カードキャプターさくら 星屑の涙   作:サボテンダーイオウ

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はじまったー。


11少女とフライパンと契約の鍵

吸い込まれそうなほど大きな満月が夜空にくっきりとその輪郭を現していた。

 

東京タワーを見上げる形でビルの屋上に佇む少女の頭上には様々な能力が籠められたクロウカード舞っている。これから行われるある儀式に挑むべく、少女が魔法を杖を用いて一枚のカードを選び使用する。

 

『―――』

 

少女の隣には封印の獣が付き従っていた。心から彼女を慕い友として主として『最後の審判』に認められることを願っているのだろう。

 

少女の靴には羽根が生え、少女はふらりとビル下へと体を躍らせた。虚心を瞳に宿していつもの天真爛漫な表情を一切消し去り少女は彼の者が待つ場所へと召喚させられる。

 

その、意思とは無関係に。

 

 

妙にリアルな夢を見た。これはきっとあの日を迎えた時の映像なのだと確信があった。

 

ふわっと一つ欠伸をしてベッドから降り立つ。フローリングの冷たい床を足の裏で感じ寝ぼけ眼とは一瞬でさよなら。可愛らしい鏡台に映る私の姿は幼くも自分の顔であると確認できる。……ちょっと髪が跳ねてるな。

 

手早く制服に着替え帽子と鞄を忘れずに持ちスリッパを履いて一階キッチンへと向かう。

 

私は神崎天姫。中身(大人と言ってもいいだろう精神)に反して友枝小学校の四年生をしている。

好きな科目は今の所ない。苦手、なのは家庭科だろうか。この間の調理実習で危うく火災を発生させる所だったのが記憶に新しい。……まだ私の料理への道は険しいようだ。

 

そして!なぜだか知らないところで迷子なるのが取り柄の女子である。思えば日本に来た時から迷っているな、私は。さて家族構成は私とコモコナだ。

 

「おはよう。コモコナ」

「オッス!天姫、しっかり顔洗ったか?寝癖がついてるぜ」

 

エプロン姿が板についている我が頼もしき従者、略してコナーが今日も私の為に美味しい朝食を作ってくれた。糸目な両目がこの頃愛らしいと気付いたのは最近のことだ。本人には言っていないが機嫌は良かったりする。

 

慌てて指摘された部分を洗面所で確認して手入れする。……よし、オッケーだ。

 

再度キッチンにもどり テーブルには素晴らしい出来栄えの日本食が並んでいる。

うん。これぞ日本人という朝食だ。

 

「「いただきます」」

 

二人声を揃えて向き合いながら共に箸を握ってご飯を食べる。

 

このデカい家に少女一人とぬいぐるみ一匹とは豪勢すぎるが用意してくれたエリオルに日々感謝して学校に通っている。あ、エリオルというのは私の創造主であり家族?とも言える人だ。彼も似非小学生なのだが今はイギリスで暮らしている。それと彼の従者であるスピネル・サン、略してスッピーと秋月奈久留ことルビー・ムーン。二人とも個性的ではあるが好きの部類に入っている。エリオル?……うーん、エリオルに抱く感情はよくわかっていない。だからとりあえず、好きと言っておこう。

随分と賑やかだった向こうでの生活も懐かしいが今の日本での暮らしも悪くない。この年だがまだまだ学ぶ事は多いのだ。勉強しなおして再度新たな発見をすることもある。

 

たとえば、包丁の正しい握り方とか。猫の手にゃんとか。

 

朝食をしっかり食べ終えて時計を見るとそろそろ登校する時間。私は食器をシンクへと運んで鞄を手にした。

 

「行ってくる」

 

「おう!今日はイベント発生だからな。寄り道せずに真っすぐ帰って来いよ」

 

「分かってる」

 

