Over The Another Sky   作:あるぷす

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11話目

「(Start-up)」

 

言葉と共に体の中を魔力が奔る。

凡そ、肉体強化に必要な魔力は四肢の末端まで巡ったはずだった。しかし、俺の内包された魔力は体の中だけでは、不十分だと云わんばかりに外に漏れだす。大量の魔力が体外に漏れ出し漆黒の稲妻となって地面を大気を斬り裂いた。 

魔鉱都市の地面はまるで漆黒の稲妻の苦痛に耐えるかのように震え、そして時計台の元の地面は空気すら押し返す悲鳴(おと)を奏で、想像を超える悲鳴は一つに纏められた長い髪を豪雨を打ち負かし宙へと靡かせた。

 

 魔力で強化された下肢の動き、たった一歩で数百メールは消失する。傍から見れば一瞬の漆黒の稲妻が奔ったかのように視界に映し出されただろう。漆黒の稲妻と紫電の稲妻が互いにありとあらゆる場所で大地や大気の悲鳴(おと)を伴い衝突しあい、紙一重で交差する。幾度も幾度も同じ光景が繰り返され時間だけが無常に経過していく。

 

「──くそ。あの守護竜を退く為の決定打が足りない」

 

 守護竜に近づけは紫電に突き放される。その繰り返しを幾度も繰り返す。時計の短針だけが無常に歩みを進める。そんな状況に焦り自体はない。だが、とてつもなく歯がゆい。あの数千メールを超えるであろう巨体の守護竜を退く為にはマスケット銃やボルト式ライフルでは圧倒的に足らない。時間をかければ、可能性自体はあるだろうが、同居人の竜神皇女に宣言してしまった手前、約束をたがえてしまえば、何を云われるのか想像に難くない。

固有の七色の鎖(レーゲン・ボーゲン)でも完全拘束までしか届かないと思う。正直、俺自身でもあの魔法がなんであるのか全くと云っていいほど理解できていない。

 守護竜ティアマトを退けれらる可能性自体はある…

 

「ギャンブルは好きじゃないんだがなぁ。四の五の云っている場合じゃないか!」

 

 歪に増設され生活の基盤となっている建物の天井が崩壊するほどの力を籠め宙へと飛翔し、紫電を避ける。ほんの数秒宙に滞在している間に五、六回ほどの紫電が襲い掛かるがすべて躱し、業務時は常に持ち歩いている肩掛けのメッセンジャーバックに手を突っ込む。

 ふと考えれば、このメッセンジャーバックは何なのだろう。俺が、────が、この双月の世界アゼンバルドに迷い込んだ時から所持していたバック。だが、二ホンではこんなバックを所持していなかった。どこまでもどこまでも無限に収納できてしまう魔法鞄(メッセンジャーバック)。普通に入手するには何百枚もの金貨を積み重ねねねば、手に入れることはかなわないという品物。

 

「……ッ!」

 

 一瞬、思考をに沈むと魔法鞄(メッセンジャーバック)に自身の魔力ごと手を噛みつかれたような痛みを感じた。

 

「まったく、鬼が出るか蛇が出るか。ユリエス・ヴィルザルドの命運はどうだろうな!」

 

 覚悟を新たに手を引き抜き、天へと高らかに掲げる。

 

「─────」

 

 息をするのを忘れる。雨音が消失した。紫電が色を失う。風が止む。

世界がその誕生に震える(・・・)かのように、世界がそのもの(・・)に殺されたかのようにすべてが制止した。

世界を喰らわんとするそれ(・・)は身の丈以上の長さを有する群青色の槍だった。穂には白銀に輝く鋭利な矢じり、柄にはいくつもの翼を意識したであろう装飾がされ、幾つもの純度の高い魔鉱石がはめ込まれていた。何より驚いたのが身の丈以上であり、また硬度から相当の重量であるはずの槍に全くの重さを感じない。初めて手にしたのに自分の体の延長だという認識しかできない。

 

「(まるで、神槍。いや…魔槍に近いのかもしれない)」

 

 刹那の思考。

だが、そんな刹那の時間でさえ複数の紫電の(りゅう)全方位から襲い掛かるのには十二分な時間であった。しかし、その紫電がこの()に到達することはなかった。

 

「はは、これは何とも…、恐ろしい槍だな。これではどっちが担い手か判らんて」

 

 魔槍が高速に円を描き、左上肢から格闘技のように身体が捻り全方位からの紫電を喰らう。俺の思考による行動ではない。脊髄神経(からだ)による反射か、はたまた魔槍が俺を、ユリエス・ヴィルザルドを喰らった結果か。

 

魔槍(おまえ)が俺を認めていないという結果なら、いいだろ! 魔槍(おまえ)が俺の得物だということを原子単位から刻み込んでやる。ユリエス・ヴィルザルドに牙を向いたらどうなるかその身に刻め」

 

 魔槍を左手に構え、魔力を回す。

左上肢は回された魔力により血管がまるで枝の幹のように皮膚の上を奔り、上腕筋がミシミシと音を奏でる。魔槍は俺の魔力を喰らった影響か群青色がより色鮮やかに輝き続ける。

 一呼吸置き、群青色の魔槍を守護竜ティアマトに向け体を捻りながら投擲した。投擲された魔槍は空気の層を喰らい、轟音を轟かせその熱量をもって雨粒を蒸発させる。

 この魔槍に明確な狙いなど鼻から不要であった。狙いを定めなくてもこの魔槍は灯を穿つ。一撃必殺の魔槍。ほんの数分しか触れていない魔槍に対して何を云っているのかと問われれば明確な解を返せないだろう。だが、本能が判ってしまうのだ。

