Q.命削ってる系の個性でもヒーローになれますか? 作:盛岡冷麺
翌日。
とうとう始まった高校生生活に私は朝から憂鬱だったこの日、クラスの皆が楽しみにしていたのは―――ヒーロー基礎学。
この授業を受けるにあたって、私たちは初めてヒーローコスチュームに着替えることとなった。
……訂正しよう。私を除けば、みんな初めてだ。
「わぁー! ぴったりだー!」
水色の手袋を装着して掲げ、喜びの声を上げたり。
「私が描いたのよりカッコよくなってる!」
ヒョウ柄のコンビネゾンを体に当てて目を丸くしたり。
「……悪くないじゃん」
革素材のジャケットを撫で、ほのかに笑みを浮かべたり、そんな女子更衣室にて。
「あっ……」
周りの声を聞きながら、わくわくと期待に満ちた様子でアタッシュケースを開いた麗日さんが、一瞬にして無表情になる。
どういうわけか、彼女はそのままカチャン、とケースを閉じ直してしまった。
「……麗日さん? どうかしたの?」
「あ、ハタチちゃん……その、ちょっと覚悟が必要なもんを見てしもうてな……?」
「覚悟?」
自分のコスチュームに着替えながら、動きのなくなった麗日さんに問い掛ける。
麗日さんは、アタッシュケースを両手で押さえて封印するようにしながら、私のコスチュームへと目を向けた。
「わ……ハタチちゃんのコスチュームカッコええなあ!」
「……そう?」
私としては、これほど着慣れている服もないわけで。
感慨などあるはずもなく、むしろこの、高校の制服などという “コスチューム” を早く脱ぎ捨てたい一心でパッパと着替えていた私は、彼女に言われて自分の身体に視線を落とす。
黒いシャツ、白の細いストライプが入った曇色のジャケットとパンツ、白いネクタイに黒のパンプス、そして細めの腕時計。
……うん、新鮮味もなく、普段と何も変わらない。
周りを見る限り、これは地味な方のコスチュームではないだろうか。
そう、私は思ったんだけど。
「うん、仕事人! って感じだ!」
「……そっか。ありがとう?」
で、いいのかな。
どうもこの地味さ加減が麗日さんのお気に召したらしい。
確かに仕事をする服としてはこれ以上一般的なものもないだろうし、見る人に不快感を与えないのであれば、私としてはそれで満足だ。
シュ、と微かな摩擦音を立てて白手袋を着けた私は、アタッシュケースを閉じた。
「ところで麗日さん、そろそろ着替えないとマズいんじゃない?」
「あっ……」
麗日さんが、また固まる。
まだ覚悟は溜まっていなかったようだ。
結局麗日さんのスーツかわいいじゃんとか、梅雨ちゃんのコスチュームがかっこかわいいとか、耳郎さんがロックだとか、八百万さんが大胆だとか。
それ以前に葉隠さんはマズくない? とか。
更衣室で女子一同、着替えながらも一通りはしゃいで、グラウンドに出た。
なお、その女子一同にもやはり私は含まないものとする。
高校生のちょっとしたファッションショーじみたノリに全く付いていけず、終始部屋の隅でアルカイックスマイルを浮かべていたのが私だ。
ショーの標的にならないよう、目立たないことだけが私に課された至上命令だった。
そんな私を誰が責められるだろうか。
責める人がいたら私の前まで引っ立ててきてほしい。ボコボコにしてやる。
さて。
そんなこんなで意気揚々と集まった生徒たちに、オールマイトがカンペを確認しながら伝えてくれた内容としては。
訓練の内容は、屋内かつ2on2での対人戦闘。
拠点に籠もって核兵器を保持している敵サイド、それを処理しようとするヒーローサイドに分かれて訓練は行われる。
敵の勝利条件は制限時間まで「核兵器を守る」か「ヒーローを捕まえる」こと。
ヒーローの勝利条件は、制限時間内に「核兵器を回収する」か「敵を捕まえる」こと。
「コンビ及び対戦相手は……クジだ!」
「適当なのですか!?」
「プロになれば事件現場ごとに他事務所のヒーローとその場その場でのチームアップが求められることになるし、その予習ってことじゃないかな」
それにしても核兵器とはまた、スケールの大きな話だ。
少なくとも最近の日本ではその規模の兵器を保有した敵勢力というのは聞かない。
そういう危険な敵こそ、闇に潜んでいるとはさっきオールマイトも話していたけど……たぶん、海外での活動経験もあるオールマイトが想定するほど、雄英生はこの設定に真剣味を持てないと思う。
「どんどん引いちゃって! 人数の都合上、コンビのクジは一つだけトリオになるようになってるよ!」
オールマイトに促されて、私たちはくじを引いた。
私が引いたのは、
それで、コンビになる人は……あ。
「あ、ハタチちゃんだ! 私もIだよ! よろしくー!」
手袋に握ったクジをブンブンと振ってアピールしてくる、「透明」な個性の女の子。
かわいい。若い。
これが若さ。
「ハタチちゃんと一緒なんて心強いよ! 私たちなら誰が来ても勝てーる!」
うおー! と早くも気炎を吐く葉隠さんにつられて、私も少し気合が入った。
主に、私もテンション上げないと “うわ、枯れてる……年増じゃね?” って思われかねないから、という方面で。
「が、頑張ろうね!」
「ガンバロー!」
本当にこれが正解なんだろうか。
分からなかった。
分かる人がいるなら教えてほしい。ついでにこの立場を替わってほしい。
高校生にバレないように高校生として振る舞うだけの職業です。
辛い……いや、つらたん……? つ、つらたにえん……?
