にはしないが。
ちなみに、売店と食堂ではなく、わざわざ鎮守府の外に出てコンビニに行く理由は、単純に休日に利用したくないからである。いちいち制服に着替えるのも怠いからね。
寮を出て、まっすぐ正門へと向かう。今日ばかりは、提督室のある庁舎は完全スルーだ。
「──あれ、司令?」
庁舎を通過した辺りで、入口から声をかけられた。その声にぴたっと足が止まる。
声の方向に目をやると、そこには陽炎さんが立っていた。彼女はやや目を丸くして、まるで珍しいものを見たかのような、そんな顔をしている。
まじか……この時間だったら、会わないと思ったんだけどな。
とりあえず、俺はその場で軽く頭を下げた。
「お疲れっす」
「おつかれー。なんか一瞬、誰だかわからなかった」
半笑いを浮かべて、こっちまで歩いてくる陽炎さん。
まあ、私服姿なんて見せたことないからな。無理もないわ。
「どこ行くの? お出かけ?」
「ちょっとそこのコンビニまで」
「え、あたしも行きたい!」
「えっ……」
今度は俺の方が、目を丸くしてしまった。
まじかよ。そんなこと言われるとは、流石に予想外すぎるわ。
「申請してないけど、司令が一緒にいれば大丈夫でしょ?」
申請──外出申請のことである。
艦娘が外出する場合は、必ず申請しなければならない決まりがある。しかし、陽炎さんはそれをしていなかった。
「……まあいっか。後で出してもらえれば」
すこし考えて、そう結論を出した。
コンビニに行くぐらいであれば、後出しでも問題ないだろう。一応、俺もいるし。
「やった! ありがと司令!」
コンビニに行くだけなのに、やたらルンルン気分な陽炎さん。早くも正門に向かって歩き出している。
……本当はこれを断れないといけないんだよなあ。いつになったらできるようになるのやら。
俺は三度目のため息を吐いて、陽炎さんの後を追う。
正門に立つ衛視のおじさん方に頭を下げて、俺と陽炎さんは鎮守府の外に出た。
不意に陽炎さんが、歩きながら言った。
「あたし出撃とか遠征以外で、鎮守府の外に出るの初めてかも」
「え、まじすか」
だからこんなテンション高いのか……べつに申請してくれれば、いくらでも外出してくれていいのにな。
「ああ、あと第7からここに来た時ぐらい? だからコンビニも行ったことないのよねえ」
「休みの日とかなにしてるんすか?」
「うーん、部屋にこもってゴロゴロしてるか、訓練してるかのどっちかね。ここに来てからは、だいたい提督室にいるけど」
あー、確かに休みの日でもいるわ。なんならソファーで寝てる時もあるし。
「外出しなくていいんすか? 申請さえしてもらえれば、全然してもらっていいんですけど」
「べつにいいかなあ。外出したところでやりたいこともないし」
あまり興味なさそうなご様子。
「今日は司令がいたから、なんとなくついて行こうと思っただけ」
「はあ……まあコンビニっすけどね」
「あたしもお昼まだだったから、ちょうどよかったわ。ご飯買いに行くんでしょ?」
「そうっすね」
「あたしのも買って欲しいなあ、なんて」
隣を歩く陽炎さんが、ちらちらとこちらを見てくる。そうきたか……。
「お財布、部屋に置いてきちゃってさ。取りに行くところだったのよ」
「あー……」
「そしたら偶然、司令と鉢合わせたってわけ。今日は運がいいみたい、あたし」
財布の中身を確認しながら、俺は事情を理解した。
運がいいという発言に関しては、些か疑問が残るけども。
「あっ、もちろん後でちゃんと返すからね?」
「あ、はい。いつでも大丈夫す」
べつにコンビニ飯ぐらい、奢ってもいいんだけど……こっちからそれを言うのものな。立場的によろしくない気がする。
「そういえば、青葉さんてまだ戻って来てないんすか?」
「ううん、戻ってたわよ」
あれ、そうなのか。いつも昼は一緒に食べてるのに、珍しいな。
「本当はお財布取りに行って、一緒に食堂に行くつもりだったんだけどね」
「えっ……置いてきちゃってよかったんすか?」
「うん。連絡しといたから」
左様ですか……なんか青葉さんに申し訳ない気もするけど、連絡してるならいいのかな。
「なんか言ってました? 青葉さん」
「次は青葉さんも連れて行ってほしいってさ。じゃないと恨むって」
「えぇ……」
思わず苦笑してしまう俺。
たかがコンビニに、大袈裟すぎない……?
