提督に転職したら想像以上にブラックだった件   作:Sh1Gr3

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気が付いたら秋も終わりかけてたので投稿します。

今話から第7とのあれやこれやを書いていく予定。
だいぶ文字数多めですが、よろしくお願いいたします。


新提督は苦手なタイプ

 

 その日の提督室は、朝からある話題で持ちきりだった。

 きっかけは、陽炎さんの一言。

 

 「いよいよね。新しい提督の着任日」

 

 新しい提督──それは陽炎さんが以前いた、第7鎮守府の話である。

 着任すること自体は前々から決まっていたのだが、いざその日が来るまでは、少し間があったように感じられる。故に「いよいよ」という言葉は、まさにその通りだろう。

 

 ちなみに、俺も後で話題にしようと思ってました。

 

 「なんかこれから、着任の挨拶があるみたいなんだけどさ。やっぱみんな、多少はざわつくみたいね」

 

 ソファーに転がり、携帯を弄りながら陽炎さんが言う。

 その様子から察するに、誰かと連絡を取っているのだろう。たぶん不知火さんかな。

 

 「まあ、前任者がアレでしたからねえ」

 

 と、陽炎さんの向かいに座る青葉さんが口を開いた。

 

 「不信感も残ってるでしょうし、ざわつくのも無理ないんじゃないですかね」

 「それもあると思うんですけど、みんな新しい司令がどんな人なのか気になってるみたいです」

 「あー、それ青葉も気になってたんですよねえ」

 

 俺も同じく。今後、多少なりとも関わる機会もあるだろうしね。

 

 「本当は直接取材に出向きたいところですが、今の青葉は軽々しく異動できる身じゃないので……」

 「一応、不知火には後で連絡するように頼んどきました。あたしも気になっちゃって」

 「おっ、さすが陽炎さん! その情報、青葉にも教えてほしいです!」

 「もちろん。みんなには知っておいてもらわないと、何かあった時に困りますからね」

 

 なにやら、急に物騒なことを言いだす陽炎さん。

 何かってなんだよ……もうこの前みたいなことは勘弁なんですけど。

 

 なんてことを考えていたら──。

 

 「本当に面倒な奴が選ばれたわね」

 

 秘書艦席の方から、叢雲さんのぼそりとした声が聞こえてきた。

 気になった俺は、さりげなく訊いてみる。

 

 「新しい提督のことですか?」

 「……組織情報に載ってるわよ。気になるなら見てみたら」

 「え、まじすか」

 

 俺は業務端末を操作し、ディスプレイに組織情報を表示した。

 確かに、横須賀第7鎮守府の人事情報が更新されている。新しい提督の名前や経歴が、そこには記載されていた。

 

 高瀬凛(たかせりん)。階級は中佐で、前歴は大本営の戦術分析課所属。

 ……なんか名前からして、めっちゃ重要そうな部署だな。いかにも頭脳派集団って感じだ。

 

 「戦術分析課って、どういう部署なんですか?」

 「簡単に言えば、知性は高いけど頭が固くて、融通の利かない連中の集まり──ってところかしら」

 「は、はあ……」

 

 あまりに容赦ない物言いに、思わず苦笑してしまった。

 訊きたかったのはそういうことじゃなくて、どういう業務をしてるのかだったんだけどな……。

 

 「ほぅ、戦術分析課ですか」

 

 と青葉さん。

 叢雲さんとのやり取りが聞こえたのか、いつの間にかこちらに視線を向けていた。

 

 「司令官とはまるで正反対の、お堅そうな方が来ちゃいましたねえ」

 「そんなにお堅いんすか?」

 「青葉も聞いた話ですけど、とにかく理論重視で感情論は二の次。中には艦娘を兵器として見ている人もいるらしいですよ」

 「えぇ……」

 「まあ、その新しい司令官がどうかは分からないですけどね~」

 

 うーん、不安だ……。

 あの大淀さんが「提督に相応しい」って評価するぐらいだから、大丈夫だとは思うんだけど。

 

 「なになに、なんの話?」

 

 不意に陽炎さんが会話に加わってきた。どうやら、これまでの話は聞いていなかったらしい。

 

 「第7の司令官について話していたんですよ」

 

 俺が話すよりも先に、青葉さんが答えてくれた。

 興味あり気に身を起こす陽炎さんに、青葉さんは続けて。

 

