Q.命削ってる系の個性でもヒーローになれますか?   作:盛岡冷麺

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 高校生活が始まって二日目の戦闘訓練。

 自分たちのクラスメイトである廿普という人物が、異質な存在であると皆が初めて認識したのは、たぶんそのタイミングだった。

 

 その前日、個性把握テストの時点ではまだ皆、そんなに気にしてなかったと思う。

 少なくとも、ウチはそうだった。

 

 ヤオモモと轟っていう推薦入学組を差し置いてテストの総合成績でトップに立っていたことも、ハタチがそれについて特に誇らしげでもなかったことも、ウチは気が付かなかった。

 や、事実として認識してはいたんだけど……あの時はまだ、ヤオモモも轟もどれだけスゴい奴なのかって分かってなかったし。

 だから、入学時点であの二人を上回る実力を持ってるってことがどんなにおかしいことか、知りようがなかったっていうか。

 

 まして、それを誇るでもなく少し陰のある表情をしていたことなんて、誰が気付けた? って話。

 ……まあ、それに気が付いたのがヤオモモと轟なんだけど。

 あの二人のことは置いといて。

 

 とにかく、オールマイト先生の戦闘訓練の授業でやっと、ウチはハタチとウチらの……なんていうか、隔たり? みたいなものに触れることができた。

 ヒーローチーム二人をコンクリートの中に閉じ込めて、それでも油断することなく10分間、じっと二人の様子を観察し続けて。

 チームメイトの葉隠の手も借りずに、何の感情も持ってないみたく淡々と、冷徹に、一分の隙も見せず。

 

『……』

 

 モニター越しにも伝わってくるハタチの冷え切った眼差しと、圧倒的な実力差に、ウチは怖気づいた。

 

 それで、無意識のうちに距離を取った。

 それはきっと、ウチだけじゃなくて。

 

 戦闘訓練の後、放課後に皆で開いた反省会にもハタチは参加しなかった。

 参加を断った轟や爆豪とは違う。

 ウチらが、させなかったのかもしれない。

 ハタチの方には何となく背を向けて……つい数時間前は休み時間に普通に話してたのに、それまでの関係をなかったことにしようとした。

 ハタチには反省点とかないだろうし、なんて自分に言い訳をした。

 

 ハタチが鞄を肩に下げて、目立たないようにそっと、無言で教室を出て行って。

 

『あ……』

 

 ハタチの制服が教室のドアから見切れた瞬間、強烈な後悔に襲われた。

 

『―――待ってハタチ! ごめ――』

『へ?』

 

 慌てて教室を飛び出して、廊下に向かって声を掛けたけど―――。

 

『ど、どうしたの耳郎ちゃん……?』

『耳郎さん? なにがありましたの?』

 

 そこにいたのは、葉隠とヤオモモだけだった。

 

『あ、あれ? 今、ハタチがここ通らなかった?』

『ハタチちゃん? トイレからここまでには見てないよ?』

『私もですわ。……あの、ハタチさんと何かありましたの?』

 

 事情を説明することは、出来なかった。

 ウチがやったことは、あまりにも恥ずかしくて、しかもどう説明したらいいのかも分からない。

 ウチが口を開いたり閉じたりして黙っていると、ヤオモモは何となく何が起きたのかを把握したみたいだった。

 

『まあ、大凡のことはお察ししますが……明日から、姿勢を改めれば良いのではありませんこと?』

『……えっ? なになに、どーいうことなの?』

 

 葉隠が、ウチとヤオモモを交互に見て首を振る。

 

『……そうしよっかな。ありがと、八百万』

『構いませんわ。……私も、彼女に思うところがないではないですもの』

『えっ、ええっと……よく分かんないけど、解決した?』

 

 解決はまだだけど、その予定が立った、かな。

 

『あっ! ていうかハタチちゃんもう帰っちゃったの!? 駅まで一緒に帰ろうと思ってたのに!』

『それも明日、ですわね。……葉隠さん、ご一緒させていただいてもよろしくて?』

『あ、それウチも良いかな』

 

 

 

 


 

 今日は朝から血を吐いた。

 恐らく胃の不調だろうと思われたため、個性で “治して” ことなきを得た。

 

 いやー、大分身体にもガタがきてるなって。

 でもあと一年? 半年? ……分からないけど、それぐらい持ってくれればそれでいいから。

 大丈夫、大丈夫。

 

 

 

―――あ、あなたヒーロー科ですよね? もうオールマイトの授業は受けましたか?

