提督に転職したら想像以上にブラックだった件   作:Sh1Gr3

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艦イベ始まりましたね。
幣鎮守府は後段の情報が揃うまで暇なので、合間に投稿します。

今回も長めです。
本当は3000字ぐらいでぽんぽん投稿したいのですが、厳しいですね……。


実家のような安心感

 第八鎮守府に着いて足早に提督室に入ると、秘書艦の叢雲さんはもちろん、陽炎さんと青葉さんも中にいた。

 三人の顔が一斉に俺の方へと向けられる。

 

 「おかえりなさい、司令官」

 「おかえり~」

 

 青葉さんは手元のカメラから顔を上げ、陽炎さんはソファーでごろごろしながら、出迎えてくれた。

 そんな二人を見て、自然と頬が緩んだ。これぞ実家のような安心感というやつだろう。やっぱホームが一番だな。

 

 俺は二人に「お疲れ様です」と軽く頭を下げ、自分の椅子に腰を下ろした。

 ふぅ……とんでもなくハードな一日だったな。ここを離れて半日も経ってないのに、疲労感がハンパない。

 

 「遅かったわね」

 「本当はもっと早く帰るつもりだったんですけどね……」

 

 すみません、叢雲さん。誘われたとはいえ、お昼食べたり駄弁ったりしてました……。

 

 「ずいぶんとお疲れみたいですねえ」

 「司令、大丈夫?」

 

 視線を落として小さく息を吐いた俺を見て、青葉さんと陽炎さんが声をかけてきた。

 俺は変に心配させないよう、できるだけ声を張って答える。

 

 「大丈夫です。ちょっと精神的に疲れましたけど」

 「不知火から聞いたわ。あたしのことで、新しい司令に詰められたんでしょ」

 

 あら、もう聞いてたのか。さすが不知火さん、報連相が早いわ。

 

 「もう、ほんと腹が立つわ。あたしがいたら司令のこと守れたのに」

 

 悔しげに手のひらに拳を打ち付ける陽炎さん。パン、と乾いた音が響く。

 俺は思わず苦笑い。ありがたいけど、それはそれで面倒なことになってた気がする。

 

 「まあ、ハッキリ言わなかった自分も悪いので……それに結局、霞さんたちに助けてもらいましたし」

 「みたいね。念のため、お願いしておいてよかったわ」

 「でもそのせいで、みんな高瀬さんに呼び出しくらっちゃって……」

 「ああ、平気平気。なんか普通に注意だけで終わったってさ」

 「まじっすか。それならよかったです」

 

 本当にそれだけが心残りだったからね。注意だけで終わってくれたのなら万々歳だ。

 ほっと胸を撫で下ろしていたところへ、青葉さんから質問が飛んできた。

 

 「それで、どうでした? 話し合いは」

 「そうですね……」

 

 俺は少しだけ黙考した後、高瀬さんと話した内容をみんなに共有した。

 といっても、不知火さん経由でだいたい伝わっていたらしく、初めて聞くようなことはほとんどなかったみたいだ。

 

 「いやあ、面白いことになってきましたね~」

 「上等よ。今のあたしの力、見せつけてやるわ!」

 

 よしよし、青葉さんも陽炎さんも予想通りの反応だ。

 あとは叢雲さんだけど……。

 

 俺はちらりと叢雲さんの様子をうかがう。

 しかし、特に何か言ってくる様子はなさそうだ。

 

 あれ、絶対に面倒くさがられると思ってたんだけどな。

 

 「司令官、お題ってまだ決まってないんですよね?」

 「そうですね。高瀬さん預かりなので」

 「ふむ……問題は、どんなお題を出してくるかですねえ」

 

 青葉さんが顎に手を当て、真剣な顔で黙考し始めた。

 お題って言っても、何かしらの演習だと思ってたんだけど……。

 

 「どんなお題が来ても、今のあたしなら大丈夫ですよ」

 

 そう言って、陽炎さんが身を起こした。

 自信満々な陽炎さんに、青葉さんが続けて言う。

 

 「確かに、陽炎さんの練度は上がってます。ただ、訓練内容が少し特殊じゃないですか」

 「まあ、青葉さんの砲雷撃をひたすら回避するだけですからね」

 

 あー、そういうことか。なんとなく、青葉さんの言いたいことが分かった気がする。

 

