だけどこの村本編時点で滅んでなかった……?
ババルム帝国最北端、果ての城砦。
そこでは今も、大陸から渡って来ようとする飛竜たちと人間の戦いが繰り広げられている。
「魔力装填ヨシ! 標準ヨシ!」
「撃てぇッ!」
魔術記号がふんだんに刻み込められた大砲からビームのような弾が放たれる。それは六枚羽の飛竜に直撃し、撃墜した。喜ぶ間もなく一回り大きな竜が雲をかき分けて現れるも、顔面に大量の魔弾を受けて崖下に落ちていく。
「フィール! ぼさぼさすんな、弾持って来い!」
「はい!」
私もサボっている場合じゃない。父に言われるがまま木箱を持って城壁に上がり、魔力を込めてから手渡していく。一人で砲台を任されている父は淀みない手付きで装填すると、一息のうちに狙いを定め発射した。
青い微光を軌跡に残しながら、魔弾は飛竜の体を貫いた。そしてその先で別の飛竜の被膜を破り、地に落とす。
「まだだ。一匹残らず狩り尽くす」
親父の目はぎらぎらと飛竜がやって来る空を見つめている。私は差し出される手に、魔弾を握らせることしか出来なかった。
一通りの狩りを終え、相も変わらず魔力切れで倒れた私は父に担がれて街に戻って来た。まだ回収してきた死体の解体でざわついており、ここからさらに酒が入って大騒ぎになることは想像に難くない。
父は私をおばさんに預けると、狩猟会の集まりに出かけて行った。おじさんはよく酔っぱらって帰って来るけれど、あの人もお酒を飲んだりするのだろうか。
「リフ! フィールちゃんが戻って来たよ!」
「待って今行く!」
玄関で座り込んでしまった私を支えながらおばさんが家の奥に呼びかけると、どたどたという足音と共に巨体が現れた。はち切れそうな肢体を雪国にあるまじき薄着で包んだ我らが幼馴染は、私をひょいと抱え上げると脱衣所に放り込んだ。
家の大きさが違うから正確な身長は分からないけれど、私とは五十センチ近い差がある。毎日同じものを食べていたはずなのに、どうしてここまで差がついてしまったのか。
「気分はどう? だるいだけ? なら大丈夫だ」
リフは有無を言わさず私の服を脱がせると、湯船に叩き込んだ。いくら部屋を暖めていてもさすがに死ぬぞ。そもそも体を洗う前から湯船に入れるなと言いたいけれど、これがこの村の文化というから仕方ない。
リフが犬を洗うように石鹸を擦り付けてくるが、私はお前と違ってか弱いんだからやめてほしい。
「……ぁ」
「ん? 寝てもいいけど、溺れるぞ」
「わかって、る」
「ほんとかぁ?」
ほんとほんと。第一こんなにがしがし洗われていて眠れるわけが…………ぐぅ。
「おっとぉ」
ぐったりと力の抜けた幼馴染の体を受け止める。
今日はいつもより飛竜が出たというから、かなり消耗したのだろう。冷え切った体が徐々に体温を取り戻していくのを感じながら、気持ち弱めに体を洗って服を着せた。
細い体は、抱え上げてみてもトレーニングにもなりやしない。フィールはよく幼馴染なのに体格差がどうこうと言うが、竜の肉で育てられてこの小ささという方がよっぽど不思議だ。
「あら、寝ちゃったの?」
「うん。上に寝かせてくる」
「キスくらいならいいんじゃない?」
「……うるさい」
「も~、奥手なんだから」
この時ばかりは母の感性を疑う。好意を持っている相手の意識が無いなら襲ってしまえとかいう馬鹿げた価値観は、飛竜との争いが今よりずっと激しかった頃の名残だ。
あたしはそんなことはしない。フィールに嫌われたくないし、何より見習いの身では生活がまるで安定しない。今は実家暮らしだからいいけれど、将来フィールと家庭を持つなら、今のままじゃだめだ。
フィールをベッドに寝かせると、広場の方から大声が聞こえた。父さんがまたなにかやらかしたのか。この間みたいに血をだらだら流しながら帰ってくるとフィールがびっくりするから、変な騒ぎを起こす前に連れ帰らないと。
「……フィー」
こっちの気も知らないで、タオルを抱きしめながら眠る幼馴染の頬に触れた。
フィールは弱いけど魔力を保持する力が高いから、街中の人間の魔力を背負わされて壁に送られる。要はタンクとして使われているわけで、いくら耐性があるといっても体に掛かる負担は大きく、こうして倒れてしまうことも一度や二度ではなかった。
この現状を変えたいと行動したものの、フィールがいる時の方が防衛の安定性は高まる。フィール本人もそれは分かっていて、進んで自分の体を差し出しているようにも見えた。
父親はそんなフィールの考えを知った上で連れまわしている。あいつが愛しているのは亡くなったフィールのお母さんで、フィールじゃないから。
「頑張らなきゃ」
二人だけで生きていけたらどんなに良いか。
あたしはドアの隙間からフィールの寝顔を見て、そう思った。
・フィール
人型魔力タンク。弱い
・リフ
190超えガチムチ幼馴染。つよい