ブルアカ短編集   作:空調服

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C&Cにはモブ部員が会話文だけですがゲーム中に登場するので、コールサインを持たない後輩とかバックアップ要員もおるやろ!の精神による捏造が含まれます。


廃墟都市街の膝枕

「"うーん、しばらく雨も止みそうにないね"」

 

 避難した先は元々作業小屋か倉庫のような物だったのであろう、小さいながらもまだしっかりと建っている廃墟の中で先生が呟いた。視線の先には窓枠だったと思わしき壁面の穴があり、そこから覗く風景はしとしとと先程から降り出した小雨に濡れていた。

 

「ご主人様、部長達かなり遠回りになるみたい。合流する頃には応援の車も着くと思うからここで待ってた方が良いかなって」

「"そうなると下手に動くと迷惑になっちゃうかな。どのくらいかかりそうだって?"」

「今の見込で2時間くらいだって!しょうがないけどちょっと暇だね?」

 

 こまったなー、とあんまり困って無さそうにあっけらかんと笑うアスナと共に先生は床に腰を下ろす。C&Cの面々と共に訪れたミレニアムの廃都市。未だ調査が及んでいない区域の探索の為に先生がサポートをしながら、探査する予定だったのだ。

 

 

 

 こうなる直前、C&Cの5人は先生に指揮されながら廃都市の防衛機構を無力化していた。トキを交えた連携は見事なもので、先生が知らぬ所で訓練を重ねていたのだろう。危なげなく無人兵器を相手にしていく。

 

『00、前衛集団を拘束中。しくじるんじゃねーぞ』

『04、了解。対応します』

 

 最前線で駆けずり回りながら、ネルは愛銃をフルオートでやりたい放題に撃ち放っていた。派手な動きでネルが無人兵器を蹴散らしながらも全体の注意を引いている隙に、トキが物陰から跳び上がって既に装着していたアームギアを構える。放たれた小型ミサイルの群れが弧を描いて後方に陣取っていた狙撃・砲撃仕様の機体に次々と突き刺さっていく。爆炎が前線を背後から照らし、前衛の無人兵器の群れが優先目標を再設定する為に一瞬動きが鈍った。

 

『02、前衛集団の鈍化を確認。鴨撃ちだね』

 

 高所で陣取っていたカリンが間髪入れずに大口径弾による援護射撃を敢行。装甲を貫通した弾丸が数体の無人兵器を巻き込み、敵側の戦列が大いに乱れた。無人兵器のAIが再編制しようと、前面の厚い装甲をネルたちに向けて集合したところでまたしても爆炎が敵集団のど真ん中で立ち上がる。

 

『03、爆破完了です。想定通りですね?』

『01、アカネナイス!突撃するよー!』

『ばっ、アスナてめー先生守ってろって言っただろが!』

『"こっちは大丈夫。私の周辺敵影無しで射線も通ってないのドローンで確認したから"』

 

 アカネが接敵前に仕掛けておいた炸薬が集団を吹き飛ばし、間髪入れずにその中にアスナが突入して引っ掻き回す。セミオート射撃が的確に関節や爆風で破損した装甲の隙間を撃ち貫いて、次々と無人兵器を無力化しながらネルとトキの射線に立ち入らぬよう遮蔽物を使って楽しそうに駆け回っていた。

 

『あはは!部長もトキちゃんも良いね良いね!私も負けないよ~!』

『04、パーフェクトメイドの実力をお見せしましょう』

『あーもうどいつもこいつも……てめーら帰ったら説教だかんな!』

 

 アスナを交えた3人が前衛を張り、無人兵器の一団が全てスクラップと化すまではそれから左程時間を要さなかった。全ての兵器が沈黙し、いわば死んだふりも無しと確認が取れてから物陰に一同が集まる。撃破スコアをトキと競うように言い合うアスナの尻をおかんむりのネルがビタン!と平手で叩いた。

 

「いったー!?部長、体罰反対!」

「うるせぇ、結果オーライだからこれで済ませてやってんだろうが!万が一先生に何かあったらどうするつもりだよ、まったく」

『"ネル、ごめんね?私が大丈夫だよって言ったから……"』

「済んだ事だから仕方ねーけど、本当に不慮の事態があったら冗談じゃ済まないんだから先生も頼むぜ……」

 