 「青葉も回避力を示すだけでいいなら、問題ないと思います。でも、ごく普通の砲撃雷撃、対空などは今の訓練ではあまり重視できていないなと思いまして」

 「あっ、確かに……」

 

 やっぱり、俺の予想は概ね当たってたな。

 いくら練度が上がっているとはいえ、普段やっていないことを本番で上手くやれるとは限らないからね。

 

 「とはいえ、さすがに今の第八でどうしようもないことは、出されないと思いますけどね。例えば対空、対潜、艦隊運動とか」

 「うちには空母も潜水艦も、艦隊運動できるだけの艦娘もいないですしねえ」

 

 そうなんだよな。俺もさすがにそこまで意地悪じゃないと信じたい。

 

 「分からないわよ」

 

 不意に、横から叢雲さんが口を開いた。

 

 「艦娘なんて他鎮から借りればいいだけだし。むしろ、それをできるかも試してくるかもね」

 「まじっすか……」

 

 勘弁してくれ……ていうか借りるって、そんな簡単にできるのか?

 

 「その場合って、一時的な異動になるんですか?」

 

 青葉さんの質問。叢雲さんは机上の書類に目を落としながら答える。

 

 「そうね。うちには関係ないけど、他ではよくある話よ。あんたも経験あるでしょ」

 「いえ、青葉は一時的ではなかったので。一回異動したら帰る必要なかったんですよ」

 「……そういえばそうだったわね」

 

 なるほど。要するに短期間の派遣みたいな扱いか。

 

 「あの、それって各鎮守府の提督にお願いする感じですか」

 「基本的にはね。……あんた、もしかしてやるつもり?」

 「え、まあ……もし必要ならですけど」

 

 陽炎さんがここに残りたいと言うなら、俺はその希望をできるだけ叶えたい。

 だから俺にしかできないことは、なるべくやるつもりでいる。

 

 「ちなみに、これって断られることもありますよね……?」

 「時と場合によるわね。向こうが立て込んでたら無理だし、暇なら拒否されないでしょ」

 「なるほど……」

 「ま、相手の提督が意地の悪い奴だったら、どんな時と場合でも無理だけど」

 「それは……祈るしかないですね」

 

 今のところ、意地悪な人はいないと思っている。

 任務依頼が雑な人とか、電話の受け答えが素っ気ない人はいるけど、それは前職で慣れてるし。

 

 「やるなら早めにした方がいいわよ。どうせそんなに時間ないんでしょ」

 「一応、明日には諸々連絡するって言ってましたけど」

 「そう。なら連絡が来てからでいいんじゃない。その方が何を頼めばいいかも決められるし」

 「了解です」

 

 どのみち、今日はもう定時が近いしね。立て込んだ話は定時前にしたくない。

 それはそれとして──。

 

 「……臼井さんにお願いしても大丈夫ですかね」

 

 横須賀第一鎮守府の大将さん。

 大将にお願いだなんて恐縮ではあるのだが、パッと思いついたのが臼井さんだった。

 

 「はぁ……まずあいつの名前を出すあたり、だいぶ毒されてるわね」

 

 なぜかため息を吐かれてしまった。

 だって、他に思いつく人がいないんだもん。

 

 「あの、前々から気になってたんですけど」

 

 ふと、青葉さんが叢雲さんに訊く。

 

 「叢雲さんって、第一の司令官とお知り合いなんですか?」

 「さあね」

 「否定はしないと……」

 

 記者モードのスイッチが入ってしまったようだ。

 叢雲さん相手によくやるよ、ほんと。

 

 「何か因縁めいたものを感じますねえ」

 「あまり詮索しない方がいいんじゃないですか。後でしばかれても知らないですよ」

 

 横から陽炎さんが、さり気なく止めに入る。

 すると、青葉さんはハッと我に返ったようで。

 

 「これは失礼しました。興味深いネタを前にすると、つい」

 

 あははと笑う青葉さん。そして、こほんと咳払いを一つ。

 

 「青葉はお願いしてみてもいいと思いますよ。面白そうですし」

 「あたしもー。たまには他の訓練で息抜きしても、罰は当たらないでしょ」

 

 ふむ……二人が賛成してくれるなら、お願いしてみてもいいかな。

 

 「あの、叢雲さんもいいですか」

 「……べつにいいんじゃない。この時期は大して忙しくないだろうし」

 

