新エリー都に黄色いおじさん現る   作:へか帝

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このシリーズ、一話書き終わってから二日は語尾が「ねェ~~」になる

雅が強くないとヤダ。黄猿が強くないとヤダ。
そのような感情の板挟みでこの話はできています

あとロギアが覇気纏えるかどうか早く判明してくれ~


命がいくつあっても足りないねェ~

「見つけたぞ。修行だ」

「参ったねェ。まさかお店まで訪ねてくるとはねぇ~~」

 

 ビデオ屋で問答するは、二人の男女。

 一人は黄猿と呼ばれる黄色のスーツの男。身長302cm。

 もう一人は星見雅という、狐のシリオンの女性。身長170cm(耳を含む)

 

「え、ええっと? まず二人に面識があったことが驚きなんだけど」

 

 困惑しつつ会話に混ざったのは、このビデオ屋の店主。

 意外な組み合わせではあるが、どうにも会話の流れが読めない。

 一触即発というほどではないが、間を取り持った方がよさげな雰囲気が出ていた。

 

「プロキシよ。この御仁をお借りしたいのだが、構わないな?」

「先にわっしに了解を取ってほしいね」

「あー……待ってくれ。まずは雅さん」

「なんだ?」

「うちの黄猿さんを貸すのはいいとして、用途はなんだい?」

「無論、修行をおいて他にあるまい」

「あー、うん。まずはわかった」

 

 言葉少ななながらも、彼女と付き合いから概ねの前後関係はわかった。

 星見雅と修行は切っても切れない関係にあるので、予定調和といったところか。

 するとやはりわからないのは黄猿のほう。星見雅という人物はたやすく縁を結べる立場ではない。

 戦力としてもアイドル的な意味でも強烈な影響のある新エリー都のスター。

 誰もが一目見ようと躍起になっているし、交友関係を結ぼうと血眼になる企業人は枚挙にいとまがない。

 当人がホロウでの作戦行動以外にほとんど興味を示さないこともあって、知己を得るのは困難なはずだ。

 

「黄猿さん。こちらの雅さんとはいったいいつ知り合ったんだろうか」

「知り合ったってほどでもないねェ。忙しそうに走っていくのを眺めただけだが……」

「それだ。この者は誰にも見られずに目的地にたどり着く修行をしている私を……あろうことか目で追った」

「気味が悪ぃんで、撒いて店まで逃げてきたんだけどねぇ。見つかっちまったようだ」

「ま、撒いたのかい? 雅さんを?」

「プロキシ。もう分かるだろう。こやつは只者ではない。ぜひとも手合わせを願いたいのだ」

 

 先日、ホロウ内の作戦でイアス目掛けて彼女が時速200kmで接近してきたことは記憶に新しい。

 それほどまでに星見雅の身体能力はずば抜けている。人間とは何かをもう一度考え直させられるほどだ。

 

「なるほどね。この場合は黄猿さんを説得すべきのようだ」

「おっと。そういう風向きかい? こりゃ参ったね……」

 

 だが、人間離れという意味では黄猿も負けず劣らずであると、店主アキラは認識していた。

 だからこそ、その片鱗を感じ取った雅は黄猿を修行に誘おうと躍起になっているのだろう。

 彼女と競える領域にある人物など、両手で数えるほどもいまい。

 はるばるビデオ屋まで来た雅の熱量もわかるというものだ。

 

「黄猿さん。この方はH.A.N.Dというホロウと戦う組織に属している人でね。身柄は僕が保証するよ」

「あァ……言われてみればポスターか何かで同じ顔を見た気がするねェ」

 

 映画、雑誌、新聞、ポスター、コマーシャル。新エリー街のどこにでも、彼女を筆頭とする対ホロウ六課を讃える情報がある。

 公式にアイドル活動をしているわけでもないのに、外野のファンの熱量だけでこうだというのだから、彼女たちの人気ぶりが知れるというものだ。

 

「対ホロウ六課といえばこの街の英雄さ。彼女はその課長なんだ」

「『英雄』。そりゃすごいね」

「私がその称号を受け取ったことは一度もない。未だ己に課せられた務めを果たせていないのだからな」

「その務めってェの、聞かせてもらっていいかい? 修行に付き合うかどうかはその返答で決めよう」

 

 その問いに星見雅は鞘に納められた刀を携え、答える。

 それは幾度となく口にしてきた誓いだった。

 

