Q.命削ってる系の個性でもヒーローになれますか?   作:盛岡冷麺

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1.

 

「……」

 

 すぅー、ふぅー、と深呼吸を一つ。

 もう、ここまで来たらどうしようもない。

 

「っ……」

 

 意を決した私は、教室の扉をガラリと開けた。

 黒板をちらりと見て、座席が名前順であることを確認した後、自分の席を探し始める。

 

 私の名前は廿普。

 カンフ、ではないのであしからず。初見で正しく読んでもらえたことないけど、これで廿(ハタチ)(アマネ)って読む。

 

 身長は144cm。

 まあ……年齢にしてはかなり小さい方だ。

 実はこれでも成人していて……つまりこれ以上の成長の見込みはないってこと。非常に残念なことに。

 成長期にやった不摂生が祟ったんだろうって、諦めるしかないよね。

 

「あ、あんたここの席? ウチ、耳朗響香。近所としてよろしく」

「あ……うん、おはよう耳朗さん。私は……廿普っていいます。よろしくね」

 

 私が席に鞄を置くなり、気が付いて声を掛けてきた子が一人。

 彼女に合わせて自己紹介をすれば、彼女が元々話していたらしいもう一人の子も顔をこちらに向けてきた。

 否。その子には、顔がなかった。

 いやのっぺらぼうではなく、頭部含む全身が見えないという意味で。

 

「あっ、私とも席近いね! 私は葉隠、葉隠透っていいます! よろしくね!」

 

 どうやら両人とは席が近いらしい。

 

 二人とも元気な挨拶だ。

 アイサツは大事。

 ふふ、と上品に笑った(つもりで)私は級友二人に挨拶を返した。

 

 級友(・・)

 

 ……ところで、彼女たちは高校生である。

 そして、私は前述の通り成人(・・)している(・・・・)

 

 ……繰り返すけど、私は! 成人している!

 

 だというのに!

 

「ハタチ、制服似合ってんね……着こなせてるっていうか」

「そ、そう? 耳朗さんもよく似合ってるよ」

「うんうん、ハタチちゃんも耳朗ちゃんもめっちゃカワイイヨ!」

「ん、ありがと。葉隠も……顔は見えないけどお似合いだよ」

 

 キャッキャウフフ。

 栄えある国立雄英高校に入学した彼女たちの会話は、あまりにも初々しくて耳に心地よい。

 

 ―――そこに私という不純物が混ざっていなければ。

 

 お か し い だ ろ !

 

 なんで私は今さら高校に通おうとしているんだろう……!?

 あまりの場違い感と羞恥。

 先日20歳を迎えたというのに高校生として振る舞う自分の痛々しさに私は内心で悶えた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 耳郎さん、葉隠さんとの交流を少し深めてからしばらく。

 

「「「個性把握……テストォ!?」」」

「そうだ」

 

 グラウンドに出てきて何をやらされるかと思えば、個性把握テストとのこと。

 へー……え?

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

「それはヒーローになるために必要な行事か?」

 

 ほとんどのクラスメイトを代表して質問したボブカット少女に、このクラスの担任であるらしい相澤先生からの返答は淡白だった。

 でも……ここにもう一つのヒーロー科クラスであるB組が居ない以上、B組は普通に入学式に出てるはず。

 校長先生もタメになる話とかしてくれるかもしれないし……。

 だって、雄英の校長はかの “ハイスペック” で―――。

 

 果たして入学式に出るメリットと出ないメリット、どちらがヒーローになるために有益かと考え込んでいた私に、声が掛かる。

 

「おいハタチ」

「っ!? はい二十歳(ハタチ)ですごめんなさい!」

「何を……まあいい。お前、中学でソフトボール投げ何メートルだった?」

 

 えぇ……私の事情を知っているはずの先生がその質問って、キラーパス過ぎませんか。

 

「ご、50メートル? くらい?」

「そうか。じゃ、個性使って投げてみろ。そこの円から出なければ何してもいい」

 

 あ、これデモンストレーションか。

 なるほど、人生の先輩として高校生たちに個性の何たるかを見せてやれと。

 そういうことなんですね?

