聖少女暴君   作:うお座の運命に忠実な男

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4-4 青春の一ページ

「おれだ。入るぞ」

「護国寺先生、遅いよ」

 

 護国寺先生と呼ばれた男性は天文部の顧問。護国寺先生は見上げるほどの長身である。

 

「もうミーティング終わっちゃったよ」

「すまーん。職員会議が長引いてな」

 

「ひかりちゃんと話してたんじゃないの?」折笠さんが意地悪そうな顔をする。

 

 ひかりちゃんとは護国寺先生が片思いしているスクールカウンセラーの小山ひかり先生のこと。

 

 姫川さんも口元を抑えて笑っている。

 

「おまえら―‼」

 護国寺先生は怒りだした。

 

「じゃあ嫌いなの?」姫川さんが問う。

 

「小山先生のことは好ましい女性だと思っている。だが特別な感情はない」

 

「ひかりちゃん、彼氏いるらしいですよ」

 

 折笠さんが護国寺先生の純愛を袈裟斬りする。折笠さんてナチュラル・ボーン・毒舌だ。

 

「ええっ! 本当か! そ、そうか。ふーん……」

 

 護国寺先生はまず衝撃を受け、つぎに狼狽し、最後に意気消沈した。かわいそうなくらい元気がない。わかりやすいな。

 

 でもわたしは、護国寺先生のことを良い人だと思う。年齢を重ねると思考が老いていくものだが彼にはそれがない。一〇歳以上年が離れているわたしたちとも気さくに接してくれる。なにより純粋だ。

 

「元気だしてよ。うっしー」

 姫川さんが年上の先生を慰める。

 

「誰のせいで元気がなくなったと思ってるんだ」

 

「わたくしがいるではありませんか。あの告白は遊びだったのですか」

 

 村雨さんはまだ護国寺先生のこと諦めていないのか。

 

「いやいやいや。それは誤解です」

 護国寺先生は全力で否定している。教師と生徒の恋愛って、ドラマやコミックでは多いけど実際はどうなんだろう。リスクが高そうだ。

 

「今日はみんなで飲もう」

「だめに決まっているだろう! 姫川、なにを言ってるんだ」

 

「お酒飲むとはいってないじゃん。『濃~い、緑茶!』を稀釈して飲もう!」

 

『濃~い、緑茶!』とは市販されているペットボトル飲料である。

 

「濃いから美味しいんだろう!」

「だって、眠れなくなるんだもん」

 

「おまえには付き合いきれん」

 まるで漫才師のようなやり取りに部室が笑いに包まれた。

 護国寺先生、元気だしてくれるといいな。

 

 先生も合宿には同行する予定だ。だが格闘ゲームで他校試合することは先生には秘密。

 

「じゃあ、みんなで帰りましょうか」姫川さんが解散の合図をする。

 帰宅ルートに合わせ、わたしは以前のように折笠さんと。村雨さんは姫川さんと一緒に下校した。

 

 

 

 いつものようにわたしこと鳴海千尋は折笠さんと下校した。わたしは1DKのアパートに住んでいるけど折笠さんは9LDKマンションに住んでいる。

 

 だが彼女が、両親が資産家であることを鼻にかけたことは一度もない。以前見た私服も、必要以上に着飾っていなかった。口は毒舌だが一本筋の通った清々しさを持っている彼女のことが好きになりかけていた。

 

 七月。初夏の夕闇は絵の具をぶちまけたようで心を揺さぶる。

 通りすがりの親子連れのお子様が泣きだした。

 

 夕闇にはそれだけの力がある。

 逢魔が刻は魑魅魍魎が跋扈する時間帯なのだ。

 

「姫川さんて、面白い人ですね」

 わたしは夕闇を瞳に映しながら折笠さんの横顔を見る。

 

「うん。ヒメはわたしのパートナーだからね」

 彼女の面影が、夕闇に照らされた髪が、必要以上に印象的で忘れられなくなりそう。

 

「でも、姫川さんて中学時代になにがあったんでしょう。生徒会長をしていた噂は本当なのでしょうか」

 

「わたしもヒメの中学以前のことは知らない。わたしならヒメの過去を調べられる。でもしない」

 

「…………」

 

「どうしてって聞かないの?」

 

「はい。仲間の過去をえぐるような真似はしたくありません。姫川さんが話してくれるのを待ちます」

 

「………あなた、良い子ね。ヒメがあなたを選んだ理由、わかった気がする」

 

 このときの夕日に照らされた折笠さんの笑顔を切り取ることができれば、額縁に飾っておきたい。折笠詩乃という一七歳の少女の青春の一ページとして。それくらい良い顔だった。

 

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