すそはらいのヒーローアカデミア   作:エルルーン

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1話 つぐももと個性 

 

 

 

 

 

 

『上鳴! あんた電気男じゃん。バリバリとやっちゃいなよ』

 

『あのな! 戦闘訓練のとき見たでしょ! ペアだったじゃん! 俺は電気を纏うだけだって! 放電は出来ても操れねーの!』

 

 

「ねぇ桐葉さん。やっぱり助けたほうがいいんじゃあ……」

 

「うーむ……。とは言ってもあれが怪異かどうか分からんとワシらとてやり様がないじゃろうが」

 

 

 上鳴、耳郎、八百万が山岳ゾーンにてヴィランに包囲されてる中、岩山の陰から人知れずそれらを覗き見る存在がいた。

 二人の男女──、上岡市の"すそはらい"『加賀見かずや』とそのつぐもも、帯の『帯奈桐葉』。彼らは現在自分たちの身に降りかかかってる現状を把握するためにも眼前の光景を分析し、そして首を傾げるしかなかった。

 

 何故こうなったのか。

 思い返せばつづら殿頭首である織小花央姫から低緊急度怪異案件、通称"蔵凍(くらこごり)"の依頼を受け、その居場所に赴いたのが事の発端だった。

 そして出会したその怪異にも苦戦なんてすることなくかずやと桐葉は持ち前のコンビネーションで圧倒。最後の一撃が決まったことで力虚しく崩れ落ちる怪異を横に二人は一息を入れることにした。

 

 

『かぁーかっかっか! ワシの敵ではなかったな! とっとと帰って風呂入るぞ風呂ォ!』

 

『ふぅー、これにて一件落着だね……って危ない桐葉さん!』

 

『ん? にょわッー!?』

 

 

 一抹の油断のせいか、はたまた最期に一矢報いんとする執念のおかげか、怪異の攻撃を受けてしまう二人。気がつけば某テーマパークに類似した謎の施設で目を覚ましたということなのだ。

 

 何が一体どうなったのかと戸惑う二人の耳に聞こえてきたのは大勢の人間が争うような声。その方向へ行ってみれば不可思議な背格好をした集団が三人の少年少女を取り囲んでいる有り様。

 あからさまに不穏な状況。助けに行こうにもつぐももにも怪異にも当てはまらない姿形をした集団を目にし、かずや達は動こうにも動けずにいた。

 

 

「そもそもここはどこなんだろう……? 遊園地かな?」

 

「阿呆! だったらなんじゃあの朽ちた建物は! 燃えたり土砂まみれになっとるじゃろが! こんな遊園地があってたまるか!」

 

「そ、そうだよね……」

 

「たくっ、仮に遊園地だとしても悪趣味にも程があるじゃろ。……おっ?」

 

 

 そうしてる内に岩山に電光が走った。

 落雷にも匹敵するそれは遠く離れた二人にも聞こえていた。

 

 

「雷……!? 室内なのに!?」

 

「違う! あの金髪が出したものじゃ!」

 

 

 天象を操るなどもはや神仏の領域。二人の脳裏に祭神であるくくりやほのかが浮かび上がるが、この二柱と彼らが同等とはとても思えない。だからといってつぐももやあまそぎとも思えない。

 人でありながら人ならざる者。そうにしか見えぬからこそ二人の頭はさらに混乱を極めた。

 だが。

 

 

『武器を捨てろ。でなければ……このガキは死ぬことになるぜ?』

 

『卑怯な……!』

 

 

 どちらが悪かは考えずとも分かる。

 それを見た瞬間、二人の行動は早かった。

 

 

「……行こう桐葉さん!」

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今からそっちに行く。妙な真似はするなよ」

 

(くっ、迂闊でしたわ……!)

 

 

 個性"創造"で製作した武器を地面に投げ捨て、無抵抗を示すため両手を上げながら八百万は内心悔しさを滲ませる。

 まさかあの雷撃を相手に生き残った者がいようとは──!

 

 

「おっと、個性は禁止だ。使えばこいつを殺す」

 

「ウェ、ウェ~イ……」

 

「同じ電気系個性としては殺したくはねぇが、しょうがねぇよなぁ」

 

「ウェイ!?」

 

「上鳴さん……!! (ど、どうすればよいのでしょう……! な、何か策は……!)」

 

 

 八百万はなんとか上鳴を傷つけずにヴィランを制する方法を考えるものの、ヴィランは半身を上鳴の体で隠しながら徐々に距離を狭めてくる。

 これでは手を出そうものならまず上鳴に当たってしまう。かといって何もしなければヴィランの凶刃はやがて八百万たちに向けられる。八方塞がり、万事休すである。

 

 

(どうすれば……!)