「徐悪務本。ホロウを断つ。それをおいて他にない」

「わかりやすくていいねェ」

「友人から聞き及んでいる。私と同じ、『正義を背負う』先達がいるとな」

 

 目を向けた先には、壁に掛けられた白い軍服がある。

 

「率直に頼みたい。力を貸してくれ」

「まったく……誰も彼も眩しくてイヤになるねェ……」

 

 

 

 

 

 

 

 ところ代わって、場所は郊外。

 特にここは古くから星見の者が修行場として使ってきた、関係者のみの立ち入りが許可された地域。

 彼が提示した条件がこれだった。

 人目が付かず周りに壊れるようなものがない場所を用意すること。

 であればここはまさに草の生えぬ開けた荒野であり、一騎討ちには好都合。

 

 既に双方、準備はできている。

 正面には、黄猿の愛称で知られる巨漢がたたずむ。仕合を前に、緊張も動揺も見せてない。

 構えすら取らず、両手をポケットに突っ込んでいるような有様。

 愚弄しているのかと声を荒げたくなる佇まい。

 

 なれど、彼の背には羽織った白いコートが荒野の風にはためいている。

 『正義』。

 旗のように踊る二文字が、生半可な矜持で彼がここにいるわけでないと証明してくれる。

 

「しからば、参る」

 

 実力の図れぬ相手を前に、膠着状態を作るのは好かない。

 まずは先手を取る。

 

「小手調べといこう」

「怖いねェ~。”対ホロウ六課”」

 

 踏み込みとともに無数の斬撃を放ち、太刀筋を雪崩のごとく重ねて間合いを詰める。

 万物を切り裂く斬撃の嵐。決して避けることの叶わぬ、必中の技。

 並みの使い手であれば、これで終幕だが──。

 

「『鉄塊』」

「な、に……!?」

 

 がきぃん。

 己の狐耳に突き刺さる、つんざく金属音。

 大地と大気を裂く太刀筋は、男の腕にぶつかると火花を散らし弾き返された。

 まるで鋼鉄と打ち合ったかのような手ごたえ。

 しかし軍の戦闘兵器の装甲板だろうとなで斬りにする自信が私にはある。

 なれど今しがた刀から返ってきた感覚は、過去に類を見ない硬度だった。

 

自然系(ロギア)で受けたら修行にならねェからよ。こういうやり方するしかないよねェ~」

「お前は人間ではないのか? だがいかなる金属であれ、私に切れぬものなどないと思っていた」

「人間だよォ」

 

 その声は、背後から聞こえた。

 体のいかなる反射反応より早く、男の踵が脇腹に食い込む。

 蹴られた、と分かったときには既に凄まじい勢いで吹き飛ばされていた。

 

「ヴィクトリア家政の子のときも思ったが……やはり守りが拙いねぇ。

 ……ホロウ調査は、時間との勝負。誰もが攻めに秀でた鍛え方になるのは当然ってワケかい?」

 

 距離にして数十メートル。

 それほどの距離を飛ばされてようやく空中で身を捩じり、受け身を取って着地。

 もしもここが市街地であれば幾重もの建築物に激突し、著しく身を打っていただろう。

 これではまともに受け身が取れたとはいえまい。ここが開けた修練場ゆえに助かっただけだ。

 ……閉所での受け身の修行を、増やさねばなるまいな。

 

「仕事でもねェのに女を蹴るのは……気が進まないよねェ」 

「速い。目で追えぬほどに」

 

 先ほどはあまりの速さゆえに受け身が遅れた。防御姿勢をとって衝撃を逃がすことさえできなかった。

 この私が知覚できぬほどの速攻。そして痛みが体に残らないことで、手加減されたのを自覚する。

 ──格上、か。

 もとより実力のほどが見通せぬ相手ではあったが、はるかに私の想定を超えている。

 

 ああ。

 なればこそ、修練の甲斐があるというもの。

 

「”八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)”」

 

 視界の奥で、男が腕を交差するのが見えた。

 指先から閃光が瞬き、全身を悪寒が駆け巡る。

 

「精々……お気をつけなすって」

 

 体は無意識のうちに刀を構えていた。

 次の瞬間、光の弾丸が無数に放射される。

 

(先の小手調べの意趣返しか……!)

