Q.命削ってる系の個性でもヒーローになれますか?   作:盛岡冷麺

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5.

 

5.オリジン

 

 始まりは、悪夢だった。

 

『―――おかーさん、おとーさん、おしごと?』

『……うん。ちょっと厄介な敵みたいで……呼び出し掛かっちゃってね。ごめん、アマネ。誕生日なのに……』

『アマネ、いい子でお留守番できるか?』

 

 私の、五歳の誕生日。

 私がローソクの火を消そうと、大きく息を吸い込んだまさにその時。

 お母さんとお父さんの携帯が同時に鳴って、二人が顔をしかめたのを覚えている。

 

 ヒーロースーツに着替える二人。

 その姿が、ここにはいない敵を見据えた二人の眼差しが、幼い私の目には誰よりもカッコよく映っていた。

 

『うん、できるよ! わたし、テレビみてまってる! おとーさんとおかーさんがうつるかもしれないから!』

『はは、それならお父さんたちも、派手に活躍してパッと帰ってくるからな。そしたら、またお祝いの続きをしよう』

『そうね。まだケーキも食べていないんだもの。早く帰ってこないと』

 

 ピリリと、視界に電気が走ったような気がした。

 何だか不思議な感覚だった。指先にモヤモヤとした熱が集まっていくような。

 私はそれを無視して、二人に抱き着いた。

 

『うん! わたし、いい子にしてるから!』

 

 二人が、私を抱き締め返して。

 それから。

 

だから(・・・)はやくかえってきてね(・・・・・・・・・・)!』

 

 それは、最新の世代たる個性の発現。

 

 二人の身体が、一筋の裂傷により赤く染まった。

 否、無数の斬撃に引き裂かれた。

 

『かっ―――!?』

『ぐ―――!?』

 

 突如、血を撒き散らしながら斃れる二人。

 

『………………え?』

 

 現状が理解できない。

 目の前にあるソレを理解したくない。

 事実を否定したい。

 何が起こったのか、知りたくない。

 見たくない。血溜まりに倒れ臥す二人を。

 聞きたくない。私に手を伸ばす二人の声を。

 

 否定したい、否定したい、否定したい。

 帰して。私を帰して。二人の腕の中に。幸せを返して。

 

 『もどって(・・・・)』。

 

 無数の裂傷が消えた。

 ポタポタと溢れていた血も消えた。

 二人は、傷一つなく無事だ。

 

『ぐ、うっ………っあ、れ……?』

『………こ、れは……僕は今、確かに……』

 

 床に広がった血の痕も。

 苦痛に歪んだ二人の顔も。

 服が焦げる匂いも。

 

 何もかも、気のせいだった。

 そうだ。

 いきなり二人が斃れるなんて、あるわけない。

 見間違いだったんだ。

 

 私は安堵した。

 安心して、泣いた。

 二人の腕の中で、何も理解しないまま。

 

『……流々(るる)。今すぐ病院に行こう』

『……ええ。そう、そうね……もしこれが、この子の―――』

『―――その話は後だ』

 

 私にはそんな両親の会話も、耳に届かずに。

 私たち三人はタクシーを呼んで、近所でも一番大きな病院に向かった。

 大体、三十分くらいで病院には着いたと思う。

 足早に歩く二人の手をしっかり握って、わけも分からないまま必死に付いて行った。

 何となく、不安だった。

 二人とも、どうしたんだろう。だってさっきのは全部ウソで、見間違いで、何もなかったはずなのに。

 

 そうして、病院の入り口の前まで来たとき。

 

 お母さんとお父さんが、血を噴いて斃れた。

 

『―――あ、あ"ああああああああっ!!

 

 まるで巻き戻しのように。

 さっきの幻とまるきり同じように、二人の身体は傷付いていた。

 顔も、胸も、お腹も、足も。

 傷のない箇所なんてないくらいだった。

 

 もう否定できない。

 これは現実だ。

 それが私にも分かってしまった。

 だから、泣き叫ぶことしかできなかった。

 

 病院の敷地内。

 私の絶叫。

 

 当然、すぐに人が飛び出してくる。

 その看護師さんらしき人が、私の前に広がる惨状を見るやすぐさま引き返して担架と追加の人を連れてきた。

 

『う、あああああ―――!』

 

 私は二人が運び込まれていくのを、ただ声を張り上げて泣きながら、地面にへたり込んだまま、眺めていた。

 

 

 

 両親はヒーロー……それも、救援要請を受けた直後のヒーローだったこともあって、ヒーロー公安委員会――公安はすぐに事態を把握した。

 

 私が途切れ途切れに話した事情説明から何を思ったのか。

 意識不明のまま手術が終わり、入院したという両親とは会うことも許されないまま課される検証、検証、検証。

 窓のない部屋に閉じ込められて、通信で伝えられる言葉。物に、植物に、動物に、『個性を使ってみなさい』『こうやって使ってみなさい』『こうはできないのですか』。

 

 最終的に、部屋には一週間ほどいただろうか。

 差し入れられる食事も食べては吐き戻すような日々だった。

 個性使用の反動ではなかった。

 個性を使うたびに、頭の中で蘇る光景のせいだ。

 最後の良心のつもりだったのか、何とかっていうカウンセリングも受けさせられたけど……あまり意味のあるものではなかった。

 

 そして分かったことは。

 私の『個性』の性質。

 

 『遍在』

 

 手で触れたものの時間を進めたり戻したりすることができる。ただし、巻き戻して行動を変えたとしても未来は一つに収束していく。また、進めた分、あるいは戻した分だけ、生命力(寿命)を消費する。死後巻き戻すことは不可能。

 

 ということだった。

 