 なんか嫌そうだけど……叢雲さんがいいって言うならいいか。

 明日、高瀬さんから連絡が来たら、臼井さんに相談してみるとしよう。……必要に応じてね。

 

 「いやあ、久々にネタ集めが捗りそうですね~。今からワクワクしてきましたよ」

 「駆逐艦だったら陽炎型がおすすめよ。みんないい娘で可愛い娘ばかりだから」

 「はあ……」

 

 二人とも盛り上がってるみたいだ。まだ確定ではないんだけどね……別にお願いしなくてもいいようなお題なら、この話は終わりだし。

 

 個人的には、それならそれでいいと思ってる。だいたい、大将の下で働いてる艦娘に来てもらうなんて、恐れ多いんだよ。ビビるわ、普通に。各所に連絡したり手続きも発生するし、できればうちだけで終わらせたいところだ。

 

 「──面倒なことになったって思ってるんじゃない」

 

 ふと、叢雲さんが言った。

 俺は黙考を中断して、声の方へ視線を移す。叢雲さんは頬杖をつきながら、何もかもお見通しだと言わんばかりの目で、こちらを見つめていた。

 

 「別に面倒事とは思ってないですけど……」

 「ふーん。ま、あんたならそう言うしかないわよね」

 

 本当に面倒事とまでは思ってないんだけどね。

 この程度で面倒とか言ってたら、世の先輩提督方に袋叩きにされるわ。

 

 個人的には、それよりも──。

 

 「てっきり、怒られると思ってました」

 「なんで」

 「いや、叢雲さん的には面倒かなと思ってたので……」

 

 いつも文句を言われてるから、珍しいと思ってたのだ。

 すると、叢雲さんはため息を零して、

 

 「そんなんでいちいち目くじら立ててたら、あんたの秘書艦なんてできないでしょ」

 「……すみません」

 「別にいいわよ。もう諦めてるから」

 

 そう言って、叢雲さんは机上の書類に視線を戻した。

 いやあ、つくづく叢雲さんには頭が上がらないな……。

 

 「──ねえ司令、不知火から聞いたんだけど」

 「はい?」

 

 唐突に陽炎さんから話しかけられ、彼女の方へ目を向けた。

 

 「連絡先の交換、霞とはできなかったんでしょ」

 「あー……」

 

 不知火さん、そこまで話したのか……。

 

 「なんかタイミングが悪くて、結局できなかったんですよね……」

 「そのせいか分からないけど、今日はいつにも増して機嫌が悪いらしくてさ。霰がなんとかしてくれだって」

 「えぇ……まじっすか」

 

 なんとかってなんだよ……俺にできることなんて何もないぞ。

 

 「交換してあげたらいいじゃないですか」

 

 と、横から青葉さんが会話に加わってきた。

 

 「霞さん、司令官のこと結構気に入ってそうですし。機嫌も直るかもしれませんよ」

 「別に交換する分にはいいですけど……」

 

 それで機嫌が直る保証は一切ないけどね。

 ていうか、そんなんで直るとは思えないけどな。どんだけ俺の連絡先の価値高いんだよ。

 

 まあ、それはそれとして──。

 

 ちょうどいいから、ここでも念のため確認しておくか。

 

 「他鎮の人と連絡先交換するのって、大丈夫なんでしたっけ」

 「大丈夫なはずですよ。特に禁止はされていなかったと思います」

 

 ふむ……叢雲さんも何も言ってこないし、問題なさそうだな。

 

 「一応、連絡先送っておいたから。暇な時にでも連絡してあげて」

 「あ、ありがとうございます」

 

 スマホを開くと、確かに霞さんの連絡先が届いていた。

 

 「本当は逆でもいいんだけどね。でもほら、霞って意地っ張りだから。自分からは言わないのよ」

 

 それは……分からなくもない、かも。

 俺に対してはそうでもないけどね。

 

 「了解です、連絡しときます。どのみち今日のお礼も言いたかったので」

 「ふふ、ありがと」

 

 うーん、今のうちに送っておくか。もうすぐ定時になるしな。

 ──と、その前に。日振さんたちのことも、伝えておかないと。

 