 私は相澤先生に向けてアイコンタクトをした。

 相澤先生は既に私に背を向けてカゴの中のボールを漁っていたので、コンタクトは取れなかった。

 悲しい。

 

「あ、すみません先生。ボールは私に選ばせてください」

「「「……?」」」

「そうか。好きなのを取れ」

 

 その場にいた同級生たちの顔が、疑問一色に染まる。

 察するに、ボールなんてどれも同じだろ、といったところだろうか。

 確かに記録を取る用のボールが、均一な品質じゃなかったらそれは問題なんだけど。

 私の個性を使うとなると、その限りではない。

 

「これじゃない、これでもない……全然違う、違う、悪くないけど違う……(無限)、……ん? ……これも違う、あっ……これにしよう」

 

 一つのボールを手に取った私は、たくさんの視線を浴びながら円の中に戻った。

 そ、そんなに見られると困る。

 “あれ? こいつなんか年増じゃね?” みたいに思われたらおしまいだぁ……。

 早いこと投げてしまおう。

 

「へいっ」

 

 勿体ぶることも、投球フォームを気にすることもなく、この衆人環視から解放されたい一心で適当に投げた球。

 それはもちろんひょろひょろの球で、宣言した50メートルにすら到底届かないだろう球速と軌道だった。

 

 そこへ、私の個性をぶち込む。

 えい。

 

 チュドン。

 

「「「……!?」」」

 

 球が爆風に包まれて、カッ飛んでいった。

 うん、やっぱり爆発系の個性か。

 誰の個性だったんだろう。とても強い個性だ。

 勝手に借りちゃって申し訳ない。

 

「……722.8メートル。まず、君たちは自分の最大限を知るべきだ。それがヒーローとしての素地を形成する合理的手段」

 

 先生が記録用機器をクラス全体に開示しながら告げた。

 

「「「―――!!」」」

 

 何故だか分からないけど、グラウンドが湧いた。

 何だ、個性のパゥワーに興奮しているんだろうか。

 とりあえず先生が不愉快そうにしてるから落ち着いた方が良いと思う。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 なんやかんやあって。

 一時は不穏な空気も流れつつ、モサモサ頭の少年(緑谷くん?)が土壇場で上手いことやったらしく、一皮剥けて。

 他にも、推薦で入学してきたらしい八百万さんとか轟?くんとか、あとは爆豪くんとかが頭角を現しつつ。

 私はというと、個性把握テストの総合成績を無事に1位で通過した。

 

 ドヤァ……。

 

 まあね!

 私、これでもこの子たちより年上だから!

 大人として、ついこの間まで中学生だった子たちに負けるわけにはいかないっていうか!

 まー如何な雄英、優秀なヒーローの卵といえど、所詮は卵。

 一年生じゃ “現役” には勝てるわけないんだよね!

 

「はっはははっは……ハァ……」

 

 何やってるんだろ、私。

 

「……ドンマイ、廿少女!」

 

 どこからかこのテストを見守っていたらしいオールマイトが、同情するように私の肩をポンと叩いて、ルンルンと何処かに歩き去っていった。

 何かいいことでもあったのだろう。羨ましい。

 こっちはお先真っ暗だというのに。

 

 というかNo.1ヒーローが思ったよりフランクに接してきて普通にビビる。

 前にちらっと顔合わせたときはそんな感じじゃなかったよね。

 ヒーロー同士としての関係より、仮初とはいえ先生と生徒としての関係の方が気楽なのかもしれないけど……。

 ついでに言えば、私は少女と呼ばれるに相応しい年齢ではない。

 

 繰り返す。私はハタチだ。

 

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