清浦刹那の依存症 作:完結の陽炎
学園祭の準備期間。
委員長の刹那が仕切り、副委員長の田中が板書を務める。
1年3組の出し物として何をするのか?
幾つかの候補がある中で、世界が選ぶ一票は王道の喫茶店だ。
理由は至ってシンプル。
ラディッシュでバイトしているのでとっつきやすいと感じたから。
クラスで投票した結果、他の出し物よりも大差で喫茶店に決まった。
次はメニューを決めていく。
紅茶やコーラー等のドリンク。
アップルパイやシュークリーム等の食べ物。
何気に世界が提案した光の洋菓子屋であるパイも挙がっている。
さらに衣装はウエイトレス一択。
靴は各自で持参という事で特に反対する者はいない。
「……」
ヒマになると手持ち無沙汰で退屈をする。
先生が監視をしているため、迂闊に携帯を触れない。
そのため世界は窓の景色を眺めて考え事にふける。
刹那に対して徐々に離れていく感覚。
依存から自立という切り替えを進めていく。
甘ったれて頼らないようにするために。
心配しなくても大丈夫だと安心してほしいから。
………………。
…………。
……。
ある日にアクシデントが発生。
田中が柔道部の自主練で全治二週間の骨折をした。
これで刹那しか委員がいなくなる。
代わりの人が必要だ。
桂が一人でやってるから、刹那も一人でやればいいとはならない。
よそはよそ、うちはうちである。
光からは伊藤に押し付け。
伊藤からは澤永に擦り付け。
これ以上の揉め事にならないよう、刹那に選ばせる方向で世界が誘導をする。
「私か、伊藤か、澤永か。刹那はこの中から誰を委員の代理になってほしい?」
女同士で委員になってはいけない決まりはない。
刹那は迷わずに即答する。
「世界」
意思疎通が容易にできる世界を選択。
伊藤を選ばずに世界を戦力として考えた。
仕事に私情を挟むことがないのが刹那らしい。
委員会の会議室へ向かう途中。
廊下で桂と鉢合い、世界から話し掛ける。
「桂さん、これから委員会?」
「はい。西園寺さんは今からお帰りですか?」
「ノー。刹那と一緒に委員会へ参加だよ」
「え? 3組のクラス委員は男子の方だったと思いますが?」
「それがね、柔道の部活で腕ボッキリ折れちゃってさ。急遽代理が必要になって私が選ばれたの」
「それは大変でしたね」
「という訳でよろしくね桂さん」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
世界が間に入ることで、刹那と桂で共同活動があっても円滑に進む。
普段はおふざけをする世界も、仕事に関しては真面目であった。
家庭内での出来事。
世界の母が落ち込み、刹那の母は上機嫌という真逆な反応。
一体なにが起きたのか?
お互いの母が海外の転勤を争っていた。
その結果、刹那の母が長期のパリ支店スタッフとして採用される。
つまり刹那の転校および引っ越しが決定したということだ。
「……」
刹那は考え込んでしまう。
世界にどう切り出せばいいのか?
……その必要はなかった。
世界のメールが入ったから。
『パリの引っ越しと転校がんばれ』
ありきたりな応援メッセージ。
実にシンプルであり、どことなく素っ気ない。
世界の部屋へ刹那がやって来た。
直接会ってもその事に関して世界からは話さない。
世界から言わなければ刹那は何も言えない。
そんな不器用な性格である。
「黙ってたら何も伝わらないよ。これからはちゃんと自分の意思を伝えるようにしないとね」
それは世界からの大切なアドバイス。
パリへ行ったら自分で言いたいことを言わないといけない。
そうしないと誰も助けてくれないから。
「お母さんの転勤、決まった」
「どこへ?」
あえて尋ねる。
刹那の口から聞くために。
それを必要な儀式だと思って。
「パリ」
「いつ?」
「学祭が終わった後。撤去作業をする次の日」
「それなら私の委員代理も特に問題ないね。最後、空港で見送りするからよろしく」
「最後……」
あまりにもアッサリとした世界の態度が不気味だ。
こうなることが想定内だと言わんばかりに。
無関心という冷たさを感じる。
だから刹那は怯えるように訊いてしまう。
「世界……私がいなくても平気?」
「うん」
「もう私……いらない?」
「いるよ。委員活動で」
「それだけ?」
今にも壊れそうな刹那のしおらしさ。
世界は両手で刹那の肩を掴む。
ビクッと反応を見せながらも目を合わせた。
「刹那は私に色々なものを譲ってくれた。私は譲られるのが当たり前に思っていた」
「……」
「ありがとう。そしてごめん。これからは私のためじゃなくて、自分のために好きなことをして。あだ名みたいに自分のしたいことを増やしてくれていいから」
「……いや」
「……」
「世界のため……じゃないと、私……私は……」
刹那の未来を制限するつもりはない。
そんな事は誰も望まない。
だから世界は諭すようにして伝える。
「もう私に縛られなくていいの。刹那が自分で考えて、自由に決めていいんだよ」
「やめて……やだ……すて……ないで」
「失礼ね。誰が刹那をゴミ扱いしてるのよ。そんなヤツ、私がぶっ飛ばしてやるから」
世界に譲ることで必要とされたい欲求を満たす。
それが刹那の根幹であり存在意義。
泣き崩れてしまう刹那に何も出来ない。
その状態の刹那を見ても、世界の感情は何も動かない。
いつかいなくなると予感はしていたから。
やはりそうかと。
刹那が転校をしても何も感じないだろう。
なんとなく虚しさは感じるかもしれない。