提督に転職したら想像以上にブラックだった件 作:Sh1Gr3
投稿期間が空いてしまったので、軽くあらすじを。
第七鎮守府に新しい提督が着任
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新提督から陽炎を返せと電話がかかってくるも、陽炎本人がぶちギレ拒否する
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主人公が第七鎮守府に呼び出される
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主人公と新しい提督とのお話合い(今話)
応接室へ入ると、高瀬さんは既にソファーへ腰を下ろしていた。
手にしたタブレットへ視線を落としており、俺が入ってきても特に反応はない。
「すみません、お待たせしました」
「……」
しーんと、沈黙が落ちる。なんというか、とてつもなく気まずい空気だ。
そのまま立ちっぱなしの状態が数秒続いたところで、ようやく高瀬さんが顔を上げた。
「何をしているの。突っ立ってないで、さっさと座りなさい」
「あ、はい」
そんな理不尽なと思いつつも、これ以上機嫌を損ねたくないので、言われた通りに高瀬さんの向かい側へ腰を下ろした。
いざ向かい合って見ると、なんというか雰囲気がパナイ。歳はあまり変わらなそうなのに、さすが軍人さんて感じだ。
あー、緊張するな……どうか上手く話がまとまりますように。
「神城君だったわね」
「は、はい」
「あなたの経歴、見させてもらったわ。つい先日まで民間人だったみたいね」
「ええ、まあ……」
「それにしては随分と上手くやってるじゃない。艦娘との関係も良好みたいだし」
「いやあ、どうなんですかね……」
「謙遜しなくてもいいわよ。まさかあそこまで拒否されるとは思わなかったもの」
「それはほんとすみません……」
俺も予想外だった。あの温厚な陽炎さんが、あんなにキレるとは思っていなかった。
「べつに気にしてないわよ。私も素人相手に少し大人げなかったし」
「はあ……」
高瀬さんの台詞に苦笑いを浮かべる俺。
なんというか、意外と穏やかだ。昨日の件、もっと怒られると思ってたんだけど。
「それで、陽炎のことなんだけど」
「! は、はい」
反射的に背筋が伸びた。いや、むしろここからか……。
「そんなに身構えなくてもいいわよ。尋問じゃないんだから」
「そ、そうなんですか」
「……あなた、私をなんだと思っているの?」
じとりとした視線が突き刺さる。これには苦笑いを浮かべるしかない。
そんな俺を見て、高瀬さんは呆れたように小さく息を吐いてから、また話し始めた。
「あなたが戻りたがっている陽炎の気持ちを察することなく、ただ彼女の言うことを真に受けるお馬鹿さんだったら、まだいくらでもやりようはあったんだけど……昨日の様子からして、どうもそういうわけでもなさそうなのよね」
さすがの高瀬さんも、昨日のことは気にしてたみたいだ。まあ、結構キレてたからなあ。
「陽炎は仲間意識の強い艦娘だし、なにより妹想いなの。これは陽炎という艦娘の特性と言ってもいいわ」
「特性……」
「そうよ。陽炎という艦娘は、他の鎮守府や基地にもいるでしょ? それぞれに個性はあるけど、特性はだいたい共通しているの。これは陽炎に限らずね」
「へー、そうなんですね」
知らなかった。つまり他の鎮守府の叢雲さんや青葉さんも、あんな感じってことか。
「あなた、そんなことも知らなかったの?」
「す、すみません……」
だって誰も教えてくれないんだもん。仕方なくない??
高瀬さんはさっきよりも長く息を吐くと、話を再開した。
「そんな陽炎が、ここへ戻るよりも異動したばかりの第八に残ることを選んだ。そこには何か理由があるはずなのよ」
理由か。確かにそれらしいのは聞いてるけど、それって陽炎さんに直接訊いた方が良いのでは……?