 放たれた群青色の魔槍に紫電の(りゅう)たちが幾千幾万と飛来する。その身に必死の想いを孕み主人を守護する為に。だが、そんな想いを嘲笑うかのように魔槍は空間を輝きを放ちながら縦横無尽に奔る。

 魔槍が俺の手を離れて幾ばくもしないうちに形勢は逆転した。守護竜ティアマトが紫電の(りゅう)を生成するよりも魔槍が紫電の(りゅう)を喰らいつくす。そしてついに、その首元を突き貫き巨大な熱量の元、爆ぜた。

 

「───さすが、天竜族(アウローラ・ドラッヘ)。首を落とすだけでは終わらんか」

 

 地上に自由落下し、そう現状を言葉にする。確実に魔槍は守護竜ティアマトを突き貫き爆ぜた。だが、分断された首は胴と瞬く間に繋がった。まるで傷など無かったように美しいままの翠色の輝きを放っている。ゼルランド魔鉱都市中央メインストリートに両足をつけて守護竜ティアマトに視線を向ける。

 

「(投擲ではダメか…いや、明確に一点を貫かなければならないか。なら直接ぶった叩いた方が確実だな)…おい、何をしている。さっさと戻ってこい」

 

 美しい翠色の躰を動かし移動行動を行う守護竜ティアマトを目線に収めながら、そう言葉を零すと宙に浮かぶ魔槍が高速で俺の手掌(てのうち)に帰還する。チラリと手掌(てのうち)に視線を数秒向けた後再度、守護竜ティアマトに貌を向ける。そして、空の右手を守護竜ティアマトに向け言の葉を紡ぐ。

 

「───七色の鎖(レーゲン・ボーゲン)よ」

 

 幾千幾万。地上から空中、建物、その美しい翠の躰から。ありとあらゆる場所から七色の鎖は顕現した。その翼を首をその咢を手を躰を拘束する。

刹那、守護竜ティアマトは悲鳴を上げる。ゼルランド魔鉱都市に存在する建物の窓ガラスのすべてを弾き飛ばすほどの悲鳴を上げ七色の鎖から逃れるためにその巨躰を激しく鼓動させる。

 

「───」

 

 視線をそのままに、片足を後ろに下げもう片方の下肢は膝を折る。そして、深く腰を落とし魔力を廻わせるスイッチの言葉を唱える。身の内に廻る魔力が漆黒の稲妻となって体外に溢れ出す。時計塔で溢れ出たそれ以上の魔力が、稲妻が迸る。大地を抉りながら四方八方に奔り傷を刻む。

 

「貫くべきは額の巨大な緑風石……」

 

 魔力によって強化された下肢筋力がミチミチと音を奏でる中、その力を開放する。飛翔すべきは星々の舞踏会が開催されている夜天。それを邪魔すべきものは一切合切排除しよう。

 

 解放された魔力は俺を漆黒の稲妻と変化させ天高く天高く飛翔させる。どれだけの速度をもって天へと昇ったのかは定かではない。だが、あの厚い雲海は漆黒の稲妻が通過したのち、その魔力に影響されたのかすべてが消滅してしまった。

 雲海が消滅した夜天はあの時(・・・)と同じ貌をしていたのを視界に映し出した。

双月の星光に照らされながら、二転三転と体を回転させ群青色の魔槍の矛先を守護竜ティアマトの額に輝く巨大な緑風石の一点に向けて落下する。

 

 守護竜ティアマトの数百メールの美しい巨体は七色の鎖(レーゲン・ボーゲン)に完全拘束され全くと云って身動きが取れていないのが見て取れる。

 

「…最初に云ったよな。アンタに恨みなんてこれっぽちないって。悪いが自分の居るべき場所に還ってくれ」

 

 言葉と共に魔槍が守護竜ティアマトの額の緑風石を貫き砕いた。

 

「どうやら、終わったようですね……」

 

 時計塔から視界前面に広がる一連の問題は解決した。あの厚い雲海は激しい雷雨と共に一切合切消滅し、守護竜ティアマト様は翠の粒子になり夜風に溶け込むかのように消失した。

 

「ふん、やっと終わったか。軟弱者のくせに、ちゃんと時間だけは正確だからな…」

 

「ふふふ、ルーナ様はあの方を信頼されているのですね」

 

 二代目ユリエス・ヴィルザルドなる人物が守護竜ティアマト様に向かってからこの時計塔に上がって来られた古からの精霊人(わたしたち)隣人(けいやくしゃ)に向けて言葉をかけると、ルーナ様は「違うわ、馬鹿者」と頬を赤らめながら刺さっての方向を向いてしまわれる。

 今回の守護竜の出現に関して、最も有力な原因として考察できるのがソレイユ神殿に安置されている風の巨大魔鉱結晶体(クリスタル)だろう。クリスタルに出現した黒の斑点模様がもっとも怪しい。クリスタルに斑点が出現し守護竜の出現に関係性があるのであれば、必然的に他の地・水・火・天のクリスタルにも同様なことが起きるであろうと想像に難くない。

 

「ルーナ様、お願いしたいことがあります。私たちに二代目ユリエス・ヴィルザルドさんをご紹介していただけますか?」

 

 数キロメール離れたこの時計塔からその存在を確認しただけでも背中を嫌な汗が流れた感覚がまだ残っている。五千年前の天地を裂いた天命破砕戦争。

天命破砕戦争を終結させた要因である奇跡、七色の鎖(レーゲン・ボーゲン)。そして、クリスタル協会の法王が扱える天盟の旗(フラッグ・オブ・アヴァロン)

 

 相反する理を孕んだ二つが今ここに交差する。

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