清浦刹那の依存症 作:完結の陽炎
プールの施設に一同が向かった。
更衣室で桂のナイスなボディーを妬ましく見る。
どうあがいても勝てない。
そんな光の絶望感に対して刹那が助け船を出す。
「光、七海から借りたエアーパッド使う?」
「いらない。そんなのに頼っても虚しくなるだけじゃん」
「うん。光はそれでいい」
「ちっとも慰めになってなーい!!」
そんな刹那の対応を他所に世界は身だしなみを整える。
独特な触覚のクセ毛が相変わらず健在だ。
そして水着に着替えてから桂に尋ねる。
「桂さんって泳ぎはどうなの?」
「じ、実は泳げないです」
「わかった。光は澤永、刹那は伊藤と組んで遊んでね。私は桂さんに泳ぎ教えるから」
「く、組むって言われても」
「世界……」
「光ったらなに照れてるの。きっかけが欲しいなら、澤永に泳ぎ教えてとかおねだりすればいいじゃない。刹那は伊藤とウォータースライダーでもやれば楽しめるでしょ」
各自で水着となりプール施設内へ移動をする。
そこで待つ伊藤と澤永の前にお披露目をした。
男子二人のエロい目が実にいやらしい。
世界がツッコミの一撃を入れるのはご愛嬌。
光がアドバイスに従い、澤永に泳ぎを教えてもらう名目で連れていく。
「伊藤、私は桂さんに泳ぎ教えるから刹那をよろしく。ウォータースライダーにでも連れていってあげて」
「世界……」
「さっきから私を気にしてるみたいだけど、せっかくプールに来たんだから、今は伊藤との時間を楽しみなよ」
半ば強引に伊藤へ押し付ける。
残った桂にプールへ入ってもらい、手をとってバタ足の使い方を教えた。
足を曲げないようにアドバイスをする。
顔を上げてる時に口から息を大きく吸って、水をつける時には息を止める。
基本ができれば長く泳いでいられるが、ここが不慣れだと途中で息切れが起きてしまう。
焦ってしまう心理はわかるので、肩の力を抜いてもらい、自然と呼吸を繰り返せるように練習あるのみだ。
「きゃっ!!」
ふと水中で足を滑らせてしまう桂。
世界にもたれかかってしまう。
それをしっかりと支えて受け止める。
「桂さん、足元に気を付けてね」
「は、はい。すみません西園寺さん」
「それにしてもホント胸が大きい。こりゃあ光も嫉妬する訳だよ」
「えっと……」
「ここだけの話。光って澤永に片想いしてるから。そして刹那は伊藤に片想い中」
「そ、そうなんですか」
「私はそんな友達を静かに見守って応援という立場だね」
「なるほど。西園寺さんはお優しいですね」
今までのやってきたことを考えると優しいとは思えない。
特に刹那に対しては申し訳ない一心に尽きる。
せめて今の時間だけでも伊藤と一緒に楽しんでほしい。
区切りのいいところで食事タイム。
自由に使える椅子とテーブルがある。
ドリンクは施設内で注文し、食べ物は桂が籠のケースで用意したサンドイッチがある。
これには澤永が大喜び。
両手にサンドイッチを持って食らいつく。
伊藤はガチガチに緊張したままで静かに食べる。
桂を遠くから眺めるだけだった伊藤には贅沢すぎる事だ。
「どお刹那、桂さんの作ったサンドイッチの味は?」
「世界が作るサンドイッチのほうがおいしい」
「え、そうなんですか?」
「サンドイッチは世界の得意料理」
「それは是非食べてみたいです」
「機会があればね――って澤永慌て過ぎ、喉つまらせるよ」
「んぐっ!!」
「ほら言わんこっちゃない。光、飲み物渡してやって」
「まったくもう世話が焼けるんだから」
ドタバタしながらの食事は実に騒々しい。
こういった事が一度もない桂には貴重な体験だ。
その桂を意識して緊張が解けない伊藤。
そんな彼を想うであろう刹那の視線は世界に向けられていた。
「いやそこは伊藤でしょ?」
「なにが?」
「なんでもない」
刹那の辞書に高望みという文字はない。
近くにいるだけで満足だ。
わざわざ見なくてもいいぐらいに。
しばらくして澤永から何気ない一言があった。
「そういえばクラスの噂で聞いたんだけど、誠って清浦と付き合ってるのか?」
「あ、私もその噂は耳にしたよ。誰が言ったのかは知んないけど、隣の席だからよくある話なんじゃない?」
澤永に加勢するように光が続く。
伊藤からすれば思いもよらなかったのだろう。
驚きを隠せずに決め付けのような言い方をする。
「でも清浦は別に、俺のことなんて何とも思ってないだろ?」
「こらこら伊藤、勝手なこと言わないの。刹那の気持ちは刹那自身が決めることなんだから」
「世界……」
「ま、その手の噂って別に伊藤たちだけじゃないよね。学祭で盛り上がるコイバナのひとつってことで。だから光にも夫婦漫才コンビとしての噂が流れてるよ」
「なっ!! 誰が夫婦じゃあ!!」
「私に怒ってもしょーがないってば。あくまで噂なんだから」
刹那と伊藤との間は、教室で座る席と似たような距離。
誰かが割り込もうと思えば出来るだけのスペースがある。
しかし刹那と世界との間はそれだけの余地がない。
手の届く位置まで接近をしている。
長年に渡り無意識でやっていることだ。
世界は逆だと内心でツッコミを入れる。
好きな人と友達の距離感を間違えていると言いたい。
「刹那、これぐらいでいいの?」
「なにが?」
「誰かさんともっと近づきたいとか思わないの?」
「誰かさんって誰のこと?」
「例えば桂さん」
「別に」
「澤永」
「全く」
「光」
「普通」
「……伊藤」
「ちょうどいい」
正直に返答をしてくれた。
刹那らしい素っ気ない一言だが内容の差はわかる。
もはや何も言うまいの心境となる世界。
だが刹那から余計な一言が入る。
「世界、わざとなの?」
「なにが?」
「さっきの例え、全員訊いてない」
「充分に訊いたからね。刹那は答え足りない?」
「足りない。肝心な所が抜けてる」
「その肝心な所、ちょうどいいと言った相手に向けるべきなんだよ」
言わせないよと世界はプールの再開宣言をする。
この時の刹那は何を思ったのだろう?
いつものクールな表情からは何も読み取れない。