清浦刹那の依存症 作:完結の陽炎
榊野学園の食堂。
桂の隣で天ぷらそばを食べる世界。
そして今日も桂は鶏ラーメンだ。
「よく飽きないね桂さん」
「好きなんですラーメン。家で食べる機会がないもので。あ、たまにスパゲティにする時もあります」
「そんなにラーメン好きなら、榊野ヒルズ商店街にあるラーメン屋をチェックしてみたらいいんじゃない? 鶏がらスープのラーメンがお勧めだよ」
「あ、すみません。榊野ヒルズは生活圏外で、何か用事でもない限りは立ち寄ることがありません」
桂に関する情報は少ない。
生活圏外ということで住所が気になってしまう。
少なくとも世界や刹那の圏内にはいないはずだ。
「桂さんの家ってどこ? 最寄り駅は?」
「原巳浜駅にある住宅街です」
「あー、湾岸線の海岸沿いにある駅だね。それだと湾岸新線の乗り換えが面倒だから行くことがないか」
「すみません。せっかく勧めて頂いたのに」
とても申し訳なさそうにする桂。
そこまで気にしなくてもと内心でツッコミを入れる世界。
生真面目な刹那となら気が合うかもしれない。
「ラーメンじゃないけど、パスタ料理ならラディッシュというレストランがあるよ」
「あ、知っています。妹が何度か行ったことがあって。私は夏休みの時、テイクアウトでパフェを注文したことがあります」
「その頃の私、おたふく風邪だったからバイト休んでた」
「そ、それは大変でしたね」
お隣のよしみで世間話をする。
世界にとってはそんな軽い付き合い。
知り合い以上友達未満というべきか?
だが桂にとっては決して軽くはない。
今まで誰も話し相手がいなかった。
まして女子には無視をされるほどの嫌われ者だ。
男のウケは良くても、本人は軽度の男性恐怖症である。
だから気軽に話してくれる世界は桂にとって得難い存在だ。
親しみを抱くのは当然といえる。
「ごちそうさま。次回は桂さんがたまに食べるスパゲティに挑戦してみようかな?」
「トマトソースたっぷりで美味しいですよ」
「そこケチられたらスパゲティじゃない、って私は思う」
食べ終わった食器を片付けて退室をする。
廊下を進んで自分のクラスとなる教室へ戻っていく。
教室の引き戸は開けっ放しだ。
開けたら閉めろという常識はわかっている。
だが出入りが激しい時は扉の開け閉めが面倒。
それが生徒側の素直な気持ちだ。
ガラガラと音が出てしまい、教室内にいる生徒たちの視線が注がれるのも嫌だから。
そんなあるある共感をしながら世界は足を踏み入れた。
世界の席近くにいる刹那と目が合う。
実に反応が早い。
まるで戻ってくる時間がわかっていたかのようで瞬時に気付く。
光と七海の視線も世界へ注ぐ。
三人とも弁当を食べ終えて雑談中の様子。
そんな輪の中へ世界は入り込んだ。
「なによ三人して私を見ちゃって。学食に行っただけだから、お土産を期待しても何もないからね」
「お土産なんて期待してない」
「そうそう。刹那が期待したのは世界だもんねぇー」
「今か今かと世界が帰ってくるのを待って、出入り口を何度もチラチラ見ていたよね」
「刹那、光と七海がこう言ってるけど?」
「それは光と七海の勘違い。気のせい」
「聞いた七海? あれだけ露骨なことをしておいて私たちの勘違い、気のせいだって?」
「アタシら、相当な間抜けってことになるよね?」
光と七海が楽しそうに茶化して刹那がふてくされた。
程々にしてもらわないと後が面倒になる。
そのため世界から別の話に変えた。
七海の部活と光のバイト。
その辺りの愚痴を聞いておけば場の空気が正常化する。
刹那が黙って世界を見ている。
その時は笑顔でやり返して気付いているアピールを忘れない。
今まで気付かなかったことへの贖罪も含まれている。
………………。
…………。
……。
学校が終わって次はバイトの時間。
ラディッシュに桂が入店してきた。
さらに桂の妹である心も一緒で紹介を受ける。
「へえー、ひきこもりのお姉ちゃんに友達いたんだ」
「こら心、失礼なこと言わないの」
世界は胸の内でツッコミを入れる。
別に桂は友達という訳ではない。
一緒に学食を食べたり、体育で見学を共にするだけだ。
クラスが別だから他に接点はない。
それでも空気を読み、世界は肯定も否定もしなかった。
「よろしくね桂ちゃん」
「こころだよ。私の名前かわいいでしょ?」
「うん。あ、これってアレでしょ。どっちも桂だから名前で呼んでほしいパターン」
「そうだよ。お姉ちゃんと一緒だから、どっちの桂かわかんないもん」
「甘い甘い。ここのパフェよりも甘いよ桂ちゃん」
「ええー!! どういうことぉ!?」
「簡単だよ。桂さんと桂ちゃんの敬称で区別できるから。三人目がいたら呼び捨て追加しないといけないけどね。でも二人の姉妹ならこれだけでわかるって訳」
「あーズルい!! それってズルいよ!!」
「あ、これ以上は目をつけられちゃうね。じゃあ二人ともごゆっくりどうぞ」
下の名前で呼ぶほど親しい訳でもない。
苗字の敬称で区別をするだけで充分だ。
つかず離れずという関係を保つ。
姉妹は期間限定の抹茶白玉あんみつを注文した。
セットのドリンクは姉がレモンティーで、妹はオレンジティー。
そして帰りの会計で世界がレジの接客をする。
「またのご来店をお待ちしております」
「あ、はい」
「むぅー、こころって呼んでくれないの?」
「まだ会ったばかりだからね。たくさんお店に来て、たくさん注文して、そうやってお店の売り上げに貢献してくれたら考えちゃうよ」
意地悪と思われても仕方がない。
別に嫌われても構わない。
だからこそ桂との交流が成り立っている。
普通に仲良くは望めないのだ。
桂を嫌う感情は世界もよくわかるから。
コンプレックスを抱かない距離感でちょうどいい。