コモコナに見送られて私は玄関から外へと出た。季節はようやく春になった。

サクラと転入して仲良くなった大道寺知世とも同じクラスとなった。私が通う友枝小学校はエスカレーター式で隣の友枝高校と並んで併設されている。

顔見知りとなったサクラの兄君、桃矢氏とその親友である月城雪兎氏とはたまに自転車の後ろに乗せてもらう仲となっている。

兄君には今の所私の素性がバレている気配はない。むしろ遊ばれているような気がしてならない。つい昨日の朝も挨拶代わりにと髪をぐしゃぐしゃにされた。たまにほっぺを意味もなく引っ張られてはニヤニヤと笑みを浮かべている。日本人としては珍しくスキンシップが激しい人であると私は認識している。

雪兎氏からはサクラと同じように飴玉をもらったりする。コモコナに言わせると餌付けらしい。なるほど。餌付けも悪くない。飴玉チョイスは毎回当たりばかりだ。

 

それとサクラが雪兎氏の前で「はにゃーん~」となる瞬間を見るのが毎回の楽しみとなっている。所謂マイブームというやつだ。

 

「うーん、今日は楽しみだな」

 

なんせサクラが初!魔法少女となる日だから。

 

校門前にたどり着くとすでに桃矢氏と雪兎氏は通り過ぎた後だった。サクラと知世が何やら話し込んでいるところに私は声を掛けた。

 

「おはよう、二人とも」

 

「あ、おはよう!天姫ちゃん」

 

「おはようございます。天姫ちゃん」

 

木之本桜、私の心のオアシスでもある。そしてその隣に清楚に微笑んでいるのは大道寺知世。私のサクラを愛でるファンクラブ設立に尽力を注いでくれた友人だ。共に会長、副会長をしている。勿論、会長は知世だ。

非公開ではあるがそれなりに人数は集めつつある今人気上昇中のクラブだ。

しかし副会長としては今日のアレを見過ごしてしまったのは残念なことだ。

 

「今日のはにゃーんは見過ごしてしまったか……。実に惜しかった!」

 

「大丈夫ですわ。わたしがこの新しく買ったビデオカメラでバッチリ見守らせていただきましたので、後ほどゆっくりと拝見いたしましょうね」

 

「フフフっ、流石会長だな」

 

「いいえ、そんなことありませんわ。副会長こそ例のアレ。中々の腕前でしたわよ」

 

二人でフフフほほほと微笑みあう姿になぜか登校中の生徒から奇異なる視線を向けられていた。サクラは「ほ、ほぇ……」と若干苦笑している。

 

という日常を今日も送ることになる。

 

今日も有意義な授業内容となっていた。

登下校時間となり知世と別れてサクラと二人で帰宅したが、すぐ別れたはずのサクラがなぜか泣きながら私の家に飛び込んできた。

 

「天姫ちゃ~~ん!」

 

「サクラ、なぜ泣いているんだ?おやつのプリンでも落としてしまったか」

 

玄関で迎えた私の胸に突進してきては縋りついてくるのでよしよしと頭を撫でてやる。

落としてしまったのなら私のおやつを分けてあげようかと思ったがサクラは必死に首を振って否定した。

 

「違うよ!そうじゃなくて、……お父さんの書斎から変な音がするの」

 

「変な音?」

 

「うん。唸り声みたいな……。今日はお父さんもお兄ちゃんも帰りが遅いから……」

 

そう言ってどうしようと眉を下げて不安そうな顔をするサクラを一人で家に帰すわけにはいかない。私はサクラの肩を掴んで強く頷いた。

 

「分かった。一緒に確かめに行こう」

 

「え、いいの?」

 

「当たり前だ。サクラに不安を与える輩などきゅっ!っと締めてやる」

 

コモコナと喧嘩する時大抵このやり方で私が勝っているのだ。きっとどんな相手であれ……多分ケルベロスだと思うから相手にはできるはず。強気な態度をサクラを励まし、私達は手を繋いで問題である木之本家の地下書庫へと向かった。

 

木之本邸にお邪魔させてもらいサクラはバトンを持ち、私はフライパンを片手にそろりそろりと足音を忍ばせて書庫へと降りた。

 

「どうしよう、どろぼうさんだったら…」

 

「大丈夫だ。きゅっ!っと締めるから」

 

「はうぅぅ」

 

薄暗い書庫への階段を下りて奥の方まで確かめに行くと机の灯りがともっているだけで人の姿は見当たらない。だが正体不明の音だけが異様に辺りに響いている。

サクラは可哀想にすっかり顔を青ざめて私の腕にしがみ付いた。

 

