忘れた貴方ともう一度   作:ルフト

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土日が終わり月曜日。憂鬱になりながらも学校への道を歩く。いくら月曜日と言ってもここまでテンションが下がるのは珍しいが、こんな日も有るだろうと自分を慰めるしかなかった。

原因と言えば、寝付きが良くなかった事だ。内容は思い出せないが、とてもいい夢を見ていた事だけは覚えている。

起きた時大量の汗と、謎の幸福感が俺の中に有った。なぜそんな気持ちになるのか原因を探ろうと夢の内容を思い出そうとしたのだが、どうしても思い出せないでいた。

結果的に思い出すことが出来なかったことに対するストレスと、何か大切なものだったのでは?という謎の不安感から、最低最悪の気分を味わうことになった。

結局、寝起きでシャワーを浴びた後、朝食を食べ、制服に着替え、学校に行く準備をする頃には、すっかり疲れきってしまい、これから授業が有ると思うとさらに憂鬱になったのだった。

 

「おはよう」

 

教室の扉を開け、近くに居たクラスメイトに挨拶をして中に入る。

 

「ん? あ!辰巳じゃん!」

「連太か。朝から元気だな」

 

何故か廊下側の席に座っている連太に声をかけると、いつも以上に元気な返事が返ってくる。

 

「おう! 元気だけが取り柄の俺っちだ! それよりも……」

 

連太がそう続けようとするのを遮るように俺は連太が座っている席の隣の女子に挨拶をする。

 

「桐原さんもおはよう」

 

俺の声に彼女はこちらを見て一瞬ビクッとした反応を見せた。

 

「あ……う……うん! おはよ……」

 

少し驚いたような様子で俺に挨拶を返し、すぐに視線を外して前を向いてしまう。

なんかいつもより大人良しいな……いつもならもう少し強気で対応してくるんだが……。

まぁ休み明けで疲れてるんだろう。友達付き合い多そうだし。そう結論づけて自分の席に向かっていく。

窓際の席はこの教室が三階にある事も在って、窓から眺める風景はとても良い。

元々この学校が高地に有るので自然と街を見下ろすことになるので、見晴らしも結構良い。

窓枠に肘を乗せ、窓の外を眺める。

連太の騒がしい声が耳に入って来るが、それ以外は静かなものだった。

この静寂は心地よいものだと思った。

しかし……

(なんだかなぁ……)

窓の外に広がる景色は綺麗だが、心に何も響いてこない。

言いようのない喪失感が心に巣くっていた。

(……まぁ、いつものことか)

別に気にするようなことではないと無理やり納得させるが、心の中は寂しさだけが溢れていた。

 

「なあなあ」

 

連太が声をかけてくる。

 

「なに?」

「桐原さんがお前のこと好きなんじゃないのか?」

 

連太の突拍子のない冗談に、俺は思わずこいつ頭大丈夫か?と思ってしまう。

 

「…… なに言ってんだよ? 冗談にしても酷いな」

「頭大丈夫か?見たいな顔で見るのやめろ!」

「……顔に出てたか」

「ああ……思いっきり」

 

はぁ……とため息を付きながら窓の外に視線を移す。

桐原玲奈。このクラス二年二組の人気者の女の子だ。

腰まで伸びる綺麗な金髪。釣り目気味の緑の瞳。整った顔立ちは誰もが認める美少女で、男子生徒だけでなく、女子からも羨望の眼差しを向けられている。

そんな彼女の性格といえば、少々キツめの口癖で知られているのだが……

それすら打ち消して余りある魅力が彼女には有った。

一見態度はキツイが意外と面倒見は良いし、根は優しいことも知られており、教師陣の評価も高い。

普段の強気な態度と、時折見せる優しさが相まって、男女問わず彼女が好きな人は多い。

 

「クラスの人気者と、日陰者。余りに釣り合わない組み合わせだな」

「なんだよ。そんな自分を卑下する事ないだろ?」

「いや、卑下している訳じゃない。桐原さんの価値が高すぎて俺が霞むって話だ」

「おいおい……自分で言っちゃってるぜ……」

 

呆れたように連太が顔を覆う。

 

「顔は普通に整ってるんだから自信持てよ」

「顔が整っても中身が釣り合ってないんだよ。そんなのただのハリボテだろ。何れボロが出る」

 

そのせいで何度期待を裏切って来た事か……

所詮容姿は両親の贈り物だ。俺の力で手に入れたものではない。

整った容姿という高価な建物を支えるには、俺という柱は弱すぎる。中身の無いまさにハリボテだ。

 

「そんな重く考える必要ないだろ? 恋愛なんて勢いなんだから」

「勢いって……」

「とにかく、お前がどう思ってるのかは置いといて、俺は桐原さんがお前に惚れてる気がするんだよな〜」

「……根拠はあるのか?」

「そりゃあるとも! 俺っちの直感が言っているからな!」

「……直観かよ……」

「そうだ! 俺はこの直感に間違いがない! ……恋愛マスターのこの俺っちの言葉だぞ!」

「……恋愛マスター……?」

 