「青葉さんも青葉さんで、司令のこと相当気に入ってるわよねえ」
「……どうなんすかね」
よくわからない。特に青葉さんの場合はマイペースすぎて。
「たぶん、もう第8から異動する気ないんじゃない?」
「いやあ、わからないっすよ。ここが退屈になったら、流石にいなくなるんじゃないすか」
前に自分でそう言ってたしね。……退屈の定義がよくわからないけど。
すると、陽炎さんが首を傾げて訊いてきた。
「ここが退屈になることってあるの?」
「えっ。わかんないっす」
また苦笑してしまった。
そんなこと訊かれても、退屈かどうかなんて自分で判断すべきことだしなぁ……。
「あたしは退屈したことないわよ? おかげさまでね」
「はあ」
「あーあ、あたしもずっといたいなあ。ねえ、どうすればいいと思う?」
「いや、自分に訊かれても……」
三度の苦笑。でも流石にこれは、苦笑不可避だわ。
とりあえず、俺からフォーカスを外すべく言った。
「第7も退屈しないかもしれないすよ。新しい提督いい人っぽいんで」
「えー、でもあたしのこと連れ戻そうとしたんでしょ? しかも、あたしに確認しないで」
陽炎さんの表情が、不機嫌そうなものへと変わる。
そういえばそうだった。いきなりつよつよムーブしてきたんだよな。
「強引すぎよ。司令だったらしないじゃない、そんなこと」
「まあ……しないと思いますけど」
しないというよりできない。ていうか、思いつきもしないだろうな。
「前のあたしだったら、そんなこと気にも留めなかったんだけどなあ。今はもうだめね」
そう言って、陽炎さんがこっちを見てくる。
その表情からは、つい先ほどのムスッとした感じが消えていた。代わりに、小さな笑みが浮かんでいる。
「司令のせいだからね? あたしが変わっちゃったの」
「えぇ……自分なにもしてないすよ」
「なに言ってるのよ。今もしてるでしょ?」
「昼飯買いに行ってるだけですけど……」
「そういうこと。わかってるじゃない」
うーん、複雑すぎる。べつに俺じゃなくても、まともな提督のところにいれば変わっただろうに。……一緒にコンビニに行く提督がいるかは置いといて。
そんな俺の内心とは裏腹に、陽炎さんは満足気に笑って歩いている。「なに食べよっかなあ」という独り言まで聞こえてくる。
……まあいっか。陽炎さんが満足してるならそれで。
そう気持ちを切り替えて、俺もなにを食べようかという問題に、頭を回し始めた。
コンビニでの買い物を終えて、俺は自分の部屋──ではなく、提督室に足を運んでいた。
普通に寮に戻ろうとしたところ、陽炎さんから「司令も一緒に食べましょ!」と誘ってもらったのだ。
ただ、流石にこんな私服姿で行く気にはなれず、最初は断ったものの……断り切れなくて、結局来てしまった。
で、部屋に入ったところ──。
「司令官のいじわる! なんで青葉も連れて行ってくれなかったんですか!」
青葉さんから、開口一番に文句が飛んできた。
正直知らんがなすぎるのだが、それを言うと話が長くなりそうなのでやめた。とりあえず「すみません」と頭を下げつつ、買ったものが入ったビニール袋をテーブルの上に置く。
すると、標的が陽炎さんに移った。
「陽炎さんもですよ! なんで置いて行っちゃうんですか! 青葉も誘ってくださいよ!」
「いやあ、流石に二人ともいなくなるのはマズいかなって。外出申請もしてないですし」
「そ、それはそうですけど……」
「ほら、司令が色々と買ってくれましたから。これで機嫌直してください」
