清浦刹那の依存症   作:完結の陽炎

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10話

 いつも通りの刹那に戻ったのか?

 否、他の人は騙せても世界はすぐにわかる。

 

 通学をする時に世界の隣で手を繋ぐ。

 まるで子どもの頃を懐かしむように。

 休み時間に必ず世界の傍へ行き、お手洗いにも同行してくる。

 限られた時間を惜しむように。

 

 世界と二人だけで昼食がしたい。

 刹那からの貴重なお願い。

 その要望に応えるため、屋上のベンチで弁当を開く。

 あーんで食べさせるというお約束つきで。

 

 放課後の委員活動、準備でも合間にくっついて来る。

 仕事としてやるべきことをやった上でだから抜け目がない。

 

 これは仕方がないと世界は受け入れる。

 今までの刹那に譲ってもらったことを思えばお釣りが来るぐらいだ。

 どうせ最後だから好きにさせてあげよう。

 パリへ行く前の思い出作りにすればいい。

 しかし途中から違和感が生じてくる。

 

「んぁ……ち、ちょっと刹那、何してんの?」

「手を繋いでいる」

「繋ぎ方、これ違うから」

 

 握手をするようなソフトなものではない。

 指と指の間を絡め合う恋人繋ぎだ。

 ニギニギされるとツボを刺激されたように体が反応する。

 刹那の表情は嬉しそうだが、世界は何かがおかしいと感じた。

 

 世界の部屋でお泊まりの日。

 首筋や耳に息を吹きかける刹那の悪戯。

 今までそんなことをされたことはないのに。

 

「ちょっと悪戯しないで。なんかいつもの刹那じゃない」

「世界は生まれ変わった。私も生まれ変わる。何も変じゃない」

 

 子どもの頃みたいに一緒に寝たいという刹那のお願い。

 それぐらいならと同じベッドで添い寝をする。

 まるでコアラのように刹那が手足を絡めて抱きついた。

 暑苦しいと注意をしようとする世界。

 刹那が離れまいとギュッと力を込めてしまう。

 

「ぁ……っ」

 

 世界の喘ぎが一瞬だけ漏れて羞恥心が高まった。

 心臓もドキドキと激しく脈を打っている。

 その反応は密着している刹那にバレてしまう。

 

「世界、感じた?」

「ちが……い、今のは苦しかっただけ」

「嘘。世界はドキドキしている」

「と、とにかく恥ずかしいから抱っこ禁止」

「どうして? 何も恥ずかしくない」

 

 このままでは泥沼化してしまう。

 世界は咄嗟に抱っこする側を要求。

 される側よりはマシという心理からだ。

 それも悪くないと刹那が快諾。

 世界に抱っこされて満足そうに目を閉じてくれた。

 

「……」

 

 幼い頃から我慢ばかりさせた刹那の反動。

 こうしていられるのも後少しだと世界は感慨深く思う。

 少しずつ歯車が狂っていることも知らずに。

 

 1年の1組と2組は妹喫茶とゾンビ喫茶。

 客の奪い合いが発生して3組の王道喫茶は閑古鳥が鳴く。

 委員長の刹那はあえて放置をして学園祭2日目に備える。

 宣伝行為の過激化で双方の模擬店がズタボロ状態。

 校長からのお説教付きで互いに休戦協定が結ばれる。

 

 2日目では修理が間に合わず、1組と2組は営業停止。

 漁夫の利を得た3組の喫茶店が繁盛をして大忙しとなった。

 

「刹那の読みが当たったね」

「昨日あれだけ大騒ぎしたら、どっちも破滅するのは当たり前」

 

 教室内で間切りをした厨房エリア。

 ウェイトレス姿の世界と刹那がケーキ作りに励む。

 ボウルで材料をかき混ぜる単調作業にも慣れた。

 多くの注文を相手に二人の連携で上手く捌いている。

 

「刹那、私たちの休憩はまだなの?」

「もうすぐで伊藤と澤永が戻ってくる。ここが踏ん張り所」

「これを読んでいたから、私と同じスケジュールで合わせたんだね」

 

 作業の打ち合わせをした時に世界は気を遣った。

 最後の思い出作りに好きな人と一緒に学園祭を回ればいい。

 それを刹那が速攻で断ったのだ。

 きっと何か考えがあるのだろう。

 あえて理由は尋ねなかったが、今の多忙な状況で納得せざるを得ない。

 

