先生のお手伝い始めました。え?女装?趣味ですが何か?   作: 俺は人間をやめるぞぉ!

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シノン君の神秘.....


神秘の力

水中に沈んだ五体が、少しずつ水面へと上っていくような感覚がする。

それは今まで何度も経験した、目が覚める時の感覚だった。

 

「ん...んん?」

 

少し目を開けると、眩い日光が視界を覆った。

ちょっとずつ目が慣れてくると、人の輪郭みたいなものが鮮明になっていって...私の顔を心配そうに覗き込む、その人の存在に気づいた。

 

「あ、起きた?」

 

「...え?」

 

近くから水の弾ける音が聞こえる。

ここは噴水広場のベンチだ。私はそこで何故か、知らない()()()の膝枕の上で眠っていた。

状況が飲み込めないし、見るからに私よりも力の強い男の人に見つめられて、凄く怖い。

 

「あ、アンタ...誰よ!」

 

飛び起きて距離を取った私は、思わず怒鳴った。

するとその人は、何故か少しホッとしたような柔らかい表情になって、

 

「あはは、僕?あぁ、ごめんね。怖がらせてしまったみたいだ」

 

「ベ、別に怖くない!純粋にアンタが誰なのかが知りたいだけだから!」

 

「そ、そう?ならよかったよ」

 

その人は困ったように笑って、言葉を続けた。

 

「僕は舟橋(ふたばし)シオン、二年生だよ。この広場を通りかかったとき、偶然倒れてる君を見つけて...勝手ながら介抱させて貰ってたんだ」

 

「え?た、倒れて...私が?」

 

「そうそう、覚えてない?」

 

まったく覚えていない。この広場に来た記憶もなければ、倒れるような出来事なんてもってのほか。

うっすらと、廊下を走っていたような記憶はあるけど...ん?あれ?

 

「なんだか...凄い夢を見たような....」

 

「え?夢?」

 

「い、いやなんでもない!!」

 

突然頭の中一杯に溢れだしてきた、存在しないエッチな記憶。エッチで綺麗なお姉さんを押し倒して、キスをされそうになって...そして、そして...

そ、そっか...あれは夢、か。

 

「あの...ごめんなさい...介抱してくれたのに、その、さっきは怒鳴ったりして...」

 

とにかく、この人は私を介抱してくれた。それなのに私は、知らなかったとは言え怒鳴ってしまった...折角助けた相手からこんな扱いを受けて、きっと嫌な思いをしたに違いない。

恥ずかしさと自己嫌悪で、顔が熱くなる。

 

「気にしないでよ。僕も配慮が足りなかったね」

 

「え?な、なんでアンタが謝るの!?」

 

「考えれば分かることだったよ。目を開けたらそこに、知らない男がいるんだ。困惑するだろうし、君のあの反応は当然なんだよ。だから、僕の方こそごめんね」

 

「...うっ」

 

絶対に悪くないのに、そう言って彼は頭を下げた。苦い罪悪感が胸中に広がっていくけど、彼のさわやかな笑顔を見てると、後ろ向きな感情が希釈していくような気がした。

 

舟橋シオン...シオン先輩。今日初めて会ったけど、凄く良い人。

私はなんだか、また顔が熱くなった。

 

「よし、もう大丈夫そうだね」

 

「え?」

 

少しぼーっとしていると、シオン先輩はベンチからゆらりと立ち上がった。

 

「これから少し用事があるから、僕は行くね。もし体調が悪くなったら、無理せず休むんだよ」

 

「あ、ちょ、ちょっ!?」

 

シオン先輩が踵を反したかと思えば、スタスタとその背中が遠くなっていく。

それはもう凄い速度で。歩調は普通なのに、距離だけが物凄い速さで開いていく。

どうやってるかは分からないけど、それを気にするよりも私はどうしてか、シオン先輩の背中を追いかけることに夢中になっていた。

 

「ま、待って!!」

 

「えっ!?」

 

必死に走って、先輩に追いつく。

 

「ど、どうしたの?ま、まだ僕に何か用?」

 

「こ、コハルです!!」

 

「...え?」

 

「私の名前...下江コハルって言います!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...補習授業部かぁ」

 

そうして私は、シノンを探しながら廊下を歩いていた。

ナギサに頼まれた、補習授業部の顧問の仕事。それは落第寸前まで成績を落としてしまったとある四人の生徒に勉強を教え、その危機から救うこと。これから行われる特別学力試験にて、その合格点をとることが目標となる。

 

「まずは、四人と会って話をしなきゃだね...一人、知ってる名前の生徒がいるんだよなぁ」

 

まぁまぁ、一先ずはシノンとの合流を先決としよう。

校内を適当にぶらつくとは言ってたけど、今頃どこを歩いてるんだろうか。

 

...そんなことを考えていた矢先...目前に、見覚えのあるシルエットが映った。

 

「はぁぁぁ...マジ先生どぉこ行ったんだろー。探すの怠いんですけど~」

 

ギャルだ。

いやギャルだ。

凄くギャルだ。

 

不真面目そうに着崩した制服、腰に巻いたブレザー。厚めのメイクと、爪には可愛らしいネイルチップを付けている。

 

まさにgalだ!!

