ノーマルスキルと戦術で挑む現代ダンジョン攻略   作:現段井戸藻

3 / 5
仮創体

『……さん! ヒラオさん!』

 

 誰かの声が聞こえる。どうしたんだろう、そんなに必死に叫んで。何か急いでいるんだろうか。

 ああ、俺もそろそろ起きなきゃな。やらなきゃいけないことがあるんだ。ゆっくりはしていられない。今はとにかく先に進まないと、な……。

 

 

 目を開けると、こちらを覗き込んでいる瞳と目が合った。

 瞳を覗き込んでいる時、瞳もこちらを覗いているのだ。

 

「……目が覚めましたか?」

「ああ。……死んだのか、俺は」

 

 数度瞬きをする内に、徐々に記憶が蘇ってくる。そうだ。ミノタウロスに挑んで、左腕がちぎれて、それで最期は斧に……。

 ミノタウロス。手強い敵だ。改めて思い返してみても、あのパワーは反則だ。しっかり盾で防御はしていたのに、桁違いの力で腕ごと強引にを持ていかれた。実質、ガード不可攻撃。

 その出鱈目なパワーだけでも脅威だが、奴の強みはそれだけではない。とにかく斧の振りが速いから、奴の攻撃を搔い潜って急所狙うことが困難だ。加えて、あの図体のでかさ。急所以外への普通の攻撃なら、何十発でも耐えられるだろう。なるほど、探索者の壁と言われるわけだ。レアスキル持ちでもなければ、簡単に倒せる相手ではない。

 

「……壁、か」

 

 ところで、いつまでこちらを覗き込んでいるつもりだろう。こんなに至近距離で見つめあっていると、なんだか変な気分になってしまいそうだ。

 

「悪い。せっかくサポートしてもらったのに、あの様だ。迷惑をかけたな」

「いえ、元々初見で勝てるような相手ではありませんから。無事なら良かったです」

 

 答える声は機械のように冷静で、探索中と何も変わらない。彼女はいつも冷静に、的確なサポートをしてくれる。頼もしい限りだ。彼女ほどのオペレーターが組んでくれているのは、幸運という他ない。

 すっと彼女の顔が離れていったことに内心安堵しつつ、身を起こしてこちらも言葉を返す。

 

「無事なのは当たり前だろ? 攻撃を受けたのは仮創体の方だけだ。本体はこの通り、傷ひとつ影響ない」

 

 仮創体。魔力で創られた仮の身体。協会の技術の粋を集めてつくられた、探索用のアバターのようなものだ。あるいは、遠隔操作ロボットといってもいい。

 探索者はダンジョン探索をする際、必ず自身の仮創体に意識を接続し、それを通して探索を行う。その間、自分の本当の身体は安全な協会本部の中にあり、危害を加えられる心配はない。仮創体は一定以上の損傷を受けたり、維持魔力が足りなくなると崩壊するが、意識は自動的に本当の身体に戻って来る。つまり、探索者は肉体的リスク抜きでダンジョン探索に挑める仕組みになっている。

 

「当たり前ではありません。何度も説明しましたよね? たとえ仮創体を通したものであっても、痛みや感覚、死の恐怖は本物です。実際、それらに耐えきれず探索者を辞める方も珍しくありません。くれぐれも気をつけて下さい」

「わかってる。死ぬのだってタダじゃない。今後も最小限に抑えるつもりだ」

 

 仮創体は多くのメリットがあるが、デメリットもある。それは、仮創体の構築にはコストと時間がかかること。特に時間のほうは問題で、一度仮創体が崩壊してしまうと再構築が完了するまで一日以上かかり、その間次の探索に行くことが出来ない。探索の中でしか稼げない探索者にとって、この強制待機時間は強制無給期間でもある。死ぬ頻度は稼ぎの大小に関わる重大な要素だ。

 

 とはいえ、今回の死は必要経費だ。階層ボスまでのルートはマッピングできたし、そこまでの探索でそれなりの稼ぎはあった。なにより、直に階層ボスと戦って情報を得られたのが大きい。目的は十分に果たした。これで、次こそはあの怪物を攻略出来る。

 

「そうではなくて……いえ、もういいです。ともかく、探索お疲れさまでした。まずはゆっくり休んでください」

「ああ、そうさせてもらう。そちらもゆっくり休んでくれ。仮創体の再構築が終わる頃にまた来る」

 

 ざっと今回の報酬を確認してから、探索者協会本部を後にする。

 今日は随分と遅くなってしまった。もう寝てるかもしれないけど、何かお土産でも買って帰るとしよう。

 

 

 

 

「おっかえりー、お兄ちゃん!」

「なんだ、まだ寝てなかったのか。ただいま、(のぞみ)

 

 玄関を開けた途端、明るい声に出迎えられる。それと、美味しそうなスパイスの香り。

 

「おっ、カレーあるのか?」

「うん! お兄ちゃん、ご飯まだでしょ? 一緒に食べよ!」

「先に食べててよかったのに。お腹空いたろ?」

「いいからいいからっ」

 

 何がいいのかはよくわからない。だけどまあ、元気そうだからいいか。

 

「いただきます」

 

 一口、二口。むっ、これは。

 

「うまい」

「でっしょー!」

 

 ニコニコと微笑む妹の顔を見ると、後のことは全部どうでも良くなりそうになる。こんな何気ない光景も、半年前には想像すらできなかった。

 

「お兄ちゃん、私のカレー大好きだもんね。またカレー食べたいよね?」

「ああ。次は……そうだな。牛カレーがいいな」

「ぎゅうって……えっ、牛肉!? ……いいの?」

「大丈夫、お金のことは心配するな。俺がなんとかする」

 

 希は聡い。借金の話なんてしたことはないのに、何となく察している。察していて、聞いてこない。話させることが重荷になると、わかっているからだ。

 そして、全て自分の所為だと、自分の責任だと思いこんでいる。そんなわけ、あるはずがないのに。

 

「そうだ、プリン買ってきたぞ。食べるだろ?」

「これって、あの駅前の店の!?」

「ちょうど2個売れ残ってた」

「わーい、お兄ちゃん大好き!」

 

 もう、いいだろ。

 理不尽に奪われた。失った。もう取り戻せないものも沢山ある。

 でも、せめて。取り戻せるものなら。手に入るものなら。この目の前の光景を、守るためなら。

 俺は何だってやる。どんな手でも、使ってみせる。

 

 

 

 

【仮創体:再構成完了まで残り00°00′】

【仮創体:再構成プロセス完了】

【仮創魔力量:完全充填】

【意識接続:仮創体リンク開始】

【探索者認証:ヒラオ・ノゾム】

【アクセス権限:アイアンランク】

【スキルセット:"ロングソード"】

【スキルセット:"小盾"】

【スキルセット:"火弾"】

【スキルセット:"魔力の刃"】

【スキルセット:"索敵"】

【意識接続:仮創体リンク確立】

【マップデータ:ロード完了】

【アクセスポイント:第一階層】

【支援システム:起動完了】

【出撃許可:承認】

【出撃準備:完了】

 

『――探索、開始します』

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。