 

「……上鳴もだけどさ、電気系個性って生まれながらの勝組じゃんか?」

 

(耳郎さん……!?)

 

 

 緊迫した状況で唐突に語り出す耳郎に仰天の目を向けるもすぐさまその意図に気がついた。

 

 

「……何が言いたい?」

 

「いや純粋な疑問ね? だってヒーローじゃなくても色んな仕事あるし、引く手数多じゃん。何でヴィランやってんのかなって……」

 

(なるほど……耳郎さんならプラグを繋げばノーモーションで攻撃が可能!これなら上鳴さんを傷つけずヴィランだけを攻撃できる!)

 

 

 あとは攻撃範囲にヴィランが来るのを待つだけ。八百万もまた、ヴィランの動きを封じ込めるための閃光手榴弾や催涙弾などを創造しつつ、いつでも取り出せるように準備に移っていた。

 

 

(チャンスは一度……。それをモノにできるかどうかが勝負ですわ!)

 

 

 あとわずか、あとわずかと八百万が固唾を飲んで見守る中、ヴィランは嘲笑った。

 

 

「……気づかれないとでも思ったのか?」

 

「なっ……!」

 

「子供の浅知恵などバカな大人にしか効かないのさ……残念だったな。それはそうと……」

 

 

 ヴィランが上鳴の首を掴む。取り押さえるような力強い握りに嫌な予感がしてならない。

 その予感が当たったかのようにヴィランは手に電光を纏い始めた。

 

 

「言ったよな? 動けば殺すってよォ。代償としてコイツには死んでもらうしかねぇよなあ……!」

 

「待っっ──!」

 

「恨むならテメェらの弱さを恨みな」

 

 

 "創造"──。無理だ、間に合わない。

 "イヤホンジャック"──。ダメだ、向こうの方が早い。

 

 雷槍と化した腕はそのまま上鳴目掛けて──。

 

 

「死ね」

 

 

 

 

 

 

  

 

 

「"おびづき"ッ!」

 

「な、なんだぁっ!? 糞ッまだガキがいやがったか!」

 

 

「そのまま締めろ、"おびじめ"ッ!」

 

「がっ……!?」

 

 

 穿つよりも速く、頭上先から伸びる二枚の布地がヴィランを囲うようにして周囲に纏わりつき、やがて包囲網が出来上がるとヴィランをそのまま縛り上げた。

 抵抗する暇も許さない鮮やかな手際はまさしくにヒーローの御技とも呼べる代物で八百万は雄英のヒーロー(教師)が助けにきてくれたと錯覚するほどだ。

 

 だが、助けてくれたのはヒーローでもなければ、ましてやクラスメートでもない、一人の少年だった。

 

 

「また残党!? この……!」

 

「待ってください耳郎さん! この人はヴィランではありません! 上鳴さんを助けてくださいました!」

 

「ヴィランじゃない……?」

 

 

 八百万は武器を拾い直そうとする耳郎を制すとまず上鳴の無事を確認。外傷がないのを安堵すると改めてかずやに向き直った。

 

 

「大丈夫!? 怪我はない!?」

 

「はい、はい! 助けてくださりありがとうございます! 何とお礼を申し上げたらよいのか……! えっと、ヒーロー……にしてお若いようですが、他クラスの方でしょうか?」

 

「いや、僕は…………ヒ、ヒーロー?? ぼ、僕はすそはらいをしている者ですけど、貴女達もすそはらいとかなんじゃあ……?」

 

「すそ、はらい? ヒーロー名でしょうか?」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

 

 何やら話が噛み合わない。

 両者間に微妙な空気が漂ったところで後ろから耳郎が現れた。

 

 

「ヤオモモ。改めて調べてみたけど辺りにもうヴィランはいないみたい。あっ………さっきはヴィラン扱いしてごめん。その、助けてくれてありがとう……」

 

「ううん、いいよ! 気にしてないから!」

 

「そう? それにしてもあんたスゴイ個性だね。何て言う個性なの?」

 

「こ、個性? 個性って性格とかそういう?」

 

「……は? 何言ってんの?」

 

 

 やはり話が噛み合わない。三人が呆気にとられてるとかずやの懐から白煙と共に桐葉が飛び出た。つぐももの人間化だ。

 

 

「おいかずや。こやつを見てみろ。こりゃあ、あまそぎでも怪異でもない。見た目が不恰好なだけのれっきとした人間じゃぞ!」

 

「桐葉さん!」

 

「い、今っ、布が人になった!?」

 

「変わった個性ですのね……!」

 

「あっ、これはつぐももと言ってぶっ!?」

 

「待たんか馬鹿者」

 

 

 語ろうとするかずやの顔をぐるぐる巻きにしてその口を閉ざさせると桐葉は両者の間に立った。

 

 

「さっきから話を聞いていれば互いに齟齬が生じておる。ここは一度話を整理する必要がある。のう、お主ら──」

 

 

 ──ここはどういう世界なんじゃ?

