双月の世界、アゼンバルド。この世界には
アゼンバルドの地は世代交代を数百も繰り返すほど前、その身を引き裂かれた。
ハウゼン公国には緑風石を司る守護竜ティアマト。彼のモノが施すは
リスティリア王国には、
櫻の樹には、水浄石を司る守護竜リバイアサン。彼のモノが施すは清浄なる審判。ヒトが宿すことを赦されざる
ベガゼール帝国には、炎華石を司る守護竜ウロボロス。彼のモノが施すは完全たる究極。
◆
生き物の大半が静かに休息をとる中、
「ったく物騒だよなぁ……」
独り静かにため息をつきながら言葉を零した。先代が書庫に貯蔵したであろう書物をぐるっと見渡す。蜘蛛の糸が張った書物。触れただけで崩壊しそうな書物。様々なものが貯蔵されていた。
俺が滅多に来ないであろう書斎に籠り本の虫になっている理由は、先日現クリスタル協会法王スィーリア・フィル・ローレライによる仕事の依頼が原因だった。
「クリスタルの調査かぁ……まぁ十中八九戦うことにはなるだろうしなぁ」
風のクリスタルの守護竜にどんな意図があるにせよ彼のモノらが及ぼす影響は計り知れない。避けては通れない道だと云うことも理解している。が……
力を行使すること自体に善悪はないと思っている。どんなことにも表と裏があるように。力を用いらなければ得られるものも得られない。そう、可能性を生かす為に可能性を殺している。みんなに笑顔でいて欲しいのにみんなを悲しませている。この世界に来る前はこんなこと考える必要などなかった。それに……。
「自身の力に殺されるのが怖いのかのぅ……軟弱者め」
彼女、ヴィクトリアの兄弟達や守護竜ティアマトと対峙したとき感じた、ただただ純粋な黒色の感情が自分の中に存在していると知ってしまった。
この世界の理に適応、納得出来ていない。いや、気が付かなかっただけで
「───。そうなのかもな……」
数冊の古本が置かれたテーブルの反対に両手を組んだ美しい少女に対し苦笑いで答える。
「────が、そんな高等な悩みを持つのか?
「お前なぁ。俺だってたまに悩むことだってあるさ。完璧超人じゃあるまいし」
俺の名を知る同居人は、「そんなこと知ったことではない。早く飯を作れ」と言葉からは優しさの“や”の字も感じられない言葉を零すがそれでも、気持ちが楽になっていくのが嬉しかった。
◆
夕食を終え崖際に建造された漆黒に包まれた長屋に慣れた手つきで光を灯す。
その長屋には様々なモノが置かれていた。
整備ように備え付けてある天井クレーンの鎖につながっている空路用小型艇を時限発射装置台に天井クレーンの操作盤を操作しセットする。
身支度を整え、崖側の長扉を開放し空路用小型艇に乗り込む。背中に感じる夜の気温を感じながらハンドルを握りほんの数秒瞳を閉じる。そして、瞳を開放したのち時限発射装を起動させる。
少し、耳障りの音がしたのち後方に向けて空路用小型艇が奔り出し速度を保ちながら崖下へと放り出される。
崖に沿って落下していく空路用小型艇が息を吐くかのように虹色の輪が二重三重と広がりけたたましい息吹と共に天上の双月に向かい昇る。
どこまでも、どこまでも星に手がつきそうな場所に向かってその翼をはためかせた。
◆
「───なぁ、爺さん。この星々の輝きは本当に偽りなのかよ」
星々の海を両翼を広げゆったりと泳いでいく空路用小型艇を操縦しながらふと言葉が零れる。ジェットエンジン音と星々の
「そんなこと誰も知るわけなかろう。このたわけ」
ふとタンデムシートが沈み込む感覚が伝わってくる。後部に視線を向けるとそこにはルーナが干し肉を噛んでいる左顔が視界に入る。
「はは、そうだよな。わかるはずがないよな。何が偽りで偽りじゃないかなんて」
クリスタル協会の法王から出た話を聞いてから神経質になっていたのかもしれない。俺にとって、遠ざけることが出来ない問題。
俺が出来ることは手紙や荷物を届けることだけだ。そして、俺が自身を誇れる為に誰かのために頑張れる自分に成るだけだ。
「……ルーナ。有り難う。この世界で君や先代に出会えたことは俺にとって宝物だよ」
「ば、ばかもの! 急に突拍子もないことを云うではない。肉が落ちてしまったではないか!」
「ふはは、そなこと俺の知ったことではない。このたわけめ」
二人のくだらないやり取りを双月だけが優しく見守る。そんな優しさに包まれながら空路用小型艇はゆったりと夜空を泳ぐ。