 

 襲い掛かる光の玉の軍勢を無我夢中で捌き、反らし、身を守る。

 そらした光が地面に当たればじゅうと煙を立てて、焦げ付いていた。一発でも防ぎ損なえば、ただではすまないだろう。

 私の身体は刀剣を弾き返す金属などではないのだから。

 

「く……ッ!」

 

 光弾の乱打は、己が刀を動かすスピードの限界に近かった。

 最新式の機関銃に集中砲火されようと容易くすべての銃弾を切り伏せる自信があったが、この光の乱射はその比ではない。

 余力はまったくないが、それでもかろうじて襲い掛かる光のかけらの悉くを弾き返す。

 

「おォ~~。こんなバケモノ染みた剣士は……数えるほどしか見たことがないねェ~」

「私は一度もない。その話、あとで詳しく聞かせてもらおう」

 

 ようやく光の雨が止んだとき、すでに肩を使わねばならぬほどに息が上がっていた。

 その時点で、普段の修練では到底得られない負荷が掛かっている証拠。

 この修行を通して得られる数多のものを予感し、高揚が隠せない。

 

 それに今の話。この男は私に比肩、あるいは超える剣士と立ち会った経験があると言う。

 私は生まれてこの方、己を超える剣士には一度も遭遇したことがない。足元に及ぶ程度でさえ難しいだろう。

 修行が終われば、必ずや問い詰めねばなるまい。

 

 さて。距離を離していれば次弾が来る。ただちに間合いを詰めるべきだ。

 だが……先ほどの蹴り。

 予備動作も過程もすべてが捕えられぬほどの速さ。

 目視はもちろん、肉体の反射でさえ間に合わなかった。

 次また同じ技を繰り出されても、効果的な対処は難しい。

 ならば。

 

「ならば、それすらも斬り伏せる!」

 

 駆け出すとともに自らの周囲に斬撃を繰り出し、刀の軌跡によって守りの衣と成す。

 攻めではなく守りの剣技。バリアのように斬撃を纏い、光弾も蹴りも一刀のもとに断ち切る。

 

「『嵐脚』」

「っ、これは!」

 

 だが突如として目前に飛来する真空波。

 これは、これほどのものは数撃ちの守りの衣では防ぎきれない!

 

「く……!」

 

 刀を握り直し、これを辛くも弾き、私は反動で大きく後退せざるをえなかった。

 飛ぶ斬撃。達人の域に達した剣士が会得する技術。無論私にも心得があるゆえ、咄嗟に反応できた。

 一体どこに刃物を隠し持っていたかと見やるが、得物を握った様子はない。

 代わりに、男は足を振りぬいた姿勢を取っていた。

 

「自然系のわっしは伸ばさなかったが……こういうときは役に立つよねェ~~、『六式』」

「……よもや、蹴りで斬撃を飛ばすとは」

 

(……恐るべき切れ味)

 

 背中を冷たいものが伝う。飛来した斬撃は極めて鋭い太刀筋だった。

 一人の剣士として、感じ入らざるを得ない。

 咄嗟に適切な受けの姿勢を作れなければ、愛刀もろとも吹き飛ばされていただろう。

 星見の妖刀を以てして、半端に受け止めることが許されぬほどの威力を、素足によって繰り出す蹴り。

 滅多に対峙することのできない互角以上の相手に、私は慄くとともに、自然と心の内に尊敬の念が湧いていた。

 

「その蹴術。是非に習いたい」

「立派な刀ァ持ってんだから無用の長物でしょうに」

「帯刀が許可されない場合がある。やはり手刀では心もとない」

「そうかい。組織の重役は、どこも苦労が多そうだねェ~」

「ッ!」

 

 差し向けられた指先から光線が迸るのを、すんでのところで回避する。

 一挙手一投足を注視していたからこそ、反応できた。

 次に何をしてくるのか。それを徹底的に予想し、あらゆるケースに対応する。

 見てからの対応では間に合わない。常に未来を予測する。

 

「!」

 

 彼の姿がブレた。背後を斬り払う。

 刀はガキンと金属音を伴って彼の蹴り脚と打ち合った。

 

「おォ。すごいね……。ここが海なら……”億越え”の手配書は硬ェでしょう」

 

 半ば偶然。されどこの距離、この間合い。

 

「好機!」

 

 己が鍛え上げた最速最良の軌跡によって刀を振るう。

 

「『紙絵』」

 

 しかし男はまるで予め刀を軌跡がわかっているかのようにするりするりと身を躱す。

 並みのエーテリアスであれば微塵にできるほど技を繰り出そうと、まるで捉えられる気配はない。

 これほどまでに彼我で力の差が離れているのかと心に影が差すか、すぐに違和感を覚える。

 

(攻撃が、先読みされている……?)