 

「...て、あー!!先生じゃーん!やほー!」

 

ギャルは私を見つけるや否や、小走りで駆け寄り、腕を抱きしめた。私の腕がすっぽりと二つのお山に飲み込まれ、身動きを封じられる。

 

「ちょっと!?何の真似!?」

 

「もー、先生探したしー。どこほっつき歩いてたのさー」

 

「え、えっと...それは私の台詞なんだけどなぁ...シノン」

 

「...ふふ♡」

 

シノンはニヒルと笑って、私の腕を解放した。

 

「さっすが先生!よく私が分かったね!」

 

「なんとなく雰囲気が似てたからね...逆に言えばそれ以外で判別できないくらい凄い変装だよ。シノンこそ流石だね」

 

「もー、先生?変装じゃなくて、これは女装!ここ重要なんだから間違えちゃ駄目だよ」

 

「ははは...ごめんごめん。というか、一日の内にコンセプトを変えるなんて珍しいね。何かあったの?」

 

「あ、あはぁ...私としたことが、ちょっとドジっちゃてさぁ。セクシー秘書スタイルはしばらく封印しなきゃなんだ」

 

「へぇ...そうなんだね」

 

...シノン。二葉シノン。

疲労困憊だった私を見かねて、リンちゃんが送ってくれた生徒。今現在、私の助手のような立場で仕事を手伝って貰っている。

 

彼は少し、特殊な趣味を持っている。それが、女装。男の子である彼はいつも、様々なコンセプトの女装をしている。その完成度は凄まじく、女装をしていると教えられなければ、その事実を知ることはほぼ不可能に近いだろう。

 

それはひとえに彼の持つ神秘の力が関係している。勿論彼自身の演技力も凄まじいが、彼が女装をした時、とある変化がその身に起こる。

それは...容姿の変化。

顔、骨格、肉付き...そのどれもが、そのコンセプトの女装に沿うよう変化するのだ。

 

元のベースが男の体であるため、性別自体を変えることは出来ないらしいが...その肉体の変化は、彼に女装への圧倒的なアドバンテージを与えているのだ。

 

「シノン、ナギサに頼まれた仕事について何だけどね」

 

「えぇ?どうせ面倒くさいことじゃないの??」

 

「先生としては、この上ないくらいやりがいのある仕事だよ」

 

「ふーん、先生が良いならいっか!」

 

 

・・・

 

 

二葉シノン、ギャルスタイル!

 

俺はあれから、下江コハルと別れてから、すぐさまトイレに駆け込み、ギャルスタイルに変身した。

セクシー秘書スタイルはしばらく使えないな...コハルには、あれをなんとか夢と思い込ませることが出来た。だから、万が一にもあの姿を見られるわけにはいかないんだ。

 

そんなこんなしていると、偶然にも俺は先生と合流することに成功した。

 

どうやら、先生はナギサから仕事を頼まれたらしい。

そしてそれは、俺が思っていたものとは、大きくかけ離れていた。

 

「補習授業部顧問?すっごーい、先生って感じの仕事だ!」

 

「うん」

 

どうやら今、トリニティには落第寸前の学生がいるらしく、エデン条約の準備でバタバタしているお上方に変わって、先生に白羽の矢が立ったのだとか。

 

「先生って、勉強できるの?」

 

「これでも、自信はある方だよ。専門的な知識はないけど、ナギサに聞いた範囲なら十分教えられると思う」

 

「さっすがー!」

 

それじゃあ、しばらく先生は補習部で忙しくなるな...その分の仕事は....

 

「...えっと...頑張ろっか、先生」

 

「...あ...うん」

 

俺達はお互い、これからの苦労を察し合って...少々、どんよりとした空気を作り出す。

 

「じゃあ、今から補習授業を受ける生徒のみんなに会いに行こうか」

 

「じゃ私は、精一杯先生のサポートするね」

 

「心強いよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、俺は知らなかった。

桐藤ナギサの陰謀を、裏切り者の存在を、そして、

 

存在を消された学園の...その執着を.....




次回、コハルとエンカウント。どうするシノン。バレるか女装!?
デュエルスタンバイ!!!
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