「……ややややっぱり、これってゆゆゆゆ」

 

「落ち着けサクラ。大丈夫だ。そういう類じゃないから」

 

封印の獣だからと説明できないのが苦しいが、ゆうなんちゃらではないと否定してあげねば可哀想だ。

 

「うぅ……。ほえ?なんか本棚の本が光ってるよ」

 

「……うん、確かに」

 

サクラの指摘を受け書棚に目を向けるとそこには淡く光を放つ一冊の本があった。

 

「なんだろう」

 

サクラは惹かれるようにその本を手に取った。表紙には、封印の獣ケルベロス。

 

「これって、夢の中に出てきた本だ」

 

サクラは驚いたようにぽつりとそう呟いた。予知夢が働いていたのか。

突然本の鍵が開き、サクラは声を上げて驚いた。

 

「……ほえ?」

 

「ただ開いただけのようだ」

 

「みたい、だね。はうぅ、吃驚したよ」

 

「中身はなんだ?」

 

と尋ねて中身を確認させる。サクラは素直に本を開いた。

 

「カード?」

 

手に取ったのは『風』ウィンディのカード。

だがその名前はローマ字でつづられておりサクラは読むのに躊躇している。

 

「うぃん」

 

「……」

 

私は少し離れた場所に移動し、サクラの様子を見守ることにした。手出しは無用。

ここからはサクラが一人でやらねば。

 

「うぃん、……でぃ。ウィンディ!言えたよ」

 

嬉しそうにカードを持ったまま私の方を振り返った途端、サクラの足元に魔法陣が展開され風の魔法が発動した。

 

「きゃあ!」

 

サクラが悲鳴を上げる中、本の中身であるカードが風の魔法に乗って外へと飛んで行ってしまう。四方八方に飛んていくカードを私は無言で見送った。

 

始まったのだ。ついに、最後の審判へ向けての選定者を選ぶ試練が。

 

さて、気を取り直して目の前への現場に目を向けると吃驚してへたり込んでしまったサクラの前に放り出された本から丸っこい顔のケルベロスが姿を現す。

 

「ほえ!?」

 

「こにゃにゃちわ~」

 

陽気な挨拶と共にケルベロスが長き眠りから目覚めたようだ。大阪弁でペラペラと眠りを覚ましてくれた礼とどうして大阪弁になっているかの経緯を語ったケルベロスは呆けるサクラの横で本の中身がないことに気づいたようだ。

 

「あれ、あれあれ!?カードがあらへ――ーん!?」

 

すっからかんとなった中身に涙目になるケルベロスに対してサクラは一枚だけ残った風のカードを手渡したのち、てへっと頭を掻きながら説明した。

 

「全部飛んで行っちゃった~」

 

「綺麗なまでにな」

 

私が付け加えて言うとケルベロスの顎がこれでもかというくらいに開いた。

 

ガビーンと、ショックを受けたのちケルベロスは歯をむき出しにして

 

「……なにぃぃぃいい―ー―ー!?」

 

サクラに詰め寄ったのだった。サクラは脱兎の速さで私に抱き着いてきた。

 

「ほえぇえぇえええ―――!天姫ちゃーん!」

 

「私に振るのか!?」

 

ついうっかり突っ込んでしまったが、ギラリンとケルベロスの瞳が私をロックオン。

 

「お前さんは……」

 

ギクゥ。

バレたか!?とにかく話の流れを元に正さねば。私はどもった声でケルベロスと本を持ってサクラの手を掴んだ。

 

「さささ、サクラ!とりあえずこのぬいぐるみもどきを持って部屋に行こう!話はそれからだ」

 

「誰がぬいぐるみやってぇ!?」

 

「ちょっと黙れ」

 

「きゅう」

 

必殺!軽く絞めたらあっさりと目を回したので戸惑うサクラを引っ張って部屋へと移動させた。それから大分落ち着きを取り戻したサクラにケルベロスの面倒を任せて一旦家へと帰った。あまり長居していては勘の鋭い桃矢氏にばれてしまうかもしれないからだ。