 「戦術分析課にいたみたいなので、優秀な方というのは間違いなさそうです」

 「え、なんでそんなこと知ってるんですか??」

 「鎮守府の組織情報が更新されて、そこに載っていたんですよ。ですよね、司令官?」

 

 俺は「そうっすね」と頷く。

 

 「ふーん……戦術分析課?って、そんなにすごいところなんだ」

 「ちなみに、どんな部署なんですか?」

 

 陽炎さんに便乗して、青葉さんに尋ねる。

 叢雲さんからは、ろくな説明がなかったからね……。

 

 「ざっくり言えば、深海棲艦に有効な戦術とか作戦を立案する部署ですね。我々艦娘の戦いを、裏から支えてくれている──そんな存在です」

 「ほえー、すごそう……」

 「んね。いかにもエリートって感じ」

 

 引き気味な俺とは対照的に、陽炎さんは満足げな顔。

 

 「そんなに優秀なら、みんなこと任せても大丈夫そうかな」 

 

 さらに続けて、

 

 「まあ、一筋縄じゃいかないでしょうけど。そこはお手並み拝見ね」

 

 ひと通り喋り終えると、陽炎さんは再びソファーに寝転がろうとする。

 しかし、それに待ったをかけるように、

 

 「なに他人事みたいなこと言ってんのよ」

 

 叢雲さんのつっこみが、陽炎さんへと飛んでいった。

 

 「忘れたの? その優秀な奴が、あんたを第7に連れ戻そうとしてるのよ」

 「えっ、でもそれって司令が断ってくれたんでしょ?」

 

 陽炎さんがちらりとこちらを見る。俺は慌てて頷いた。

 それなら大淀さん経由で、とっくに伝わってるはずだ。……返事はまだないけど。

 

 「なら平気でしょ。そもそも向こうがなんて言おうと、今は戻る気なんてないし」

 「……それで納得するような奴ならいいけどね」

 「大丈夫大丈夫。どうせあたしに構ってる暇なんてないんだから」

 

 そう言って、ごろんと寝転がる陽炎さん。

 そんな陽炎さんを見て、叢雲さんは小さくため息をつき、青葉さんも肩をすくめて苦笑した。

 

 「ま、せいぜい頑張りなさい」

 

 ふと、叢雲さんが吐き捨てるように言った。その台詞は、陽炎さんではなく俺に向けられたものだった。

 自然と口からため息が零れてしまう。

 

 叢雲さんの様子から察するに、これは間違いなく面倒なことになるやつですわ……。

 

 

 

 

 

 夕方。定時までもうひと踏ん張りといった、そんな時間帯。

 にもかかわらず、先ほど横須賀鎮守府の定例報告会が、近く行われるというメールを受け、辟易としながら資料作成に取り掛かっていた──その時だった。

 

 プルルル、プルルル……。

 

 唐突に、机の上の電話が鳴った。

 外線だ。こちらからかけることはあっても、鳴ることはあまりないので少し驚いた。

 

 俺は「誰だろう」と不思議に思いつつ、受話器を取る。

 

 「はい、神城です」

 『本日付で横須賀第7鎮守府に着任した、高瀬凛よ』

 「! お、お世話になってます!」

 

 名前を聞いた瞬間、思わず背筋が伸びた。あとビックリして、前職の時の電話対応みたいになってしまった。

 まじかよ……まさか、こんなに早く連絡が来るとは思ってなかった。

 

 『いま少しいいかしら?』

 「は、はい。大丈夫です」

 

 やべー、いざ話すとなると緊張するな……。声だけだとなんとも言えないけど、なんとなく歳上っぽいし。

 

 『単刀直入に言うわ。陽炎を返しなさい』

 

 やっぱその話ですよねー、知ってました。

 ていうか、いきなり命令口調かよ……俺の苦手なタイプだわ。

 

 『民間人だったあなたには分からないでしょうけど、陽炎は第8にいていいような艦娘じゃないの』

 

 それについては、俺もその通りだ思う。陽炎さんには申し訳ないけどね。

 

 『ちゃんと訓練すれば改二にだってなれるし、明るくて前向きな性格も、第7には欠かせない貴重な戦力よ』

 「……そうですね」

 

 さすがは戦術分析課というべきだろうか。陽炎さんのことをよく理解している。

 ……なんだ、普通にいい人じゃん。言い方はきついけど。

 

 『そもそも、なぜ拒否したの? 陽炎の事情はあなたも聞いたでしょう?』

 「あ、はい。一応……」

 『それなら、普通は拒否しようと思わないわ。いったい何を考えているの?』

 

 そんなこと言われても、本人に戻る気がないんだから仕方ないんだよ……。

 でも言えない。陽炎さんの印象が悪くなりそうだし。

 

 『きっと帰りたいって思ってるはずよ。あの子のことだから、明るく振る舞っているかもしれないけれど』

 

 そうかな……? 