 「そういえば、日振さんたちに会ったんですけど」

 「あら、みんな元気にしてた?」

 「元気だったと思いますよ。ただ……陽炎さんがいなくて寂しいとは言ってましたね」

 「……そっか」

 

 少しの間の後、短い返事が返ってくる。

 俺に陽炎さんの心の内は分からない。けれど、どこか懐かしむような、心配するような、そんな顔に見えた気がした。

 

 本当は他にも、色々と会話した。

 

 いつ帰って来れるのかとか、陽炎さんが異動したことを気にしてたり、自分たちのせいだと言っていたり。

 でも、それを全部伝えるのはやめた。

 

 完全な自己判断だけど、日振さんたちが元気そうなこと、それでも寂しがっていたこと。これだけを伝えられれば、十分な気がしたのだ。

 

 すると、陽炎さんは少しだけ表情を緩めて言った。

 

 「ううん、元気ならよかった。新しい司令は前の司令みたいに、ブラックじゃないってことだから」

 「それは大丈夫だと思いますよ。厳しいですけど、いい人なのは間違いないと思うんで」

 

 俺の言葉に、陽炎さんは呆れ顔に変わって。

 

 「まーたそんなこと言って。今日だって散々、あることないこと言われたばかりでしょ」

 「いや、割と事実ばかりでしたよ。反省ですね」

 「例えば?」

 「えっ、命令も叱責もできないとか?ですかね……」

 「……一理あるかも」

 

 そう呟いて、考え込み出す陽炎さん。

 一理どころじゃなくて、もう大当たりなんだよなあ。

 

 「別にいいじゃないですか。どちらもできなくても」

 

 と青葉さん。いつもの軽い感じではなく、どこか真面目な口振りだ。

 

 「命令や叱責をできる人が、立派な司令官とは限らないですよ。少なくとも、青葉はそう思います」

 「はあ……」

 

 思わず苦笑してしまう俺。急にどうしたんだ??

 

 「なので、司令官はそのままの司令官でいてください。その方が、青葉も色々と都合が──じゃなくて、嬉しいです!」

 「あ、はい」

 

 そういうことね……ていうか、わざわざ言い直さなくても、聞こえてるんだよなあ。

 まあ言われなくても、この性格は変えられないんだけども。

 

 「あたしも、司令は司令のままでいいと思う。別に命令がなくても動くし、叱責されないように頑張ればいいだけだしね」

 

 うぅ、なんていい人たちなんだ……やっぱり人にだけは恵まれてるわ、俺。

 そう心の内で感動していると、定時を告げるチャイムが鳴った。

 

 やべー、全然仕事進まなかったし、霞さんに連絡もできなかった……。

 仕方ない、疲れてるけど少しだけ残業するか……。

 

 俺はがっくりしながらも、ディスプレイと向き合った。

 

 

 

 

 

 気が付いたら、時計は19時を回っていた。

 すでに陽炎さんと青葉さんの姿はなく、提督室には俺と叢雲さんの二人だけ。

 

 叢雲さんと二人だけの時は、あまり雑談しない。まったく話さないわけではないが、話すとしても大抵は仕事の話だ。それすらなくなると、キーボードを叩く音や紙をめくる音だけが、部屋に残る。

 

 今この瞬間までが、まさにそれだった。

 

 「ふぅ……」

 

 先ほどから手をつけていた、任務の棚卸しのキリがよくなったところで、俺は小さく息を吐いた。

 明日のお題によっては、陽炎さんの訓練メニューを変える必要がある。となると、任務の消化にも支障をきたす可能性が出てくるわけで。

 

 棚卸しをしながら色々考えていたら、余計に疲れてしまったのだ。

 

 いったん優先順位をつけて整理したけど、場合によっては依頼元の鎮守府に連絡して、期限を延ばしてもらわないとだなぁ……。

 

 ちらりと叢雲さんを見やる。

 彼女は自身の仕事を終えたのか、背もたれに背を預けて一息吐いていた。机の上の書類も綺麗に片付いている。

 

 「もう上がりですか?」

 「まあね。あんたもそろそろ終わっときなさいよ」

 「ちょうど終わろうと思ってました」

 

 退勤の打刻をして、パソコンの電源を落とす。そして、ちゃちゃっと机の上を片付けながら、

 

 「明日から忙しくなりそうですね……」

 

 独り言のように呟いた。

 

 「まあ、すべてはお題次第ですけど」

 

