カードキャプターさくら 星屑の涙   作:サボテンダーイオウ

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06 アップルクランブル

最近すこぶる調子が良い。何が調子いいって、魔法に関してだ。エリオルが創った魔法にオリジナルを加えて自分流にアレンジするのが今の私の中での流行りとなっている。さて私が好きという感情について学ぼうと色々と聞き取り調査をした結果、大変複雑かつ理解するのに難しいことが分かった。

いつも私に抱き着いて頬をゴリゴリとしては満足げに悦に浸る奈久留に好きとはどういう感情なのか尋ねてみたところ、

 

「それはもう!可愛くて可愛くて頬ずりしたくなるってことよ!」

 

との答えをもらった。まったく参考にならない。

ではスッピーはと言えば、

 

「貴女がお菓子が手放せないということも好きという感情の一つだと思いますよ」

 

と教えてもらった。確かに毎日のおやつは欠かせない。お陰で体重も平均になった。だが太るのは嫌なので運動を始めた。スッピーと屋敷の周りを走り込みしている。面倒見のいい小さい体だったのに、突然大きくなったスッピーは初めてだったので多少驚いた。背中に乗せてもらいたかったが羽根が当たるので仕方なくその日は諦めた。けど、再リベンジを狙っている。

そういえば、スッピーを撫でるのも気に入っている。これも同じなのか。

 

「今日はアップルクランブルにしよう」

 

エリオルからは毎日のように告白まがいの台詞を言われている。飽きないらしい。毎回私が面白い反応を示すのでそれが癖になっているともつい昨日の夕食で話していたのを奈久留がヤキモチ焼いて、私もやるぅ~!と女子のように叫んでいた。

 

そんなエリオルと今日は一緒にお菓子作りをすることになっている。用意してもらったフリフリエプロンはあまり私の好みではない。けれどエリオルはキラキラな笑みを浮かべては似合っていると褒めてくれる。だが私の好みではない。割烹着の方がいい。……なるほど、これも好き、ということか。

全くもって奥が深いぞ。好き。どこまで無限に広がるんだ。好き。これはノートに書きこんでおくとしよう。

 

エリオルからしっかりと指南を受けてキッチリとした材料を計って用意するところから始める。後ろのドアから覗き込む形で奈久留の「頑張って~」との声援とスッピーの「出来栄えが心配ですね」の嫌味?を受け、無事に計るのを終えることができた。

 

「料理下手な天姫でもこれなら作れるだろうから」

 

「なぜ下手になってしまったんだ、以前の私は料理もしっかり作れていたはずなのに」

 

どうやら私の料理スキルは最初のレベル1に初期化されてしまったらしい。食べるのはいいが作るのは不器用とは今後一人暮らしなどした場合に大変不便だ。何とか打開しなくては。

小麦粉を計る時についうっかりくしゃみしてしまい顔中真っ白になってしまったが、エリオルが上品に笑いながら甲斐甲斐しく自分のハンカチで顔を拭ってくれた。

 

「あまり深く考えずに今日は楽しもう」

 

「そうだな」

 

包丁で林檎の皮むきをする時あまりの不器用さに見ていられなくてエリオルから待ったを掛けられ、彼が林檎を剥いたものは綺麗な形をしていた。指、切らなくてよかった。

 

林檎を一口大に切ったら耐熱皿にごろッと入れてシナモンと砂糖をまぶす。その上にクランブルっていう小麦粉と砂糖とシナモンとバターを混ぜた塊を乗せて余熱していたオーブンに入れて25分ぐらい焼くらしい。混ぜるのは私でもできたがそれくらいで大げさに褒めないで欲しい、エリオル。頭を撫でないで欲しい。子供ではないのだ、私は。

 

「できた!」

 

「これは成功しているよ」

 

オーブンを開けなくても林檎の香ばしい匂いがキッチンに充満してくる。ミトンをしっかりと装備してオーブンから出来上がったアップルクランブルを取り出すとさっそく我慢しきれなくて奈久留がキッチンに飛び込んできた。

 

「ううん!美味しそうな匂い」

 

「やればできる子だったな、私」

 

「うんうん♪」

 

達成感からこう、震えるものがある。奈久留もエリオルと同じく微笑ましいものをみる目で私の頭を撫でてくるが、私は子供ではない。だが嫌ではない。これも好きということか。

複雑だ。頭を撫でられることが好きなのか、私は。

自分でそっと撫でてみたが、好きという感じではない。

どういうことなのだろうか。自分では得られない感情ということか?……駄目だ。やっぱり奥が深いぞ。好き。

 