陽炎さんと青葉さんの目が、テーブルの上の袋に移る。
色々と買い込んでしまったので、袋がパンパンだ。俺と陽炎さんの昼飯以外にも、叢雲さんと青葉さんへの差し入れも含まれているためである。
おかげで会計は、それなりの金額となってしまった。コンビニ、恐るべし……。
「……仕方ないですね。これと司令官の私服姿を数枚いただくということで、今回は手を打ちましょう」
「だって。よかったわね、司令」
「いや全然よくないですけど」
陽炎さんの呑気な台詞に、真顔でつっこむ俺。
俺はため息を零しつつ、この騒ぎにも知らぬ存ぜぬな、秘書艦席の叢雲さんに声をかけた。
「なんか色々買ってきちゃったんで。適当に食べてください」
すると、叢雲さんは眼前のディスプレイから、こちらを見て、
「私の分まで買ってきたの?」
明らかに呆れた様相で訊いてきた。しかし、これには頷くしかない。
「……ありがと。適当にいただくわ」
それだけ言って、叢雲さんはディスプレイに視線を戻した。
あれ、呆れてたからなんか言われるかと思ったのに。意外とあっさりだったな。
俺はビニール袋の中から、自分の昼飯を出してテーブルの上に並べた。そしてソファーに腰を下ろす。
向かいの陽炎さんは、自分で選んだものを食べ始めていた。
「コンビニのご飯も意外といけるわね」
「それはよかったっす」
俺も買ってきた弁当を開けて、口の中へ放り込む。
同様に青葉さんも、差し入れのプリンを「美味しいですね~」と満足気に食べていた。
ふと、陽炎さんが箸を止める。そしてこっちを見て言った。
「ありがとね、あたしのわがまま聞いてくれて。外出も意外と悪くなかったわ」
「べつにいいっすよ、これぐらい」
コンビニに一緒に行く程度のこと、なんでもない。
こちらとしては、いつも助けてもらっているのだ。むしろ、もっとわがままを言っても、罰は当たらないだろう。……俺がそのわがままを聞いてあげられるかどうかは、別としてね。
そんな俺の返答に、陽炎さんはくすっと小さく笑うと、食べるのを再開した。
その後も昼飯を食べながら談笑しつつ、昼休み終了のチャイムが鳴るまで、俺は提督室で過ごした。
そして昼休みが終わったタイミングで、青葉さんの魔の手をかわして帰寮。残りの時間は、いつもの休日を満喫した。
それにしても、今日はだいぶイレギュラーだったな……。
いやあ、まさかあそこで陽炎さんと遭遇するとはね。しかも、一緒にコンビニまで。流石に予想外の連続すぎたわ。……まあ俺も楽しかったし、陽炎さんも満足そうだったから、結果オーライなんだけど。
それはそれとして──。
提督の休日って、どこの鎮守府もこうなのだろうか。
もしそうだとすれば、提督ってまじで大変だな。うちなんかと比較にならない大所帯なんか、どうなっちゃうんだろう……。
機会があれば、是非とも先輩提督方のお話を、うかがってみたいところである。
~訓練中~
青葉「うぅ、司令官の私服姿が……」
陽炎「まだ言ってる……そんなに撮りたいなら、隠れて撮ればよかったじゃないですか。いつもやってるみたいに」
青葉「だって、やりすぎてここを追い出されても困りますし……」
陽炎「えー、そういうの気にするタイプでしたっけ??」
青葉「いやいや、さすがの青葉も引き際は弁えてますよ。司令官が嫌だと言うなら、致し方なしです」
陽炎「おー。青葉さんて、意外とそういう常識あったんですね」
青葉「酷い?!」
※日頃の行いです。