ノーマルスキルと戦術で挑む現代ダンジョン攻略   作:現段井戸藻

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第二階層

 第二階層と言っても迷宮の見た目は第一階層とそう変わりはない。延々と続く無機質な壁と床。そして、急に現れる別れ道。

 

「変わり映えしないな」

『もっと深い階層だと様変わりしますけど、まだ第二階層ですから。それでも、出現するモンスターの種類は第一階層とは一変しますよ』

「へえ?」

 

 それは朗報だ。そろそろゴブリン狩りには飽きてきたところだし。それに、ゴブリンのオーブ買取価格は最低価格。稼ぎの面でも、他のモンスターを狩れるのは大きい。もっとも、オーブの買取価格はモンスターの危険度に比例する。下手に強い相手に挑んで死ぬくらいなら、堅実に弱いモンスターを狩る方が利益は大きい。そのリスクとリターンを見極める力も、探索者の重要な素養と言えるだろう。さて、第二階層のモンスターはどんなもんだろうか。

 

「まずは一度戦ってみたいな。近くに何かいるか?」

『反応出てます。左に曲がった先に1体……』

「なんだ、どうした?」

 

 不意に言葉を切って黙り始めた彼女に、疑問の声を投げかける。すると、出し抜けに焦ったような声が返って来た。

 

『気付かれましたっ。反応、こちらに来ます!』

「そういうことか」

 

 わざわざ向こうから来てくれるとはな。丁度良い、こちらから出向く手間が省けた。しかも、角で待ち伏せ出来るこちらが圧倒的に有利なポジション。相手が姿を見せた瞬間に先制攻撃を叩き込めば、もう勝負はついたようなものだ。

 そんな甘い考えは、続く彼女の言葉で呆気なく崩された。

 

『対象、ガーゴイルです!』

「なっ……!」

 

 まじか。最悪。よりによって。いや、ごちゃごちゃ考えている暇はない。マップ上の赤点はみるみるこちらに近づいてきている。今はとにかく、目の前の突発事態に全力で対象する。

 スキル"火弾"を起動。同時に"魔力の刃"を起動。ロングソードの剣先に青白い魔力の刃を形成。

 

『来ます!』

 

 角から飛び出してきた影に、すかさず"火弾"を発射。同時にロングソードで斬りかかり、"魔力の刃"を思いっきりぶち込む。

 炸裂する“火弾"と“魔力の刃"。2つのスキルは完璧に相手にヒットしていた。

 だが、しかし。

 

「Grrrrr……」

「……嘘だろ、これでノーダメかよ」

 

 ガーゴイル。悪魔を模した動く石像。当然のことながら、その全身は石で出来ている。火で燃えるわけもなければ、刃で斬れるわけもない。今の俺のスキル構成では、有効打を与える方法がない。相性最悪だ。

 

 とはいえ、少しくらいは削れるかと思ったんだが。想像以上にキツい状況。仮創体で無ければ間違いなく冷や汗が出ていた。

 さっきの移動速度を見るに、逃げ切ることも不可能だろう。むざむざ背中を向けたところで、すぐに追いつかれて殺されるのがオチだ。ならば、なんにせよ選択肢はひとつしかない。

 

「かくなる上は……」

『何か作戦が?』

 

 ああ、あるさ。とっておきの奴が。

 

「死ぬまで殴る!」

 

 神は言った。カスダメでも死ぬまで殴れば相手は死ぬ、と。言ってたかな。言ってた気がする。多分言ってた。

 

 右手に持っていたロングソードを投げ捨て、スキル"小盾"を起動。生成された小さな丸盾を右手に持つ。これで元々左手に持っていた盾と合わせて、両手に盾二刀流だ。いや、二盾流?

 

「Grrrrrruuu!」

 

 襲いかかって来るガーゴイルの鉤爪を、左手の盾でいなし、弾く。よし、相手の腕が開いた。すかさず空いた懐に踏み込み、右手に握った盾で顎を思い切り殴りつける。石の身体を殴り抜ける、重々しい手応え。生身の体なら拳が壊れる心配をするところだが、生憎こちらは仮創体だ。無茶がきく。

 

「Grrr……!?」

「そら、どんどんいくぞ」

 

 殴る。殴る。殴る。反撃をいなし、爪を弾く。殴る。殴る。顎を殴る。ボディを殴る。破片が飛び散る。削れている。そのはずだ。殴る。本当に効いてるのか? あとどのくらい殴れば。

 

「Grrrrrrruuuuuu!」

「っく!」

 

 奴の爪が肩を掠める。油断した。いや、違う。徐々にこちらの動きに適応して来ているんだ。いなし切れない攻撃が増える。少しづつ、でも確実に、奴の攻撃はこちらの体を傷付けていく。まずい。まだ致命傷は避けているが、傷が付くたびに着実に魔力は漏れ出ている。

 

【仮創魔力量:低下検知】

 

 警告も出始めた。このまま魔力が漏れ出ていけば、遠からず仮創体は崩壊を始める。

 

「そうはさせるかよっ」

 

 集中だ。奴がこっちの動きに対応するなら、その動きにさらにこちらも対応すれば良いだけのこと。よく見ろ。思考を止めるな。見て、防いで、殴れ!

 殴る。いなす。削る。弾く。殴る。殴って削って――。

 

 ミシッ。

 殴った瞬間、盾から嫌な音がした。ひびだ。度重なる負荷に耐えかねて、とうとうひびが入った。すかさずその盾を投げつけ、スキル"小盾"を発動、再生成。新たな盾を握り、再び殴り始める。

 

 消耗戦だ。盾もMPも体も気力も。全てを注ぎ込んで、ひたすら殴る。殴る。殴る殴る。殴る削る殴る。殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る!

 

 

 どれほどの時間、そうして闘っていただろうか。我に返ったのは、彼女の冷静な声を聞いた時だった。

 

『ガーゴイル1体、消滅確認しました。お疲れ様でした』

「……終わった、のか」

 

 気がつけば、目の前には消滅したガーゴイルが残したオーブだけが転がっている。ほとんど意識も飛びかけていたが、なんとか奴の核を砕くところまで削りきれたらしい。

 ああ、ひどい戦いだった。間違いなく過去最低の戦い。それもこれも、ガーゴイルに有効打となるスキルがなかったのが原因だ。第二階層にいるガーゴイルが今の1体だけとは考えにくい。うろうろと探索を始める前に、早急にスキル構成を見直すべきだろう。

 

「よし、とりあえず一旦撤収で」

 

 アクセスポイントは追加されてるから、次回の探索は第二階層から始められる。しっかり準備を整えてから、再度出直すとしよう。

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