Over The Another Sky   作:あるぷす

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16話目

 時刻は暖かな陽を齎す星がほぼ俺の頭上に差し掛かろうとしていた(とき)だった。天を仰ぎ見る俺の瞳にはその美しい蒼のキャンパスを汚すものは映らなかった。まるで、この(とき)を楽しみにしているかのように……。

 

 「うむ。よき天候に恵まれおった。皆の者が楽しみにしていたおかげかのぉ」

 

楽しさを押し殺せていない声色で言葉を零したのは御年70歳を超えている風車街(ヴィントミューレ)の冒険者ギルドのギルド長であるトムファルダと云う老人だった。

 

 「では、両者とも再度ルールを確認するでの。制限時間は設けぬ、相手が気を失う、又は負けを認めるか。儂は止めんでの。十二分に楽しむがよい」

 

その最後の言葉と共に天に高く掲げられた老人の手が振り下ろされた。

 

「…………」

 

娯楽が少ない町だからだろうか? 周囲から湧き上がる歓声。模擬戦の勝敗を賭け事に転換する市役所職員。

それは駄目だろと言葉無く発するも、空の蒼さと沸き立つ応援に握り潰された。

 

 ギルド長であるトムファルダの手が振り下ろされた刹那、俺と対峙する肩で切りそろえられた藍錆色(あさびいろ)の髪の女性の両刃剣が俺の喉元を絶とうと振り下ろされた。

 

「……さすがと云うべきなのだろうな……」

 

「誉めても何も出ませんよ。それに全力でと希望されたのは神殿騎士である貴女様でしょう? ロズファルア様……」

 

 凡そ長年鍛錬を積んだ者でしか防ぐのが困難であろう剣先は喉元に至ることはなく、俺が得物としているライフルの銃身がギチギチと悲鳴を上げながら受け止めた。

 

「ならば! これはどう対処して見せる? ユリエス・ヴィルザルド! 雷帝招来!」

 

 彼女のそのキーワードと共に両刃剣は音と稲妻を纏う。その規格外の魔力で生成された稲妻との鍔迫り合いなどごめん被ると云わんばかりに俺は後方へと跳び距離をとったと同時に地面が土埃を吐き出しながら耳にダメージを与えるほどの悲鳴を上げる。あれだけの稲妻を纏った剣が地面へと叩きつけられたのだ致しかない結果と云えよう。

 

「(──あんなの、もう貰えんって!)」

 

 若干しびれを纏った腕を上げ銃身を神殿騎士へと向けるとすでに次の行動(アクション)を起こそうとしていた彼女の嬉しそうな表情が視界に広がる。

 

「(貴女もアイツと一緒かよ! この戦闘狂め)」

 

 彼女の楽しみに満ちた紅い瞳を見るとあの紅い髪を持つ友人を思い出してしまう。彼も例にもれず戦闘狂だった。三度の飯よりも鍛錬もしくは死合(しあい)を好む人物だった。彼の両親は穏やかな性格だったと彼から聞いたことがあったが、どうしてそのようになってしまったのだろう?

 そんな余計なことを考えている間にも彼女は俺との距離を一歩でゼロにしてしまうほどの速さを伴って跳んだ。

わざわざ、彼女の得物の間合いでことを構える必要などない。その為の弾丸を装填し地面に放つ。優秀な彼女のことだ本来では考えずらい行動に警戒し、縮めようとしていた距離を再度離そうとしたが、遅い。特性の弾丸だ。彼女の行動以上の速度でそれは拡散した。

 

「───煙幕か! 小癪な真似を!」

 

 本来ならば、飛空艇ように調整した煙幕。特別製の煙幕(にげちゃうくん)だ。それ相応のしつこさを有している。彼女と俺を巻き込んだ煙幕は瞬く間にギルド備え付けの円形の闘技場の半分近くまで拡大した。拡大した煙幕に身を潜め距離を開けるのが遠距離を武器とする俺にとっては定石(セオリー)どおりなのだが……果たして彼女、神殿騎士に通用するのかと問われればYesと答えられない。

 

「(ならば、どうする?)」

 

「────そんなの。楽しまなきゃそんだろう? なぁ、ユリエス……笑ってみろよ」

 

 ふと、思考に陥っているとそんな幻聴が聞こえた気がした。幾度も幾度も拳を交えた友人の土汚れた幻影の笑顔が一瞬見え俺は即座に行動を開始する。

 

 彼が放った弾丸は地に着弾すると同時に一瞬で紫の煙幕が拡散する。

 