 う、とそこを詰められると思う所はあったのかバツが悪そうに沈黙するアスナと先生。若干しょげた様子で先生の下に戻るアスナを見送り、盛大にため息をネルが付いた所でアカネは何かに気付いたように空を見上げた。

 

「あら、雨が……待ってください。これは、振動音?それとも地鳴り……部長、これは」

「……総員退避!崩れるぞ!カリン、退避!退避だ!」

『"ネル!撤収のルートを出したよ!"』

『02、先生のルートで退避中!』

「04、先導します!」

 

 戦闘の余波か、それとも元々崩壊寸前だったのか。前線の傍らにあった廃ビルが嫌な音を立てはじめ、それがどんどん大きくなってくる。ぱらぱら、と上空から外壁の破片が降りはじめて来ていた。即座に先生がシッテムの箱を経由して割り出した経路に沿って皆が全力で現場から距離を取り始めた。

 

『アスナ!先生は担いででも絶対に逃がせ!』

『もう担いでる!絶対にご主人様に怪我一つさせないから!』

『お前もだよ!下手こいて怪我すんじゃねーぞ!』

 

 必死さの滲みでる声が無線に響き、各々が出せる最速で現場から離れていく。それから数分後本格的に崩壊が始まり、廃ビルは周辺を巻き込んで土埃と破片を撒き散らしながら盛大に崩れ落ちていった。

 

 

 

 そして後方に居た先生とアスナはC&Cの皆と分断されてしまっていた。地形と二次・三次崩落の危険性を加味した結果が冒頭のやり取りで、C&Cの後方支援部隊やバックアップ要員で構成されたレスキューチーム待ちの状態である。

 

「"ネル達も怪我は無いんだよね?"」

「うん、退避が早かったから大丈夫だったみたい。カリンが最後だったから埃まみれになっちゃったくらい?」

 

 生真面目な褐色肌の生徒を気の毒に思いつつ先生は良かった、と安堵の溜息を付いた。廃墟の探索はこういう事があるから恐ろしい。それはミレニアムほどの権勢を誇る学校が、立ち入り禁止指定外の廃都市の探索に未だ手を焼いている主な理由の一つでもあった。

 

「"うん、今の所無人兵器の動きも無いね。さっきの崩落で集まってくるかとも思ったけど……"」

「出てくる所も潰れたか、そもそも私たちがやったので最後だったのかな?」

「"あるいはその両方、かな?いずれにしても当面は安心できそう"」

 

 じゃあ休憩だね、と言って脚を延ばしてアスナがストレッチをする。惜しげもなく瑞々しい太ももの付け根に近い所まで視界に入った先生は自然体を装って視線を逸らして廃墟の壁に背中を預けた。昨晩もある程度で今日の探索に備えて切り上げていたとはいえ書類仕事はいつもの通り溜まっていたから、トラブルから一息ついた所で少し疲れを覚えてしまう。

 

「んー……ご主人様、あいかわらずお疲れみたいだね?」

「"あはは……まぁ迎えが来てくれるまでちょっと一休みかな"」

 

 シッテムの箱の画面を見て特別や急ぎの要件が来ていない事を確認し、念のため書類の提出期限なども再確認。見落としなどは特になく、無理矢理ここでリモートワークをしなくても良さそうで先生は一安心。帰ってからどの仕事に手を付けようか、そんなことをぼんやり考える先生の頬を何かが急に触れた。

 

「"……うん、アスナ。急にどうしたの?”」

「ご主人様。帰ったら仕事しなきゃ、とか考えてるでしょ」

 

 先生の頬に手を添えてじっと少しムッとした表情でアスナが問い詰めるような視線を向けてくる。図星だった先生が困ったような笑みを浮かべると、そのまま先生の頬に手を添えたままよいしょ、とアスナが距離を縮めて真横に腰かける。そしてそのまま

 

「"うわっ"」

「もー、全然休もうとしないご主人様はアスナちゃんが膝枕してあげるからお昼寝の時間!」

 

 軽く頬を膨らませて先生を引き倒し、無理矢理自身の太ももの上に頭を乗せた。片手をそっと先生の両目の上にかざして視界を遮られ、先生の耳には小雨の降る音とアスナの声だけが入ってくる。何度かアスナの名前を呼ぶも何も返事をされず、ただ頭を撫でられる状態に先生はついに観念する。

 