 

「えっと……はい。ちょうど昨日に」

 

―――オールマイトの授業はどんな内容でしたか?

 

「ん……ヒーロー基礎学ということで、屋内での対人戦闘訓練を行いました。訓練後は……その、生徒による意見交換と彼による講評の場が設けられて……非常に充実した内容だったと思います」

 

―――なるほど! オールマイトにもっとこうして欲しい、という点はありましたか?

 

「まだ初回の授業だったので何とも言えませんが……長らく日本の平和を支え続けて下さっているトップヒーローとして、彼の経験が生きた授業を体験できたなら、ヒーロー志望の生徒としてこれ以上ない糧になるだろうという……勝手な期待はあります」

 

―――素晴らしい志ですね! では、オールマイトは何故―――

 

「……あ、すみません、もう時間がないようなので。失礼します」

 

 

 

 教壇に立つオールマイトについて聞きたがるメディアの取材陣から逃れ、登校。

 

「おはようございますわ、ハタチさん」

「おはよ、ハタチ」

「ハタチちゃん、おはよう!」

 

 教室に入って席に着くなり、前からも後ろからも声が掛かった。

 

「? おはよう……」

 

 な、何?

 昨日はてっきり私が鬼畜作戦を実行したせいでみんなからドン引きされたものだと思ってたんだけど。

 昨日ちょっと気まずそうにしてた耳郎さんだけでなく、そもそもこれまで話してなかった八百万さんまで挨拶してくれるなんて、一体何が……?

 

 困惑する私を他所に会話は進む。

 

「取材、凄かったね!」

「ええ……少々、配慮が足りていないように思いましたわ」

「だよね。オールマイトオールマイトって、あんなに囲まれたら遅刻するっての」

 

 純粋に楽しそうに話しているのは葉隠さんだけで、耳郎さんと八百万さんはやや辟易した様子だった。

 これで二日続きだし、何事もなければ明日も来るだろうと予想されるので、二人の気持ちも分かる。

 ただ、高校生としては葉隠さんの反応の方が自然なのでは? と考えた私は、ウキウキ派になっておくことにした。

 やはり若さだ。若さをアピールしなければ。

 

「私はなんか、芸能人になったみたいで楽しかった、かな」

 

 三人の様子を窺いながら、言葉を紡ぐ。

 私の発言に耳郎さんはポカンと口を開け、八百万さんも口に手を当てて目を丸くした。

 マズい、選択を間違えたらしい。

 

「意外……ってか、アンタはもっと枯れ――落ち着いてるキャラだと思ってた」

「私もですわ。案外、年相応なところもあるんですのね」

 

「―――!?」

 

「そう? 私はハタチちゃんの気持ち、分かるよ! 楽しかったよね!」

 

 ……ちょっと待って。

 ホントにちょっと待って。

 

 今、間違いなく “枯れてる” って言い掛けたよね耳郎さん。

 “案外”、年相応って言ったよね八百万さん。

 ……え、これもう駄目じゃない? 私が本当ならここで机を並べていていい年齢じゃないってことバレかけてない?

 

 私は内心冷や汗を流しながら、まだ致命傷じゃない、大丈夫だと自分に言い聞かせながら朝の時間を過ごした。

 

 

 

「―――昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績は見させてもらった」

 

 そんな言葉で朝のHRを始めた相澤先生が、爆豪くんと緑谷くんを窘める。

 それは二人の今後に期待するような、発破をかけるような言い方だった。

 

「で、本題は別だ。今日は君らに―――学級委員長を決めてもらう」

「「「学校っぽいの来たぁあ!!」」」

 

 ハイハイハイ! とみんなが一気に立候補する。

 俺やりたい私やりたい、ボクの為にあるヤツ、俺にやらせろ、オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm。

