なんとなくこんなの出来たらいいなというイメージ画として絵を描いてみた。糸目のふわふわもちもちな謎の生物。鳴き声は「ぷぅ」だ。可愛い部類ではないかと思う。自画自賛である。両目は糸目だけどたまに「めきょっ」ってパッチリ開く時もあるみたいな。ラブリーとはこのことをいうのだろう。
次にそのイメージを形にするため裁縫に手を出してみた。不格好だが苦戦した結果上手く仕上がった。糸目の所も想像以上に細かった。きっと鳴き声も愛らしい「ぷぅ」であると思う。
「めきょっ!」というのもどんなものかみてみたい。きっと可愛いに違いない。
次に魔力を注いでぬいぐるみを操ってみた。ぴょんぴょんと飛びはねるまでに動きが俊敏になった。だがまだ鳴き声は聞こえない。少し残念だがこの成果を伝える為エリオルに見せることにした。でもエリオルからは少し違うと言われた。残念だが一から始めなくては。きっと鳴き声が「ぷぅ」という奴を創ってみると心に決めた。ちゃんと「めきょっ!」ってなる奴だな。ちなみにぬいぐるみは未完成と判断しエリオルにあげた。今はベッド脇に置いているらしい。存分に可愛がってくれると嬉しい。
色々と私なりに試行錯誤を重ねた結果。
自室にて、それはついに完成した。寝ずの三日間。目の下に隈をこさえて私は一人部屋の中で高笑いをしてしまった。妙なテンションからハイ!になってしまったのだろう。
だが見た目は私の想像通りの従者が出来上がったのだ。エリオルも今度こそは褒めてくれるはず。
その名も……、自ら名乗るという気の利いた奴だった。
「コモコナー。略してコナーと呼べ」
紫色のふわふわ毛並みに糸目、額に売れば高く値段のつきそうな宝石が付いていて耳がピンとした生き物はぴょん!と一つ跳ねながら偉そうに胸を膨らませた。
「……」
私は無言で見つめることしかできなかった。
だって、第一声がアレだから。
「どうした。天姫。オレを創り上げたんだ。盛大に祝杯をあげようぜ!」
「………鳴き声は?」
自分の事をオレとか言ってる従者は小馬鹿にしたようにない鼻をフン!と鳴らした。
「鳴き声?オレに鳴けってか。そりゃないぜ天姫。オレに似合う鳴き声なんてこの世に存在しない」
「……ぷぅ、って可愛いのは?めきょっ!って両目開くのは?」
せめてそれだけでも許されるだろう。だって私こんなんでも創造主。ちっぽけな希望を叶えてくれるだけでもいいだろう。一瞬で終わるんだしさ。だが奴は、そのちっぽけな私の希望さえも叶えちゃくれなかった。
「ハッ!天姫は夢見がちな女の子ってわけか。そりゃ仕方ねぇな。だが断るぜ。オレは硬派な従者を目指してるんで。大体めきょっ!ってなんだ?めきょっ!って。なよっちぃぜ」
なよっちぃ。なよなよしている。男らしくない?
コイツ、オス?
