新エリー都に黄色いおじさん現る   作:へか帝

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本誌のワンピおもしれ~と思いながら読み終わったあとゼンゼロのデイリーやって寝て起きたらこれが出来上がっていました



世知辛いね~~

 

「全員乗ったわ! ビリー、アクセル全開!」

「ぃよっしゃ!オレのスターライトナイト仕込みのスーパードライブテクニックをご照覧あれ!」

「準備完了。シートベルトも締めたわ」

 

 夜半。新エリー都郊外にて、慌ただし気な人影が3つ。

 赤ジャケットの機械人が窓から運転席に飛び込み、軽装の桃色の髪の女が助手席に乱暴に乗り込み、大きなバッグを胸に抱えた銀髪の少女が軽快かつスタイリッシュに後部座席に滑り込んだ。

 ガツンとアクセルペダルを踏み抜かれた車両が道路に飛び出し、少し遅れて無数の車とバイクがそれを追うように路地から飛び出す。

 

「逃がすな、追え!」

「向こうは三人だ、見失わなきゃいい!」

「土地勘あんのは俺たちの方だ、逃げられると思うな!」

 

 いかにも荒くれものといった風体の男たちが、声を荒げながら車を追う。

 

「ボス。中身を詰めすぎてチャックが閉まらないわ。少し捨ててもいい?」

「い~わけないでしょっ!!! 私がギッリギリまで粘って金庫からバッグに丹精込めて詰めたんだから、お札一枚たりとも零すんじゃないわよっ!」

「わかったわ。どうにかチャックを閉めてみる」

 

 後部座席に座ってシートベルトまでかっちり装着した少女が抱きしめているボストンバックには、膨大な金額が詰め込まれている。

 何でも屋、邪兎屋。

 金にがめついことで知られる彼女たちは、対立したヤクザな組織から金を持ち逃げしようとしていた。

 持ち出した金額は、組織の命運を決するにあまりある大金。

 絶対に持ち逃げしたい邪兎屋とそれを許さぬヤクザたちの法定速度をまるっきり無視したデッドヒートが、真夜中の道路で勃発したのだった。

 

「いい風が吹いているぜ……今宵、スターライトナイトは風をも味方につける!」

「ちょ、馬鹿ッ! アタシらのこんなオンボロの車で直線勝負したらすぐ追いつかれるわよ!?」

「ボス。シートベルトは着けた方がいいわ」

「着けるわ! 後でね!」

 

 助手席の窓から邪兎屋のボス、ニコが身を乗り出す。

 視線をやれば、ヤクザたちが車両後方すぐそばにまで迫っていた。

 

「テメェら、待ちやがれ!」

「俺たちを敵に回して無事で帰れると思ってんのか!」

「あんたたち、しつっこいのよ!」

 

 背後から追いすがるヤクザたちのバイク目掛けて、ニコが真っ黒なアタッシュケースを窓の外で構えた。

 するとたちまちアタッシュケースの機構が駆動し、内蔵された機関砲が露わになった。

 ヤクザたちがぎょっとした表情を浮かべるが、もう遅い。

 

「ちょ、やめ──」

「バーイ♪」

 

 銃口から迸る黒い弾丸は、道路上に黒い球体となって弾けた。

 巻き込まれたヤクザのバイクが無事に済むわけもなく、彼らは道路の上に爆炎を咲かせ散っていった。

 しかし、爆発を避けるようにして更に後方から新たなバイクが追い付いてくる。

 更には別の道路から合流するようにしてヤクザの車がぞろぞろとデッドヒートに加わってきていた。

 

「チッ、思った以上にしつこいわね……」

「もう高速道路に乗っちまったぞ、振り切れるのか!?」

「だからハイウェイじゃなくてもっと込み入った道路にしなさいって言ったでしょ!?」

「ボス。バッグのチャックが全然閉まらないわ」

「う~~、ちょっと待ってて、考えるから!」

 

 機関砲が内蔵されたアタッシュケースは、デリケートな運用が求められる代物。

 戦闘用に調整こそしているが、今回は無理な起動をしてしまったため一時的に冷却しなければいけない。

 無理に発砲したとて、追いすがるヤクザを一掃する前にオーバーヒートするのが関の山。

 

 車の停止して応戦しようにも、人数差が甚だしい。

 邪兎屋の従業員の戦力には自信があるゆえ、敗北することはないだろう。

 しかし、それでは間違いなく戦闘中にお金を詰めたバッグを奪われてしまうだろう。

 相手はほぼ全員何らかの車両に乗っている現状、回収されたら戦闘を打ち切り、そのままアジトに持ち去られて厳重に保管されてしまうに違いない。

 それはあまりにおいしくない。ニコとしては一番迎えたくない結末といえる。

 

 だが、このまま逃げおおせることは不可能だ。

 最低限の資金で購入したこの中古車では、ヤクザたちの改造車を振り切ることはできない。

 

 ならば、バッグの中身を囮にして逃げおおせるか?

