ノーマルスキルと戦術で挑む現代ダンジョン攻略 作:現段井戸藻
無機質な迷宮の道を駆ける。
最速で、最短で。目的地に向かって、一瞬の無駄もなく。
『次、右です』
「了解」
誘導に従って道を曲がる。
今回の探索の目的は、第一階層ボス・ミノタウロスの撃破。徹底的にそれだけに目的を絞る。道中で他のモンスターも狩っていった方が稼ぎは良いが、MPの消費と負傷するリスクをなるべく抑えたい。寄り道はせず、戦闘は本当に避けられない最低限のものだけにする。
前回までの探索で、第一階層の主要部分のマッピングは済んでいる。マップデータと、スキル”索敵”で検知した敵モンスターの存在座標。それらを組み合わせ、最小の戦闘回数で済む最短のルートを瞬時に導き出し、的確に進路を誘導する。誰にでも出来る芸当ではないが、彼女ならそれが可能だ。
『次、左。ゴブリンが1体!』
「了解」
マップ上の赤い点の位置を、視界の隅で捉える。曲がり角から近い。これなら。
スキル”魔力の刃”を起動。ロングソードの剣先に魔力の刃が形成され、長さが延長される。
「邪魔だっ」
角を曲がりながらロングソードを突き出す。マップで見た通り、ゴブリンは近い位置にいる。この距離なら、一足で刃が届く。
『ゴギャッ!?』
ゴブリンが反応するような素振りを見せたが、もう手遅れだ。突き出した刃はゴブリンの身体の中心を貫き、一瞬で核を破壊する。
『ゴブリン1体、消滅確認』
「よし、この調子で一気に駆け抜ける!」
道を探りながら、道中でなるべく多くのモンスターを狩りながら進んでいた前回とは進行速度がまるで違う。この調子なら、ものの数時間でこの階層の最深部まで辿り着ける。休憩は抜きだ。集中力を切らさないためにも、一気にボス部屋まで進む。
*
『次で最後です。あの角を曲がれば……』
「ボス部屋だな。いや、その前にあれがいるか?」
『はい。扉の間に1体、火吹き鳥です』
「了解」
会話をしながらも、足は止めない。火吹き鳥。ゴブリンに比べれば厄介な相手ではあるが、奴の動きはもう見ている。問題はない。
角を曲がると、道の先にボス部屋へ続く大きな扉が現れる。前回見たのと同じ光景だ。そして、門番の様に扉の縁にとまっている火吹き鳥も。
「通らせてもらうっ」
スキル”火弾”を起動。走りながら火吹き鳥に向かって射出する。と、同時にスキル”魔力の刃を起動。
「ピィッ!」
火吹き鳥が飛びあがり、”火弾”を回避。と思う間もなく急降下を始め、こちらに襲い掛かる!
「やっぱり、そう来たな」
その動きは前回と同じだ。予想はできていた。当然、その対策も。
大きく横に飛んで火吹き鳥の急襲を躱しながら、ロングソードを横薙ぎに振るう。”魔力の刃”は既に展開を終えている。リーチの伸びた刃は、飛び込んでくる火吹き鳥をカウンター気味に両断した。
『火吹き鳥1体、消滅を確認』
「了解。ここまでは問題なし」
オーブを回収しながらステータスを確認する。戦闘を最小限に出来たから、今回はかなりMPが残っている。仮創体の損耗もない。よし、想定通り。
「あとは、あいつを倒すだけだ」
いよいよだ。前回奴に殺されて以来、頭の中で何百回と戦闘をシミュレートしてきた。もう同じ轍は踏まない。今度こそ必ず奴を、第一階層ボス・ミノタウロスを殺してやる。
*
扉の先、広間のように開けた空間。その中心で獲物を待ち受けているのは、牛頭人身の怪物。
「よう、また会ったな」
見上げるような巨体。厚く全身を覆う筋肉。片手に握った大斧。押し潰されそうな程の迫力。
強い。だからなんだ。そんなこと、俺には関係ない。興味もない。
「でも、今日で最後だ」
嬲るようにこちらを見ていたミノタウロスが、遂に動き始める。
「ブロォオオオオオッ!」
『攻撃、来ます!』
振り下ろされる戦斧を、後ろに下がりながら躱す。
やはり振りが速い。相変わらずの馬鹿みたいな風圧。掠るだけでも危ない。防ぐのも不可能。
「っ!」
力任せに、しかし恐ろしい程の速さで振り回される斧の乱舞を躱していく。