もはや是非もなし。私が下した判断はこうだ。
「………消えろ」
首なのか胴体なのか分からない境目をきゅっと両手で絞めることだ。だが奴は完全に締め上げる前に手から脱出し、クルクルッと宙を三回転してしゅた!と床に着地した。
「おい!天姫ひでぇことしやがる。一体オレの何が気に入らなかったんだよ!」
「こんなの求めてない。全然可愛くない。ぷぅって鳴かない。設計ミスか?また一から始めなくては……」
ない頭を捻りだして計算して創ったはずなのに今一つ足りない何かが出来てしまった。見かけだけは私のイラスト通りだが中身がまるで違う。可愛いの欠片もない。というか生意気でオレが一人称だなんて認められない。ぷぅの一言も言わないなんて。
「残念だったな、天姫。そりゃ不可能って話だ。お前が創る機会が与えられたのはただの一度っきり。最初で最後の従者ってわけだ」
困ったように肩を竦めては困ったちゃんだなと零すオレ生命体。
「返品する」
「おわ!ハッキリ言いやがるぜ」
とりあえずエリオルに助けを求めようと彼の部屋に向かうことにした。ドアを開けて廊下を歩いて階段を下りて屋敷の奥へ早歩きで進む。私の後ろをぴょんぴょん跳ねてついてくるオレ生命体は無視だ。
「エリオル助けてくれ!」
「しっかし広い屋敷だぜ。結界も張られてるみたいだし色々と罠もありそうだしな」
エリオルの部屋に飛び込んだ私の肩に奴がちゃっかりと乗っているが無視だ。エリオルは読書中だったようで馴染みの椅子に座って本を膝に置いて血相を変えて飛び込んだ私に冷めた笑みを浮かべた。
「おやおや。絞めたはずなのにまた復活するとは。いけない子だ」
パタンと本を閉じると同時にものすごい風が私に襲い掛かる。まるで薙ぎ払われるような強い風に立っていることも維持できずに私はその場に跪いて腕で顔を庇う。
「どぅわ!?」
「うわ!?」
肩にへばり付いている奴は何とか踏ん張って私の肩にしがみ付いている。「毛が飛んじまう~!」なんてふざけた事抜かしているのでごっそり毛が抜けてしまえばいいと思った。だがそんな考えもつかの間、
周りの家具やら本やらがエリオルが放つ風に舞い上がって凶器となって私に襲い掛かるじゃないか。体勢を変えてぎりぎりに避けたりしているがいつ当たるか分からない危機的状況にどう回避するか頭の中で緻密な計算の元答えを導きだそうとするがそんな中、まったく風の影響を受けないエリオルの冷たい声により現実に引き戻される。
「天姫ソレから離れなさい。今始末するから」
「私も巻き込まれそうだぞ!」
一応抗議してみることにした。だがエリオルの目的とする標的は私が創りだした従者一匹だけらしい。
「だったら離れることだ」
「アイツぅ!オレを絞めやがった性悪餓鬼だ!」
「記憶の共有まであるとは……。ますます潰しがいがありそうだ」
殺される。完璧にエリオルのアレは殺人的な笑みだと本能的に察知した私はとにかくここから逃げることにした。従者もどき?そんなの構っていられるか。自分の命こそ第一なり!
髪がバッサバサ状態で視界が前髪とかで遮られたりもするがそんなもの命の危機に瀕している魔法少女にはお構いなしである。
「闇の力を秘めし『鍵』よ真の姿を我の前に示せ契約のもと天姫が命じる『封印解除(レリーズ)』!!」
いつもより早口かつ息継ぎなしで杖の封印を解いた私は咄嗟に思いついた魔法を使った。
『ジャンプ!』
それは靴に羽根が生える魔法で名前の通りもしやと思い、足にぐっと力を込めると体が面白いぐらいに跳ね上がるのだ。
「!」
「おお!?」
「スゲー!」
驚くエリオルをよそに私と従者もどき?は少々乱暴ではあるが、体勢を立て直して壁伝いにジャンプしながらエリオルの部屋の窓から身を庇いつつ単身ガラスを突き破って逃げることに成功した。普通の子供は真似しないように、というか普通に硝子突き破っては怪我してしまうので気を付けよう。
「なっ!」
