なお、クロスオーバー作品ですので他の作品に出ている人物も出てきます。
私という人間は一度器を手放し魂だけの状態となった。元々私という個は元となる全を真似て作られた贋作。だから私は沢山量産されて生まれては死んでを繰り返したのだ。
様々に人生を彩ってきた私の脳裏をかすめるのは好きだ、愛しいと決めた【彼】。あいにくとその感情は欠落してしまっているが、愛というのは胸が痛くなるらしいと知識は訴えている。
『天姫』
最初疎ましいと思っていた声がいつの間にか心地の良いものへ変化していたのはいつ頃からか。
へらへらした笑みを顔に張り付けて実は誰よりも孤独だった青年。境界線を引いた向こう側で彼は私を拒絶していたけど私はその境界線を跨いで彼に告白をした。
好きだ、と。
そして彼も私を好きだと苦しそうに言いながらその腕に私を抱きしめてくれた。想いが通じ合っても私達に待ち受けているのはドラマのような辛い別れ。それでも私は彼に笑顔でいて欲しかったらしい。辛い別れなど湿っぽくて嫌いだからとはなんとも私らしい。
彼と別れて私は眠るように死に招かれ終わった。
終わりであったはずなんだ。
なのに、
「どうして私は子供の姿なんだ」
「それは僕が与えたものだから、と言ったら君は怒りますか」
温和な顔立ちから低めの声がする。
寝台に横たえられた体は鉛の様に重くて起き上がらせるのだけでも大変だ。少年、でいいだろうか。彼は手ずから私が起き上がるのを手伝ってくれた。背もたれにふかふかの枕を立ててクッション代わりにしてくれる。
「貴方は、誰だ?」
「僕はエリオルです。天姫。どうぞ、エリオルと」
にこっと微笑んで彼、エリオルは私の手を握った。
その手が温かくて私は振り払うことはなかった。
「どうして私の名を……それにここは?」
「ここは僕が住んでいる家で、『貴方の部屋』です」
少し握られた手に力が籠められた。彼の言葉に少し強調された部分が見えたようだが気のせいだろうと受け止める。辺りと軽く見回して一人部屋にしては広い部屋だと眺めた。必要な物が全て揃っていると言っていいだろうか。趣味も悪くない。落ち着いた調度品も揃っているし確かに私好みの部屋だ。
「……そう。それで最初の君が言った言葉だけど。私の体を貴方が与えたという意味はそのまま受け取っていいのか?」
「ええ」
「……貴方は何だ」
私にとって彼は普通の少年には見えなかった。私が普通でないように彼もまた普通ではない。そう本能が訴える。私の射貫くような視線をもろともせず軽く流すように受け止めた少年は、
「僕はエリオルですよ。天姫」
と同じ答えを口にした。
まったく答えになっていないが、どうやら私はまた器を得たようだ。この、エリオルという少年のお陰で。
だがそう簡単に納得できるはずもない。
「手を離してくれるか」
「どうしてですか」
「手を繋ぎ続ける理由がない」
「僕はありますよ。貴女に触れていたいんです」
とても子供が言う台詞とは思えない。手汗が浮かんできて気持ち悪いのに彼にとってはそれすらも問題ではないというのか。
ふむ、と私は一つ頷いて言い返す。
「これはセクハラというやつか」
「いいえ。好意を持って接するならセクハラとは言わないのではないでしょうか」
にこにことまぁ邪気のない笑みを浮かべているが私にとっては薄ら寒い笑みだ。大体全てがおかしいのだ。
「なぜ見ず知らずの少年から好意を抱かれなければならないんだ」
「僕は貴女をずっと昔から知っていますよ」
「けど私は貴方を知らないが」
「知らないのなら知らなければいいんです」
ああ言えばこう言う。
眼鏡たたき割ってやりたい衝動に駆られた。
「……」
ぶすっと黙り込むと彼は私の考えを見透かしたかのように苦笑しては
「貴方は、昔から破天荒でしたね」
と思い出し笑いをした。ますます私の機嫌は悪くなる一方だ。
「私は貴方を知らないぞ」
「ええ、いいんです。今の僕だけを知っていただければ」
理解に苦しむ。一体何が言いたいのかさっぱり分からない。
「変な奴」
「今はそれでも構いませんよ」
「ところでお腹空いたが何がいただいても構わないだろうか」
「はい。それでは消化の良いミルク粥でも作ってきますね」
「私も一緒に行こう」
もう腹減って死にそうだ。あ、そういえば一度死んでいるんだったな。
「駄目ですよ。貴女の器はまだ定着していないのです。今も起き上がるのがやっとではありませんか?」
「……確かにその通りだ」
どうやら創られて魂が目覚めるまで時間を要したようだ。筋力も落ちているのかそれとも最初からこうなっているのか。暫くベッド生活が長引きそうだ。
「大人しく待っていてくださいね」
「むぅ」
「そうむくれないでください。キスしたくなります」
「……そう言って顔が近いのだが」
「では頬にしておきますね」
そう言って軽く頬にキスをされた。まったく面識のない少年にキスされても嬉しくもなんともない。私は自分が着ているパジャマの裾でゴシゴシとキスされた場所をこする。
「意地悪です」
「どっちがだ」
ねめつけると彼は可笑しそうに噴き出した。その様子がやっと年相応に見えた瞬間だったけどすぐに彼の瞳は知的溢れる大人のものに変わる。
「それじゃあすぐに作ってきますね」
そう言って彼、エリオルは名残惜しそうに私の手を離して椅子から立ち上がるとドアの向こう側へと出ていった。
私は、先ほどまで握られていた手に視線を落とした。
「……手、熱いな」
自分の熱なのか、それとも彼の熱が移ったのか私には分からなかった。ただ、今は理解できることがある。
自分は、彼の手によって蘇りを果たした事。彼から流れてくる膨大な魔力によって私は生かされている。
まるで生きる屍のようだ。ソンビってこんな感じだろうか。
下らない事を考えたからか、どうにもまた眠りがやってくる。
瞼をそっと降ろしてこれからの事を考えた。
エリオルと名乗る少年は見た目だけで中身は食えない男。
アレは見た目通りの年齢ではないだろう。何か術のようなもので成長を留めているか、偽りの姿か。
けど私にはどうでもいいこと。創造主が変わっただけでこの空虚感が消えるわけでもない。
どうせすぐ出来るわけでもない。私はしばしまた眠ることにした。
~設定~
神崎天姫
一度失った身でありながら気まぐれか、必然か掬い上げられ再び現世へと舞い戻る。
その意味を見出す為模索する日々を送る。
以前よりも感情が淡泊になった。
自分が似非小学生だという自覚は一応ある。
さくらが可愛くて仕方ない。
知世とはとあるファンクラブでの会長と副会長との関係。勿論、知世が会長である。
さくらの事を『サクラ』と呼ぶ。破壊的な料理音痴。小麦粉をくしゃみで吹き飛ばす事はざらである。