とにかくこいつの斧は躱しまくるしかない。躱して躱して躱して、チャンスをうかがう。
「そろそろ、か」
だいぶ目が慣れてきた。やれる。
スキル”火弾”を起動。タイミングを見て射出し、乱舞する斧の間隙に差し込む。
「ブルォォォオオオオオッ!」
「よし」
狙い違わず、”火弾”はミノタウロスの顔面に着弾。炸裂した火炎が顔を焼き、奴の視界を覆う。
その隙を逃さず、ミノタウロスの脇を抜けて背後に回る。まるで、前回の戦いを再現するかのように。
「いいや、ここからだ」
さらにスキル”火弾”を起動し、ミノタウロスの後頭部目掛けて射出する。
着弾の直前、ミノタウロスがこちらに振り返りながら斧を振るう。しかし闇雲に振るった斧は空を斬り、”火弾”は奴の顔面に再び炸裂。
「ブッ……ォォオオォオオオオ!」
よし、狙い通り。
何度か立ち位置を変えながら、執拗に”火弾”をミノタウロスの顔面にぶつけていく。やはり、音だ。立ち位置をどこに変えても、奴は必ず俺のいる方に向き直って斧を振るう。視界を潰され続けている奴は、音を頼りに獲物の位置を捉え、仕留めようと暴れている。苛立ち混じりに、無茶苦茶に斧を振り回して追って来ている。
「そら、今度はこっちだ」
”火弾”。”火弾”。”火弾”。位置を変え、斧を躱し、ひたすらミノタウロスの顔面を焼く。道中でなるべく節約したおかげで、まだMPには余裕がある。とはいえ、このまま”火弾”を当て続ければ勝てる相手でもない。苛立ってはいるが、どれだけぶつけたところで”火弾”のダメージ自体は大したことはない。奴を倒すには、こんな火力では全く足りない。それでいい。作戦は順調に進んでいる。奴の視界を潰し続けられれば、それで十分だ。
「ブルゥウロォォオオォオオオオ!」
なあ、わかってるか?
お前、何回”火弾”を喰らった?
お前、何回方向転換した?
お前、どれだけの距離を移動した?
お前は今、どこにいる?
そして、作戦は成る。
重々しく硬質な、斧が壁に喰い込む音とともに。
「ブォッ!?」
「気付くのが遅かったな」
今さら気付いたところで、もう遅い。
俺の目的はずっと、奴を壁際に誘導することだった。視界を潰し、何度も方向転換をさせ、方向感覚を無くさせ、その上で壁際に誘導した。その結果、視界も無いまま斧を無茶苦茶に振り回すミノタウロスは、力任せに斧を壁に突き刺す羽目になった。
奴の馬鹿力なら、時間さえあれば斧を引き抜き、再び戦うことも可能なのかもしれない。しかし、斧を引き抜くような時間は与えない。奴の攻撃が止まる一瞬の隙。俺の攻撃を避けられず、防げない瞬間。その瞬間を作り出すためだけに、この作戦はあったのだから。
スキル”魔力の刃”を起動。ロングソードの剣先に青白い刃が形成され、刀身が伸びる。
「これで終わりだ」
無防備なミノタウロスの身体に刃を突き立てる。刃は身体の中心を深く深く貫き、遂にその核を破壊した。
『ミノタウロス1体、消滅を確認しました。お疲れ様でした』
「……ふぅ、なんとかなったか」
オーブを回収しつつ、息を吐く。
作戦通りとはいえ、一撃でも喰らえば死の危険があるレベルの相手だ。攻撃を避け損なって死ぬ可能性は常にあった。しかし、結果は結果だ。何はともあれ、これで。
「これで第二階層に進める」
『はい。ここからが本番です』
そうだ。階層ボスの撃破は手段であり、過程に過ぎない。第二階層に進もう。俺の目的は、その先にしかないのだから。
【探索者の第二階層への到達を検知】
【おめでとうございます】
【探索者認証:ヒラオ・ノゾム】
【第二階層到達により、正探索者資格を獲得しました】
【正探索者には様々な権利が開放されます】
【詳細は探索者協会にご確認ください】
【情報が更新されます】
【アクセスランク:アイアン→ブロンズランク】
【買取手数料:更新】
【利用可能施設:追加】
【使用可能スキル:追加】
【アクセスポイント:第二階層追加】
【マップデータ:第一階層更新】
【マップデータ:第二階層追加】
【情報更新完了】
【探索続行可能】
おつです