「もし別だったら現場は火の車。私と世界で組まないと回せない」

「ホント仕事熱心で刹那らしい――あ、こっちOK。次」

「ん、補充OK。在庫は?」

「交代で繋げられる量は残ってるよ。というかあの二人で捌けるの?」

「根性」

「……」

「冗談。忙しい時間帯は私たちで対処。そして他の出し物でお客さん流れる」

「その分散する時間なら、あの二人でも何とかなるってこと?」

「ライブ、演劇、映画。他にも色々ある」

「開催時間が決まってるから、ヒマになる時間も計算しやすい訳ね」

 

 刹那の頭脳に感心を向けてしまう。

 これは世界には到底できないことだ。

 そこまで先を見通して動くことはできない。

 その場の勢いで、思いつくままにベストを尽くすのが関の山だ。

 

「あ、誰か落としたね」

「私が行く」

 

 接客エリアで足を滑らせての物音を察知する世界。

 清掃用具を両手に刹那が直行して瞬時に対処をした。

 その頃合いに伊藤が休憩から戻ってくる。

 

「あれ? 厨房は西園寺だけか?」

「刹那は接客エリアで片付け中。すぐ戻るよ」

「そっかお疲れ」

「澤永は?」

「トイレ行って来るってさ」

「そう言ってサボるつもりなら光に言い付けてやるから」

「さすがにそれしたら委員長が許さないだろ?」

「うん。時間厳守しないと刹那怒るから。仕事はマジで厳しいんだよ」

「手伝うよ。今もかなり忙しいんだろ?」

 

 交代要員である伊藤が厨房エリアで仕事に入る。

 やり方の手順はわかっているので特に問題はない。

 

「仕事しながらでいいから、悪いけど質問させて」

「質問って何だよ?」

「刹那に対して何とも思ってない?」

「えっと、そうだな……小さいけど気が強いっていうか、なんか西園寺をよく見てるとは思った」

「伊藤ほどじゃないと思うけどね」

「なんで俺?」

「友達の証言。伊藤の通学時、同じ電車で遠くから桂さんを――」

「やめろ!! 言うな!!」

「ちょっと声大きい。接客エリアまで響いたら怒られるよ」

「わ、悪い」

「で、まさか刹那がそれと同じなんて言わないよね? 私たち女の子同士なんだけど?」

 

 冗談にしては笑えない。

 世界の内心は穏やかではない。

 刹那の様子がおかしい時があるから。

 

「でも清浦の見てる先って、いつも西園寺みたいだけど?」

「おかしいな? 刹那が伊藤を見てる時ってないの?」

「別に俺なんか清浦が見ることないだろ?」

「ま、どっちでもいいけど。あ、入学式で刹那がイジメられた時、伊藤が助けてくれたね。改めてお礼言わせて。刹那を助けてくれてありがとう」

「入学式……ああ、何かそんなこともあったかな?」

「刹那が本気で困ってる時、助けられなかった私は親友失格ね」

「それは仕方ないだろ。いくら友達でもずっと一緒って――うわっ!?」

 

 世界と伊藤の間に無言で割り込みが入る。

 それは不機嫌な雰囲気を出す刹那であった。

 親友失格という発言が気に入らなかったのだろう。

 

「おかえり刹那。怒るのは後回し。今は仕事優先でしょ?」

「ん……あとでお話する」

「お手柔らかに。ほら伊藤、ボサッとしてないで手を動かす」

「お、おう」

「って、澤永はいつになったら戻って来るの? 長すぎない?」

「アイツ、昔っからトイレ長いんだよ。落ち着くからって考え事する時もトイレにこもったりするみたいでさ」

「あの、ケーキ作ってる時にトイレの話はやめない?」

「悪い。確かにちょっとアレだよな」

「……世界」

「はいこれでしょ。あ、刹那」

「ん、これでいい?」

「OK」

 

 世界と刹那の連携を目の当たりにして伊藤は驚くばかり。

 お互いの意思疎通が早すぎてついていけない。

 だからこそ忙しい時間帯を捌くのに適している。

 

「わ、悪い遅くなった!!」

「遅いぞ泰介!! 何やってたんだよ!!」

「怒らないでくれ誠。これには深い事情があってな」

「やっと交代だね。澤永の言い訳は伊藤が聞いてやってよ。私は興味ないから休憩入るね」

「あとは二人に任せる」

 

 休憩に入って現場から離れる。

 世界はお腹が空いたからと食べ物の出店巡りを希望する。

 刹那がその前にお話があると逃がす気がない。

 世界の腕にしっかりと抱き着いて離れようとしない。

 屋上のベンチまで強制連行となった。

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