 確かに最初はそうだったかもしれないけど、今は全然素な気がするけどなあ。

 

 『はぁ……せっかく私が上に掛け合って、戻れるようにしてあげたのに。まさか拒否されるだなんて、思ってもみなかったわ』

 「す、すみません……」

 

 それは本当に申し訳ないと思う。謝ることしかできないわ。

 

 『いい? 艦娘はあなたの駒じゃないの。ちゃんと意志があるのよ』

 「駒……」

 

 なんて思ってるわけないだろ──言ってやろうと思ったけどやめた。

 俺よりも軍に長くいる先輩だし、途中で口を挟むと余計面倒なことになりそうだからね……。

 

 『いくら第8にいる艦娘が少ないからって、帰りたいと思っている陽炎を留めていい理由にはならないの』

 「……はい」

 『提督を名乗るのなら、何が艦娘のためになるのかよく考えなさい。それができないのなら、提督をやる資格はないわよ』

 

 これでもかというぐらい、ボロクソに言われてしまった。でも、俺は何も言い返せなかった。

 最初の方は身に覚えのない話ばかりだったけど、「何が艦娘のためになるのか」──この台詞は結構刺さった。

 

 陽炎さんは「ここにいたい」って言ってくれてるけど、果たしてそれは、陽炎さんのためになっているのだろうか……?

 

 俺が黙考していると、高瀬さんはやれやれと言わんばかりのため息を吐いた。

 

 『話がそれてしまったわね。けれど、ここまで言えば理解してもらえたかしら』

 「はい、それはもう」

 『そう。なら陽炎にも話しておいて頂戴。遅くても今週中には戻って来てほしいから』

 「えっ……」

 

 あれ、なんか戻るの確定みたいになってません……? 俺そんなこと一言も言ってないんですけど。

 

 『なに? 今の話を理解したのなら、答えなんて訊くまでもないと思ったのだけれど』

 

 なんでそうなるんだ……理解したイコール陽炎さんが戻るにはならないだろ。

 さすがに気が滅入り、ため息が出そうになるのをこらえる。そしてなんとか誤解を解こうとした、その瞬間──。

 

 ブツッ。

 短い電子音がして、通話が途切れた。

 

 「……あれ?」

 

 なんかきれた。別に電波が悪いとかなさそうだったのに。

 しかし、原因はすぐに分かった。受話器を置こうとしたら、受話器を置くところにあるスイッチを押し込む叢雲さんが、目に飛び込んできたのだ。

 

 まさに思考停止。ポカーンと呆然状態の俺に、叢雲さんは自分の席へ戻りながら、淡々と言った。

 

 「受話器戻さないでよ。またかけてきても迷惑だから」

 「いや、まだ話の途中だったんですけど……」

 「聞こえてたわよ」

 

 え、まじか。そんなに音漏れしてるとは思わなかったわ。

 

 「だから言ったでしょ。面倒な奴だって」

 「はあ……でも、いい人そうでしたけどね。言い方はちょっとあれですけど」

 「バカじゃないの。あんたがそんなだから、向こうも調子に乗るのよ」

 

 怒られてしまった。そんなこと言ったって、ああいう人と喋るのきついんよ……。

 とはいえ、いつまでもこうしているわけにもいかない。まずは受話器を戻さなければ。

 

 「あの、これ戻してもいいですか」

 「だめ。あんたじゃ埒開かないから」

 「えぇ……」

 

 思わず苦笑してしまう俺。

 その時、ドアがノックもなしに開いた。陽炎さんと青葉さんが揃って入ってくる。

 

 陽炎さんはいつも通り、「ただいまー」とだけ言ってソファーへ。

 一方の青葉さんはというと、未だ受話器を持ったままの俺と叢雲さんを見て、何かを察した様子。

 

 そんな状況の中、一番最初に口を開いたのは叢雲さんだった。

 

 「あんたにラブコールよ」

 「へ? あたし??」

 

 きょとんと目を瞬かせる陽炎さん。

 叢雲さんはそれ以上は何も言わず、軽く目配せしてきた。どうやら説明は俺の役目らしい。

 