 

 

 

 

 

 

 かずやと桐葉は八百万から全てを聞いた。

 三人の事、この世界の事、ヒーローとヴィランの事、そして──個性の事。

 

 人類のほとんどがつぐももやあまそぎにも匹敵する能力を有している世界。先程走った電光も、耳郎の耳から伸びるイヤホンジャックも個性と呼ばれる能力らしく、彼女らはそれを用いて悪を制すヒーローになりたいのだという。

 

 

「……そして、そのヒーローになるための学校こそがここ、国立雄英高校なのです。ご理解いただけたでしょうか?」

 

「へえー! つまり二人は将来のヒーロー候補ってわけか!」

 

 

 まるで漫画(コミック)の世界。男の子らしく、そういう話が大好きなかずやはにへらと笑った。

 

 

「いやー。夢、小説ときてその次がまさか異世界だなんて、おさむが聞いたら驚くだろうなぁ。これが今流行りの異世界転生ってね」

 

「悠長なこと言ってる場合かぁー!」

 

「いだだだだだッ!!??」

 

「ど、どうしたのですかお二方!?」

 

 

 帯で折檻する桐葉。その理由はかずやの言う別世界というワードにあった。

 

 

「夢の中は枕を破壊! 小説の中は所有者の望みを叶える! これまではそうやって帰還してきたが、ここはあまそぎも()()も関係のない完全なる別の世界! 一体どうやって元の世界に戻るつもりじゃ!」

 

「あー! そうだったー!」

 

 

 人の欲や願いを受けてそれを叶えるために短時間で昇華した付喪神のことを『あまそぎ』と呼び、周囲に悪影響しか与えないためこれを調伏する者を『すそはらい』と言う。

 

 あまそぎには千差万別があり、その根元とも言える欲望にもバラエティーあれど、あまそぎの解決方法は大きく分けて『宿主が願いを成就する』『宿主を消す』『宿主自身があまそぎを破壊』『すそはらいがあまそぎを破壊』の四つ限られる。これらを以てあまそぎを調伏することがすそはらいの基本である。

 

 しかし、あまそぎでもない事象の解決法など二人が知るはずもなかった。

 

 

「も、もしかしたらここもあまそぎが創り出した世界かもしれない! あの怪異の! きっとそうだよ!」

 

「それはありえん! ワシらが受けた蔵凍は動物に憑依しただけの怪異! あまそぎでもない怪異がこれほど強力な霊界を創るなどまず不可能じゃ!」

 

「だったら! 怪異を倒した後に誰かが生み出したあまそぎの中に閉じ込められたとかない!?」

 

アレ(怪異)の潜伏先に一番近い人里が片道一時間かかった山中じゃぞ! あんなところに家屋があると思っとるのか! 前もって周辺に氏子がいないかどうかは響華を使って調べ尽くしたじゃろォがッ!」

 

「ぎゃあああッー!!」

 

 

 初対面の女性を前に海老反り亀甲縛りで吊らされるかずやを見て耳郎が一言ボソッと呟いた。

 

 

「あー……あんたらそういう関係? 下僕と女王様ってやつ?」

 

「そうじゃ!」

「違います!」

 

「すみません、耳郎さん。女王様とは何でしょうか? 桐葉さんはどこかの王族の方なのでしょうか?」

 

「うん。ヤオモモは知らなくていいことだから」

 

「???」

 

 

 茶番はさておき、今度はこちら側が素性を明かす番だ。

 かずやと桐葉の事。つぐももやあまそぎ、すそはらいの事。そして別の世界から来た事。

 

 最初はまるで夢物語を疑うかのように聞いていた二人だったが、真面目な顔で語るかずやを前にこれらの話が嘘偽りのものではないと信じてくれたようだ。

 

 

「怪異に付喪神……そのような摩訶不思議な世界があるとは……! ということは帯奈さんも付喪神にあたるということですのね!」

 

「うむ! 帯のつぐももじゃ!」

 

「加賀見ってばすごいロックな生き方してんじゃん。変態なだけじゃなかったんだ」

 

「誤解! それ誤解だから!」

 

 

 ですが、と盛り上がってるところを八百万が水を差す。

 

 

「お二人には元の世界に帰る手段がないのですよね? これからどうするおつもりですの?」

 

