【完結】主人公がいない死亡フラグだらけの日常~最強のカレナちゃんは傷心中で特に誰も救いません~   作:初雪空

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室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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第30話 敵との遭遇

『東京の一極集中をなくし、このエリアを新たな中心とするべく――』

 

 とあるイベントで、政治家の主張が流れている。

 

 壇上で演説しているのは、地元出身の代議士だ。

 

 

 どうやら国会でも、それなりに発言力があるとか……。

 

 まだ30代の若手であるのに、頼もしい限り。

 

 言うまでもなく二世議員だが、そのわりには腰が低い。

 

 

『この北稲原町を始めとする御田木市の皆様には、日頃から温かいご支援をいただき、誠にありがとうございます!』

 

 パチパチパチパチ

 

『私の冷角(れいすみ)家は、古くから教育に携わっています。そちらの分野でも国会で意見を述べるために粉骨砕身の気概です。そちらに滞在している間はそれぞれの先生と意見を交わしながらも、東京に本社がある企業への訪問――』

 

 

 よく晴れている、週末。

 

 空調が利いた市民ホールの観客席には、多くの人が詰めかけている。

 

 “冷角小刃斑(こばむら)

 

 政治離れが進んでいる現代でこれだけの集客があるとは、人望がある代議士だ。

 

 その一角には、場違いな女子高生たちの姿も……。

 

『お集りの方々の中には高校生のグループも、いらっしゃるようですね? その年齢から政治に関心を持たれるとは、御田木市のお子さんは将来有望で羨ましい限り……』

 

 

 (しの)(ざと)高校のセーラー服。

 

 彼女たちも、地元を良くするため――

 

 

(ごめんね、カレナ! 終わったら、スイーツでも奢るから)

(別に、いいですよ……)

 

 

 よく見れば、佳鏡(かきょう)優希(ゆき)室矢(むろや)カレナの2人。

 今の会話から察するに、親が市議で、その付き合いのようだ。

 

 ある程度はいないと先生のメンツに関わるため、よくある話。

 他にも県庁、市役所と、関係者が動員されているのだろう。

 

 

 今回は地元の人々に応援されている図式だから、いつぞやのように、篠里(しのざと)だからと馬鹿にされず。

 

 他人とは、勝手なものだ……。

 

 

 明るいステージで熱弁をふるう、小刃斑。

 

 カレナたちは、どこ吹く風。

 

 小声で話し合っていたら、そこに割り込む、男の声。

 

 

(ちょっと……いいですかな?)

 

 

 暗がりで観客席に座ったまま、2人は横を見た。

 

 ここは出入りしやすい、後ろの壁際。

 

 通路を兼ねた外側にカレナが座り、その隣に優希がいる。

 

 

 立っている男と接するカレナが座ったままで、ジッと見た。

 

(何でしょう?)

 

 よく見れば、スーツ姿で恰幅はいいものの白髪。

 

 老人と言える男は鋭い眼光のまま、笑顔を作った。

 

(いえ、たいした用事では……。多冶山(たじやま)学園……。あなたは、どう思います?)

 

(やはり、許せないですか?)

 

 質問で返された老人は言葉に詰まり、ステージで話し続ける小刃斑を見た。

 

 視線を戻す。

 

 緊張した様子で、問いかける。

 

(私を止めると?)

 

 老人に釣られて、壇上を見ていたカレナは、同じく見返す。

 

 手品のごとく、左手の指の間に1枚のタロットカードを挟む。

 

 驚く老人に、そのカードを示す。

 

(審判、ジャッジメントの正位置です……)

 

 まるで演劇のように、その先をステージ上へ向けた。

 

 

 訳が分からない優希に対して、老人は押し殺した笑い声。

 

(クックッククク……。いいね! 最高だよ、あんた……)

 

 

 その時に、会場の警備員が近寄ってきた。

 

 進行を邪魔しないよう、小声で話しかけてくる。

 

「失礼ですが――」

 

 真顔になった老人は内ポケットから手帳を取り出し、上下に開いた。

 

 

 “巡査部長 加藤(かとう)源二(げんじ)

 

 その下には、お馴染みの警察バッチ。

 

 これだけの暗がりでも、その輝きは健在だ。

 

 

「し、失礼しました!」

 

 ギョッとした警備員は思わず、右手で敬礼。

 

「はい、ご苦労さん……」

 

 優しい笑顔になった源二は警察手帳を仕舞い、その場を後にした。

 

 

 警備員が配置に戻り、周囲からの注目もなくなった。

 

 心配した優希は、隣のカレナに話しかける。

 

(だ、大丈夫? ひょっとして、知り合い? ……それ、何?)

 

(まあ、似たようなものです……。これは、とあるデータ)

 

 答えたカレナは、さっきの老人から渡されたメモリを手にしつつ、まだ聞きたそうな優希の耳元で(ささや)く。

 

(今回は危険なヤマだから、私と睦月(むつき)で処理します。……美須坂(みすざか)町の防衛を含めて、何とかしましょう)

 

(私たちも……いたら、迷惑か! ハハハ……。うん、分かった)

 

 暗がりで、カレナは微笑んだ。

 

(たいした話ではありません……)

 

 顔を赤くした優希が、文句を言う。

 

(信じるよ……。だけどさ? 色気たっぷりに囁くのは、止めてくれない? それとも、カレナはそっち系?)

 

(私は、男が好きですよ?)

 

 

 ジト目の優希に構わず、カレナは片手のメモリを弄る。

 

 壇上ではようやく、一通りのプログラムが終わったようだ。

 

 最後に、主役である冷角小刃斑が別れの挨拶。

 

『この出会いを力に変えて、より一層の――』

 

 パチパチパチ

 

 

『以上をもちまして、終了といたします! 皆さま、お疲れ様でした。お忘れ物をなさいませんよう――』

 

 市民ホールに、照明がつく。

 

 

「終了? フフッ……。ようやく、幕が上がったのですよ?」

 

 カレナは、おかしそうに笑った。

 

 

 

 明るい外へ出たカレナは、手の中のメモリを見たまま、(つぶや)く。

 

「誰が気づかずとも、世界の(ことわり)から外れた者がいます。彼は……誰が相手をするべきでしょうか?」

 

 カレナは一点を見つめた後で、合流した優希に視線を向ける。

 

「では、話題のスイーツ店へ行きましょうか?」

 

 苦笑した優希は、返事をする。

 

「お、お手柔らかにね? あんまり、お小遣いに余裕がなくて……」




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