「───煙幕か! 小癪な真似を!」

 

 厄介なのは視界を妨げだけではなかった。一瞬、そう一瞬だが剣を握る手に力が入らなくなったのを感じ取った。彼は、ご丁寧にも煙幕の中に痺れ薬を混ぜていたのだろう。早急に、この煙幕を対処しなくてはならない。自らこの煙幕から逃げ出す方法を取るのが安易な選択だろうが、痺れ薬を織り込む奴だ逃れた場所に何かと布石を敷いているに違いない。だとしたら、そう……。

 

「──一刃よ! 吹き総べ、風帝招来!」

 

 先ほどまで稲妻を纏っていた剣が暴風を纏い始め、剣を振るうことをしなくともその暴風をもって厄介な煙幕を切り裂き、自身を中心に意識を外に拡散させる。生半可に神殿騎士を名乗ってはいない、比較的広めの闘技場と云えど瞬きの内に把握できる。

 

「……ッ! 貴殿は“戦う者”ではないと云ったな。その言葉が示すのはコレか!」

 

 瞬きの内に把握したからこそセオリーに逸脱した彼の行動にすぐさま対応する。そして、言葉を発した。彼は、自ら“戦う者”ではない。と。

“戦う者”でないとしても古式銃を用いる者ならば自ら間合いを、相手の有利な間合いに突っ込むことはしない。そのように知識を学び、経験を積む。だが、“戦う者”ならどうであろう? 

境界線を越えた行動をする者がいる。その大概が歴史に名を刻んできた者たちだ…。

 

 両刃の剣が火花を散らし彼の古式銃をこの身が叩き伏せられる前に受け止めると同時に彼の顔を捉えた。

 

「…何故? 笑っている? 貴殿は戦いに喜びを見出す者ではないと思うのだが?」

 

「さぁ、どうしてでしょうかね。痛いのは嫌ですし傷をつけるのも、傷つけられるのも嫌いです。まったくもって、度し難いんですが……」

 

彼はさらに言葉を積み重ねた。

 

「バカな友人に惑わされてしまったんです」と。

 

 火花を散らす騎士剣と古式銃。

拮抗する現状を打破したのは暴風を纏った騎士剣だった。担い手である神殿騎士の並外れた腕力をもって無理やりに強引に、引き離される。だが、俺とて商売を営んでいる人間だ。ただで引き離されるのは納得がいかない。

 

 数メールを離される中、新たな弾丸を古式銃に装填し発砲する。多少癖のある弾丸(はぜちゃうくん)

癖のある弾丸は、刹那の内に神殿騎士に着弾し熱量を持った爆炎が彼女を襲った。並みの魔物ならその弾丸を数発を着弾させるだけで絶命させることが可能な殺傷量を持つ。だが……着弾し急激に拡大していった爆炎がまるで吸収されるかのように急激に収縮し消滅した。

 

「(……効果は軽微ってかんじだよな……)」

 

 視界に捉えた様子から効果は火を見るよりも明らかだった。多少なりダメージを与えられたらと思っていたがことはそれよりも数段悪い結果を生み出した。かの神殿騎士の得物の騎士剣がより輝き躍動していたからだ。

 

「吸収されたってことかよ」

 

俺の零した言葉と神殿騎士が振るう剣が逆袈裟切りの軌道を通ったのは同時だった。神殿騎士を襲った爆炎の数倍の熱量を孕んだ(ほむら)の波が襲いかかった。

 

「ッ……」

 

焔の波の完璧に躱し負傷など有り得ないと云う甘い考えは、右腕からの鋭い痛みにかき消された。

痛みを無視し腕を動かそうとするもまともに動かせない。 

 

「(もう、降参しても大丈夫だろうか…)」

 

右腕から神殿騎士に視線を移す。

 

「(あぁ、無理そうかな…)」

 

神殿騎士が焔の騎士剣を蒼天に突き立てる。赤い焔が青い焔へと進化(へんよう)する。 

 

総てを灰燼とかす蒼焔剣が顕現した。 

 

「(剣からビームでも翔んできそうな感じがするんだけど…)」

 

「…し、神殿騎士様? 冗談ですよね。は、はは」

 

「ほぉ、貴殿は私が冗談など気の聞いた事が出来ると?」

 

言葉と共に神殿騎士様の表情(かお)が一瞬綻ぶ。そして、それと同時に蒼焔剣が無情にも振り下ろされた。

 

 