エリオルの驚愕した声を背にして硝子が砕ける音と共にもう一つ何かが大きく割れる音が別に耳元で鳴った。ゴロゴロと地面に転がってうまく受け身をとれた私は無事傷もなく脱出に成功した。結構動きがダイナミックだったんだけど従者もどき?もまったく怪我をした様子がないどころか毛並みも乱れていない。それどころか感心されているようだ。
「硝子ついでに結界も破くとはさすが天姫だぜ」
「結界?」
首を傾げてみると従者もどき?は偉そうに頷いた。
「おう。この屋敷に元々張られてる結界だ。他者を寄せ付けないものと内に閉じ込めるのとそりゃ複雑な奴だ」
「へぇ。エリオルがやったのか」
「っていうか屋敷飛び出ていいのか?お前アイツに過保護にされてるだろ。後でお仕置きとかされねーか?」
「いいだろ、だって私も襲われてたものだし。とりあえず庭に逃げよう」
「おっしゃ」
意気投合した私と従者もどき?は一緒に広い庭へと向かって走って行った。適当な所でしゃがみ込んで身を潜めているとすぐにエリオル達がやってくる気配が感じ取れたのでこれはヤバイと慌てた私は小さな声で
『メイズ!』
と迷路の呪文を唱えた。するとどうだろうか。辺り一面の景色がグニャグニャと波打ったかと思うとあっという間に迷路庭園の出来上がり。敷地面積もメイズの力なのか倍以上に広がっているように思える。
「すごっ」
「自分でやった癖に驚いてんのかよ」
「だって初めてだし」
「初心者かよ」
「悪いか」
従者もどき?と会話しつつ、私は右手を当てて歩いていけば出口に辿り着くと考え自分の目線よりも高い庭園の中を歩き出した。
けど中々脱出することが出来ずにお腹が減って地面に力尽きたところで満面の笑みで杖片手に現れたエリオルによって無事救出された。どうやって救出されたかというと迷路庭園をぶっ壊してやってきた。なんでも魔力が高い人なら可能だということ。私はぶっ壊すという選択肢が思い浮かばなかった。迷路というのは迷って自力で脱出するものだと思っていたから。目から鱗とはこのことである。と、暢気に構えていられたのはエリオルに手を繋がれて脱出するまで。その後は……。
「まったく天姫の頬は伸ばしがいあるなぁ」
「いしゃいいしゃいー」
しっかり夕飯を食べ終わってから始終ご機嫌斜めなエリオルによってほっぺ引っ張りの刑に処されてしまった。鬼畜だよな。エリオルったら、「夕飯食べてからじっくりと」なんて言うものだから何か特別授業でもするのかと思ってたらお仕置きだもの。鬼畜だよ。
その様を眺めていた奈久留はなんとか耐えていたがようだが、ついにウズウズしだして我慢しきれずにしゅた!っと挙手をした。
「やーん!エリオルばっかりズルイ!私もやりたいやりたいー」
「意外と伸びますね。エリオル、もっとやったほうがいいです」
「へごはごー!」(裏切り者めぇー!)
スッピーも鬼畜すぎる。後で覚えておくがいい。
そして従者もどき?改めコモコナと名付けたコナーが食後の紅茶を美味しそうに飲みながら、今日の初めての魔法について語りだす。
「いやいや天姫の魔法の腕も大したもんだぜ。最初はぬいぐるみだったがしっかりとイメージ通りにオレを創ったしな。さすがオレのマスター(創造主)」
「ところでコレは失敗作なんだろう?破棄しても構わないね」
私へのお仕置きを終えたエリオルが問答無用でコナーの頭を鷲掴みした。エリオル。優雅に見えないぞ。
「いやコレで決まりっぽいようだ。もう慣れたぞ私は。エリオル、人間は慣れる生き物だ」
「というわけでよろしく頼むぜ、性悪餓鬼」
「………」
私の従者はコレで決まった!
とヒリヒリする頬を抑えて、ふとエリオルをみると彼は寂しそうな顔をしていた。どうしてなのかその時は意味がわからなかった。
「エリオル?」
「……明日、話したいことがある」
「話?」
改まって真剣な表情で言われて、私は戸惑うしかなかった。
奈久留もスッピーも複雑そうな顔になって黙ってしまうし、一体何があるんだ。
(明日になったら理由が分かるのか?)