新エリー都に黄色いおじさん現る   作:へか帝

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本誌で黄猿がルフィのギア4『スネイクマン』をしれっと無傷で突破してるの、読み飛ばしがちだけどさり気にエグい描写ですよね
 未来視の領域に至ったカタクリの見聞色でさえ最初は看破できず、百戦錬磨のカイドウにさえ有効打になったスネイクマンを、初見でですよ?
 スネイクマンの演出が好きだったからこそ、それをやすやすとねじ伏せる黄猿に私はえらい衝撃を受けました。
 やっぱり海軍最高戦力ってスゲー。




わっしは断ったんだけどねェ~

「やぁ、戻ったよォ」

「あ、黄猿さん!」

 

 ある程度の長身であっても多少屈む程度で済むはずの店の入り口を、膝ごと大きくしゃがんで店に入ってきたのは、ボルサリーノという人物。

 黄色いストライプのスーツに曇りサングラスを掛けた3mの長躯のおじさんで、黄猿というのは彼を指す愛称である。

 

「このチョコミントアイスってえの、ずいぶん人気なんだねぇ。売り切れギリギリだったよォ。危ないところだったねェ~~」

「ホント? チョコミント味もじわじわ人気が浸透してきてるのかな」

「外は暑いね~~。溶けないか心配で、急いで戻ってきたよォ」

「黄猿さんが急いだんなら、アイスなんて1mmも溶けてないでしょ!」

「そうだといいんだけどね~~。それはそうと、店長にお客さんだよぉ」

 

 アイスの袋を提げた3m超の黄色いスーツの後ろからひょっこりと姿を表したのは、治安官の青い制服に身を包んだ女性。

 

「こんにちは、リンちゃん。」

 

 親し気に名前を呼んでくれたその女性の姿に、リンは見覚えがあった。

 

「あれ、朱鳶さんだ!? 六分街に来てたんだ!」

「ええ、こうしてお店に来るのは久しぶりですね」

「来てくれて嬉しい! でもなんで朱鳶さんが黄猿さんと一緒に?」

「わっしは……何かと朱鳶さんの世話になることが多くてねェ」

「ああ、職務質問で! 黄猿さんの見てくれってすごく怪しいもんね!」

「リンちゃん、失礼ですよ。ボルサリーノさんはよく暴漢の捕縛などに協力してくださることが多くて、それで自然と知り合ったんです」

 

 悪気なくにこやかに納得したリンを、朱鳶が慌てて窘めた。

 とはいえボルサリーノも異様で極めて目立つ風貌からたびたび職務質問を受けたことがあるため、リンの早合点を自分の口から否定しづらかったりもする。 

 

「そうなの? 黄猿さんならそれも納得……

 あれっ、でもでも、朱鳶さんは特務捜査班なんでしょ? 六分街は管轄じゃないじゃん」

「ええ。それも理由があって……ボルサリーノさんが捕まえるのが単なるチンピラではなく、特殊指名手配犯ばかりだからですね」

「特殊指名手配犯!? 黄猿さん私たちに知らせずそんなことしてたんだ!」

「わっしとしたことが、うっかり居合わせっちまってねェ~」

 

 自慢するでもなく困ったように片手でサングラスを掛け直すボルサリーノを、リンは目をキラキラさせて見上げていた。

 それほどの悪漢を相手にしてきたことを今まで気取らせることもなく、ケガを負って戻ってきたこともないのだから、彼の仕事人としての優秀さには底が見えない。

 言いながら渡されたビニール袋の中を改めてみても、もちろんチョコミントアイスはキンキンに冷えていて溶けだす気配もなかった。

 

「ここいらは悪党が隠れ蓑にでもよく選んでいるのかねェ~? 見逃すわけにもいかねェしよ」

「あ、あはは……ただの閑静な街だと思うけど……」

 

 六分街を隠れ蓑に選んだ悪党。それはプロキシという裏の顔を持つリンも該当する。

 インターノットを介した無断ホロウ侵入を扶助するプロキシという稼業は、立派な違法行為。

 新エリー都共興のため黙認されがちなグレーラインとはいえ、次期治安局長と目されている朱鳶が曖昧な決断を下すわけがない。

 リンとしては後ろめたいが、プロキシ業を営んでいることは彼女にだけはバレるわけにはいかないのだった。

 

「リンちゃんはご存じなかったのですか? 暴徒を制圧したという通報があったと思えば、現場にはほぼ確実にボルサリーノさんがいるんです」

「え、すごい」

 