 本当はもっとややこしくなりそうだから、言いたくはないんだけど……仕方ないか。

 

 「なんか、第7の提督から電話がかかってきちゃいまして……」

 「げっ、まじ??」

 「やっぱ、戻って来てほしいみたいすね」

 「はぁー、ほんとしつこいわねえ」

 

 陽炎さんがうんざりした顔で、ソファーへ腰を下ろす。

 

 「でも、今回もちゃんと断ってくれたんでしょ?」

 「そ、それがですね……」

 「えっ! まさかOKしちゃったの?!」

 「いや、してないです。電話の途中できれちゃったんで、まだそこまで話せてないですね」

 

 俺がそう言うと、陽炎さんはほっと胸をなでおろした。

 すると横から青葉さんが、

 

 「なにやら面白いことになってきましたね~」

 

 ニコニコと笑みを浮かべて言った。

 いやー、全然面白くないんだよなぁ……。

 

 「それで、この後はどうするんですか?」

 「……とりあえず、かけ直すしかないんじゃないすかね」

 

 このまま放置しても、またかかってくるだろうし。

 だったらこっちからかけて謝った方が、印象も悪くないはずだ。

 

 「それなら、あたしが直接話すわ」

 

 陽炎さんが真剣な面持ちで言う。

 

 「ハッキリと言ってやるのよ。当分戻る気はありませんって!」

 「まじすか……」

 

 確かに、そっちの方がいいのかもしれないけど……。

 

 「本人がそう言ってるんだから、任せればいいんじゃない」

 

 と叢雲さん。

 

 「あんたじゃどうせまた、好き放題言われて終わりなんだから」

 「まあ……でも言ってることは正しかったですけどね」

 「どこが??」

 「えっ」

 

 あれ、なんか怒ってる……?

 そんなにあの会話の内容が気に入らなかったのかな。

 

 「なに、司令なんか言われたの?」

 「さあね。胸くそ悪いから、聞かない方が良いわよ」

 「ふーん……やっぱそんな感じなんだ」

 

 なぜか納得した様子の陽炎さん。

 

 「不知火から教えてもらったのよ。第7の司令がどんな人なのか」

 

 なるほど。それなら、この物言いにも頷けるな。

 

 「真面目で優秀そうな人なんだけど、前の司令と雰囲気が似てるせいで、受けは相当悪いみたい。あと、司令とは真逆のタイプだって」

 「当たってるわよ、それ」

 「やっぱりねえ。おおかた、文句でも言ってきたんでしょ。そういう人って、自分の思い通りに事が進まないと、気が済まなそうだし」

 「それも当たり。ついでに、提督辞めろとまで言われてたわよ」

 「は?? なにそれ。意味分からないんだけど」

 

 明らかにキレ気味の陽炎さんを見て、俺は慌てて口を開く。

 

 「いやいや、それはちょっと盛りすぎじゃないすか。そんな悪い人じゃなかったすよ」

 「……司令ってさ、どんな人が相手でもそう言うでしょ」

 「お人好しだからね。たとえ事実でも、人のこと悪く言えないのよ」

 

 陽炎さんからジト目を向けられ、さらに叢雲さんの追撃。二人とも結構容赦がない。

 

 「お二人とも、司令官が悪く言われるのが気に入らないんですよねー」

 

 青葉さんが楽しそうに言った。俺は苦笑いを返すしかない。

 

 「そんなものですかね……」

 「当たり前でしょ。司令は何も悪くないんだから」

 

 俺の呟きに、陽炎さんが即座につっこんでくる。

 

 「でもいいわ。司令が言えないなら、あたしが代わりに言ったげるから」

 「あの、できれば穏便に終わらせてほしいんすけど……」

 「それは向こう次第ね」

 

 左様ですか……。

 まあ万が一何かあっても、俺がリカバリーすればいいよな。そのために俺がいるようなものだし。

 

 「受話器、戻していいですか?」

 「いいんじゃない」

 

 ようやく叢雲さんからお許しが出たので、俺は受話器を静かに置いた。

 ──が、その瞬間。

 

 プルルル、プルルル……。

 

 場の空気が一瞬、固まった。

 表示された番号を確認すると、先ほどと同じ番号──つまり、高瀬さんからだ。

 

 「はやっ……」

 「随分とせっかちさんみたいですねえ」

 

 思わず顔を見合わせる俺と青葉さん。

 これもしかして、ずっとかけ続けてたパターンか?

