カードキャプターさくら 星屑の涙   作:サボテンダーイオウ

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03 フルーツサンドイッチ

キッチンに立つ回数も日を重ねるたびに増えていく。最近の天姫のお気に入りはフルーツサンドイッチ。色とりどりのフルーツを沢山入れれば見栄えも綺麗だし彼女も喜んで頬張る。クリームは甘さ控えめで仕上げているので味がしつこくなることもない。

 

紅茶と共にトレイに乗せて彼女の部屋へもっていけば黙々と頬一杯に頬張って食す姿は小動物の食す姿と類似して胸が温かくなる。

餌付けですね、と後でスピネルは辛口にコメントを残したが私にしてみれば単なるコミュニケーションの手段だ。

彼女は元々は警戒心の塊のような存在。出自からして自分の身内を覗いて親しいもの以外は全て疑えとその記憶に刷り込まれてきたのだろう。そんな彼女が私の作る料理を疑いもなく食べているという事実が私を信頼している証と捉えることができる。

 

信用に値する人物である。

 

そう魂に刷り込ませられた証拠。誰が創造主であるか理解した上での行動なのか、それとも無意識での行動か。どちらにせよ喜ばしいことだ。積極的に体を動かそうと私が傍にいない時でも一人で動こうとするからそのたびに見張り役で付けているスピネルが彼女の下敷きになる被害が奈久留から報告されている。私の闇の魔力に馴染んできているようだ。これは彼女専用の『鍵』を考えてもいいころ合いだな。

 

「天姫、今日は庭で一緒に食べましょうか」

「外に出ていいのか?」

 

彼女の黒髪に映えるように選んだ白のワンピースタイプのネグリジェ姿でベッドの上で胡坐をかく姿は女性として窘めたいところだが、自分だけ見える特権として今は何もいうまい。

 

「ええ。最近の貴方は外に出たくてうずうずしていましたからね。ちょっとしたご褒美です」

 

「ご褒美……まぁ、いいか」

 

微妙な顔をしたが彼女はベッドから飛び降りてクローゼットへと向かう。そこには奈久留とこの前ショッピングで買い込んだ天姫用の服が大量にあるはずだ。多少私の趣味も入っているが、ほとんどは奈久留の衝動買いというもの。

 

「今日は何にしようか。選ぶの面倒くさい。ワンピースでいいか」

 

「では僕が選びましょう」

 

彼女は自分の容姿に興味はないのか、お洒落という女性ならでわの楽しみも感じないようだ。その点をいい様に奈久留に遊ばれている。所謂お人形さん遊び状態だが天姫本人はされるがまま。今も男である私に服を選んでもらうという意味も分からずに選んだワンピースを渡すと素直に着替えようとする。脱ぎかけている途中で思いとどまったようだ。

 

「……出ていってもらわないと着替えられない」

 

「そこはちゃんと意識しているんですね。安心しました」

 

「意識してなかったら可笑しいことじゃないか?」

 

「それもそれでありでしたけどね」

 

「出てけ」

 

元クロウ・リードを蹴り飛ばそうとするなどまずありえないことを平気でやりのける少女。神崎天姫。

 

やはり君は私を掬い上げて正解だ。しかし、少々乱暴な点は調教して直してみようか。いや、それでは彼女らしさが消えてしまう。度が過ぎない程度に見守ってみることにしよう。

[newpage]

 

現在住んでいる屋敷は中心街からかなり離れた静かな場所にある。買い物などの移動手段は大抵徒歩や自転車や車となるだろうが、私達には便利な手段があるので困ることはない。太陽の日を浴びて色とりどりに咲き乱れる花々を眺めながら、まだ足元がおぼつかない天姫の手を引いて共に歩き石畳の通路を抜けて草花のアーチを潜り抜け白を基調とした木造の東屋へとたどり着く。

 

「へぇ~、ちょうどいい感じに風も入るんだ」

 

「ええ。ここで読書などすると心地いいんですよ。今度一緒にしましょうか」

 

「ハンモックとかいいかもしれない」

 

「ふふっ、十分寝たはずではありませんか?」

 

クッションを置いた椅子に天姫を座らせてから魔法でキッチンから昼食用に作ったバゲットサンドとランチ・ティーには欠かせない紅茶を取り寄せる。天姫は驚嘆して面白い顔になっている。

 

「おぉ!」

 

「簡単な魔法です。貴方にもいずれ教えてさしあげますよ」

 

「できるだろうか」

 

両腕を組んで唸る姿に自然と笑みが零れた。

 

「できるまで付き合いますから安心してください」

 

「……結構スパルタ?」

 

「はい」

 

「うげっ」

 

露骨に嫌な顔をされるとイジメたくなる衝動を抑えるのも大変だが新鮮な気持ちになる。私が紅茶を静かに飲んでいる横で作ったバゲットサンドを大口で食べれるまでに快復している天姫。

 

「楽しいですね。貴方と毎日を重ねていくのが」

 

「……アンタは」

 

「エリオルです」

 

彼女はまだ私の名を呼んではくれない。焦らされているのか、それともまだ私という存在を認めていないのか。

塗りつぶしたくなる。白一色である彼女を私色に。揺れる彼女の瞳の中で普段の少年ではなく男としての自分が写り込む。

 

「………」

 

「呼んでは、くれませんか?」

 

乞うように彼女の手に自分の手を重ねる。彼女は情に流されやすいはず。ここ二週間くらいで得た情報だが間違いではないはず。案の定、彼女は私の視線に耐えかねてついに私の名を絞り出すように口にした。

 

「……エリオル…」

 

「はい。なんでしょう」

 

手を引き抜かれようとするのを抑えて固定しつつ笑顔で応える。すると彼女は降参したようにため息をついた。

 

「……はぁ、…なんで、私を掬い上げた」

 

「貴方を欲しいと思ったからですよ」

 

「欲しい?モノみたいにということか」

 

ピンと眉毛が吊り上がりスゥッと瞳が細くなる。彼女の怒りの琴線に触れたか。モノ扱いされるのは毛嫌いしていたようだからな。だがこの表情もたまらなくいい。

私の一言一言に翻弄され感情を露わにしていく姿に刺激され、私は溜め込んだ想いを吐露する。

 

「……貴方に焦がれていました。ずっと昔から」

 

「……?」

 

貴方は知らないでしょう。

吸い込まれそうな深くあの頃と変わらない紫紺の瞳。闇の様に混じりけのない黒髪。赤い果実のような唇。

 

椅子から立ち上がって彼女の片手を抑えたまま、華奢な肩に手を掛ける。そこからゆっくりと這うように首筋を撫で、頬を一撫でして顎先を掴む。視線を絡み合わせて鼻先が触れ合うほどに顔を近づける。

 

友人止まりだった関係にようやっと終止符を打てる。

神崎光は手に入らなかった。だが彼女の贋作は手元にある。永かった。ここまで来るのが。

 

「やっと、手に入れた」

 

今の彼女は龍の保護から外されたただの少女に過ぎない。

 

私の内なる狂気を垣間見たであろう天姫は、表情を変えずにただされるがまま。

 

「二度と、離しません」

 

私との口づけを天姫は拒みはしなかった。

 

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