清浦刹那の依存症 作:完結の陽炎
昼休みを終えての授業風景。
ここでも世界は物思いにふける。
避けては通れないアイデンティティの確立。
今まで刹那に譲られすぎた影響だろう。
世界は人のものを欲しがる傾向にある。
それは物に限らず恋愛に対してもそうだ。
家庭が貧乏で不自由な生活による飢えが原因として挙げられる。
奪うことを当たり前だと思い込んでいたのは恐ろしい。
刹那にどれだけの迷惑と負担をかけてしまったことだろう。
よく見捨てられなかったものである。
今更悔やんでも過ぎた時間は元に戻らない。
チャイムが鳴り響いての放課後。
世界は自分の席でぼんやりとしている。
よく考えてみれば、いつも刹那から近寄って声を掛けてくれる。
その逆をしたことはない。
向こうから来るのが当たり前?
それは世界の傲慢ではないか?
些細なことではある。
だが、その積み重ねがあって今に繋がっているのではないか?
「世界」
「っ!?」
刹那がドアップで迫ってビックリ仰天の世界。
何度呼びかけても反応がなかったからだ。
また心配をかけてしまった。
頭の中で反省をしつつ世界は応じる。
「ごめん、ボーとしちゃってたね。言っておくけど風邪じゃないよ」
「本当に?」
「疑うなら体温計持ってきなよ」
刹那が体温計代わりに世界のおでこに手を当てた。
ありがちであるが気が済むまで待つ。
「熱はなさそう」
「それはそうと今日は委員会でしょ。頑張ってね刹那」
「うん。世界はバイト?」
「バイトは明日だよ。それじゃお先にバイバイ」
今は一人になりたい。
屋上に行ってフェンス越しの景色を眺める。
一般生徒立ち入り禁止だが、世界は天文部を立ち上げた部長だ。
そのため顧問の先生から鍵を預かり許可をもらっている。
「……」
世界がいなかったら、刹那はもっとワガママを言えたはずだ。
感情を出して自己主張ができていたはずだ。
自責の念に駆られてしまい、やがて世界の心が冷え切っていく。
伊藤への恋愛はまやかしで、刹那への友情はニセモノ。
前者は母の遺伝による呪いとして解釈し、後者は刹那が譲ってくれる都合のいい相手だから利用をしたに過ぎない。
なんと醜い存在であろう。
しかし世界が本当に悩まないといけないのは別にある。
これから先をどうするのか?
少なくとも今までの世界がしたことを繰り返すつもりはない。
もはや黒歴史といっても過言ではないから。
………………。
…………。
……。
毎朝、世界が住むアパートの部屋まで刹那が迎えに来る。
それから一緒に電車通学をするのが日課だ。
普段なら世界から話し掛けているが今は完全なる沈黙。
そんなダンマリとした状況。
刹那が違和感を覚えるのは当たり前であった。
「世界、具合悪い?」
「大丈夫だよ刹那。そう言いたくなるのはわかるけどね」
「だったらどうして、今日は何も喋らない?」
世界が遠くに消えてしまいそうで不安になる。
そんな刹那の気持ちに世界はナチュラルな返事をかえした。
「そういう気分でもあるし、考え事をしているから」
「何か悩み?」
「刹那も他人事じゃないと思うよ。これからのこと」
「進路?」
「まあそんなところ」
あながち間違いではない。
世界の未来を作り上げるのに進路は外せない問題だ。
刹那の依存関係における清算もあるだろう。
榊野学園の教室に入る。
光と七海が挨拶をしてくれた。
それを返してから座席に向かい荷物を下ろす。
一番前だから一番後ろにいる刹那を見ることはない。
振り返れば見れるがそんなことをする必要はない。
伊藤の隣になった刹那が何をしようと刹那の自由だ。
そして世界には関係のないことである。
授業と休憩が交互に過ぎて行く。
窓際の席もあって眺めを満喫できる。
ここで世界は黄昏ながらの考え事。
しばらく刹那と距離を置いてみよう。
刹那には刹那の生き方がある。
もっと自由に好きな事をすればいい。
それこそ伊藤と付き合うようになれば言う事はない。
では具体的にどうやっていくのか?
ひとまず昼休みを別行動にしてみよう。
一緒にいる時間を減らす。
後々に依存した関係を解消すればいい。
これまでのような刹那に迷惑をかけたくはないから。
そんな黄昏の時を味わって昼休みを迎えた。
「世界、七海たちがお昼一緒に食べようって」
刹那が声を掛けて世界を誘いに来た。
相変わらず表情は固めで周りにクールな少女を思わせる。
刹那の見た目は中学生ぐらいでとても小柄だ。
それで入学式に男子からイジメられそうになり伊藤が助けてくれた。
惚れるのも当然だろうと世界は思う。
「世界?」
うっかりボーとしてしまった。
世界は席を立って片手でお詫びの仕草を見せる。
「ごめん。今日の私って学食だから。また今度誘って」
「世界が学食なんて珍しい」
「たまには学食のご飯を食べたくなる時あるからね。それじゃ」
世界の思い付き行動。
それは今に始まったことではない。
教室を出る世界の後ろ姿を刹那は見送った。
「……」
刹那はどうにも腑に落ちない。
校庭で光と七海がいて一緒に弁当を食べる。
でも世界がいないだけで何やら物足りない。
どうしてもボンヤリとしてしまう。
光と七海が察してそっとしてくれた。
たまにはそんな日もあるだろう。
軽く流してあげられるのも女の友情である。