【完結】主人公がいない死亡フラグだらけの日常~最強のカレナちゃんは傷心中で特に誰も救いません~   作:初雪空

104 / 144
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
https://hatuyuki-ku.com/?p=707


第104話 プロの詐欺師

 つかつかと歩み寄った、沢々(さわさわ)炭火(すみび)

 

 高いスーツをしっかりと着込んでいるが、大衆着ですれ違えば、冴えないオッサンぐらいの感想だろう。

 

 よく見れば、かなりの肥満体だ。

 顔も膨らんでいて、健康的とは言いがたい。

 

 だが、どうしようもない不細工にあらず。

 

 彼は小上がりの畳に座っている室矢(むろや)カレナ、槇島(まきしま)皐月(さつき)に近づき、両手で畳を叩いた。

 

 バンッと、柔道で受け身をしたような音。

 

 顔を上げた炭火は、熱血コーチのような雰囲気で、断言する。

 

「このままだと、君たちは間違いなく失敗する!」

 

 2人の視線を感じた炭火は、ゆっくりと説明する。

 

「いいかい? 僕はね、多くの人を見てきた! テレビ、講演、ある時はプロデュースという形で!」

 

 相手の否定、さらに自分の価値。

 

 その流れに乗った彼は、スッと名刺を取り出した。

 

 畳の上に、2枚。

 

「僕は、君たちが後悔する姿を見たくない……。ただの名刺に見えるだろう? でもね? これは、成功へのチケットなんだ」

 

 カレナと皐月が応じる間もなく、炭火はくるりと背を向けた。

 

 すたすたと、控室の出口へ。

 

 内廊下に出る直前に、振り向いた。

 

「子役は大成しない。そのイメージが強すぎて、本人もかつての成功にこだわるから……。もう一度だけ、言おう! チャンスは、いつまでも待ってはくれない! 次に会ったら、色々と教えるよ」

 

 子分の若衆は、ずっと無言のままで、外からドアを閉じた。

 

 

 息を吐いたカレナは、畳の上に置かれた名刺を手にとる。

 

「……セミナー屋ですか」

 

 皐月が、残りの1枚を見た。

 

「カリスマ……というより、間の取り方が上手いね? ボクらの反論を防ぎつつも、食いつかせる演説だった」

 

 肩を(すく)めたカレナは、別の洋菓子を食べながら、突っ込む。

 

「無理をしていますよ? 騙しやすい相手だけ狙い、自分のフィールドに引きずり込むのが常套(じょうとう)手段ですから」

 

「どーすんの?」

 

 皐月の問いかけに、カレナはあっさりと答える。

 

「放っておけば、炭火のバックが動くでしょう! 時間は、私たちの味方です」

 

「つまり?」

 

 カレナは名刺に記されたアドレスで、SNSの画像を見た。

 

 夜景が綺麗なタワマンに、豪華な家具。

 

 机に並ぶ、高そうなワイングラスと、似たような胡散臭い顔ぶれ。

 

 他の画像では、高級車の中でもトップクラスの車種と一緒の撮影。

 

 スマホを覗きこんだ皐月は、苦笑い。

 

「あー。こういうの……」

 

「資金繰りが厳しいようで……。『稼げるだけ稼いで、高飛びしたい』というのが、本音! 個人を食い物にしているから、刺されそうですし」

 

 本来なら、誰もが知っている有名人に会わせる。

 または、高級車で送迎しつつ、相手が委縮するほどのご馳走をする、という手口だが――

 

「今の私たちは、有名人です。会いたければ、自分で会えます!」

 

「やろうと思えば、有名な料理人を呼びつけて、目の前で作ってもらえるからね。ボクらは……。なるほど! あいつは自分と相性が最悪なのに、突っ込まざるを得ないと」

 

 視線だけで、あいつのバックは? と質問した皐月。

 

 カレナが、すぐに答える。

 

「ダンスマウス・インダストリー」

 

 ため息を吐いた皐月は、畳に座ったままで、両手を軽く上げた。

 

「やれやれ……。ようやく、ご登場か! ボクらを取り込んで、何をさせたいの?」

 

「邪神復活のための生贄(いけにえ)です」

 

 ベタだね、と突っ込んだ皐月は、脱力した。

 

 いっぽう、カレナは説明を続ける。

 

「先ほどの炭火は『ダンスマウス・インダストリー』の思惑とは別に、私たち2人を抱きたい、搾れるだけ搾りたいと、意欲的ですけどね? 似た連中も……。そうそう! 後援の連中も呼ぶようです」

 

 混乱した皐月は、整理する。

 

「えっと……。炭火は『ダンスマウス・インダストリー』の支援を受けて、その意向でボクらを狙っている。だけど、これまでのセミナー稼業による仲間への奢りと、ケツ持ちへの接待もするの?」

 

 首肯したカレナは、笑顔だ。

 

「どうせ『ダンスマウス・インダストリー』に引き渡すのなら、関係者で大乱交をしておこう! あいつらが持っている金や連絡先も、できるだけ確保しておきたい。……まあ、こんなところです」

 

「……今すぐに?」

 

 潰しておくか? と聞いたが、カレナは首を横に振った。

 

(おとり)になって、釣りましょう! 桔梗(ききょう)のために……」

 

 つまり、ディアーリマ芸能プロダクションにも、手が伸びている。

 

 ため息を吐いた皐月は、率直に尋ねる。

 

「どこが?」

 

「マヴロス芸能プロ」

 

 後ろにひっくり返った皐月が、天井を見ながら(つぶや)く。

 

「そっちが手を出してくるまで、ひたすらに待ちか……」

 

「今の私たちは、注目の的です。じきに仕掛けてきますよ? さっきの飛び込みは、もう通じません。私たちが誘いに応じなければ、炭火はどうすると思います?」

 

 少し考えた皐月は、むっくりと上体を起こした。

 

「ボクらが素直に応じる、業界の人間。それも、ディアプロの社員を使う?」

 

「ご名答!」




過去作は、こちらです!
https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。