「どうもその理由が気になってね。それであなたを呼んだってわけ」
「なるほど……」
少しだけ肩の力が抜けた。てっきり昨日の電話のやり取りを、対面ですることになると思っていたのだが……どうやら杞憂だったみたいだ。
「それに、あなたがどんな人間なのかもこの目で確認したかったしね」
「え、自分ですか」
「ええ。民間人あがりの提督には、ろくな奴がいないから。提督になりたい動機も、不純なものが多いし」
「は、はあ……」
まじかよ。確認てそういう意味か。
「最近は採用試験も厳しくなっているから、そういう人間も減ったけどね。そもそも民間人あがりの提督なんて、私の知る限りあなたを含めて三人だけだし」
「へー、結構少ないんですね……」
国内外にある鎮守府、基地、泊地の数はそこそこだ。にもかかわらず、民間人あがりの提督は三人だけ。何年か前から民間からも募集しているのを考えると、少ないと思ってしまう。
まあ、叢雲さんも青葉さんも「着任できたとしても続かない人が多い」って言ってたから、無理もないのかな。ちょっと寂しいけど。
しかし、高瀬さんの考えは違った。
「私からしたら多すぎるぐらいよ」
まるで呆れ果てたと言わんばかりの物言いだ。
「だいたい、民間人も提督になれるっておかしいと思わない? 全人類の脅威である深海棲艦に、唯一対抗できる艦娘を指揮・管理する立場の人間なのよ? それを素人に任せるだなんて、理解に苦しむわ」
「それは……そうですね」
自分で言うのもなんだけど、高瀬さんの言うことは百理ぐらいあると思う。まあ、大淀さんは民間人の方が提督適性のある人が多いって言ってたけど……今それを言う勇気は俺にはない。
「あなたもあなたよ。転職目的だったらしいけど、それでよく提督を選んだわね」
「まあ……転職サイト見てたら一番最初に目に入ったので」
「それだけ? 理由としてはだいぶ弱い気がするのだけど」
「あとは……友人に勧められまして」
「友人? それってまさか……」
「あ、いや、普通に落ちた人です」
あらぬ疑いをかけられそうだったので、即座に否定した。おそらく、他の民間人あがりの提督との関係を疑ったんだろうな。
「そう……まあいいわ。採用されてしまった以上、私がどうこう言えるわけでもないし」
「はあ……」
じゃあなんで訊いたんだ……。
心の中でぼやいていると、
「話がそれたわね」
高瀬さんは軽く咳払いをして、真っ直ぐに俺を見て言った。
「改めて、教えてもらえるかしら。陽炎が第八に残りたがっている理由を」
高瀬さんの鋭い視線が突き刺さる。
さて、なんて答えたものか。高瀬さんにマイナスの印象を与えるような回答はしたくないから、慎重に答えないと……。
「あなたが知っている範囲でいいわよ。全部じゃなくても、少しぐらいは聞いているでしょ?」
「えっと……陽炎さんは「ここにいれば強くなれる」とは言ってましたけど……」
とりあえず無難な回答を選んだ。これが全部ではないけど、一番納得してくれそうな回答を選んだつもりだ。
しかし、俺の期待とは裏腹に、鼻で笑われてしまった。
「第八にいて強くなれる? あなた、本気でそう思っているの?」
「まあ……ちゃんと訓練はしてるので」
実際、叢雲さんも青葉さんも、陽炎さんの練度は上がっていると言っていた。十八駆のみんなも、陽炎さん本人だって同じ認識だ。
「呆れた。第八がなんて呼ばれているか知らないの?」
「え、窓際鎮守府のことですか?」
「分かってるじゃない。ふられる任務は雑用ばかり、訓練だって指導してくれる嚮導艦も、切磋琢磨できる同僚もいない。練度なんて上がりようがないと思うのだけど」
「それは……」
「そんな場所にいて、本当に強くなれると思う? いくら素人でも、それぐらい分かるでしょ?」
高瀬さんの指摘はもっともだ。青葉さんのことを言えない以上、返す言葉もない。
「今の答えを聞いて分かったわ。第八は陽炎にとって、すごく居心地のいい場所だってことがね」
「……」
「これまでずっと、劣悪な環境に身を置いていたんだもの。提督も民間人あがりの素人だし──特にあなたのようなタイプの人間なら、陽炎も色々と都合がいいでしょうね」
「……そうですかね」
「だってあなた、命令も叱責もできないでしょ?」
「っ……」
ぎくり。この短時間でそこまで見破るのか……。
「そんな環境、誰だって手放したくないわ」
高瀬さんは淡々と続ける。
「確かに意志を尊重するのは大切よ。それが陽炎のためになるのなら尚更ね。でも、それと甘やかすことはわけが違う」
「……」
「はたして、あなたはどちらなのかしら」
まるで試されているかのような視線と言葉の数々。
高瀬さんの問いは、俺的には前者でもあるし、後者でもあると思っている。だってちゃんと仕事してるし、訓練もしてるからね。色々と甘い部分は多いだろうけど、ただそれだけではないのだ。
とはいえ、訓練内容を話してしまうと、青葉さんの練度詐欺がバレかねない。
ではどうするか──ここは、叢雲さんの名前を出すのが一番だと思う。高瀬さんも零艦隊のことは知ってるはずだ。零艦隊の叢雲さんが鍛えているということにすれば、さすがに納得してくれるだろう。
一応、嘘は吐いてないしね。たまに演習やってるし。
「あの、訓練のことなんですけど……」
言いかけた、その瞬間──。
突然、応接室の扉が勢いよく開いた。反射的に目が扉の方を向く。
「きゃっ……!」
「っ……!」
「わっ……!」
扉の向こうから小さな悲鳴と一緒に、ドサッと音を立てて人影が雪崩れ込んできた。
人影の正体は、霞さん、不知火さん、霰さんの三人。見事に重なるように床へ倒れ込んでいる。完全に聞き耳を立てていて、バランスを崩して突っ込んできた図だ。
さすがの高瀬さんも驚いたようで、目を丸くして三人を見ている。
応接室に沈黙が訪れた。
「……何をしているのかしら」
高瀬さんの低い声が、静かに落ちた。空気が一瞬で凍る。
それを察したのか、不知火さんが真っ先に体勢を立て直した。続いて霰さん、霞さんの順で立ち上がる。
「申し訳ありません」
最初に立ち上がった不知火さんが、ぴしっと背筋を伸ばし頭を下げた。
「入るつもりはなかったのですが、扉が重みに耐えられず開いてしまいました」
いやいや、不知火さんまじか。言い訳にしては弱すぎません??
