Q.命削ってる系の個性でもヒーローになれますか?   作:盛岡冷麺

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3.

 

 葉隠透という少女にとって、廿普という同級生は不思議な存在であった。

 廿普には知る由もないが、そもそも彼女らの最初の出会いは入学式当日の教室―――ではない。

 

 その一ヶ月以上前、すなわち “雄英高校入学試験” にて彼女たちは出会っていた。

 

 

 

 実技試験、C会場。

 

『―――標的捕捉、ブッ殺スッ!』

 

 運悪く瓦礫に躓いたところを、ちょうど脇道から飛び出してきたロボットに見つかってしまった受験生。

 機械の大きな腕が振りかぶられ、あわやここでリタイアかと、諦念を抱いたその直後のことだった。

 

『ナッ!? グワーーッッ!!』

「っと、よし! 25P(ポイント)!  あ、そこの人、大丈夫?」

 

 突然ロボットが断末魔を上げ、パリパリと放電しながら機能を停止した。

 そして、何もないはずの空間からは女の子の声が響く。

 どう考えても怪奇現象だ―――と、その受験生は結論づけた。

 

「……ひっ、ひいぃぃっ!?」

「あっ、待って違うの私は……透明な個性の、……行っちゃった」

 

 市街地に出没する(やたらと口が悪いことが特徴的な)仮想敵を行動不能にし、Pを稼げというこの試験。

 プレゼントマイクからの説明を受けて、葉隠が懸念していたのは『この試験だと私の個性、全く役に立たないんじゃ?』――これに尽きた。

 実際そんなことになれば、試験が終わってから不満の一つや二つは抱えることになったかもしれない。

 戦闘力だけがヒーローに必要な素質なの!? とか。

 

 だが結局のところ、それは杞憂であった。

 

 助けたはずの人に怯えられてしまったことも気にせず――まあ今日は何も服着てないし、と――索敵を再開した葉隠の前に、お目当ての仮想敵が姿を見せる。

 

「あっ、2P敵……ってことは、電源ボタンは背面!」

『クセモノッ!? グワーーッッ!』

 

 機動力や隠密など、火力を主体としない受験生に対しての救済措置だろうか。

 各仮想敵の背面や底面には、あからさまにココを押せ! と言わんばかりの真っ赤な丸いボタンが設置されており、試しにこれを押してみると、今の通り専用ボイスを吐き出しながら仮想敵は機能を停止する。

 秘孔か何かかと内心ツッコミながらも、葉隠はこの試験の作成者に感謝した。

 

 たった今2P敵を倒して現在27P、まだまだ足りないとPを求めてビルの合間を駆け回っていた葉隠の視界に、今度はふと奇妙な人物が映る。

 

「どうしよう……Pを稼ぎ過ぎるのも大人気ない、のかな……。でも変にボーダー狙って落とされても困るし……」

 

 ブツブツと、冷静に思い返してみれば中々にふてぶてしいスタンスで試験に臨んでいたらしい少女の姿である。

 俯き加減に短い黒髪を揺らして歩くその姿は全くの無防備で、彼女の背後から迫りくる仮想敵にも気が付いていないように見えた。

 

『標的捕捉! オ命頂戴ッ!』

「あぶな―――」

「うーん……どれぐらいのPで安全圏なんだろ。ここは多めに見積もって、60Pくらい……?」

 

 グシャゴキャメキグシャッ! と。

 

 振り返りもせずに仮想敵の鼻先を撫でた少女によって、耳を塞ぎたくなるような音を立てながら、仮想敵は見るも無残なスクラップへと姿を変える。

 

 あっ、手助けとかいらなさそう……。

 

 そう悟った葉隠は、この一方的な出会いをそこで終わらせた。

 なお、その後少女はレスキューPなる未知の評価項目によって目標としていたPを大幅に超過することになり、更には入試首席として入学を迎えることになるが、それはさておき。

 ともかく、葉隠から廿普という少女への第一印象は、『なんかヤバい人』で決定していた。

 

 

 

 そして、入学式当日。

 自分が受かっていたのだから当然あの子も受かっているだろうとは思っていたものの、同じクラスかつ席もすぐ近く、という偶然に驚く。

 しかし葉隠のこれまでの経験から言って、人は『見られていると思っていなかった行動』について指摘されることを嫌う。

 特に葉隠のような個性を持った人間からであれば、なおさらだ。

 

「あっ、私とも席近いね! 私は葉隠、葉隠透っていいます! よろしくね!」

 

 結果として、葉隠は初対面を装った。

 それからの会話を通じて、葉隠は少女――廿普に対する印象を大きく軟化させていき、これなら『実は入試のとき会ってたんだよー』なんて話をしても大丈夫そうだと思っていた、その矢先の出来事である。

 

 

 廿普が、戦闘訓練においてあまりにも無慈悲に同級生――それも、一人は推薦入学組――を蹂躙したのは。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 戦闘訓練・第二戦、私と葉隠さんチーム VS 障子くんと轟くんチーム。

 