何かあれば同じ二階の窓から反応が分かるということで。

 

家に帰ってリビングのソファにへたり込めば夕食の支度をしていたコモコナがおたまを持ちながらやってきた。

 

「ついに目覚めたみたいだな」

 

「わかったか」

 

脱力感に襲われながら答えるとコモコナはうんうんと手を組んで頷いた。

 

「魔力が動いたんだ。きっとさくらの兄貴も勘付くはずだぜ」

 

「はぁ、そうかもしれない」

 

夕食を食べ終えた頃丁度、サクラの部屋から契約終了を示す魔力の気配があった。

これで正式にカードキャプターとなったわけだ。コモコナと共に紅茶でゆっくりとしているとコモコナの方から提案がなされる。

 

「どうする。動くか」

 

そう言って何処からともなく黒いサングラスを取り出してスチャッと準備よく装着した。

私は意外と似合っていると褒めながら軽く顔を横に振る。

 

「いや、最初が肝心だ。サクラが自分でやらなきゃならないことだから」

 

「手出しはしないってか。まぁ、ケルベロスも付いてるしな」

 

面白くなさそうにサングラスを外すコモコナとは反対に私は外へ行くためのカーティガンを用意するために席を立つ。

 

「だけど遠くから見守ることにする」

 

「やっぱそう来ると思ってたぜ」

 

こっそりと見守るのはセーフだと思うのだ。なので、フライと格闘するサクラを遠くから見守ることにしよう。

 

そうと決まれば行動開始だ。フライとの戦闘に支障がないよう出来る限り離れた場所にいる必要がある。

 

「闇の力を秘めし『鍵』よ。真の姿を我の前に示せ。契約のもと天姫が命じる『封印解除(レリーズ)』!」」

 

力ある言葉と共に首に下げている鍵の封印が解かれ愛用の杖となる。定位置となっている私の肩にサングラスをかけたコモコナが乗っかる。

 

「行くか」

 

「ああ」

 

二階の窓から出るのは目立つので普通に玄関から出て鍵をしっかりと閉める。戸締りはしておかないとな。いくらエリオルの力が及んでいるとは言え、そこはそこ。用心に越したことはない。

そこ、割と普通だなとかコメントはいらないぞ。

 

外にはすでにフライの影響か猛烈な風がふいていて家々の窓ガラスを破壊したりなどその猛威を見境に振るっていた。すでにサクラはケルベロスの案内の元、ローラブレードを装着して町中を走っているようだ。私はフライの魔法を使って家の屋根の上からサクラの奮闘ぶりを見守っているが、もうすでに手出ししたいMAXである。

 

「サクラ……!」

 

「我慢しろよ天姫!いきなり初日でバレたら洒落にならねーよ」

 

「うぅ!」

 

ペシペシと頬を叩かれて飛び出したい気持ちを我慢させる。

サクラはケルベロスの指示でウィンディのカードを使おうとしているがそこへフライがすかさず突っ込んでくる。サクラは何とか避けることに成功したがそれでもフライの攻撃が止まることはない。隙をついてカードを使おうにも追いかけられていては初めてのサクラには厳しい戦いだ。だがサクラは何か妙案を思いついたのが思いっきりローラブレードを走らせ始めた。斜めになっている壁を走って横を飛んでいるフライの上に飛び移ることにしたらしい。

 

「大胆だな」

 

「さすがサクラ!」

 

危なげない所もあったが飛翔するフライの背中の上でウィンディのカードを見事使うことに成功したようだ。風の鎖を持ってフライを縛り上げ声たかだかにケルベロスの封印を!と促す声に応えたサクラはフライの封印を施す。

初めてとは思えない機転の働きによって無事フライはカードに戻った。

 

「良かった。無事に終わった」

 

「観ててハラハラだったな」

 

「ああ。これを毎回するというのも心臓に堪えるかもしれない」

 

フライのカードを使って夜空の散歩と洒落こんでいるサクラを見上げながら私はこれからのカード集めに僅かな不安と希望を抱かずにはいられなかった。

 

【ハラハラドキドキな一日】

 

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