 

 「……あたしが出るわ。いいわよね?」

 

 陽炎さんがソファーから立ち上がった。そのままこっちに向かって歩いてくる。

 最初は俺が出ようと思ったけど、陽炎さんの真剣な顔を見たら、その気もなくなってしまった。

 

 「じゃあ……お願いします」

 「任せて。すぐ終わらせるから」

 

 そう言うと、陽炎さんは受話器に手を伸ばした。

 

 「はい、陽炎です。……すみません、司令は急用で席を外してまして」

 

 声のトーンが、いつもの陽炎さんとは明らかに違う。少し固くて、しっかりした真面目な口調。

 なんていうか、ギャップがすごいわ……。

 

 ふと横を見ると、青葉さんがカメラを構えていた。狙いはもちろん、電話中の陽炎さんだ。

 あーあ……後で怒られても知らないぞ。

 

 「司令から話は聞きました。色々とありがとうございます。……ただ、あたしは当分戻る気はないんです」

 

 おお、ついに言ったよ。どうか穏便に終わってくれますように……。

 俺は固唾を呑んで、静観を続ける。

 

 「いえ、司令は関係ありません。これはあたしの意志です」

 

 陽炎さんの語気が強まる。加えて、受話器が少しだけ軋むような音を立てた気がした。

 ……たぶん、イラっとするようなことでも言われたんだろうな。

 

 「不知火たちも納得してくれています。なので……」

 

 と、そこまで言った次の瞬間──。

 

 「だから、司令は関係ないって言ってるでしょ!」

 

 突然、陽炎さんが声を荒らげた。

 これには俺と青葉さんまでも、目を丸くしてしまう。

 

 「っ……とにかく、まだ戻る気はないので。失礼します」

 

 ガチャン、とやや強めに受話器を置く陽炎さん。

 俺の穏便に終わってくれという願いは、見事に粉々になったみたいだ。

 

 その時、定時を告げるチャイムが鳴り響いた。

 俺は「ふう」と小さく息を吐く。横を見ると、陽炎さんも同じく息をついていた。

 

 チャイムが鳴り終わると、陽炎さんはため息混じりに口を開いた。

 

 「叢雲の言った通りだった。つい大声出しちゃったわ」

 「ま、なるようになるでしょ。ねえ、司令官?」

 

 叢雲さんに話を振られ、俺はもうこの日何度目か分からない苦笑いを浮かべた。

 ……大丈夫かな。リカバリー思ったよりしんどそうなんですけど。

 

 「いやあ、さすが陽炎さん。あそこまでハッキリ言うなんて、青葉もスカッとしちゃいましたよ」

 

 満足げな青葉さん。いい写真が撮れたからか、ご満悦って感じだ。

 

 「言うつもりなかったんですけどね……でも我慢してるんじゃないかとか、司令になにか言われてるんじゃないかとか、しつこくって」

 「まあ向こうからしたら、そう考えるのが自然ですからねえ。窓際鎮守府という先入観もありますし」

 

 それはそう。俺が逆の立場でも、同じことを考えるかもしれない。

 

 「余計なお世話ですよ。第8のことも、司令のことも何も知らないくせに」

 「あはは、それはその通りですね~」

 

 この陽炎さんと高瀬さんの、すれ違い通信が起きてる感じが、なんとももどかしい。

 でも元はと言えば、この鎮守府が緩々なせい──要するに、俺が全部悪いんだよな……。

 

 なんてことを考えて目線を下にする俺に、陽炎さんが肩をすくめて言った。

 

 「ごめんね、司令。穏便に終わらせられなくて」

 「しゃーないっす。まあ、なるようになりますよ」

 

 俺の言葉に、陽炎さんはくすりと小さく笑う。

 そしてこちらへ背を向けると、

 

 「また何か言ってきたら教えてね。今度は直接言いに行くから!」

 

 手をひらひらさせ、陽炎さんはソファーへ戻って行った。

 

 「とりあえず、一件落着ですかね?」

 「ですね……」

 

 俺は青葉さんの言葉に、小さく同意した。

 ようやくいつもの空気に戻りつつある提督室に、壁掛け時計の音だけが静かに響く。

 

 色々と懸念事項は残っているものの、さすがに疲れてしまった俺は、中断していた定例会の資料作成を再開する気にはなれず、端末をシャットダウンした。

 

 

 




次回「ドキドキワクワク! 第7鎮守府訪問!(仮)」

そこまで期間空けずに投稿できたらいいなぁ……。
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