清浦刹那の依存症   作:完結の陽炎

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5話

 榊野学園の食堂。

 桂の隣で天ぷらそばを食べる世界。

 そして今日も桂は鶏ラーメンだ。

 

「よく飽きないね桂さん」

「好きなんですラーメン。家で食べる機会がないもので。あ、たまにスパゲティにする時もあります」

「そんなにラーメン好きなら、榊野ヒルズ商店街にあるラーメン屋をチェックしてみたらいいんじゃない? 鶏がらスープのラーメンがお勧めだよ」

「あ、すみません。榊野ヒルズは生活圏外で、何か用事でもない限りは立ち寄ることがありません」

 

 桂に関する情報は少ない。

 生活圏外ということで住所が気になってしまう。

 少なくとも世界や刹那の圏内にはいないはずだ。

 

「桂さんの家ってどこ? 最寄り駅は?」

「原巳浜駅にある住宅街です」

「あー、湾岸線の海岸沿いにある駅だね。それだと湾岸新線の乗り換えが面倒だから行くことがないか」

「すみません。せっかく勧めて頂いたのに」

 

 とても申し訳なさそうにする桂。

 そこまで気にしなくてもと内心でツッコミを入れる世界。

 生真面目な刹那となら気が合うかもしれない。

 

「ラーメンじゃないけど、パスタ料理ならラディッシュというレストランがあるよ」

「あ、知っています。妹が何度か行ったことがあって。私は夏休みの時、テイクアウトでパフェを注文したことがあります」

「その頃の私、おたふく風邪だったからバイト休んでた」

「そ、それは大変でしたね」

 

 お隣のよしみで世間話をする。

 世界にとってはそんな軽い付き合い。

 知り合い以上友達未満というべきか?

 

 だが桂にとっては決して軽くはない。

 今まで誰も話し相手がいなかった。

 まして女子には無視をされるほどの嫌われ者だ。

 男のウケは良くても、本人は軽度の男性恐怖症である。

 だから気軽に話してくれる世界は桂にとって得難い存在だ。

 親しみを抱くのは当然といえる。

 

「ごちそうさま。次回は桂さんがたまに食べるスパゲティに挑戦してみようかな?」

「トマトソースたっぷりで美味しいですよ」

「そこケチられたらスパゲティじゃない、って私は思う」

 

 食べ終わった食器を片付けて退室をする。

 廊下を進んで自分のクラスとなる教室へ戻っていく。

 

 教室の引き戸は開けっ放しだ。

 開けたら閉めろという常識はわかっている。

 だが出入りが激しい時は扉の開け閉めが面倒。

 それが生徒側の素直な気持ちだ。

 ガラガラと音が出てしまい、教室内にいる生徒たちの視線が注がれるのも嫌だから。

 そんなあるある共感をしながら世界は足を踏み入れた。

 

 世界の席近くにいる刹那と目が合う。

 実に反応が早い。

 まるで戻ってくる時間がわかっていたかのようで瞬時に気付く。

 光と七海の視線も世界へ注ぐ。

 三人とも弁当を食べ終えて雑談中の様子。

 そんな輪の中へ世界は入り込んだ。

 

「なによ三人して私を見ちゃって。学食に行っただけだから、お土産を期待しても何もないからね」

「お土産なんて期待してない」

「そうそう。刹那が期待したのは世界だもんねぇー」

「今か今かと世界が帰ってくるのを待って、出入り口を何度もチラチラ見ていたよね」

「刹那、光と七海がこう言ってるけど?」

「それは光と七海の勘違い。気のせい」

「聞いた七海? あれだけ露骨なことをしておいて私たちの勘違い、気のせいだって?」

「アタシら、相当な間抜けってことになるよね?」

 

 光と七海が楽しそうに茶化して刹那がふてくされた。

 程々にしてもらわないと後が面倒になる。

 そのため世界から別の話に変えた。

 七海の部活と光のバイト。

 その辺りの愚痴を聞いておけば場の空気が正常化する。

 

 刹那が黙って世界を見ている。

 その時は笑顔でやり返して気付いているアピールを忘れない。

 今まで気付かなかったことへの贖罪も含まれている。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 学校が終わって次はバイトの時間。

 ラディッシュに桂が入店してきた。

 さらに桂の妹である心も一緒で紹介を受ける。

 

「へえー、ひきこもりのお姉ちゃんに友達いたんだ」

「こら心、失礼なこと言わないの」

 

 世界は胸の内でツッコミを入れる。

 別に桂は友達という訳ではない。

 一緒に学食を食べたり、体育で見学を共にするだけだ。

 クラスが別だから他に接点はない。

 それでも空気を読み、世界は肯定も否定もしなかった。

 

「よろしくね桂ちゃん」

「こころだよ。私の名前かわいいでしょ?」

「うん。あ、これってアレでしょ。どっちも桂だから名前で呼んでほしいパターン」

「そうだよ。お姉ちゃんと一緒だから、どっちの桂かわかんないもん」

「甘い甘い。ここのパフェよりも甘いよ桂ちゃん」

「ええー!! どういうことぉ!?」

「簡単だよ。桂さんと桂ちゃんの敬称で区別できるから。三人目がいたら呼び捨て追加しないといけないけどね。でも二人の姉妹ならこれだけでわかるって訳」

「あーズルい!! それってズルいよ!!」

「あ、これ以上は目をつけられちゃうね。じゃあ二人ともごゆっくりどうぞ」

 

 下の名前で呼ぶほど親しい訳でもない。

 苗字の敬称で区別をするだけで充分だ。

 つかず離れずという関係を保つ。

 

 姉妹は期間限定の抹茶白玉あんみつを注文した。

 セットのドリンクは姉がレモンティーで、妹はオレンジティー。

 そして帰りの会計で世界がレジの接客をする。

 

「またのご来店をお待ちしております」

「あ、はい」

「むぅー、こころって呼んでくれないの?」

「まだ会ったばかりだからね。たくさんお店に来て、たくさん注文して、そうやってお店の売り上げに貢献してくれたら考えちゃうよ」

 

 意地悪と思われても仕方がない。

 別に嫌われても構わない。

 だからこそ桂との交流が成り立っている。

 普通に仲良くは望めないのだ。

 桂を嫌う感情は世界もよくわかるから。

 コンプレックスを抱かない距離感でちょうどいい。

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