 それは、最近六分街からの通報で頻繁に発生する珍事でもあった。

 暴漢や不審者を取り押さえたから来てくれという通報に治安官が駆けつけると、必ずこのボルサリーノという男がいる。

 取り調べにも協力的で、街の住民の証言などもあって明確に『犯人』を捕えてから治安官を呼びつけているのだ。

 

「あなたの手早く制圧する手腕には本官も敬服いたします。地区担当の子たちも、現場にいって犯人を移送してるだけなのに評価が上がってて複雑そうな顔をしていますよ」

「治安官の子も立派に勤めを果たしていると、わっしは思うけどねェ~」

「い、意外だ。黄猿さんと朱鳶さんがこんな意気投合してたなんて」

「そうですか? ボルサリーノさんはとっても正義感の強い方ですし、尊敬できる方だと思いますけど」

「正義感……それは、確かに」

 

 ちらりとリンが視線をやったのは、壁に掛けられた巨大なコート。

 自然と朱鳶もリンの視線の先を追えば、純白のそれが目に入った。肩の部分には金糸で編まれた肩章が編み込まれており、格調高さを感じさせる。

 なにより目を引くのは、背面に絶対に見逃せぬ大きさで記された『正義』の字。

 

「おや。これは……ボルサリーノさんのですよね」

「んん……あぁ」

 

 丈からしても、ボルサリーノ以外の誰にも羽織れないサイズ。持ち主は一目瞭然であった。

 しかし朱鳶の言葉に、ボルサリーノは妙に煮え切らない態度だった。 

 

「このコートは……何かと重くてねェ。今は降ろしてる」

「む。何か事情がおありのようですね」

「え、私も知らない」

 

 朱鳶とリンがちらとボルサリーノの顔を見上げるが、彼の表情は曇ったサングラスのブラウンに覆い隠されており、伺い知れない。

 なおも沈黙を貫くボルサリーノに、朱鳶が言葉を投げかける。

 

「ですが……着ていてもよろしいのでは? 少なくとも、私の知るボルサリーノさんはこのコートを羽織るのに恥じないお方に思えます」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけどねェ~……」

 

 飄々とした、真意のわからない声色でボルサリーノが二人につぶやく。

 

「こいつを羽織るとイヤ~なしがらみも、山ほどついてくる……」

「ボルサリーノさん。それはどういう……」

「まァ、今は荷物を降ろして休むと決めててねェ。そのうちまた、背負い直すよォ」

 

 今までと違うきっぱりとした声色。

 それはこれ以上は話すつもりがないという、二人への明確な決別の態度であった。

 相も変わらず彼らしい謎めいた態度に、朱鳶は気を悪くすることもなくあっさりと話を変えた。

 

「コートはさておき。ボルサリーノさんにはぜひ治安局まで足を運んでいただきたいんですよ? あなたには授与予定の賞状が何枚もあるんですから」

「えぇっ! 朱鳶さん、それ本当!?」

「ええ。逮捕に協力してくださった市民の方を褒賞するものです。ボルサリーノさんが連絡する間もなく立ち去ってしまうので、未だに渡せずじまいですが……」

 

 ただの悪漢を一般市民が捕えたというだけでも大手柄なのに、ボルサリーノは特殊指名手配されるほどの犯罪者を複数名捕えている。

 これに何も報いないというのは治安局の沽券にも関わる話なのだが、いかんせんことボルサリーノという男、足が速い。

 捜査に必要な証拠をすべて提供したかと思ったら、風のように現場を後にしてしまうのだ。

 ゆえに治安局には彼に宛てたの賞状が何枚も用意されたまま、授与式を待っている。

 

「黄猿さん、もらいに行ったらいいのに!」

「まァまァ、金や名誉を目当てに手伝ったわけじゃあねェんで」

「えーっ? 賞状、お店に飾るよ? お兄ちゃんも絶対賛成してくれるし!」

「ええ、ぜひリンちゃんからも念押ししてあげてください。懸賞金を振り込む手続きもありますから」

「……えっ?」

「特殊指名手配犯の捕縛と通報ですよ? 我々治安局は協力者に手配書に記された懸賞金を支払う義務があります」

「黄猿さん、絶対行くよ!!」

「弱ったねェ~~。式典は退屈で苦手なんだけどねェ……」

 

 両腕でボルサリーノの裾をつかんでぴょんぴょん跳ねている店長を見て、ボルサリーノは観念したように首を振っていた。

 短い付き合いながらも、こうなったリンがもう絶対に聞き分けないことを彼は知っているのである。

 

