先生のお手伝い始めました。え?女装?趣味ですが何か?   作: 俺は人間をやめるぞぉ!

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楽園の条約

狐坂ワカモと別れて、ゲヘナ学園への道中。俺は先行して歩きながら、背後の先生に声を飛ばす。

 

「個人的と言うか、連邦生徒会的に狐坂ワカモは捕まえたかったんですけどねぇ」

 

「あはは、ごめんね」

 

「別に謝罪を求めてる訳じゃないですよ、ただ先生の考えを聞きたいんです。どうしてあの災厄の狐を逃がしたんですか?」

 

彼女と先生の関係は分からない。けど見ていたら、彼女が先生を大いに慕ってるってことは感じた。

それを先生も自覚してるはずだし、もしそういう理由で彼女に肩入れし、で本来捕獲対象であるにも関わらず逃がした...そう言うのなら....

 

いやどうもしないけど。ちょっと釈然としないよな。

 

「私はね、更生の仕方は一人一人違うと思ってるんだ」

 

「...ほう?」

 

「捕らえて、閉じ込める...そうやって罰を受けて、反省する。そういう子も確かにいると思うよ。けれど、彼女達は違うんじゃないかなってね」

 

「彼女達て...七囚人のことですか」

 

「彼女達に必要なのはきっと環境だと思う。ならその環境を用意してあげるのも、大人である私の責任だよ」

 

「.......」

 

狐坂ワカモ。災厄の狐。無差別な破壊者。理不尽な災害。

けれど最近はもっぱら、彼女の被害の報告を受けることは少なくなった。

先生のその判断が正しいのか、俺には分かりかねるが...少なくとも豚箱の中で改心するような生き物じゃないだろうし、結果出してるならもうそれでいいや。

 

「んじゃ先生、今日俺が狐坂ワカモと出会ってしまったことは内緒にしてくださいね。バレると少しどやされそうなものですから」

 

「私達だけの秘密ってことだね」

 

「そゆことです」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「...キキキ、よく来たな先生。そして...あー、連邦生徒会の犬」

 

誰が犬じゃゴラ!!

 

なんて怒号を吐いてしまいそうになり、慌てて両手で口を塞ぐ。

 

豪勢な装飾の施された部屋。ここは万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)、つまりゲヘナの生徒会室だ。

中央に相対するように設置された二つのソファー。片方には俺と先生。もう片方には万魔殿の総裁、羽沼マコトその人が座っている。

背もたれに手を掛けて、足を組んで、「私は偉いんだぞ」オーラを存分に放出している。

 

ちなみに、視界の端で万魔殿の慈愛の天使、丹花イブキが戦車長(なんやねんそれ)の棗イロハとキャピキャピしている。

俺も出来ることならあそこに飛び込みたい。まるで灼熱の砂漠の中のオアシスだ。

 

「おい、犬。貴様はこの部屋から出ていけ」

 

「...は?」

 

ピシャリと、マコトが言い放つ。そして飛び回るハエを追い払うみたいに、「シッシッ」っと手を振る。

 

「私は()()と話がしたいのでな。貴様は部外者も同然だ。理解したなら、その鈍臭い両脚を精一杯働かせてさっさとこの部屋から出ていけ」

 

「あ、は、はぁ...なるほど」

 

まぁ確かに、俺は護衛のために同行しただけだもんな。きっと、あまり聞かれたくないような密談でもしたいのだろう。仕方ないな。

俺は一つ息を吐いて、二丁拳銃を取り出した。

 

「先生、発砲許可を頂けますか?」

 

「ッ!?」

 

言いたいことは理解したが、それはそれとしてムカつくなぁ!?潰してやるぞこのクソ万魔殿が!!!!

 

「な、なんだ!?やる気か!?イロハ!!何とかしろ!」

 

「嫌です、マコト先輩が何とかしてください。イブキも、頑張ってるマコト先輩が見たいですよね?」

 

「うん!頑張って!マコト先輩!」

 

「な、ぐ、ぐぬぬ!?い、いいだろう!見ておくのだイブキ、こんな下郎、私がこの手で葬ってやる!!」

 

「い、一回落ち着こう?」

 

その後なんやかんやありつつ、俺は追い出されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ...どうして私がこんなこと」

 

結局部屋を追い出された俺だが、ただ待たせておくのもあれだと先生が進言してくれたお陰で、このようにゲヘナ学園見学ツアーが始まった。

案内してくれるのは、いかにも憂鬱そうに前髪を弄る戦車長、棗イロハである。

 

「あの...イブキちゃんは?」

 

「置いてきました」

 

「何故に?」

 

「一応、保険のためですよ。ないとは思いますが、万が一マコト先輩が先生に何かしようとした時のため...イブキがいれば、その心配はありませんからね」

 

「...そういうことですか」

 

イロハは業務口調で淡々と喋る。そして時折ため息を混ぜてくる。

 

「面倒くさいですよね」

 

イロハの態度はごもっともだ。俺だって知らん奴の案内をしろなんて言われたらげんなりする。

 

