誰かに作ってもらうコンポートなんて久しぶりだ。いつもなら安い林檎を使って風邪を引いた妹の為に作っていたけど自分が食べることはあまりなかったはず。桃の柔らかさと煮詰まった甘さがじわりと口の中に広がっていく。
「どうですか」
「うん。おいしい」
私が作るのよりも美味しいかもしれない。やはり経験の差が成せる技なのか。機会があれば盗んでみたいと思う。
「それは良かったです」
もぐもぐと食べる姿を微笑ましいものでも見るかのような温かな眼差しで傍に座って見守っているのは、似非男子小学生。どうやら私の創造主らしい。名を、柊沢エリオルという。
「まだ食べますか?」
「もう一個だけ食べる」
「はい、どうぞ」
まだベッドから起き上がることのできない私の世話を甲斐甲斐しくしてくれるが、私がいる以前の日常でこんなにも機敏に動いていた様子はなかったらしい。のほほんと隠居生活よろしく地味にまったり過ごしていたとか。(スッピー談)
「天姫ちゃ~ん」
「ぐぇ」
丁度食べ終わって食器を引き上げてくれた時に彼女は突撃してきた。見た目の細腕に似合わない腕力に締め上げられ私は蛙が潰れたような悲鳴をあげる。
「奈久留、その辺にしておあげ」
「そのまま天姫が蛙になってしまいますよ」
エリオルとスッピーが奈久留を窘めてくれるもその効果はいかほどにも発揮されてない。それどころか無い胸に押しつぶされそうになる。
「いや~~ん!天姫ちゃんってほっぺすべすべ~」
まな板から解放されたかと思えば私の頬にゴリゴリ削ぐように顔を擦りつけてくる。
ゴリゴリ、ゴリゴリ。
これは軽い拷問ではなかろうか?是非を問いたいところであるが、まずコレから解放されることが何よりも先決である。無抵抗なのをいいことに好き放題させてしまっているが、体力が戻ったら思う存分やり返してやろうと考えている。
だがどうしてだろうか、私の考えなど似非小学生にはズリッとズバッと!お見通しらしい。
「貴方がそんなことをしない事を願いますよ。でなければ―――」
にこっと似非小学生は微笑む。
どうして最後まで話を続けない。
どうして最後に意味深に微笑むのだ。そのいかにも私が悪いんだよと仕方ないと言わんばかりの笑みはなんだ。今だゴリゴリされているが、それとは別に命の危険を察知した私は額に汗を垂らしてしまった。
目ざとい似非小学生によって「ああ、汗が出てますね」と柔らかいハンカチで汗を拭ってくれたが、本能からコイツ敵に回したらヤバい奴であると悟った私は大人しくされるがままである。
「嫌に大人しいですね。天姫」
スッと目を細めた似非小学生はさり気ない動きで私の手を掬い上げて指先にキスを落とす。ゾゾッとキタ。
「窮鼠猫を嚙むという言葉を知っているだろう。私はやられたままで終わらない」
ギン!と睨み返してみる。
「そうですか。では反撃を楽しみにしていますね」
私の手を弄びながら余裕そうな態度をかます似非小学生。
いいさ、見ていろ。
今にぎゃふん!と言わせてみせる。
「なんだか決意に燃えてる天姫も可愛い~」
「下手に失敗しなければいいですね」
ゴリゴリされながらスッピーに心配されながら私は決意を胸にひめ、今は似非小学生のセクハラに耐える日々を選んだ。
次の日には、ベッドから降りられるようになった。
似非小学生の手を借りた状態での話だがこれも立派な進歩と言えよう。両手を支えられて部屋の中をスリッパ履いてゆっくりと移動してみる。うむ、まだまだ筋力が弱いままなのでこれから出来るだけ動いてみよう。無理のない程度にだが。
「一歩二歩進んで五歩進む、と」
「中々に上々です」
「そう、褒めても、何も、出ない、ぞ、と!」
「僕には役得ですからお構いなく」
「なに、が!?」
「こうして貴方と一歩を進んでいることですよ」
歯が浮くような台詞吐いて何が楽しいんだ。というか、似非小学生の力を借りている現状に歯がゆい思いを感じてしまう。
何より、こういう台詞に寒気が走るのだ。なぜか。
「……転がって移動しよう」
この際ミノムシでもいい。私は両手をパッと離して横にわざと倒れた。両手でカバーしていたので顔面強打しなかったはまずオッケーだ。
戦地ではほふく前進は当たり前だ。ここも私にとって新たな戦地と認識改めなければ。
「では抱き上げてベッドへ運んであげますよ」
サッと私の了承なしに細腕に似合わない力強さで抱き上げられベッドへと優しく降ろされた。手ずからスリッパを脱がされ気分は御姫様ではなく囚人のようだ。
「非常に不愉快だ」
「僕は非常に満足しています」
眼光鋭く睨み付ける私などまったく意に介していない様子でポンポンと布団を掛けられる。ベッドの脇に腰かけて頭を撫でられる。妙に女慣れしてないか。
「……」
「そろそろ似非小学生ではなく、エリオルと呼んでください。ね?」
スッと顔を近づけられ
『天姫』
とイイ声で名を呼ばれる。
ぞぞっと背中に走る鳥肌。
普段は子供らしい声なのにここぞとばかりに男の声音を出し耳元に低い声で囁かれ、反射的に寒気が一気に背中を走ったのだ。
「~~~!」
「いい顔です」
これが屈辱でなくてなんなのだ。いい様に弄ばれてることに腹立たしいことこの上ない。私は未完成であるというのにコイツはその事実を打ち消すように様々な手段で私の感情を引き出そうとする。一体なぜこんな奴に執着されているのだ、私は。
大体、アンタなんか似非小学生で十分だ!
「お昼はヘルシーなフルーツサンドイッチがいい!」
「仰せのままに。mylady」
執事のまねごとなんて全然似合わない。
と思いたいけど意外としっくり来てるので喉元まで出かかっている言葉を無理やり飲み込んだ。