 あの日は、私の『早く帰ってきてほしい』という思いから個性が発動、本来であれば敵と戦闘中である三十分後に到達するはずだった未来が、現在(いま)へ。

 直後『戻って』という願いから再び個性が発動。二人の身体は元の時間へと戻り、それから三十分後、病院に到着した頃『未来』へと収束した。

 

 そういう推測が成り立つのである。

 

 極めて危険でいて、あまりにも有用な個性。

 

 『アマネくん、君の個性は素晴らしい個性だ』そう言って、公安は私を勧誘した。飛び散る鮮血の記憶がそれを否定した。

 

『ああ、ご両親のことなら心配はいらない。君のご両親にはこちらから十分な医療を提供しよう。私たちなら、セントラルの病室を用意することだって出来る』

『君は君のお父さんお母さんのような、ヒーローになりたくはないか』

 

 子どもの憧れを利用しようとしたのだろうか。

 敵との交戦で、あんな惨状に行き着くと知ってしまった私の憧れを。

 親の職業への憧憬、そんなものはもうなかった。

 たとえ二人の意識が戻ったとしても、二人にはもう二度とヒーローなんてやって欲しくなかった。

 そんな私がヒーローになるなんて、イヤに決まってる。

 

 黒いスーツを着た大人たちの勧誘を、私は必死に拒否し続けた。

 頑なに、稚気のままに、下を向いて首を振り続けた。

 

『専用プログラムは厳しい訓練にはなる。しかし―――』

 

 そこまでにしておきなさい、と声が掛かった。

 これまでは見なかった、ブロンド髪をオールバックにした女性がツカツカと歩み寄ってくる。

 

『無理な勧誘は厳禁だと、そう言ったはずです』

『しかし会長、彼女の個性は―――! あの少年のプログラムも順調に進んでいます!』

『それでまた “彼女(レディ)” のような人間を生み出すつもりですか』

『そんな……!』

『彼女については既にこちらで扱いを決定しました。話は終わりです』

『っ……!』

 

 言い捨てて、私を取り囲んでいた大人たちが去って行き、そして会長と呼ばれた女性だけが残った。

 それから話されたことは。

 

 私の個性は秘匿されること。

 安全に暮らしたいなら、人前で個性を使用してはならないこと。

 公安管理下の住居が用意されること。

 これまでの住居は引き払われること。

 一定の判断能力が身に付いたことが確認できたら、公安の管理は外れること。

 両親の病院は、意識の回復が見られるまで住居から手近なところに手配すること。

 

 この時の私に一体どれだけのことが理解できたのか、今となっては私にすら思い出せないけど。

 ただ大人の中では初めて、しゃがみ込んで私と目を合わせてくれたその人の言葉に、ひたすら頷くことを繰り返した。

 

 最後に、公安に協力したいと考えることがあればいつでも待っている、と言って “会長” は話を終えた。

 

 それから、一年。

 私は六歳の誕生日を、二人の病室で迎えた。

 歌もなく、ケーキもなく、プレゼントもなく。

 

『……はっぴ、ばーす、でー』

 

 だから。二人の手を握りながら私は、個性を使おうとした。

 起きて、一緒に歌ってほしくて。

 もしかしたら少し未来のお母さんたちはもう、目を覚ましているんじゃないか、なんて。

 

『……ひぐっ。ぐすっ……』

 

 できなかった。

 私のせいで、二人は傷付いた。

 あんなに血を流して、苦しませた。

 その記憶が脳裏にこびり付いていた。

 

 どうすれば、二人を助けられるのかと。

 最先端の医療―――セントラルの医療ですら意識が戻らなかった二人を救うには、どうしたらいいのだろうかと。

 

 個性は成長する。

 使えば使うほど、酷使すればするほど、成長していく。

 なら、私の個性はこれ以上どう成長するのか。

 今でさえ、『遍在』できる時間に上限も下限もない。

 使うたびに吐きそうになるし意識も遠のくけど、それだって個性そのものの反動じゃない。

 

 じゃあ、もしかしたら。

 私の個性は、成長すれば『異なる未来』に到達できるのかもしれない。

 奇跡が起きて、二人が意識を取り戻した未来に、到達できるのかもしれない。

 できないのかもしれない。

 けど、少しでも希望が欲しかった。

 二人のために、私にできることがあるのだと信じてみたかった。

 

 私が中学生になる頃には。

 私が高校生になる頃には。

 私が成人する頃には。

 

 二人が目覚めていて、三人でお祝いするような未来。

 

 私は、公安に所属することを決めた。

 それが私の六歳の誕生日の話。

 私が、小学校にすら通うこともない人生を歩き始めた日だった。

 

 

 

 それから、私専用に考案されたプログラムに従って、たくさんの訓練をこなした。

 個性をとにかく使って、吐いても使って、また吐いて意識を失っても治癒系の個性に治してもらって、使って使って、使い続けた。

 来る日も来る日も、鍛錬鍛錬鍛錬。

 血反吐を吐いても、『戻して』体調を回復させようものなら鍛錬の効果も消え失せるので個性は使用禁止。

 私の強い要望により、睡眠の時間は削ってもらった。

 眠気を感じたら、八時間ほど自分の身体を『送れば』いい。

 本当に便利な個性だった。

 

 時折訪れる “少年” は私の訓練を見て顔を引き攣らせていたけど、彼は彼で尋常ではないプログラムをこなしていると聞く。

 少し励みになって、また頑張った。

 

 そんな、生活とも呼べないような日々を続けていたある日のことだ。

 唐突に会長からの呼び出しを受けた私は、

 

廿普(ハタチアマネ)さん。あなたのことは、今日からプロヒーローとして扱います」

 

 プロヒーローになった。

 




USJの前に入れる必要がありました。
恐らくもう一話挟まってからUSJです。
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