「まぁ、はい。露出の多い輩は面倒くさいと相場が決まってますから」

 

「もしかしてそれ、アコさんのことですか?」

 

「サァドウデショウネー」

 

アコさん...以前、彼女が当番でシャーレに来た時、先生との会話を目にしたことがあるが、疲れてたのか知らないけど、凄いめんどくさい絡み方をしてたのが印象に強い。

俺とあれが同類か...これから、露出は控え目にするとしよう。

え?そういう問題じゃないって?それはそう。

 

「でもよかったです。イロハさんとこうやって二人きりになれて」

 

「それはどういう意味ですか?場合によっては、私はこの場から全力で逃げ去らなければいけなくなりますが」

 

イロハさんは、どこかはぐらかすように言う。

俺は少し歩調を早めて、彼女の前に立った。

 

「先生を利用して、何を企んでる?」

 

「.....」

 

俺は少し、低く言った。

なんだか、嫌な予感がしていた。

今の時期になって、シャーレの先生をわざわざ呼んで...考えられる事としてひとつあるのが、エデン条約だろう。

 

「もしかして...エデン条約と関係があるのか?」

 

「...はぁ」

 

エデン条約。長年火花を散らせてきた二校、トリニティとゲヘナ。その事実上の平和条約。

それが間近に迫っている。

 

「貴方は、連邦生徒会でしたね。絶対問い質されると思ってましたよ...だから嫌だったんです」

 

「それは、肯定と捉えても?」

 

「...いえ」

 

イロハは少し、目線を逸らす。

 

「正直、マコト先輩が何を考えてるのか、全部分かるわけじゃありません」

 

「確かに、独断でなんでも進めそうな人ですもんね」

 

「はい、ですから現時点で、確定的な発言は出来ません...けど、多分関係ないことはないと思います」

 

「...なるほど」

 

「はぁ、この事、内緒にしておいてくださいよ?バレたらマコト先輩が面倒くさいので」

 

「勿論分かってますよ」

 

エデン条約...今はなき連邦生徒会長が発案した、いかにもきな臭い条約。

発案者が失踪して一時期は白紙になろうとしていたが、トリニティのティーパーティー、桐藤ナギサの手腕によって、今となっては締結寸前だ。凄いね。

 

...まぁ、ビッグネーム二校がこんな壮大な条約を結ぼうとなったら、連邦生徒会も静観してられない。極力問題が起こらないよう、働き詰めなのだ。

 

「まぁマコト(あの人)アホっぽそうですし、大して心配はしてないんですがね」

 

「それはもう全面的に同意します」

 

同意しちゃった、いいのかよ...

この人も、苦労人なんだな。そう俺は、少し微笑ましく思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

オマケ「早瀬ユウカの憂鬱その②」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで俺は、彼女の悩みを聞くことに成功した。

それをまとめると、こうだ。

 

彼女には、世話をしていた男性がいた。しかしその男性が最近、お手伝いさんを雇ったらしく、自分の仕事がなくなった。それが原因で、その男性に会いにくくなってしまった。

 

「...そもそも、私が勝手にやっていたことで...それを盗られたなんて言うのはお門違いだって分かってはいるの...けど、あの人にとって自分がもう用済みになったような気分になって....」

 

「...なるほど」

 

それを俺は、健気だなこの人なんて思いながら聞いていた。献身的と言うかなんというか...報われて欲しいなんて、無責任に思ってしまった。

 

「その人には...なにか口実がないと会っちゃいけないんですか?」

 

「え?」

 

「いいじゃないですか、用事がなくたって会いに行けば。なんなら、遊びに誘ってみたらどうですか?」

 

「そ、それは...で、でも」

 

「聞いてた感じ、ユウカさん...絶対その男性の事好きですよね?」

 

「ひぅっ!?」

 

途端に、屋台の電球に照らされた彼女の顔の赤みが増していく。

 

「そ、そそ、そんなわけないでしょ!?」

 

「いいや絶対好きじゃないですか。これで好きじゃないは無理ありますって。恋する乙女とはかくあるべきって感じですよ」

 

「う..うぅ.....」

 

いいなぁ...身近ではないけど、知り合いのこういう話って聞く分には最高に楽しい。

 

「頑張ってくださいユウカさん!絶対いけますって!今度の休みにでも、遊園地に誘ってみましょ!?勇気を出すんですよ!!」

 

「...さ、誘う...私が...はぅ......」

 

ユウカは見た事もないような表情で悶えながらも...震える手で、スマホを取り出した。

 

「い、今誘っても迷惑じゃないかしら」

 

「大丈夫です!この時間に寝るのはお年寄りくらいなもんですよ!余裕で活動時間です!多分!」

 

「わ、分かった...い、行くわよ!!」

 

「行っちゃってくださいぃ!!!」

 

(...青春だねぇ)

 

盛り上がる二人を、店主はほっこりとしながら見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、ユウカの言う男性が先生であることに気づくのはその次の日のこと。

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