清浦刹那の依存症   作:完結の陽炎

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6話

 いつも通りの教室。

 劇的に何かが変わる訳ではない。

 それでも時間は平等に過ぎていく。

 

 世界の席へ光がやって来た。

 その流れに乗るように刹那も寄ってくる。

 光からの用件はプールの施設へお誘いだ。

 チケットは複数あるが、光が本当に誘いたい相手は片想い中の澤永である。

 

「光、残り一枚は誰にするの?」

「七海は彼氏とお家デートだからって断られた」

「それなら刹那になるけど、澤永一人に女子三人は偏ってるよ」

 

 これには光も同意である。

 面子が偏って余計に誘いにくい状況だ。

 そこで世界からの提案である。

 

「澤永の友達、伊藤を誘ってバランスとったら? あと私の分は刹那に回して。最近ラディッシュの人手が足りなくて、お母さんからヘルプ要請が出ちゃってるから行けそうにない」

「そっか――って伊藤を誘うの何か嫌なんだけど?」

「じゃあチケット無駄にする? それはそれでもったいないと思わない?」

「うっ……しょーがない。今回だけだからね」

「いや私に言われても……」

 

 光は素直ではない。

 澤永と進展ができることを祈っておく。

 

「という訳で刹那、私の分までプール楽しんで来てね」

「……世界、本当に行かないの?」

 

 刹那の表情は変わらない。

 それでも声のトーンや目の状態、その周りの雰囲気などで刹那の感情がわかる。

 明らかに残念そうだ。

 

「刹那が私の代わりにバイトに出てくれる? それならプールに行ってもいいけど?」

「無理。私、接客とか苦手だから」

「決まりね。あとは光、がんばってね」

「ううっ、他人事だと思って。世界の薄情者」

「薄情でも何でもいいから行ってきなさい」

 

 光の後押しをして見送りを済ませる。

 刹那が寂しそうにしても仕方がない。

 バイトのヘルプ要請が来ているのは事実。

 断ろうと思えば出来なくもないが、そこまでしてプールに行きたいと思わない。

 

 お昼の学食時。

 世界はトマトソースたっぷりのスパゲティを堪能。

 今回は珍しく桂もお揃いのスパゲティである。

 

「本当にたまにスパゲティ食べるんだね。ずっと鶏ラーメンって感じがあったから意外」

「今回、西園寺さんがスパゲティを食べるという事で、私も食べてみたい気分になりまして。ご迷惑でしたか?」

「別に迷惑じゃないよ。同じものを食べて共有する気持ちは、同じ女として理解できるから」

 

 一人で静かに食べている時よりも、世界と会話をしながらの食事が美味しい。

 世界の態度や言動には悪意が感じられない。

 無視をされる訳でも、下心がある訳でも、嫉妬をされる訳でもない。

 家族を除き、普通に接してくれるのは世界だけである。

 

「プールのチケット?」

「はい。お父さんから貰って、二枚あるのでどうしようかと」

「妹を誘ったら?」

「心は習い事があって行けません」

「他に誘える友達いないの?」

「私、西園寺さん以外に仲良くしている人がいなくて」

 

 遠回しに誘っているという意図は読める。

 やや回りくどいが、それは桂の経験不足と不安の表れ。

 友達を遊びに誘ったことが一度もない。

 世界が迷惑に思うかもしれない。

 それを察した上で世界のほうから懸念を口にする。

 

「私、バイトがあるからね。チケットの期限とバイトのない日の都合がつくかどうか」

「あ、無理ならそう言ってください。すみません、西園寺さんにも都合があるのに」

 

 桂が目線を下に落ち込んでしまう

 これは断るのも後味が悪い。

 よって前向きな検討をしてみる。

 

「実は光からも誘われて、そっちはチケット枚数の都合で私は抜けたけど。こうやってチケットが手に入るなら、一緒に混ざって参加すればいいかもね。とりあえず、その一枚は私が受け取っていい?」

「あ、はいどうぞ!!」

「バイトのシフト調整と光たちへの相談をするから。あとで連絡できるように番号とアドレス交換して」

「わかりました!!」

 

 桂にとっては重畳。

 世界の連絡先まで交換ができるとは思いもしなかった。

 だから異様にテンションの高い返事である。

 

 桂と別れてから光と刹那を校庭に呼びつける。

 桂のことを伝えて、そこからチケットを受け取った。

 シフトの調整で祝日を空けるようにするから上手く合わせてほしい。

 

「どうかな光? 祝日で都合つく?」

「こっちは大丈夫。それより桂が来るってマジなの?」

「もしかして、澤永が桂さんの魅力でイチコロになるのを心配してる?」

「し、してない!! ってかこんな所で言うな!!」

「教室じゃないからいいでしょ。あ、刹那もそれでいい?」

「別にいいけど……世界」

「なに?」

「いつから桂さんと友達になったの?」

 

 地雷を踏んだとは、まさにこの事である。

 眉をひそめた世界に少し戸惑う刹那。

 なんとも聞き捨てならないことだ。

 桂の友達という肯定はできないのに。

 

「刹那、間違ってるよ」

「なにが?」

「私は桂さんの知り合い。桂さんの友達になれるとしたら、コンプレックスを感じないほどに頭がいい刹那ぐらいだよ。運動神経抜群の七海もいるけど、そっちは相性が悪いと思うから除くね」

「私、桂さんとは友達になるほど親しくない」

「同じ委員だから接点はあるでしょ? それで仲良くしてないの?」

「してない」

 

 ここで光に話を向ける。

 スタイル抜群な桂への嫉妬であまりいい感情がない。

 澤永を奪われるかもしれない敵に値する存在だから。

 そんな光の言い分はもっともな事だと世界は頷く。

 

「光を見てわかったでしょ? 桂さんと対等な友達ができるのは、刹那しかいないってこと」

「桂さんは世界を友達だと思ってる」

「その根拠は?」

「プールのチケット」

「本人から聞いてない以上、刹那の勘違いかもしれない」

「あとで私が桂さんに聞く」

「ご自由に。ま、私は知り合いという距離感がちょうどいいけどね」

 

 放課後の委員会。

 それが終わって刹那は桂を呼び止める。

 訊きたいことがあるから。

 人目もつかない階段の踊り場へ来てもらった。

 

「桂さん、世界の友達なの?」

「世界?」

 

 下の名前ではわからない。

 お互いに苗字で呼び合っているから。

 それを瞬時に把握をした刹那は言い換える。

 

「西園寺世界の友達なの?」

「西園寺さんって3組の西園寺さんですか?」

「うん。それでどうなの?」

「えっと……お友達……だと思います」

「何故ハッキリしない?」

「それは……お互い苗字で、妹の心にも桂ちゃんって」

「わかった。質問はこれで終わり。帰る」

「あ、はい。お疲れ様です」

 

 あくまで桂が世界をどう思っているのか?

 それを知りたかっただけ。

 別に桂を傷つけたい訳ではない。

 だから世界が否定をしたことは伝えない。

 知らぬが仏である。

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