 ここは私たち敵チームが勝った。

 やったぜ。

 

 第一戦の熱戦に比べれば、ずいぶん地味な戦いだったと思う。

 手順としては、 

 私と葉隠さんはまず核の置かれた部屋を放棄して、屋外に隠れる。

 ヒーローチームが屋内に侵入したのを確認したところで建物の壁に触れて、時間を巻き戻す。ざっと10年ほど。

 建物全体が巨大な生コンの塊になった瞬間、今度は早送りでコンクリートに戻す。

 ヒーローチームは足元が固められたことによって動けなくなり、タイムオーバー。

 

 後の講評を聞けば、どうやら障子くんの個性によって私たちが外に出ていたことは把握できていたらしいけど、二人は警戒しながらも二手に分かれて侵入、核のある部屋を探そうとしていたらしい。

 結果、思ったよりもどうしようもない力技で固められて、身動きが取れなくなってしまったのだとか。

 そこで拘束テープを巻きにいけばもっと早く終わらせられたんだけど、轟くんの氷結が怖かったから時間いっぱい外で新しい動きがないか警戒して過ごした。

 で、敵チームWINと。

 

 人の心とかないんか?

 

 ……。

 

 ごめん、ちょっと言い訳をさせてほしい。

 違う。違うんだよ。

 別に私は、高校生を封殺して気持ちよくなってやるぜとか、そんなことは一切考えていなかった。

 

 私は大人だ。

 そして、現役のプロヒーローでもある。

 そんな私が、雄英生たちの戦闘訓練に対してどのような姿勢で臨むべきか。

 私はちゃんと考えた。

 

 まず、私が全力で取り組むとしたらヒーローチームはロクに動くことも許されないまま決着がつくだろう。

 彼らがどんな個性を持っていようと、私にはそれが可能であると自負している。

 となると、葉隠さんやヒーローチームはせっかくの訓練でほとんど成果なしということになってしまう。

 ただ、手を抜くのもどうなのって思う。

 これからどんどん成長していく彼らにとって壁は高ければ高いほど良いわけで、これもやはり彼らの機会を奪うことにほかならないだろう。

 

 私は悩んだ。

 

 悩んだ結果、やはり出し惜しみはしない方が良いのではないかという結論に至った。

 たとえ一瞬のうちに勝負が片付こうと、それを振り返るための時間はこれからいっぱいあるわけだし。

 彼らならそれを糧にしてくれるだろうって。

 

 ね?

 

 そりゃさ、これからも戦闘訓練が繰り返されるようなら、私だって適度に乗り越えやすい壁を設定したりってするかもしれないけど、ほとんどのクラスメイトにとって私の第一印象になるこの一戦だけは、ちゃんと全力を尽くそうって。

 

 ね?

 

 私はそう考えて、訓練を終えた。

 それで、オールマイト先生の講評を聞きながらリプレイされる映像を見て、やっと気が付いたんだよ。

 

 私、やってることヤバくない? って。

 

 もし私の知り合いが見たら、助走付きでビンタしにくるレベルだ、きっと。

 アンタ年下相手に何やってんスかって。

 相手の全力を引き出した上で勝つでもなく、チームメイトと協力するでもなく、スタンドプレーによるゴリ押し。

 しかも反撃の機会を与えずにタイムオーバーまで様子見の逃げ切り勝ち。

 

 これがプロヒーローのやることか。

 

 否。

 どう考えても否である。

 むしろ一番やっちゃいけないことをしました。

 今では反省しています。

 

 落ち込む私をよそに、授業は第三戦以降へと進行していった。

 

 その後のハイライトは、唯一のトリオだった切島、瀬呂、尾白のヒーローチーム vs 上鳴、耳郎の敵チーム。

 索敵を上手くこなしつつ広間に三人を誘導した耳郎さんがMVPで、そこを上鳴くんが一網打尽に撃破、拘束した。耳郎さんが離脱するより先に放電したため、上鳴くんは先生と耳郎さんの二人に絞られた。

 モニターで俯瞰していると、斥候役がいるかいないかでの動きの違いが良く分かる。

 特にこの訓練においては、障子くんと耳郎さんがジョーカーだった、と言ってもいいかもしれない。

 

 他にも、芦戸さんがアクロバットな動きで身体能力の高さを見せつけたり(コンビだった青山くんのマントは焼けた)、八百万さんと峰田くんが敵チームとして無敵の要塞を築き上げたり(ヒーローチーム、砂藤くんと口田くんは絶望した)、梅雨ちゃんと常闇くんのヒーローチームが基礎力の高さで相性の悪さにも拘らず敵チームを苦戦させたりと、見所は多々あった。

 

 最後に、オールマイト先生からの全体講評があり。

 

「お疲れさん! 緑谷少年以外は大きな怪我もなし、皆それぞれの強みを生かした訓練だった! 初めてにしちゃ上出来だったぜ!」

 

 こうして、私たちの初めての戦闘訓練は終わった。 

 私とクラスメイトとの距離は、若干広がった。

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