 こういう役職に関しては控えめな性格だと思っていた耳郎さんや口田くん、緑谷くんまで手を挙げていた。

 手が挙がっていないのは私、麗日さん、轟くんくらいか。

 ヒーロー科としては、健全な姿であるように見える。

 あ、やっぱり葉隠さんも手を……というか袖を挙げている。

 

「待つんだ皆……! これこそ、民主主義に則って投票で決めるべき議案だと思わないか!? 多を牽引する責任重大な仕事だぞ……!」

「んなの皆自分に入れらぁ!」

「いや! それは分からない! それに、そもそも立候補していない人もいる……」

 

 バッ、と周りを見渡したみんなが、私や麗日さん、轟くんに気が付いてしまった。

 そ、そんな目で見られても私は、もう入れる人を決めてるから……。

 

「入学初週であって尚! 既に票を集めるほど頭角を表している人物であればこそ、このクラスを率いるに足る。僕はそう考える……如何でしょうか先生!!」

「何でもいいから早く決めてくれ。俺は寝る」

 

 飯田くんが飯田くんして、目の下に隈を作った先生が投げやりに答える。

 連日のあのマスコミ対応に駆り出されて、かなりお疲れの様子だった。

 飯田くんに放り投げてゴソゴソと寝袋に収まった先生が、宣言どおり寝息を立て始める。

 クラス全員で、『マジか……』とそれを眺めた後。

 

「では、ハタチくん! この場の司会を頼めるか!」

「……あ、立候補してないからか。うん、いいよ」

 

 ハイじゃあ候補者の人はもう一回手を挙げて、と。

 

「……よし」

 

 この人数の名前を書くのは面倒だし、時間も限られているから出席番号だけを黒板に書いた。

 顔は……一応、伏せてもらおう。

 爆豪くんとか、多少なり怖がる人はいそうだから。

 

「じゃあ始めます。みんな顔伏せて挙手してもらって、投票は一回までね」

 

 私が候補者の名前を言って、それにみんなが手を挙げていく形式で投票。

 私も投票した。

 

 そして、開票。

 

 まず、緑谷くん3票。

 麗日さんはさもありなん、だけど自分のときには手を挙げなかった飯田くんが、ここで猛然と手を伸ばしたときは、思わず “なんで!?” と声が出そうになった。

 その手が震えていたので、本人なりに葛藤はあったのだろうけど……それにしても謎である。

 

 それから、八百万さんもタイで3票。

 彼女には私と、そして轟くんも入れていた。

 緑谷くんと同じく、八百万さん自身の票と合わせて、3票である。

 私が投票した理由は……一番安心してリーダーを任せられる人だと思ったから。

 きな臭い今年の雄英で、土壇場で取り乱すことも空回ることもなく堅実に指揮を執ってくれそうな人、と考えて、八百万さんにした。

 

 他は、自薦しなかったせいで0票の飯田くんを除けばみんな1票ずつの得票。

 峰田くんなんかは両手を挙げていたけど、あれで騙せると思ったのだろうか。普通に1票としてカウントした。

 

「うん、もう大丈夫です。顔上げてどうぞ」

 

 私は数え忘れがないことを確認すると、みんなにそう声を掛けた。

 ガバ、と黒板に目を向けるみんな。

 私は緑谷くん(19番)と、八百万さん(21番)に下線を引いてまた口を開く。

 

「というわけで、緑谷くんと八百万さんが3票タイで一位です。……どうする? ジャンケンで決める? たぶんもう決戦投票の時間は―――」

「ない。早よ」

 

 HR終了まで、残り1分といったところ。

 この時間で焦って二人のどっちにするか考えてもらうのも、ジャンケンで決めるのも、そう変わらないんじゃないかな、とは思っていた。

 相澤先生が寝そべったまま私の言葉を後押ししてきたので、二人がジャンケンをすることになり―――。

 

「か、勝った……?」

「負けましたわ……!」

 

 緑谷くんが委員長になった。

 グーを握りしめて震える八百万さんと、開いた自分の手のひらを信じ難げに眺める緑谷くん。

 そして、八百万さんは副委員長。……うん、いいんじゃないかな。

 少なくとも、逆になるよりはお互いを助け合えると思う。

 

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