「ところでリンちゃん。ボルサリーノさんは現在このビデオ屋さんに厄介になっているとのことですが」

「う。そうだけど……?」

 

 鋭く会話に割り込んできた朱鳶に、思わずリンの喉が詰まる。

 朱鳶とリンは互いに良き友人だと思っているが、プロキシ稼業のことがあるため、リンに強く言葉をかけられると『もしや』と思って心臓を掴まれたような気分になるときがしばしばあるのだ。

 もちろん、ほとんどの場合それは取り越し苦労になるのだが。

 

「こちら。ぜひ目を通していただきたくて」

 

 さっと差し出されたのは、一枚の紙。

 まさかプロキシ業を示唆する証拠写真じゃ……などとリンが心臓をバクバクさせながら紙を手に取ると、それは制服姿の治安官が描かれた紙だった。

 裏面には大きく治安局への連絡窓口も記されている。

 

「これ、治安局のパンフレット?」

「ええ。雇い主にも共有しておくべきかと思いまして」

「わっしは断ったんだけどねェ~」

「ああ、要するに外堀から埋めようとしてるわけね……」

 

 単なる引き抜き狙いのスカウトだったとわかり、リンはほっと胸をなでおろす。

 

「ボルサリーノさん。こちらのコートはわかりませんが、治安局の制服にはいつでも袖を通していただいて構いませんので」

「ダメだよ、黄猿さんはうちのなんだから! 目の前で引き抜きなんて許さないよ!」

「転職、いつでも歓迎してますからね」

「悪いけど、わっしにそのつもりはないよォ」

 

 熱心な朱鳶の勧誘に、ボルサリーノは背を向けてひらひらと手を振り、そのまま駐車場につながる裏口へと出て行ってしまった。

 

「あら。気を悪くしてしまったのでしょうか……」

「えー? やさしい黄猿さんに限ってそんなことないと思うけど……」

 

 形ばかりのあいさつもなく場を去ったボルサリーノに朱鳶が非礼を働いたのでは案じた直後、彼女の耳に装着したインカムに、緊急の無線が入る。

 

『六分街にて強盗事件発生! 応援求むッ』

 

 即座に友人と談笑に興じる女性としての朱鳶は鳴りはひそめ、優秀な治安官としての朱鳶が顔を出す。

 一瞬だけ詫びるようにリンに目くばせをして、店の外に駆け出しながら無線に集中。

 

「こちら朱鳶、向かいます、犯人の特徴は!?」

『猫の亜人、性別男性、若く青い毛並みで──』

 

 ドアを開けるとドン、と誰かにぶつかった。

 

「朱鳶くん。帰るついでにこいつ、持っていってくれるかい」

「──ッ!」

 

 無線の内容に意識を割きながらビデオ屋を飛び出した朱鳶を待ち受けていたのは、今しがた裏口側に姿を消したはずのボルサリーノ。

 彼の手には、首根っこを掴んで持ち上げられた亜人の姿がある。

 後ろ手にロープで拘束されており、宙にぶら下がってじたばた足を動かして抵抗していた。

 拘束された男は猫の亜人で、若く毛並みが青い。

 極めつけに、遅れてボルサリーノを追ってくるのはひったくりにあったであろう若い女性の声。

 

「そ、その人です! その人が私のカバンを!」

 

 朱鳶はぱちぱちと目の前の出来事を処理しようと複数回まばたきすると、一呼吸置いてからボルサリーノに言った。

 

「ボルサリーノさん」

「ん~~?」

「服のサイズ、教えてください。治安官の制服作っておきますから」

 

 この男は、なんとしてでも治安官に仕立てあげるべきだ。

 そんな決意を抱いた朱鳶は、この日から六分街のビデオ屋に遊びに行く頻度が増えたという。

 

 




 最強の悪魔の実といえばほぼ間違いなく『ピカピカの実』『ゴロゴロの実』の二つが挙げられますが、みなさんはどっち派ですか?
 夜を明かせるくらい興味深いテーマだし場合によっちゃ喧嘩になる議題かも。きのこたけのこ戦争みたいに
 ゴロゴロのほうが扱いやすそうだし明らかに攻撃力に秀でていますが、ピカピカの『光』というロギアのなかでも自然物としての全能感も捨てがたい
 答えはでなくても、意見をぶつけあうだけで楽しそうですね
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