 お金を道路にばら撒くように散らしながら車を走らせれば、ヤクザの幾人かは回収しようと足を止めるかもしれない。

 ……いいやダメだ。一銭たりとも取り零したりはしない。自分からむざむざお金を手放すなどもってのほか。

 頭を振って考慮するにも値しない馬鹿な考えを即座に斬り捨てる。

 

「ギャーッ!?」

「ちょっと、今度はなに!?」

 

 そうしてニコが必死に頭脳を巡らせている中、ドライバーを務めるビリーの悲鳴と共に車両前方からガタン、と音がした。

 

「おォ~~探したよォ~~~ニコく~~ん」

「ハァッ!?」

 

 前方に目を向ければ、そこにはボンネットの上に立ったまま、屈みこんでフロントガラスを覗き込んでくるサングラスの男の姿があった。

 

「運転中すまないねぇ~。うちの店主のお達しで、溜まったツケを払ってもらいてぇんで」

「い、今ぁ?」

 

 ニコにツケた領収書を指でつまんでぴらぴらと見せびらかしているが、無論この車両は高速道路を法定速度を遥かにぶっちぎる速度で走行中である。

 

「電気代が高騰してるみたいでねェ~~~。ウチのビデオ屋も悲鳴を上げててねェ。世知辛いね~~」 

「ムリムリムリムリ! てかそこどきなさいよ! 運転の邪魔!」

「今月中に支払わないといけないみたいなんだけど、アキラくんが珍しく、うっかり勘定を間違えててよォ」

「私たちそんなのんびり話してる場合じゃないのよ! 見て分かるでしょ!?」

「そうは言っても、今はお金のアテがニコくんのとこしかないみたいでねぇ。わっしも手ぶらで帰る訳にはいかねぇんで」

 

 そうこう話している間も、ビリーがくねくねと体を左右に揺らし、かろうじてスキマから正面の道路状況を確認して運転している。

 まっすぐ道が伸びている高速道路でなければ事故は免れなかっただろう。いや、だとしても危険運転極まりない状況。

 とはいえあのビデオ屋姉妹はニコたちにとっても重要な取引先であり、邪険に扱うことはできない。

 使い走りをさせられているこの男にしてもそうだ。

 

「わ、わかったわ。幸いお金は手元にいっぱいあるから、渡したらそこからどいてちょうだい」

「ボス。チャックが閉まったわ」

「アンビー? 早速で申し訳ないんだけどバックからお金を取り出してもらえる?」

「わかったわ。……ボス。チャックが開かないわ」

「貸しなさいっ! 固ッ!? あんたこれよく閉めたわね!?」

「ええ。お金が一枚たりともはみ出ないように完全に閉じてあるわ」

「い、一枚くらい簡単に取り出せるところに入ってないの!?」

「ええ。絶対にお金が零れないように完全に閉じてあるわ」

「ん、ぎぎ……ダメ、開かない……!」

 

 ニコが思いっきり奥歯をかみしめながらチャックを引っ張るが、ビクともしない。

 パンッパンに詰められた札束によってバッグは内側からギチギチに膨らんでおり、ファスナーにテンションが掛かって動く気配がまったくしなかった。

 

「ところでニコくん。周りの車はお友達かい?」

「違うわよ! 全部ギャング! 私らの敵! だからこんな声を荒げてんの!」

「おォ~まあ、落ち着いて~」

「落ち着けるわけないでしょっ!!! 逃げきれるかどうかの瀬戸際なのよ、私たちは今!!!!」

 

 バッグのファスナーを引っ張りながらニコが吠えた刹那、閃光が走る。

 

「う、眩し! 落雷かぁ!?」

 

 まっさきに光に反応したのは、しきりに前方確認をしていた運転手のビリー。 

 

「待って。エンジンの音が周囲から消えたわ」

 

 次に気づいたのは、チャックを閉めるという大義を終えて手持ち無沙汰になったアンビー。

 

「はぁ? 何言ってんのよ、そんなわけ……」

 

 そしてニコが窓から身を乗り出して背後を確認してみれば。

 

「いなく、なってる……」

 

 先ほどまでずっと怒鳴り散らしながら邪兎屋の車を追いかけていた組織の車やバイクが、一台たりとも追跡していなかった。

 

「誰も彼も凄腕って噂してたけど、あんたこれ、いくらなんでもどうやって……」

 

 ニコが窓から顔を引っこめて男のいた方を見やれば、既にそこに男の姿が忽然と消えていた。

 代わりに、バックがあった場所にすり替えるようにツケの領収書だけが残されていた。

 

「……ハァ~~~ッ!?」 

 

 

 当然、邪兎屋はそのままの足で六分街のビデオ屋へと怒鳴り込みに行った。

 

 

 

 

 

 

 これは新エリー都に突然現れた、サングラスをした身長3mの黄色いおじさんの話である。

 




今本誌で一番アツい男、ボルサリーノ
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