ノーマルスキルと戦術で挑む現代ダンジョン攻略 作:現段井戸藻
扉の先、広間のように開けた空間。その中心で獲物を待ち受けているのは、牛頭人身の怪物。
『第一階層ボス、ミノタウルス。強大な膂力と、それによって繰り出す戦斧が脅威です』
見上げるような巨体。厚く全身を覆う筋肉。片手に握った大斧。押し潰されそうな程の迫力。
「……なるほど。簡単な相手ではなさそうだ」
今まで相手してきたモンスター達とは、明らかに格が違う。これが階層ボス。
嬲るようにこちらを見ていたミノタウロスが、遂に動き始める。
「ブロォオオオオオッ!」
『攻撃、来ます!』
振り下ろされる戦斧を、後ろに下がりながら躱す。
一振り。二振り。速い。この巨体でこの動きか!
躱してもなお感じる風圧の大きさで、威力の程は推し量ることが出来る。間違いない。一撃でもまともに喰らえば、タダでは済まない。
「っく!」
何度も振り回される斧を、間一髪でどうにか躱していく。ただでさえリーチの差があるのに、この隙の少なさ。前に出られない。
しかし、避け続けるだけではジリ貧だ。どうにか攻撃を当てるしかない。
「っ、どうだ!」
躱し際に何とか腕に切りつけてみるが、浅く傷がつくだけ。漏洩魔力量は僅かだし、リアクションも薄い。だめだ。ほとんどダメージを受けている様子がない。やはり、急所を狙うしかないか。
「なら、これだ」
奴は前掛かりに攻勢をかけてきている。反撃を警戒していない相手なら、飛び道具は当てやすい。
スキル”火弾”を起動。斧を避けながら、相手の呼吸に合わせて射出。放たれた”火弾”は、吸い込まれるようにミノタウロスの顔面に直撃する。狙い通り。
「ブッ……ォォオオォオオオオ!」
怒りの咆哮を上げながらも、ミノタウロスは顔を焼かれている。斧を無茶苦茶に振り回してはいるが、周囲の光景は見えていない。
「ここだ」
ミノタウロスの脇を駆け抜け、背後に回る。最後のMPでスキル”魔力の刃”を起動し、ロングソードの剣先に刃を形成。これでリーチは足りる。奴の背中を突き貫き、身体の中心にある核を破壊する!
突き出した刃は、しかし奴の身体に届く前に砕かれた。
ミノタウロスが振り向きざまに振るった、斧の一撃によって。
「――は?」
なぜ。見えてはいなかったはずだ。視界はまだ。どうやって防いだ。背後からの一撃。察知する方法なんて。
いや、そうか。音だ。足音。俺が奴の背後に回ったのは、足音でわかる。視界を潰された状況でも、正確な位置はわからなくても、それだけはわかる。奴は、それに合わせて振り向いただけ。獲物のいる方向に、ただ闇雲に斧を振っているだけ。それがタイミングよく、こちらの攻撃を防いだだけ。
『前っ!』
「っ!」
まずい。斧が来る。反応が遅れた。避けきれない。盾で防ぐ。角度をつけて、盾で受け流して、それで。
迫り来る斧と、左手の丸盾がぶつかる。体を貫くような重い衝撃。次の瞬間、引きちぎれるような嫌な音と共に衝撃が抜け、体が軽くなる。あれっ、なんだ今の感覚?
いや、考えるのは後だ。次の攻撃が来る前に、体勢を立て直す。とにかく一度下がろうとしたところで、身体のバランスを崩す。あれっ、なんだこれ。まずい、すぐに次が来るのに。じゃあ盾だ、盾を構えて。そう考えたところで、左腕の感覚がないことに気がつく。衝撃で麻痺った? 咄嗟に左腕に目を向け、自分の勘違いに気がつく。
「……あっ」
そこにはもう、あるはずのものが無かった。肩から先、左腕全体がまるっと無くなっている。現実を認知した途端、無意識下に追いやっていた大きすぎる痛みを認識する。 さっきの感覚は、攻撃を防いだ衝撃に耐えきれず、持っている盾ごと左腕が引きちぎれた感覚だったのか。
そう気がついた時には、既に手遅れだった。
「ブルォオオオオオオオッ!」
『ダメッ、避け――』
無理だ。間に合わない。
雄叫び共に振り下ろされる斧が、もう目の前まで迫って来ている。回避は間に合わず、防ぐための盾すらもう無い。
死んだな、これ。
【仮創体:損傷過多】
【仮創魔力量:異常低下検知】
【仮創魔力量:許容下限値突破】
【仮創体:崩壊開始】
【意識接続:緊急切断実行】
【仮創体:完全崩壊】
【意識接続:復旧プロセス開始】
【仮創体:再構築プロセス開始】
【意識接続:復旧プロセス実行】
【仮創体:再構築プロセス実行】
【仮創体:再構成完了まで残り29°59′】
【意識接続:復旧プロセス実行】
【意識接続:復旧プロセス実行】
【意識接続:復旧プロセス実行】
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【意識接続:復旧プロセス完了】