「ではいただこうか」

 

「うん」

 

出来栄えは完璧。だが味はどうだろうか。

 

はむっと口に一口放り込む。

 

「……」

 

「天姫、顔が緩んでいるよ」

 

「もうホント可愛すぎよ!や~ん」

 

「少し静かにいただけませんか、貴方は」

 

騒ぐ奈久留も窘めるスッピーもビデオカメラでも回していそうなほどの微笑みを浮かべているエリオルも全然気にならないほど、林檎、美味し。一緒に添えられたバニラアイスが口の中で絶妙に溶け混ざって何ともいえない甘さが広がる。

 

明日は何を作ろうか。

 

 

今日はお菓子作りではなく別のものを創ることになった。場所もキッチンではなくエリオルの私室。

彼曰く、

 

「天姫にも従者が必要だな」とのこと。

 

だが私はエリオルに創られし者。私も奈久留やスッピーと同じ従者ではないのだろうか。だが私の考えをエリオルはきっぱりと否定した。

 

「貴女は私の大切な人。そのようなつもりで創った覚えはない」

 

あくまで表情は穏やかを装っているが静かな怒りが彼の言葉に込められていて、私はちょっと戸惑った。怒らせるつもりは全くなかったのだが彼を怒らせるポイントがあったらしい。そこは素直に謝った。

 

「いや、今のは私も悪かった。つい、感情的になってしまった」

 

「エリオルが?珍しい」

 

「貴女の事では感情も乱れてしまうのだよ」

 

さも当たり前のように言うがそれは結構大変なことではないか?いちいち私に関することで取り乱していては疲れるだろうに。

 

「そうか。難儀だな」

 

「ふふっ、そうかもしれない」

 

労いの言葉を掛けただけなのに、どうしてエリオルは嬉しそうな顔をするのかさっぱり分からない。

好きという感情はどのような状態でも関係してくるのだろうか。これは研究が必要か。また後でノートに書きこんでおこう。

 

話もそこそこに本題である私の従者創りであるが、そう簡単にお菓子を作るように創れる話でもないと思うのだが、エリオルは可能だと言う。お互いに杖を出した状態で向き合う。

 

「天姫、貴女には力がある。だがその力をむやみやたらに使うのも問題だ。有り余る力は身を滅ぼす。だからサポート役として天姫だけの従者が必要だと判断したんだ。安心してくれ、私も手助けしよう」

 

「まぁ、確かに仮に暴走した場合すぐエリオルが助けてくれるわけでもないしな」

 

「手厳しいね。だがその可能性もあるということだよ」

 

「わかった。どんな風に創るんだ。まさか――」

 

小麦粉コネコネして粘土細工のように創るとか言わないよな。だが私のくだらない予想などエリオルは看破していたようだ。

そう続きを口に出す前に、うみょと口元にエリオルの指先が押し当てられる。

 

「それはありえないよ。流石に」

 

「…そうか。残念だな」

 

それとなくエリオルの指をむんずっと掴んで離させる。だがエリオルは逆の手を取った。手をつなぐ必要などないのに指先を絡めてきたのだ。

 

「なぜ手を絡める」

 

「してほしそうな顔をしていたものだから」

 

「まったく思ってない。的外れだったな」

 

無理やり絡められた指をほどくとエリオルは残念そうに肩を落としたが、

 

「貴女には関しては博打で当たるしかない。だが面白味もあるというもの」

 

後半には舌なめずりでもしそうなギラついた瞳で私を見た。

 

「………できる限りリラックスすると善処しよう」

 

「ああ。それでいい」

 

私の答えにエリオルは満足そうに頷いた。

今はこれでいいらしい。良かった。

 

「ところでどうやって私に従者やらを創るんだ?」

 

「今まで学んできたことを試す最終試験といこうか」

 

「は?」

 

いつになくエリオルはニコニコ微笑んでいる。

 

「気が変わった。自分の力で自分だけで創ってごらん」

 

「なんでそーなる」

 

「押して駄目なら引いてみろということだよ」

 

「さっぱりわからん」

 

というわけで唐突に試験を出されてしまった私に果たして従者なるものが創れるだろうか。

 

はい創りましょうと言われたところですぐに創れるわけじゃない。私はコネコネと紙粘土でスッピーを作ってみた。本人からは「似ていません」と批判を受けたが私はいい出来上がりだと思っている。それを風に浮かせて操ってみた。

 

「そういうことじゃないな」

 

エリオルから不合格と言われて渋々自分の部屋にスッピーもどきを飾った。うん、いい出来具合だ。

 

しばらく従者創りが続きそうである。

 

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