清浦刹那の依存症   作:完結の陽炎

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4話

 ラディッシュというレストランでのアルバイト。

 衣装の露出から些か派手なデザインだが慣れたもの勝ちである。

 シフトは週2、3日程度で丁度いい。

 学生の本分は勉強で、バイトにかまけて成績が落ちては目も当てられない。

 それは建前であり、本音は自由に過ごせる時間が欲しいからだ。

 

「いらっしゃいませ」

 

 来客は制服姿の刹那一人だけ。

 カウンター席に座ったのでお冷とメニューを置く。

 他に客はいない。

 店員も世界だけだ。

 そういうヒマな時をわざわざ狙って来るのが刹那である。

 

「毎度ありがとうございますお客様。本日のお勧めは期間限定メニューの抹茶白玉あんみつ。ドリンクとセットにすればお得値段になります」

「ん……そのセットにして、飲み物はアイスコーヒー無糖」

「はいご注文承りました」

 

 これで最低限にマニュアルとなる接客をした。

 他に誰も見ていないのでフランクな切り替えをする。

 

「あと1時間であがりだから、良かったら一緒に帰る?」

 

 刹那が頷いてお冷を口にする。

 その間に注文されたものを用意してテーブルへ置く。

 無表情で飲み食いをする刹那。

 そのシュールさはいつ見ても飽きない。

 不味かったら残し、美味しかったから完食をする。

 稀におかわりをする時もあるが、そういう時は相当気に入ったと考えていい。

 今回はその滅多にないおかわり注文が入って応じた。

 

 世界のバイトが終了。

 学園の制服姿に着替えて刹那と合流をする。

 道路沿いの狭い帰り道を歩き、世界の後ろに刹那がついて行く。

 

「満月が綺麗だね刹那」

「うん」

 

 ここから長い沈黙が流れる。

 そもそも刹那の来客は珍しい。

 何か聞きたいことがあってのことだ。

 それを世界は見抜いている。

 今までなら刹那に問いかけたであろう。

 

 しかしこれからの世界は違う。

 本人が何も言わない限りは何も訊かない。

 だから刹那が何かを訊きたいのなら、自分の口でハッキリと言わないとダメだ。

 そうでなければ一生このままというスタイルを貫く。

 

「世界」

「ん?」

「世界は伊藤のこと、好きじゃないの?」

 

 直球である。

 刹那に前置きを求めてはいけない。

 むしろそういう所が刹那らしい。

 だからこそ世界もドッジボールをするように直答する。

 

「冷めた」

「え?」

「自分でも驚くぐらいに冷めちゃった」

「どうして?」

「どうしてだと思う?」

「私のせい? 私が伊藤の隣になったから?」

 

 刹那はいつも世界に譲っている。

 譲らなかったのはせっちゃんというあだ名だけ。

 

 今回も譲ろうとしているのか?

 

 だが現在の世界はそんな事を望んでいない。

 刹那が望むがままにしてくれたらいい。

 だから今の気持ちをハッキリと伝えておく。

 

「刹那には感謝してるよ。刹那のおかげで目が覚めたから」

 

 これに対して刹那が珍しく動揺を見せる。

 いつものお堅い表情が崩れた。

 

「ち、違う。私、そんなつもりは……世界を傷つけるつもりなんて……ごめんなさい」

 

 世界に心の傷という自覚はない。

 冷めた気持ちと心の傷を結び付けるに至らない。

 だから謝られても反応に困ってしまう。

 

「なんで謝るのかわからないけど、それで刹那の気が済むならいいよ。私は許す」

 

 刹那は助けてくれた伊藤を好きになっただけ。

 そこに横恋慕しようとした世界こそ責められるべき立場だ。

 何の落ち度もない刹那が謝ることではない。

 正しいのは刹那であり、間違っているのは世界。

 

「なんで私、刹那から横取りしようなんて考えたんだろう。これじゃあ天国のお兄さんに呆れられちゃう」

「違う、世界は誤解してる。私、そういう気持ちじゃないから」

「これはね、私の良識を疑う問題なのよ。ホント今までの私がどうかしてた。ごめんなさい」

 

 世界に謝られたことがショックだったのか。

 思わず刹那がポロポロと涙を流してしまう。

 世界はハンカチで優しく拭い、今日はもう帰ろうと促す。

 そして別れの挨拶をするまでお互いに一言もなかった。

 

 伊藤と刹那の進展はない。

 伊藤と桂との進展はない。

 

 刹那は隣の席に伊藤がいるだけで満足。

 伊藤は桂を遠くから眺めるだけで満足。

 

 どちらも現状維持で似たもの同士だ。

 もし伊藤と刹那が付き合えば、ベストカップルになれるかもしれない。

 

「世界、今日も学食?」

「まあね。期間限定メニューを最優先で狙うよ。それを逃したら制覇できなくなるから」

「そう……」

「行ってくるね。光と七海によろしく」

 

 学食の通い詰めは事前に知らせている。

 それにも関わらず、刹那はたびたび確認をとっている。

 世界は気分屋で学食に飽きて戻ってくるかもしれないから。

 これまで振り回されてきたことを思えば無理もない。

 世界が教室を出て行くのを静かに見送る。

 

 この日は雨天。

 校庭は使えないので教室での弁当タイム。

 光と七海が雑談をし、刹那はボーと誰もいない方向へ目を向ける。

 いつもならそこに世界がいるので、目で追うのがクセになっていた。

 

「ダメだよ七海。刹那ってば完全に上の空」

「世界のいない刹那は、具無しのサンドイッチだね」

「言えてる。スカスカで味がパンだけって寂しいじゃん」

 

 原因がわかりきっているので、二人が気を悪くすることもない。

 今の刹那に何を話し掛けても無駄だ。

 曖昧な返事にしかならないので放っておくしかない。

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