ノーマルスキルと戦術で挑む現代ダンジョン攻略   作:現段井戸藻

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第一階層

 無機質な迷宮の道は二手に分かれている。

 真っ直ぐ前に進むか。あるいは左に曲がるか。

 

「反応は?」

『左手に反応あり。2体です』

「そっちだな」

 

 ひとり言のように呟くと、脳内に直接響くように声が返ってくる。この独特の感覚は、中々慣れない。

 

『位置出します』

 

 視界に重なるように表示されたマップに、2つの赤い点が追加される。

 

『距離5。対象識別……完了。推定ゴブリンです』

「固まって居るな。これなら……」

 

 曲がり角の手前、姿を見せないようにしながら飛び出せる姿勢を取り。

 

「一気に行く」

 

 スキル“火弾“を起動。音もなく出現した2つの火の玉を、角から飛び出しながら射出する。

 

「ギャッ?」

 

 気配に気付いたゴブリン達がこちらを向く。とほぼ同時に火弾が着弾し、彼らの顔面を容赦なく焼く。その隙に、さらに走って距離を詰める。

 

「ギャァッ!」

 

 悲鳴とも怒りともつかない声。しかし、火弾一発ずつでは致命傷には程遠い。それで良い。一瞬怯めば、目が眩めば、目的は果たせる。こちらの攻撃に反応できない状態であれば、それで十分だ。

 

「まずは一体」

 

 右手に握ったロングソードを振り、剣先で喉元を掻っ切る。これで伝達系は破壊された。この調子でもう一体も……。

 

『左!』

「っ!」

 

 警告。

 咄嗟に左手を振り上げると、小型の丸盾(バックラー)が何かを弾く。痺れるような重い感触。棍棒か!

 

「グギャッ!?」

「っぁあ!」

 

 振り下ろした棍棒を弾かれ、攻撃を防ぐ術を失ったゴブリンにロングソードを突き刺す。身体の中心、核を破壊した手応え。

 

『ゴブリン2体、消滅確認しました。お疲れ様です』

「……今のは危なかった」

 

 火弾は顔面に直撃していた。あの短時間では、視界はまだ回復していなかったはずだ。闇雲に振り回した棍棒が、たまたま良い位置に来ただけ。それでも、あれがまともに当たればこちらは無事では済まなかっただろう。少なくとも左手は持っていかれていたし、戦闘が長引けばさらなる損耗もありえた。

 

「ありがとう、助かった」

『……いえ、仕事ですから。そんなことより、オーブの回収をお願いします』

「ああ、そうだな」

 

 ゴブリンの身体は既に消滅し、後にはオーブと呼ばれる玉だけが残されている。ぼんやりと光を放つ、不思議な玉。それらを拾い上げ、声をかける。

 

「はい、オーブ2つ」

『ゲート開けます』

 

 返答と共に、手元の空間に黒い穴が出現する。それほど大きな穴では無いが、オーブ程度なら問題なく入れられる。

 

「投入した」

『ゲート閉鎖。オーブ2個の納品、確かに確認しました』

 

 探索者はオーブを納品しなければ報酬を得られないが、いちいち持ち帰る必要はない。このように、手に入れた端から"ゲート"に投入すれば良いだけ。便利なものだ。

 もっとも、探索者の利便性なんてものは副次的な成果だ。いつ探索者が死んでも良いように対策している、というのが協会の本音だろう。

 

『ここまでの納品で本日の目標成果は達成しました。今すぐ帰還しますか?』

 

 問われ、念のため自分の状態(ステータス)を確認する。よし、大丈夫だ。最小限の消費に抑えているから、まだMPには余裕がある。

 

「いや、まだ探索を続ける。もっと奥まで進んでおきたい」

『了解しました。サポートを続けます』

 

 ぐずぐずと第一階層の探索を続けるつもりはない。最低でも、今日中に階層ボスまでは確認しておきたい。帰還はそれからだ。少々強行軍にはなるが、無茶は最初から承知の上だ。

 

 

 迷宮内は複雑に入り組んでいる。その上、数多くのモンスターがそこら中を徘徊しているから、避けられない戦闘も多い。そのため、深部まで進むにはそれ相応の時間がかかる。実際、目的の物を見つけるにはさらに半日の探索を要した。

 

「あの扉か」

『はい、間違いありません。あの扉の向こうに、階層ボスの居る部屋があります』

 

 予想通りの返答に頷きながら、独特の装飾が刻まれた大きな扉を睨みつける。

 

「そして、その先には第二階層に続く階段がある」

 

 そこまで辿り着ければ、の話だが。

 目下の問題は、あの扉の上に陣取っているモンスターだ。扉の縁にとまっている、大きく奇妙な鳥。あんなところに居座られては、見つからないように回避して進むことも出来ない。

 

「飛行タイプか。見るのは初めてだ」

『火吹き鳥です。口から吐き出す火炎と、鋭い脚の爪に気を付けて下さい』

「了解」

 

 それだけ情報があれば十分だ。

 スキル“火弾“を起動。扉の方に駆け出しながら、火吹き鳥に向けて射出する。

 火弾は狙い違わず向かっていくが、火吹き鳥は既にこちらに気がついている。着弾する前に元の場所から飛び立ち、こちらの攻撃は回避された。

 

「ピィッ!」

 

 飛翔、からの急襲。

 上空からの高速急降下。脚の爪の軌道に丸盾を差し込み、どうにか弾く。ギリギリだ。防御が間に合っていなければ、今ので首筋を掻き切られて終わっていた。

 

『背後、旋回してきます!』

「くっ!」

 

 体制を立て直す暇もなく警告が飛んでくる。身を翻した瞬間、上空で奴がくちばしを開くのが見えた。

 

「っ!」

 

 横っ飛びに転がると、一瞬前の自分がいた位置に火炎が吹き付けられる。奴は火を吐きながら上空を滑空し、背後に抜けていく。飛翔高度は高い。普通に剣を振っても、あの高さでは届かない。

 

『旋回、再び来ます!』

 

 そう何度もやらせるかよ。

 最短動作で身を起こしながら背後に駆け出す。奴はまだ旋回を終えていない。このタイミングだ。こちらにくちばしが向く前に、片を付ける。

 スキル“魔力の刃“を起動。ロングソードの剣先に青白く光る魔力の刃が形成され、刀身が延長される。

 

「これで終わりだ」

 

 ロングソードを、剣先に形成された魔力の刃を振るう。旋回途中では回避すらできない。刃は火吹き鳥を両断し、直後に効果時間を終えて消滅した。

 

『火吹き鳥1体、消滅を確認しました。お疲れさまでした』

「……ふぅ。これでいよいよ、だな」

 

 オーブを回収しながらステータスを確認する。長かった第一階層も、残すは階層ボスのみ。MPは底をつきかけているけど、ここまで来れば問題はない。

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