俺はごくりと唾を呑み、横目で高瀬さんの反応を伺う。
「……そう。それなら今すぐ出て行きなさい」
俺の不安とは反して、意外とあっさりした反応。てっきり、もっと怒るかと思ったのだが。
ただ、どういうわけか三人は出て行こうとしない。その場にじっと立ったままだ。
高瀬さんの目がさらに鋭くなる。もはや睨んでいると言っても過言ではない。
対する三人──霞さんは知らん顔でそっぽを向いているが、霰さんは心なしか顔色が悪い。不知火さんもポーカーフェイスを装ってはいるものの、視線の方は霞さん霰さんと行ったり来たりしていて、いつもの落ち着きがないように見える。
やばい、なんとかしないと……空気がお通夜すぎる……!
「聞こえなかったの? 私は出て行きなさいと言ったのよ」
こっわ……そんな圧かけなくてもいいのでは……?
とはいえ、なんで出て行かないのかは気になるな。訊いてみるか。
「あの、どうしたんですか?」
すると霞さんが、明らかに不機嫌そうな顔をこちらに向けてきた。しかもため息まで吐かれる始末。
えっ、なんで俺……?
「さっきも言ったでしょ。ひよってないで少しは言い返せって」
「えっ」
「第八にいたら強くなれないって? それは事実なの?」
「いや、一応強くはなってると思いますけど……」
「なんで提督のあんたがそんなに自信なさげなのよ。ハッキリしなさいったら!」
「っ、強くなってると思います!」
ひー、ひー、きつい……あと高瀬さんの顔を見るのが怖い……。
ただ、霞さんはどこか満足げだ。霞さんは「ふん」と鼻を鳴らすと、高瀬さんへ視線を移した。
「だそうよ。確かに第八は他の鎮守府とは役割が違うみたいだけど、確認もせずに最初から否定するのはナンセンスなんじゃない?」
「……」
霞さんと高瀬さんの睨み合い。もうハラハラしすぎて心臓が爆発しそうだわ……。
「私はここにいた時より、強くなってると思ったわよ。少なくとも、訓練を怠けている感じではなかったわね」
「……不知火も同意見です。陽炎は確実に強くなっていました」
「霰もそう思う……」
不知火さんと霰さんも、霞さんに続いた。
三人は陽炎さんと青葉さんの演習を、生で見ている。だからこそ、三人の言葉には説得力があった。
高瀬さんもそれを分かっているのか、黙ったまま鋭い目つきで三人を見つめている。そしてその目を、何故か俺にまで向けてきた。
だから怖いって、その目……。
「そんなに納得できないなら、実際に確かめてみたら?」
「……確かめる?」
「陽炎がどれだけやれるのか、自分の目で確かめればいいじゃない」
え、まじ?? その展開は予想外なんだが……。
高瀬さんは腕を組んで、わずかに視線を落とした。なにやら考えに耽っている様子だ。
しばしの沈黙。霞さんたちも黙って高瀬さんの返答を待っている。
俺はというと、心の中で「お願いだから断ってくれ」と祈っていた。だって面倒なことになりそうだし……。
しかし──。
「……いいわ」
高瀬さんがゆっくりと顔を上げた。
「そこまで言うのなら、見せてもらおうかしら」
あー、やっぱりこうなるのね……。
「──決まりね」
霞さんがニヤリと笑って俺を見る。横の不知火さんと霰さん──特に不知火さんは、とても申し訳なさそうに俺を見て、小さく頭を下げていた。
まあ、決まってしまったものは仕方がない。帰ってみんなに相談するとしよう。
なんて言われるかなあ。陽炎さんはなんとなく燃えてくれそうだし、青葉さんもネタが増えて喜びそうなんだけど……叢雲さんには怒られるだろうなあ。面倒事増やすなって。
なんてことを考えていたら、自然とため息が零れるのだった。