 

「ならば……!」

 

 心を虚ろにし、無心のままに刀を振るう。

 狙いを定めず、敵意さえも込めず、さながら素振りの修行のように。

 すると予想を証明するように、紙一重で攻撃をさけていた男が急に斬撃を嫌がり、飛び退いて刀の間合いから外れた。

 

「早いねェ、気づくのが……」

「予想は当たっていたか」

 

 やはり。

 いかなる手法か、間違いなく相手はこの私の心の内を読んでいる。

 星見の最高傑作と謳われたこの私の太刀筋が、こうも容易く丸裸にされるとは考えにくかったのだ。

 

「だがそれは──まともな攻略法にはならねェよ」

「……そのようだな」

 

 言われるまでもなく、気づいていた。

 これでは攻勢に転じることができない。

 心身ともにあってこその剣士。まして相手は当代の虚狩りに比肩するほどの使い手。

 このような半端な技で刃が届くはずもなし。

 

 それにたとえ剣筋があらかじめ読めたとして、どれほどの人間が私の刀を避けきれるのか。

 読心とそれに伴う回避術。これは膨大な錬磨の上に積み上げられた技術だと悟る。

 ならばこのような付け焼刃の対策では、通用する道理はない。

 

「しかし無敵の防御など存在しない。何か攻略の糸口があるはずだ」

「あァ。これはれっきとした”技術”。あらゆる状況を察知する魔法の力じゃねェ……」

 

 直後に這うように地を駆け、死角に回り込みつつ神速の居合を見舞う。

 可能な限り挙動を見えづらくした、意識外を穿つような一撃。

 

「ぉおっとっと……! 間に合ったねェ~『鉄塊』」

「やはり。見えてきたぞ」

 

 胴を切り離さんと薙ぎ払った一刀は、またしても火花を散らし弾かれた。

 つくづく人体を斬りつけたとは思えぬ現象だが、これにもからくりがあるようだ。

 

「体を一時的に硬化する技能だな。少なくとも、常に発揮できる常在の力ではないと見える」

「ご明察」

「読心にしてもそうだ。精度を高めるほどに消耗が強まるのだろう。万事を見通す千里眼ではない」

「若くて優秀で、怖くなるねェ。今後も精進しなすって」

 

 直後に腰の横合いにかかとが食い込む感触。

 まただ。すでに蹴られている。

 だが蹴り飛ばされるより早く、身を捩じり回転させることで力を流しつつ、刀を振るう……!!

 

「おぉ……!? 怖いね~~!!」

 

 男には寸でのところで上体を反らして切っ先を避けられた。

 私もまた、蹴られた力の流れを体ごと回転させ続けることでいなし、宙で身を翻して着地する。

 

「二度三度と同じ技が通用するとは思っちゃいなかったけどよ……とことんバケモノ染みてるねェ」

「いや。こたびの蹴りは予測できなかった。意識の虚を突かれたのは私だったということだ」 

 

 予想はできなかった。だが、目が慣れ始めている。咄嗟に反応できたのもその影響だ。

 はじめはその速さに度肝を抜かれたものだが、私の才も捨てたものではないらしい。

 もっと観察する機会に恵まれれば、カウンターを合わせることも不可能ではなかろう。

 

「こりゃ出し惜しみをしていちゃァ、食われるのはわっしの方かもしれないねェ……」

「まだ芸を隠しているのか?」

「一芸だけじゃあ……中々立ちいかねぇもんで。──”天叢雲剣(あまのむらくも)”」

 

 突き出した両手に光が集まり、虚空から巨剣が生じた。

 技の性質を洞察するより先に、動かれる……!

 

「むぅんッ!」

(速い……ッ!)

 

 容赦なく振り下ろされる大剣を愛刀で迎え撃つ。

 半ば賭けに近い行動だったが、宝刀『躯討ち・無尾』は見事に光の刃と打ち合ってみせた。

 その後も一気呵成に連撃が叩き込まれるのを、私は持てる技術のすべてを投げうって叩き返す。

 

「……参ったねェ。わっしもそこそこだけど……こりゃ剣術はァ……ちっと分が悪そうだねェ」

「ふざけた謙遜だ。今日まで私と打ち合える剣士など、この新エリー都に存在しないと思っていた」

「この剣才。『世界徴兵』で突然やってきた……”藤虎”を思い出す……!」

 