「そりゃあ根なし草になるしかないじゃろ。ワシはともかく、かずやはこの世界では無戸籍の状態じゃからな」

 

「根なし草って……僕サバイバルの知識なんてないんだけど……」

 

「心配すんな! ワシだけじゃなくて響華にみまねに糸信にそそぐもいる! 三人寄れば文殊の知恵と言うし、五人集まれば何とかなるじゃろ!」

 

「まー、相澤先生に言えば何とか……あっ」

 

 

 そこまで言うと、耳郎は何かを思い出したかのように表情を暗くし始める。八百万もそれに吊られるように口を抑え、冷や汗をかく。

 

 

「そ、そうでしたわ……! 他の皆さんはどうなったのでしょうか……! 相澤先生、13号先生もッ……! 早く戻らないと……!」

 

「ど、どうしたの二人とも? 何だか様子が……」

 

「ふむ、何となく察した。大方、他の奴らもさっきのこいつらと同じような目に遭っとるんじゃろ」

 

「はい、そして相澤先生と13号先生が私達を逃がすため囮を……! おそらく今も広場で戦ってるかと……!」

 

「なるほど、やはりそうか」

 

「案内して!」

  

 

 かずやの一言に二人は驚く。

 色々な意味合いでもかずやは部外者だ。見て見ぬ振りをしてUSJから逃げることも出来たはず。

 なのに助けてくれた。それだけでお釣りが来るというのにさらにまた危険な場所に飛び込もうと言うのだ。

 

 だが、加賀谷かずやとはそういう人間なのである。

 

 

「で、でも、加賀見はヒーロー志望じゃないし……」

 

「そんなこと関係ないよ! 他にも困ってる人がいるんでしょ? だったら助けなきゃ!」

 

「加賀見さん……」

 

 

 かずやの芯を曲げない主張に二人は圧され、桐葉も『たくっ、このお人好しめ』と少しばかり嬉しそうだ。

 

 

「諦めろ。こうなったかずやはテコでも意見を曲げん。それよりいいのか? 仲間がまだ戦っとるんじゃろ? 人手は一人でも多い方がよかろうに」

 

「「………」

 

 

 八百万と耳郎は即答出来なかった。

 仲間の命を助けるために一般人の命を賭けにする。これからヒーローになるにあたって訪れるであろう命の選択、それを入学して数日余りの学生が体験してるのだ。悩んでしまうのも無理はない。

 

 正直な話、かずやと桐葉の力があれば他のヴィランを圧倒出来るだろう。ヴィランを倒し、人質を救出し、困ってる人間を助ける。まさしく二人が目指すヒーロー像そのものだ。

 だからこそ許せなかった、かずやの強さと好意に甘えそうになる自分達が。

 だからこそ許せなかった、今の自分達の弱さを。

 

 

「行こうヤオモモ! 皆を助けよう!」

 

「……ええ! 加賀見さん、お力添えをお願いしますわ!」

 

「うん、わかった!」

 

 

 だからこそ恥も外聞も捨ててただ生き残ることを選んだ、日常を取り戻すために。

 

 

 その一言を待ってましたと言わんばかりに桐葉が吠えた。

 

 

「よっしゃ! それで広場とやらはどっちじゃ? 案内せい!」

 

「こっちです! 先導しますのでついてきてください!」

 

「いや、こっちの方が速い──。

 

『「おびぐるま!」』

 

 

 帯で形作った車──というよりはセグウェイに乗り込むと山岳ゾーンを一気に下り落ち、そのまま広場へ向かって爆走する。

 傍らには帯で宙吊りにされた上鳴もセットだ。

 

 

「ウェ、ウェ~イ……!」

 

「うわぁ……エグっ」

 

『仕方ないじゃろ。"おびぐるま"は頑張って三人乗り。そこに意志疎通も出来ない奴が乗れるか!』

 

 

 例えるならバイクに横付けされた五体投地状態の人間とでも言うべきだろうか。帯に拘束されてる状態なので逃げも隠れも出来ないのが気の毒である。

 

 

「見えました! あれが広場です!」

 

 

 山岳ゾーンと広場はそこまで離れてなかったのか、前方に噴水が見えた。

 その周辺には十数人余りの人影。ヴィランの群れか、雄英の生徒か。はたまたその両方か。

 

 せめて後者であってくれと祈る八百万達の目に飛び込んできたのはにわかに信じがたい光景だった。

 

 

「相澤、先生……?」

 

 

 虚ろげな顔の巨人に蹂躙され、ボロ雑巾の如く組み伏せられたヒーロー(担任)の姿だった。

 

 

 

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