「"……分かったよ。15分だけ横にならせて貰って良い?"」

「好きなだけ、横になっててね!」

 

 返事になっているのかいないのか。寝る気になったのが良かったのか機嫌を直したアスナは頭を撫で、視界を塞ぐ手をそのままに何かのメロディーを口ずさみはじめた。優しく、物悲しいメロディー。断片的に紡がれるハミングは、アスナにも何処で聞いた音楽なのか思い出せないのかもしれない。

 

 本来ならもうちょっと生徒に膝枕される、なんて事態には抵抗する先生なのだがそれを忘れてしまう程度には疲労は溜まっていたらしく、雨音と彼女の歌声を子守唄代わりにすとん、と寝入ってしまった。

 

「……おやすみなさい、ご主人様」

 

 しばらく先生を撫でながら静かに歌っていたアスナが、先生の目を覆っていた手を頬に移して寝違えないようにそっと支える。太ももの上にある重みと温かさがひどく離しがたく思えて、頭を撫でていた手も頬に添えて壊れ物を扱うかのように先生の両頬を抱え込む。見ていて飽きない寝顔をひとしきり堪能してから、アスナはふっと外の景色に目を向ける。遠方の雲が薄っすらと明るさを見せていて、多分皆が到着する頃には雨は止みそうな予感がした。

 

「雨、止まなきゃ良いのに」

 

 呟いてからアスナはまた先ほどまでの曲を口ずさみ始めた。引き伸ばすようにとぎれとぎれに、休み休みに。こうして歌っている間だけは二人きりで居られるような気がした。

 

 

 

 ──二時間後

 

 C&Cのサブメンバーである、ミレニアム生の二人が指定の座標に到着すると、要救助対象である先生と随伴しているコールサイン01、一之瀬アスナの姿はその場には居なかった。警戒しながら周囲を見渡すと、眼前の廃墟から微かに歌声が聴こえてくる。

 

『こちらエスコート班、01応答せよ』

 

 無線の呼びかけに返答はなく、不安と緊張にゴクりと唾を飲み込みながら静かにクリアリングを開始する。歌声を辿り、簡素な作りの廃墟を慎重に確認していった先で、彼女らは対象を見つけた。ぐっすり、といった様子で穏やかに寝息を立ててシャーレの先生が一之瀬アスナの太ももに頭を乗せて熟睡していた。なんだか来てはいけない場所に踏み入ったような気がしてC&C部員達が気まずそうに視線を逸らす。

 

「お疲れ様、来てくれてありがと……起こしたくなかったの、ごめんね?」

 

 自身が先生と待機していた部屋に入ってきたC&C部員らを出迎えたアスナは、口ずさんでいた歌を止めて小声で部員たちに語り掛けて自らの唇に左手の人差し指をあてる。油断なく右手に構えていたアサルトライフルの銃口を気付かれる前に、そっと射線が通らないよう外したのは流石C&Cのコールサイン持ちといった所だったろうか。

 

「いえ……ですがネル部長も別班と合流間近です。シャーレの先生には、お休み中の所申し訳ありませんが」

「いいのいいの。起こしてから行くからちょっと待ってね」

 

 ご主人様ー、起きてーと先生を揺さぶる様子を部員達はかなり面食らった様子で見ていた。起こされた当の先生は熟睡していたことに混乱するやらエスコート班にお礼を言うやらで情け無さそうにしていたが、ケラケラと笑うアスナに背中を押されて車両に向かう。その背中を見送った。

 

「……一之瀬先輩、あんな顔するんだね。先生と付き合ってるのかな」

「知る訳ないでしょ……うう、凄い物見ちゃったんじゃないの私達。なんかドキドキしてきちゃった」

「帰り、運転変わるよ。アンタバックミラーで二人の事ガン見しそうだし」

 

 賑やかでいつも楽しそうにしている先輩が浮かべていた、先生に向けられた慈しむ様な穏やかな笑顔。後輩部員達の感情をかき乱しつつ帰路に就く。道中、何度か車を擦ったり事故を起こしそうになった原因はバックミラー越しにチラチラと視界に入る、先生の肩にもたれ掛かって寝息を立てるアスナとさも当たり前のようにそれを受け入れている先生の姿のせいだったのかもしれない。




エンダーリリィズのHarmoniousを聞いてて思い付きましたので初投稿です。
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