 実体のない光の刃は、しかしなかなかどうして凄まじい剣圧だった。

 一太刀打ち返すたびにビリビリと腕が痺れるほどの負荷が返ってくる。

 それでいながら、光の刃が重さのない剣として縦横無尽に振るわれる。

 

「これほどの刃渡りの刀剣が、重厚な剣気を伴って風のように振るわれる。恐るべき脅威だ」

 

 大きさゆえの取り回しの悪さを全く感じさせない自由な太刀筋に、私は防戦に押し込められていた。

 こと剣術においては私に一日の長があるはずだが、リーチと武器の重量差から互角に持ち込まれている。

 少なくとも、私の得意とする速斬を繰り出すだけの暇は作り出すことができない。

 

「ならば」

 

 背後に飛び退き、あえて自分から間合いを離す。

 近すぎもせず、離れすぎもせず。絶妙な距離感。

 男は必ずや離れた間合いを詰めに来るだろう。勝算があるとすればその瞬間。

 私は素早く刀を鞘に納めて低い構えを作った。

 居合。一撃に持てる技術の粋を結集し、これを以て光の刃を突破する。

 

 今までの私では、一矢報いることはできない。ゆえに、この土壇場で……同じ動きを真似する。

 

 ──見えた。

 ……そういうことだったのか。

 これまで幾度となく後れを取った不可避の速攻、その前兆。

 ()()だな?

 

「斬ッ!」

「……! ゥ、こりゃァ……!」

 

 胴を切り裂く、乾坤一擲の水平斬り。

 手応えあり。

 ……初めての有効打。背後で彼が膝をつく音がした。

 

「一本、取られたね……!」

 

 刀を静かに納め、振り返る。

 

「勝負、あったようだな」

 

 全力の一撃であったが、当然彼は出血していない。

 刀が肉を裂いた手ごたえもなかった。つくづく面妖な技術である。

 だがそのおかげで加減抜きの本気の修練ができたのは間違いない。

 

「っとっと、いてて……。”後半の海”でも通用するような手練れに修行とつけるとあっちゃ……命がいくつあっても足りないねェ~」

「良き修練であった。礼を言わせてくれ」

 

 男はサングラスを掛け直し、軽くよろめきつつも立ち上がる。

 修業とはいえ、痛恨の一打を受けた直後でこの身のこなし。なんと頑強な肉体か。

 

「お互い疲れもあるだろう。このあとは星見の屋敷でもてなさせてくれ」

「いいのかい? 助かるね」

「気になる話もある。感想戦も必要だ」

「……見上げた向上心だねェ。付き合うよ」

「ああ、屋敷まで案内する」

 

 先導しながら考えるのは、やはり先の戦いのこと。

 ああ、迷うな。

 何から尋ねるべきだろうか。

 攻めの心理? 防御のいろは?

 

 特筆すべきは途中で扱っていた、あの読心の技術か。太刀筋を見切る紙のような身のこなしのことも知りたい。

 そうだ、蹴り脚によって刃物のごとき真空波を飛ばす技についても尋ねねばならないな。

 徒手での戦いにも心得はあるが、斬撃を放てるほどの練度ではない。

 

 いかなる修行法であれば、あのような芸当が身につくのか想像もつかない。

 彼が今までに積み重ねてきた修行にも興味がそそられる。

 気づけば陽も落ちている。あれこれ聞いていては、あっという間に夜が更けてしまうだろう。

 だが、やはり最初に聞くべきは。 

 

「お前のあの神速の歩法。()()()1()0()()地を蹴っていた。私の猿真似でも形にはなったが……あれはなんだ」

「あれァ……『剃』って名前でね。お嬢さんがきちんと修めりゃ、わっしよりよほど速度も距離も出るだろうね」

「『剃』。して、修行法は?」

「……わっしは六式の教官じゃないんだけどねェ……」

 

 

 

 

「それと、明日の修行は何をする?」

「連日かい!? 聞いてないよォ~!?」

「まずは噂に聞く『光の速さ』で蹴られてみたいのだが」

 

 

 




おじきは愛弟子がいるだけあって面倒見がよさそう。

でも仕事なら女だって蹴るよォ~
愛弟子の育ての親も殺して生まれ故郷もろとろ焦土にするよォ~
殺した相手は自分の親友で焦土にした島は親友とゼロから築いた思い入れのある島でも軍艦で砲撃するよォ~
新兵の頃面倒見てくれた教官も殺すよォ~

もっと濃いサングラス、ねえか?
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