こいつ本当に何を言ってるんだ……? 頭が痛い……。

 

「ちなみに恋愛マスターとは、恋愛マスターと名乗れる程度には、恋をたくさんしてきた人の事を言う」

「……勝率は?」

「……ゼロですね」

「……」

「……ゼロ……ですね……」

 

何故二回言ったし……

 

「いやいや俺の助言を下にカップルになった人たちが多数居るんだ! ……ただ自分の恋は成就しないだけです! ……ちくしょーーっ!! ちくしょーーっ!!」

 

机に突っ伏し泣き出した……

 

「はいはい……分かった分かった……よしよし……」

「うっす……うっす……」

 

慰める俺の手にすり寄って来る……キモイ。

 

「で? その恋愛マスターの助言ってのは何なんだ? 一応聞かせてくれ」

「ああ! それはな……」

 

涙も引っ込んだらしい。鼻水をすすりつつ、連太が語り出す。

 

「お前がもっと積極的になれば桐原さんの心はゲットだぜ!」

「……」

「……沈黙とはこのことだな! どうだ? この冴えた作戦に感激しただろ!?」

「……いや?そもそも俺が桐原さんに気がある前提の作戦だけど、彼女の事何も知らないぞ?」

「何か昔に知り合ってたとかは?……」

「無いね。同じクラスってだけで、過去に出会ってたとかは微塵もない」

「マジかー! ……んーだとすると謎だな……」

「何が?」

「いや、なんで桐原さんがお前に好意を抱いてるかって事だよ」

「……それは無い」

「あるって! あのしおらしい態度はなんなんだよ!?」

「しおらしい?」

「ああ! しおらしかったぞ!? いつもなら、もっとツンツンしてるだろ!?」

「……まぁそうだな……」

 

確かに普段との違いは感じたな……。

何時だったらもっと強気に返されただろう。

 

「これでお前と桐原さんが幼いころに会ってたとかだったら間違いなく幼馴染系フラグ立ってたぞ!?」

「フラグってお前……」

 

それてってゲームの話だろ……? 現実じゃそんな都合の良い展開無いっての……

恋愛マスターってのも数多のゲームヒロインを攻略しただけなんだろなぁ……。

 

「まぁいいか……」

「何がいいんだ!?」

「……いや、なんでもない。……それより、そろそろ始まるぞ」

 

教室の前方に視線を移すと先生が扉から入ってきたのが見えた。

 

「おうよ! 今日も元気に授業をサボるぜぃ!」

「サボるな馬鹿!」

 

朝から騒がしくも穏やかな時間が流れていく。

この日常を壊さぬように過ごしたいと思った。

 

 

♢♢♢

 

 

昼休み。弁当を食べに何時もの場所に向かう。

特別棟四階にある、鍵の壊れた空き教室だ。使われてない机や椅子が乱雑に置かれているこの場所は、滅多に人が来ないので、昼休みになるといつもここに来て食事をしていた。

初めてこの教室に来たときは埃が凄かったが、掃除をしてからはずっと使っているので大分マシになった。

因みに先生には許可をとっている。

この教室の掃除の見返りに、この教室を使わせてもらっていると言う訳だ。

扉を開けて中に入る。鍵は壊れていて閉じることができないので、開きっぱなしの状態だ。

連太にもこの場所を教えてみたが、遠いと嫌がるので、いつもこの教室に来るときは一人で食べている。

確かにクラス教室からは遠いかもしれない。二階の渡り廊下でB棟に渡り、B棟から特別棟に渡る。階段を四階まで登り、階段から一番遠いこの教室へと歩く。移動で五分はかかるだろう。

しかし、その時間を費やす価値はあった。

 

「今日もいい天気だなぁ……」

 

空いている教室の窓枠に寄りかかりながら、弁当を食べる。

冷凍食品のおかずが詰まった弁当箱の中身を食べながら、窓の外を眺める。

 

「この景色も慣れたな……」

 

眼下に見下ろす街並みと遠くに見える海が、陽の光を反射してキラキラと輝いていた。

弁当を食べ終わると、再び空を見上げる。

清々しいまでの青空だ。

雲一つなく、眩しいほどの太陽の光が降り注いでいた。

なのに俺の気持ちは全く晴れない。

(どうしたんだろうな……)

何かがおかしいとは思っているのだが、原因が分からない。

(何か大切な事が抜け落ちてるような……)

思い出そうと頭を捻るが、一向に答えは出てこない。

 

「はぁ……」

 

大きくため息をつき、窓枠から身を起こす。

窓から外を覗きながら、もう一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 

「もういいや……」

 

どうせ考えても答えは出ない。

答えが出ない以上、考えるたびにこんな気持ちにさせられるのはごめんだ。

 

「戻ろう……そろそろ授業が始まる」

 

重い体を引きずり、教室へと戻っていく。

この気持ちの意味を知る日は……きっと来ないのだろうと思いながら。

 

 

 

 

 

 

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