 叢雲さんからは、「そうね」と一言だけ返ってきた。

 まだ席を立つ様子はないので、俺は話を続ける。

 

 「あの、今更なんですけど……本当に第一にお願いしてもいいんですか?」

 「なんでそんなこと訊くの」

 「えっ」

 

 逆に訊かれてしまい、言葉に詰まってしまった。

 叢雲さんは、まっすぐ俺を見据えている。

 

 「えっと……なんか、話を聞く限り仲悪そうなので……」

 

 最後の方はだいぶ声が小さくなった。あまり人の過去に触れるようなことは、訊きたくないからだ。でも、こればかりは気になってしまった。

 

 ……本当は嫌なのに、無理してたらどうしようって。

 しかし、

 

 「はぁ……あんたいちいち、細かいこと気にしすぎ」

 

 ため息混じりで、あからさまに呆れられてしまった。

 叢雲さんは続けて、

 

 「それと、誤解してるみたいだから訂正しとくわ。仲が悪いんじゃなくて、私が一方的に嫌ってるだけだから」

 「え、そうなんですか」

 

 確かに前者と後者じゃ、まるで意味は変わってくるが。

 

 「誰にだって、馬の合わない奴の一人や二人いるでしょ。ただそれだけの話」

 「な、なるほど……」

 

 意外だな。何事も達観してる叢雲さんが、そこまで嫌うなんて。

 

 「意外だった?」

 

 ぎくり。俺そんなに顔に出てるか……?

 

 「あんたが私のこと、どう思ってるか知らないけどね。私だって嫌いな人間ぐらいいるわよ」

 

 叢雲さんのことは、頼りになる大先輩だと思ってます。言わないけど。

 それにしても、叢雲さんに嫌われるなんて、いったい何をしたんだろうな……。

 

 「あの時の私は、心が未熟だったの。だから何にでも反発した」

 

 そう言う叢雲さんの目は、どこか遠くを見ているようだった。

 

 「昔よ。今から十年ぐらい前のね」

 

 結構前だ。深海棲艦が現れて、少し経ったぐらいだろうか。

 

 「ま、今はそんなことしないけどね。あいつを嫌いなのは、当時の名残りってところかしら」

 「はあ……」

 

 名残りなのか……それはちょっと、気の毒な気もするな。

 

 「仕方ないじゃない。こういうのは理屈じゃないでしょ?」

 「まあ、そうですけど……」

 「仮に当時の記憶を消して、今の私があいつの秘書艦をやったとしても、秒で嫌いになるでしょうね。それだけは断言できるわ」

 

 もうめっちゃ嫌いじゃん。もはや名残りのレベル超えてるでしょ。

 

 「……ちなみに、なんで嫌いなのか訊いてもいいですか」

 

 流れで少し勇気のある質問をしてみた。

 怒られるのも覚悟していたのだが、

 

 「そうねぇ……まずはとにかく、偉そうなところね」

 

 全然そんな様子はなく、普通に教えてくれた。

 

 「あと、いちいち嫌味ったらしいのよ。男のくせに、ねちねちしつこいし」

 

 まじかよ。俺の中の臼井さん像が崩れていくんだが。

 

 「今がどうかは知らないけどね。あんたから話を聞く限りじゃ、昔よりマシになってそうだけど」

 「……なんか、聞いちゃいけないこと聞いちゃった感じですね」

 「なによ、あんたが訊いてきたんじゃない」

 「それはそうなんですけど……」

 

 思っていたより生々しかったというか、リアルだったというか……。

 苦笑していると、叢雲さんはため息を吐いて、椅子から立ち上がった。

 

 「長話が過ぎたわね。さっさと上がるわよ」

 「あ、はい」

 

 言われるがままに、俺も腰を上げて鞄を手に取った。

 そして、そそくさと部屋を出て行く叢雲さんの後に続いて、俺も提督室を後にした。




【補足】

神城:定時後に申し訳ないと思いつつ、霞に連絡した。
   霞からは素っ気ない返事が返ってきたので、やはり迷惑かけてしまったなと気にしている。
   なお、霞はこれっぽっちも気にしていない模様。

霞:急にバカ丁寧な長文が送られてきて、呆れはしたが同時に評価ポイントも上がった。
  また、どこかモヤっとしていた感じが消えて、機嫌も直った。
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