 凄まじい轟音と共に二代目ユリエス・ヴィルザルドが立っていた場所から天に向かって蒼い魔力の滝が反逆し昇った。

 闘技場に巡らされていたであろう強力な防壁が意味をなさないのではないかと思ってしまう程の魔力を内包した逆滝。 

 観客であった者は、誰も声をあげない。異様な光景に飲まれてしまったのか、はたまた別の理由なのか私には判断が出来なかった。

 程無くして、滝は消失し1人の青年が静かに立っていた。彼が左手を上げ言葉をこぼす。

 

「──参りました。降参します…」

 

その言葉を会場にこぼした後彼の背が地面と重なった。

少しの静寂の後、観客から歓声が上がる。「よっしゃおら~!」「全財産が..」など阿鼻叫喚だった。数人が彼を心配し近寄るだけで、それ以外の人物は神殿騎士を取り囲んでいた。

私も彼、ユリエスに近寄り老人に声をかける。

 

「ユリエスは大丈夫ですか?」

 

「なあに、大丈夫だよ。あんた他所の町から来たんだね。あたしらにしたら慣れっこだからね。コテンパンにされたけど、二代目がしっかり休める機会だから、仕事人間の坊やにはいい薬だよ」

 

「…そうですか」

 

腑に落ちないが二代目には大きな外傷もなく、規則正しく穏やかな呼吸をしていた。

 

「お前さん、坊やを治療院に運ぶのを手伝ってくれるかい? 町の男どもは役にたたんからね」

 

 賑やかな声が響き渡る。

同い年ぐらいの少年とも青年ともとれる人物。少女とも女性とも判断に迷う人物。

 

 椅子に座り古びた鞄から教科書を出した瞬間、微かに声が聞こえた。

周囲の声とは違う必死そうな声。

 

「──みつけ…た」

 

声が掠れると同時に足元に山吹色が溢れ出した。山吹色が溢れ出した瞬間、世界が暗転した。

 

ゆっくりと視界が広がる。木目の暖かな印象を抱かせる天井。緩やかに吹く風は薬品の匂いを孕んでいた。

 

「…治療院か……何か、懐かしい(きおく)をみていた気がする」

 

ゆったりと上半身を起こす。痛みはない、身体の疲労感もあまり感じない。ぐるっと周囲を見渡すと、ドアがスライドし開くのが視界に入る。

 

「おや、目覚めたね。身体はどうだい? しっかり休めたかな?」

 

背の曲がった老人が穏やかな声で話しかけてくる。

 

「ヴァン先生。俺は何時だって健康ですよ」

 

ヴァン先生。狐族(フォックスぞく)の男性。先代とギルド長のトムフェルダの古くからの友人。

 

「そうかい? それにしては以外にもお寝坊さんじゃないかな」

 

先生の優しい言葉に苦笑いが零れた。「いったい、どれくらい休んでいたのか?」と彼に質問する。

 

「丸一日ぐらいだよ。それに君も隅に置けないね。ふふ、英雄色を好むといったものだね」

 

先生との談笑を少しの時間楽しんでいると、複数の声が病室に木霊する。

 

「…よかったユリエス。目覚めたようですね。お身体の方は…聞くまでもなさそうですね」

 

「このたわけ! いつまでこんなところでごろごろ惰眠を貪っている!」

 

「ふふふ、そのまま。休んでいればわたくしがいろいろとしてあげましたのに…残念ですわ」

 

「何を云っているこの駄狐! お前などいらん! ずっと書斎にこもっていればよかろう」

 

「あわわ、ルーナちゃんとエーデルワイスさんこんな場所で喧嘩なんかしないでください!」

 

「───。何事もないようだな。心配したぞヴィルザルド殿」

 

威嚇する同居竜。扇子を口元にクスクスと笑う女性にその二人を仲裁するかのようにオドオドする少女。そんな様子ニコニコと優しい笑みで見る精霊人。そんな三人も気にしない神殿騎士。

神殿騎士の問いかけにそんな周囲を見渡し答える。

 

「はは、こんなに賑やかだから、色々飛んで行っちゃいました」

 

神殿騎士がため息を零す。

 

「……二代目。さっさと退院してくれないかな? ここは治療院だよ」

 

ヴァン先生の言葉が耳に刺さる。全くそのとおりです。と彼に苦笑いを返す。

 

治療院のはずだが、その時間は怪我や病気を吹き飛ばす賑やかな元気な気持ちが院全体に広がっていた。

 

 

 

 

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