◇◆◇
「そう言えばー」
爆豪くんの溜めに溜めた爆発で吹き飛ばされる緑谷くんの映像を横目に、葉隠さんがピッ、と両手の指を向けてきた。
いや、もうちょっと注目しようよ。ほら緑谷くん吹き飛んでるよ?
ビル崩れそうだよ? 心配にならない?
「ハタチちゃんは、どんな個性なの? 昨日のテスト見ててもよく分からなかったんだけど」
「あー」
そっか、模擬的なチームアップなんだから話しておくべきだよね。
別に話すなって言われてないし。
「私の個性は……」
「うんうん!」
私は手袋をつけたまま、左手の腕時計に指を添えた。
「時計の針を見ててね。これを……こう」
「わっ……!」
私が添えた指の横で時計の秒針が狂ったように高速で回転し始め、それに伴って分針、時針までもが動き始める。
「それから、こっちもいける」
「うわわっ……!」
逆回転。
ぐるぐるーっと。
「個性 “ビデオテープ” 、……って言って分かるかな。触れた物の時間を早送りしたり、巻き戻したりできる。一時停止はできないけど、スキップはできる、って感じ」
これで伝わっただろうか。
ちらり、と見えない葉隠さんの顔色を伺う。
当然ながら、何も分からなかった。
ただでさえ透明な葉隠さんが、今はコスチュームを着て手袋とブーツだけになってしまっているのだ、分かるはずもない。
「ハタチちゃん……」
「な、なに……?」
「すっ……」
「すっ? ……っ!?」
ガッ! と。
手袋がワナワナと震えたかと思えば、突然私の肩を鷲掴みにしてきた。
「――っっごいね! サイキョーじゃん!」
あ、声大っきい。
というかやめて葉隠さんこの雄英高校とかいう上昇志向強めの子しかいないような学校で “最強” とか軽率なこと言っちゃうの。
ほら見てなんかあのおめでたい紅白の頭の男の子とか、映像そっちのけでこっち見てオラワクワクしてきちゃった顔してるから……!
戦意マシマシでちょっと目がギラついちゃってるから……!
他にも何人か身体ピクンって動かした人いたし……!
何そのリアクション。戦闘民族なの?
それにね、半人前未満のヒーローの卵なんかと張り合ってたら私の立つ瀬ないんだよ!
インターンやらにも行き始めた上級生ならともかく、個性を伸ばす訓練もしてない新一年生たちと比べられても困るんだよ!
私! ハタチなんだよ!
……はぁ、はぁ。
心の中の私は息切れを起こした。
現実の私は微笑を浮かべたまま機能停止している。
あ、爆豪くんすごいなあ……土壇場の対応力ってやっぱり才能出るよねって。緑谷くんもよく耐えてるし、不利な状況でも素晴らしい集中力だ。
麗日さんは……何かを待ってる? ヒーロー側の作戦かな。
飯田くんは、うん。真面目過ぎて
でも、四人ともがんばえー。
結果は、ヒーローチームの勝ち。
いやー緑谷くんは素晴らしい機転だった。
これはもうMVPは緑谷くんで決まり―――。
「まあつっても―――今戦のベストは飯田少年だけどな!」
!?
「ま、飯田さんが一番状況設定に適応していましたものね。爆豪さんは初めから独断で飯田さんから離脱し、私怨丸出しの戦闘行動。それに加え屋内での大規模な爆破はやはり愚策。この点に関しては緑谷さんも同様。麗日さんは中盤に不注意から折角の隠密行動が台無しに、そして最後の攻撃も少し大味だったかと。ハリボテをちゃんと『核兵器』として扱っていたとは思えません。飯田さんは予めヒーローの個性を警戒、部屋を片付けるという効果的な対策を実行し、且つ『核兵器』としての意識があったからこそ、最後の麗日さんとの争奪戦で一瞬の後れを取った……ヒーローチームの勝ちは『訓練』であることへの甘えから生じた反則のような勝利に過ぎないと、私は分析しますわ」
「くぅ〜、その通りだ八百万少女!」
!?!?
「わー八百万ちゃんすごいねえ!」
「ソ、ソウダネ……」
雄英生って、すごいね……。