清浦刹那の依存症   作:完結の陽炎

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9話

 学園祭の準備期間。

 委員長の刹那が仕切り、副委員長の田中が板書を務める。

 1年3組の出し物として何をするのか?

 

 幾つかの候補がある中で、世界が選ぶ一票は王道の喫茶店だ。

 理由は至ってシンプル。

 ラディッシュでバイトしているのでとっつきやすいと感じたから。

 クラスで投票した結果、他の出し物よりも大差で喫茶店に決まった。

 

 次はメニューを決めていく。

 紅茶やコーラー等のドリンク。

 アップルパイやシュークリーム等の食べ物。

 何気に世界が提案した光の洋菓子屋であるパイも挙がっている。

 

 さらに衣装はウエイトレス一択。

 靴は各自で持参という事で特に反対する者はいない。

 

「……」

 

 ヒマになると手持ち無沙汰で退屈をする。

 先生が監視をしているため、迂闊に携帯を触れない。

 そのため世界は窓の景色を眺めて考え事にふける。

 

 刹那に対して徐々に離れていく感覚。

 依存から自立という切り替えを進めていく。

 甘ったれて頼らないようにするために。

 心配しなくても大丈夫だと安心してほしいから。

 

 ………………。

 …………。

 ……。 

 

 ある日にアクシデントが発生。

 田中が柔道部の自主練で全治二週間の骨折をした。

 これで刹那しか委員がいなくなる。

 代わりの人が必要だ。

 桂が一人でやってるから、刹那も一人でやればいいとはならない。

 よそはよそ、うちはうちである。

 

 光からは伊藤に押し付け。

 伊藤からは澤永に擦り付け。

 これ以上の揉め事にならないよう、刹那に選ばせる方向で世界が誘導をする。

 

「私か、伊藤か、澤永か。刹那はこの中から誰を委員の代理になってほしい?」

 

 女同士で委員になってはいけない決まりはない。

 刹那は迷わずに即答する。

 

「世界」

 

 意思疎通が容易にできる世界を選択。

 伊藤を選ばずに世界を戦力として考えた。

 仕事に私情を挟むことがないのが刹那らしい。

 

 委員会の会議室へ向かう途中。

 廊下で桂と鉢合い、世界から話し掛ける。

 

「桂さん、これから委員会?」

「はい。西園寺さんは今からお帰りですか?」

「ノー。刹那と一緒に委員会へ参加だよ」

「え? 3組のクラス委員は男子の方だったと思いますが?」

「それがね、柔道の部活で腕ボッキリ折れちゃってさ。急遽代理が必要になって私が選ばれたの」

「それは大変でしたね」

「という訳でよろしくね桂さん」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 世界が間に入ることで、刹那と桂で共同活動があっても円滑に進む。

 普段はおふざけをする世界も、仕事に関しては真面目であった。

 

 家庭内での出来事。

 世界の母が落ち込み、刹那の母は上機嫌という真逆な反応。

 

 一体なにが起きたのか?

 

 お互いの母が海外の転勤を争っていた。

 その結果、刹那の母が長期のパリ支店スタッフとして採用される。

 つまり刹那の転校および引っ越しが決定したということだ。

 

「……」

 

 刹那は考え込んでしまう。

 世界にどう切り出せばいいのか?

 ……その必要はなかった。

 世界のメールが入ったから。

 

『パリの引っ越しと転校がんばれ』

 

 ありきたりな応援メッセージ。

 実にシンプルであり、どことなく素っ気ない。

 

 世界の部屋へ刹那がやって来た。

 直接会ってもその事に関して世界からは話さない。

 世界から言わなければ刹那は何も言えない。

 そんな不器用な性格である。

 

「黙ってたら何も伝わらないよ。これからはちゃんと自分の意思を伝えるようにしないとね」

 

 それは世界からの大切なアドバイス。

 パリへ行ったら自分で言いたいことを言わないといけない。

 そうしないと誰も助けてくれないから。

 

「お母さんの転勤、決まった」

「どこへ?」

 

 あえて尋ねる。

 刹那の口から聞くために。

 それを必要な儀式だと思って。

 

「パリ」

「いつ?」

「学祭が終わった後。撤去作業をする次の日」

「それなら私の委員代理も特に問題ないね。最後、空港で見送りするからよろしく」

「最後……」

 

 あまりにもアッサリとした世界の態度が不気味だ。

 こうなることが想定内だと言わんばかりに。

 無関心という冷たさを感じる。

 だから刹那は怯えるように訊いてしまう。

 

「世界……私がいなくても平気?」

「うん」

「もう私……いらない?」

「いるよ。委員活動で」

「それだけ?」

 

 今にも壊れそうな刹那のしおらしさ。

 世界は両手で刹那の肩を掴む。

 ビクッと反応を見せながらも目を合わせた。

 

「刹那は私に色々なものを譲ってくれた。私は譲られるのが当たり前に思っていた」

「……」

「ありがとう。そしてごめん。これからは私のためじゃなくて、自分のために好きなことをして。あだ名みたいに自分のしたいことを増やしてくれていいから」

「……いや」

「……」

「世界のため……じゃないと、私……私は……」

 

 刹那の未来を制限するつもりはない。

 そんな事は誰も望まない。

 だから世界は諭すようにして伝える。

 

「もう私に縛られなくていいの。刹那が自分で考えて、自由に決めていいんだよ」

「やめて……やだ……すて……ないで」

「失礼ね。誰が刹那をゴミ扱いしてるのよ。そんなヤツ、私がぶっ飛ばしてやるから」

 

 世界に譲ることで必要とされたい欲求を満たす。

 それが刹那の根幹であり存在意義。

 泣き崩れてしまう刹那に何も出来ない。

 その状態の刹那を見ても、世界の感情は何も動かない。

 いつかいなくなると予感はしていたから。

 

 やはりそうかと。

 

 刹那が転校をしても何も感じないだろう。

 なんとなく虚しさは感じるかもしれない。

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